あるアイドルの暗黒
文潮記者は黒鼠になって対象の動きを探っていた。一晩を無駄に過ごし帰途に付こうとしたが寝るだけのマンションにも碌に帰っていないため寒々として散らかった部屋に帰る気はしなくなり、
あすかなすみの事務所近くに車を走らせた。路上パーキングを探し、コインを投入して暫し眠ることにした。
数時間の細切れの睡眠に慣れていて即座に深い眠りに落ちた。路駐監視員にコツコツされ目覚め暫し呪ったのち車を出した。
あすかなすみの事務所のボックス車が横を通り過ぎた。誰が乗っているのだろう。無意識に後に続いた。ボックスカーはデパートに入ってしまい無意味だったと笑って夜の張り込みまで時間つぶしに悩んだのち当てもなく車を走らせた。
前に車に乗り込む女がいる。見事な変装だな。文潮記者見逃さなかった。してみると先ほどデパートに入ったのはあすかなすみか。
なぜ車を変えたのだろう。すぐさま目は全体黒くなり唇は下卑に歪んだ。
ハンドルにしがみ付いて車を追う。車は後方を気にしているようだ。
バックミラーを気にする運転手の動作が手に取るように分かる。
文潮記者が信号読みにたけている。前方赤になると予想すれば車間を開ける。青信号になれば走行車線から近付く。
そうして尾行を続けているととあるビルの前に止まった。
そのビルを前に文潮記者の脈は跳ね上がった。看板は出ていないが産婦人科がある。
なぜ産婦人科に。子を降ろすのか。男が降りて来て、続いてあすかなすみが降りる。
だた男のコートにすっぽり包まれ写真が撮れない。病院内を撮ることは不可能だ。出てくるまで待つしかない。
が、多分撮らせないだろう。本人と分からなくても撮るしかない。
カメラを固定して動画を撮る。写真は連写だ。数時間後あすかなすみは男に完全防御されて出てきた。男は辺りを窺う。
驚愕に口を開けた。
文潮記者に気付いたようだ。あすかなすみを抱え1写も許さない態勢を取った。あすかなすみを車に押し込み完全に隠した。車の床に伏せられコートまで被せられているだろう。
子を降ろしたばかりなら気の毒過ぎる。コートの中で鳴いている顔がありあり浮かぶ。
文潮記者には対象の後のことは頭にない。
追放され地の果てまで追いかけられ崖に落ちても心を痛めることは無い。
血祭りにあげられた人は数知れない。
カメラに収めるチャンスは有るか。必死に逃げるだろうからどこかでまかれる。一人で追跡は無理だ。自宅に帰るか、ホテルに押し込むか。
事務所には戻らないだろう。走る車を暫く追いかけ諦めた。
チャンスはないがデパートをアリバイに使ったのなら戻る可能性は僅かにある。しかしあの逃げようではないだろう。まあ行ってみよう。
デパートに帰り車を隠し、地下駐車場を駆けまわって事務所の車を探した。抜かりなく奥まった場所にあった。どこから撮るか。じっと待った。
あの車が入って来た。