74,最終話
本編完結となります。番外編なども書くつもりですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
今日はレオンとシルヴィの誕生日。運命の16歳だ。世界が崩壊したのはレオンの誕生日当日。今日を乗り越えれば俺は最初の目的を果たすことができる。
国中が祝いの空気に包まれた今日、俺はレオンの正式な近衛騎士となる。ゴミ処理の後だったのもあり、誰からも反対されず決定となった。
あの団員達の存在は本当に誰も気付いていなかったようで、ライゼン様もセリア様も、レオンの近衛達もひどく驚いていた。それと同時に俺の情報収集経路も明らかになってしまった。
甘味という餌で、国教神を釣るという罰当たりなあの方法が。昔から俺のことを知っていた幼馴染組は一切驚かなかった。「まあ、いつものことだし」みたいな空気感。それにまた驚く大人達。
そんなことは置いといて。俺は今、超特急でプレゼントのラッピングをしている。
レオンにはメイスさんとの絵、シルヴィにはマリアとの絵を送る。悩みに悩んで、何度も描き直していたら当日になってしまった。遅れる旨を話し、キャンバスの絵の具が熱で溶けたりしないように神力で保護魔法もかけて。
レオン達の結婚祝いの贈り物もチャペルの2人を描く予定だから、確実に遅れる。周りからの印象は良くないかもしれないが、そこは譲れない。
しっかり正装して転移で待機所に向かった。現在、会場の最終調整をしているようでそれが終われば遂に誕生日パーティーが始まる。
「皆様。準備が整いましたので、ただいまから順番にご案内させていただきます」
いつもと同じように、男爵家から入場。子爵家にはクラン様やカリウ先生もいた。今回、当主とその妻のみの出席となっているので、友達はいなさそうだ。
全員の入場を確認した係員が会場の扉を閉める。
このためだけに作られたのであろうシンフォニーと共に、レオンとシルヴィ、そして国王夫妻がゆっくりと入場。俺達貴族側は一斉に臣下の礼をとった。
「良い。楽にしてくれ」
ライゼン様の声に、立ち上がる。
「皆の者、集まってくれたこと、感謝する。今日は私の息子達の16歳の誕生日だ。この喜ばしい日を無事に迎えられたこと、嬉しく思う。今日は楽しんでいってくれ」
ライゼン様に続き、セリア様、レオン、シルヴィの挨拶も終わった。その後はダンスがあったり、立食があったり、当主同士の交流があったり。和やかな雰囲気が流れた。
「レオン、シルヴィ。改めておめでとう。そして、無事に16歳になってくれてありがとう」
パーティーの翌日夜。幼馴染組で集まって個人的な誕生日パーティーを開いた。ちゃんと許可済みなのでご安心を。
「ありがとう。俺も、無事に迎えられて本当に嬉しい」
「私もよ。この調子で早く結婚したいわね」
「ブホッ……」
飲み物を吹き出しかけたステラ。なんでステラが?そこは普通俺かレオンでは?
「マリアちゃんと同居なんて、幸せすぎて今から妄想が膨らむわ!」
大分同居してたけどな。婚約者といる時間より婚約者の妹といる時間の方が多かったよな。別に良いけどさ。
「ああ、そっちか……」
ステラは察したらしい。俺に憐れみの視線を向けてくるような、こないような。
「私のことは置いといて!皆もプレゼント持ってきてくれたのよね!」
「ああ、勿論」
俺は、1日遅れたけどラッピングした絵を出した。皆のも綺麗に包まれている。
ヘルガさんだけはもうない。今食べちゃった。フルーツタルトだったのだが、美味しすぎて。
アロマや香油瓶など、お洒落なプレゼントが次々と開封されていく。
「ハ、ハル……これは……?」
俺のプレゼントを見たレオンは顔を赤らめておずおずと聞いてきた。その質問を待っていたよ。
「メイスさんとの花火デートの絵。神力で保護魔法もかけたから絵の具は溶けたりしないよ」
因みに絵の具は全て、小学校で買ったリボン付きのあれを使ってる。使いやすいし、色味も良いから重宝してる。
「シルヴィのは、マリアとのツーショット。婚約者にちなんだ贈り物より喜んでくれるだろうなって思って描いてみた」
どう?と聞くと、2人共のぼせたような表情をした。今更恥ずかしくなった?
「いや、ありがとう……。ありがとうだけど……どこに飾れば良いんだ……?」
「わ、私もどこに置けば……」
「シルヴィはマリアが立ち入らない場所に心当たりあるだろ?レオンも無限牢獄の部屋にでも置けば良いんじゃない?最近無限牢獄も魔鉱石で量産に成功したんだよ」
魔鉱石に無限牢獄の魔法を込めることで、神力を持っていない人間でも俺が許可したら自由に出入りできる。ヘルガさんは外界にいること自体少なくなってるから持ち歩いてはいないけど、ライゼン様にも一応報告だけはしてる。
「確かにあそこならメイスも入らないだろうが……メイスも映った絵を隠すのも……」
「メイスさんのはもう何枚も渡してる。アンリエット侯爵に買い取りを希望されたからな。視察分だけで5枚以上、全部レオンも映ってるよ」
「じゃあ良いか。これは俺だけの物ってことで」
保護されていることを聞いたからか、レオンは俺の絵をぎゅっと抱きしめた。ほんと、幸せそうに笑うな、レオンは。
「ハルは神力の無駄遣いだって言われなかったのか?絵の保護にそこまでって……」
ヘンリーの言うこともごもっともだ。でも、俺が描いたのはプレゼントのため、とか依頼されたから、とかそんな単純な理由だけじゃない。
「確かにライゼン様にも言われた。でも、来世でも、その次も、絶対に忘れたくないから。日付けと名前を下の方に書いたんだけど、いつか俺がその絵を見て皆のことを思い出せたらなって想いもある。前は忘れた方が都合が良いんじゃないかって思ってたけど、やっぱり寂しいからさ」
グスッ……と鼻を啜る音が聞こえた。言い切ったことで力を抜いていた俺は度肝を抜かれる。今まで涙を見せてこなかった人達が皆一様に泣いているのだ。びっくりもする。
「ハル……どんどん描けよ」
「ハルの友達でいられる僕達は幸せ者ですね」
安心させようと笑ってくれるが、涙のせいで上手く笑えてない。
「いつか、代替わり前とかにうち来て。全員分の絵を描きたい」
「いつでも行くよ」
「俺も、呼ばれたらいつでも」
「俺はどうせ準貴族扱いになるし、永久滞在でも」
「「は!?ステラ狡い!」」
ハモってるわ。確かにステラ以外全員長男だもんな。椅子に縛られる人生だ。
「次男は身軽だからな」
「ぐっ……ステラが先に産まれていれば……!」
シエルの恨みがましい視線を平然と躱し、ステラは口笛を吹いた。
「あ、そういや父上から聞いたんだけどハル、レオンの近衛騎士の話、受けたんだってな」
争いの気配を察知したヘンリーが無理矢理話題の軌道を変えた。ちょっとマズいかなって思ってたから助かる。
「ずっと保留にしてたからな」
「試験も受けずに合格したような感じなのに、反対する人が誰もいないなんて凄いよ」
その辺をライゼン様がどう処理したか俺はわからないが上手くやってくれたんだろう。捻じ曲げたり捻じ曲げなかったりで。剣が下手な近衛騎士とか聞いたことないから。
「良いのか?ハルは。面倒臭がりってのは置いといて、剣の方」
ゔっ……!それを言われると辛い……。自分ではいるけど友達から言われるのは火力が違う。
「た、短剣くらいなら……。いっつも反射的に押し潰したりしちゃうから……」
「で、でも!ハルさんは剣ができなくてもそれを補える魔法があるから大丈夫だよ!」
ヘルガさんが庇ってくれるけど、剣の腕前を否定しないところをみると、なぁ…………。
「確かに、いざとなったら守る対象を無限牢獄に避難させそう」
「というか初めから馬車に乗せなさそう」
「転移で一瞬とか」
「それが一番楽だな。ハルにピッタリだ」
言いたい放題だなおい。俺も否定はできないけど。だってそれが一番楽で安全なんだから。
「ハルが転移で運んでくれるのはありがたいけど、睡眠はちゃんととりたいよ。あの水飲んでも疲れるものは疲れる」
「あれは無理矢理ハイにさせるような物だから疲れを軽減する効果はないよ。ハルさんは徹夜する時に飲むけど現実に戻った時、体質によっては溜まった疲れが爆発してそのまま倒れたりもするんだから」
俺は水の効果の間に溜まった疲れってのは大体なくなるけど、気絶することなく飲み続けたら大体の人はぶっ倒れるからな。最初は気付かなかったけど結構危ない飲み物だった。
「じゃあ、ハルは馬車移動でレオン達は無限牢獄だな」
「あそこの快適さは羨ましい超えて恨めしく思うレベルだよな」
「大浴場も本当に気持ちが良いものだったわ」
「お気に召したようで良かったよ」
あそこに居過ぎると歳を重ねられず、皆と同じタイミングで死ねないから使いまくるのも良くない。誤差はなるべく小さく。
「早く新婚旅行にならないかな……」
「警護はその間もあるだろ?無限牢獄は使い過ぎなければ自由に使って良いから」
一応全員分、部屋も魔鉱石も用意しておいた。レオンに渡すと、皆何か言いたげな表情。
「(ヘルガさん以外の)全員分あるよ」
ジャラッと音がして、魔鉱石が机の上に並べられた。
「これ、名前入ってる!」
「うわ、凄い!」
名前を入れたのは特別感を演出するだけじゃない。この名前以外の人間にはただの石ころでしかないのだ。持ち主にしか行使できない特殊な効果がある。
効果がわかっていて、かつ行使しようとした人間は俺の神力がグルグル巻きにする。
防犯はバッチリだが、あんまり落とさないでほしいって気持ちはある。魔鉱石高いんだから……。
対面時間は短いが、ヘルガさんの誕生日会以降に交流があるからテリーとラウル様にも作ってる。
「それぞれの部屋にリンクされてるからその魔鉱石が出た場所が皆の部屋。どこ居ても出入り自由だし、帰ったらテストも兼ねて使ってみてよ」
無限牢獄内の俺の部屋付近に、皆用のフロアを用意した。渡り廊下1つで俺の部屋の方に来ることができる。
「何かあったら僕がほぼ毎日いるし、出方がわからないとか、そういうのがあったら渡り廊下通って来てくれたら良いよ」
もしヘルガさんがいなくてもイディスさんが家政婦として常駐してるからまあ何とかなりそう。
「これで風呂入り放題ってことか」
「裸足でも怒られない……」
「楽園か……?」
本来なら年齢重ねたら、もっと大人しくなるはずなんだけど、ここでは違う。もう夜だってのに、最後の最後までやかましい。
国の滅亡、そして逆行から始まったけど、今回は全員の死を回避できた。身の丈に合わないような大きい肩書きは得てしまったけど、皆と一緒にいられるなら何だって良い。
「俺と出会ってくれて、ありがとう」
面と向かって言うのは気恥ずかしいから、皆には聞こえないように口だけをそう動かした。
今回の登場人物
・ハル・ペリペドット(16歳)
・ヘルガ(18歳)
・レオン・サージス(16歳)
・シルヴィ・サージス(16歳)
・シエル・オブリガード(16歳)
・ステラ・オブリガード(16歳)
・ヘンリー・アイクランド(17歳)
・テリー・ペステッド(16歳)
・ラウル・モッシュ(17歳)
・国王夫妻




