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新生活は苦労でいっぱい(1)

 「…きて……起きて…」


 「ん…なんだ…?」


 「あ、やっと起きた…そろそろ膝がしびれてきたところなんだけど」



 収容施設から逃げ出した俺は、誰かの細々とした声で目を覚ました。すると目線の先にはどこかで見覚えのある少女の顔があった。いや、それよりも頭の下がなんだか柔らかい…



 「…ん…これは…ごーるでんれとりばー…?」


 「…?」



 彼女はきょとんとした顔で首をかしげる。…ふと体を倒すと、目元に肉の塊があった。どうやら俺はこの美少女に膝枕されているらしい。



 「いたた…えっと…うわ!なんで膝枕!?」


 「えっと…地面は痛そうだったから?」


 「君は…あ、思い出した!さっきの!」



 そう、この少女は地下道の出口で俺を助けてくれた天使のような人間だ。つまり…俺はまだ組織に捕まっていないということになる…



 「さっきはありがとう。おかげで助かった」


 「お礼は良い。礼なんて聞いたところでうれしいとか感じることはない。…私には感情がないから。」


 「感情が…?」


 「そう…私の星の人々は、感情を持つことをやめた。感情があるから争いを招く。感情があるから欲が湧く。すべては合理的な結論でのみ存在が許されるの」



 彼女は表情一つ変えずにそんな悲しいことを淡々と言う。



 「えっと…他の星の文化にいろいろ言うのも良くないと思うけど…それって、ちょっと寂しいことじゃないか?感情があるからこそ、楽しいことを楽しいって感じられるんじゃないか」


 「そう…この星の人たちは楽観的だね。私も、他の星の文化にいろいろ言うのはよくないと思うけど…そういうのって、必要ないんじゃない?」



 彼女は冷たく言った。その青い瞳は凍ったように動かずに、ただ俺の目を突き刺すようにじっと見つめている。



 「……」


 「んじゃ、私はもう行くから。今度は捕まらないでよね」


 「え?…ああ、待って!まだ君の名前を聞いてない」


 「それってそんなに重要?はあ…まあいいよ。『ヴァルキリー』とでも呼んで」



 そう名乗るとヴァルキリーはすぐに反対側を向いて、美しい銀色の髪をなびかせながら颯爽と去っていった。



 「ええ…もう行くんだ…まだ俺の名前言ってないのに…まあいいか…で、これからどうしよ…」



 改めて辺りを見ると、そこはどこかの橋の下のようだった。生い茂る雑草以外特に目立った物はない。近くに川があるので一応飲み水は確保できそうだが、いかんせん食料がないのでいつまで持つかわからない…途方に暮れていると、足元に何かが落ちているのに気が付いた。



 「なんだこれ…『私立黒咲高等学校入学手続書』…あれ、ご丁寧にパンフレットまで…なになに?入試不要、異星人、戸籍がない人、だれでも大歓迎…特技を伸ばせるアットホームな学校です…?いや怪しすぎんだろ…そう言えばなんかボールペンまで置いてあるけど、あいつ、俺にここを勧めてんのか?まあ一回学校も行ってみたいなーとか思ってたけど…」



 そのあと俺は橋の下で入学手続書と長い間にらめっこしていた。どう考えても怪しすぎる学校だが、身寄りのない俺はなんでも頼るしかないのかも知れない…悩みに悩んだ結果…



 「はぁ……行くか…黒咲高校…」



 結局俺は入学手続書に必要事項を記入してパンフレットに書かれている住所を頼りに黒咲高校へと向かった。…ちなみに必要事項は名前と年齢、生年月日だけだ。

 何分か歩いて、特にどうということもなく黒咲高校へと到着した。見た目は普通の高校だ。



 「ここか…えっと、事務室に持っていけばいいんだっけか?」



 その後事務室に恐る恐る入学手続書を提出すると、怖いくらい早く入学が受理された。明日からすぐに授業に参加できるらしい。そして身寄りがないことを話すと、すぐに学生寮を手配してくれた。それも入居費は在学中ずっと無料だという。疑いながらも部屋のベッドに寝転がってみると、ふかふかとしていて寝心地がいい。



 「…怪しい…」



 その日はひとまず眠りについた。そして次の日、起床時間と共に目覚めた俺は、今日だけ特別に指定された時間になるまで待った後、用意された制服に着替え、一式の荷物と共に教室へと向かった。



 「…えっと…一年C組…ここか…」



 俺は意を決して教室のドアを開けた。中には大勢のクラスメイト達が席に座っていた。俺がたじろいでいると、担任と思わしき女性が声をかけてきた。



 「暁 紅蓮さんですね。こちらへ来て軽く自己紹介をお願いします」


 「あ、はい…えっと、暁 紅蓮です。よろしくお願いします」



 俺は教壇に立って、とりあえず自己紹介をした。周囲からそれなりに拍手が浴びせられる。



 「えっと…んじゃ、暁さんは…青木さんの隣でいっかな」



 そんな感じで俺は適当に席を決められ、その席に向かった。するとそこには、どこかで見覚えのある銀色の髪が窓から入り込む風でなびいていた。



 「…!君は…ヴァルキリー!?」

ここまで読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと感じていただけたなら幸いです!

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