64,企画
よし、学校行事の実現に向けて動こう。まずはそれぞれのジャンルのリーダーを集めないと。
このリーダーはうちが独自で決めたルール。権力の一極集中だけは避けろ、とフェリーチェに口酸っぱく言われてきたので初期の頃からいる住民を集めて会議を開いたのだ。そこで決まったのが委員会システム。
・教職員の採用や学校の維持管理、教育方針などを請け負う教育委員会。図書館管理が該当項目に入っている。
・稼働している工場の工場長と話を纏めたり、輸出国の情報を管理する工業委員会。
・農業、林業、漁業の関係者を統率する農林水産委員会。
・建築や道路整備、領内地図作成を担う建築物管理委員会。
・工芸品の保全、観光地としての価値を維持する観光委員会。博物館、服飾系、旅館なんかはここに該当する。
・交通機関の整備や自警団との連携を行う領内安全委員会。
この6つだ。領地の財政的なことや直接的な外交は俺がやらないといけないことだが、それ以外は俺が無理に干渉しなくても回せる。
旅行客をよく見ているのも、平民と関わりが深いのも俺じゃないからな。
各委員会の委員長と副委員長を集めた。場所は、屋敷の近くに建設された会議場。普段は拠点兼委員会同士の交流の場として使われている。
「今回集まってもらった理由は、王都の教育課から提案された事項について話し合うためだ。質問があれば、都度発言してほしい」
「王都の」と言った瞬間、場の空気が少しだけ緊張を帯びる。
「ペリペドットは学ぶべき点が多くある素晴らしい領地である。各学校から生徒を、旅行と称して学習のために数日間滞在させたい。このような提案だ」
ほんのすこーーーしだけ盛ったが、緊張を解すのには実際よりも大袈裟に褒めないと。
「はい。学習と言いましても、具体的に何をするのですか?」
教育委員会が質問の手を挙げたので、俺はフェリーチェと話した内容を纏めた紙を配った。
「修学旅行、ですか……」
「体験型のものが多いですね」
実際に体験したあの2人に話を聞いて、登山とかの削りざるを得なかった部分は泣く泣く落としたが、ほぼ聞いた話をそのまんま書いた。
実際に何年も施行されているモデルになるから、少し手を加えればここでも使える。
「修学旅行生に向けた土産物屋や飲食店もあると便利ですね」
「大型の馬車の開発も急ぎましょう」
よし、皆やる気だ。
「皆、まだ提案と相談の段階だ。王都の方では何も決まっていないんだ。ここで話を纏めて企画書を提出してから話を詰める予定だ。各店舗とも相談して、1週間以内に結果を報告してほしい」
「はい!」
「お任せください!」
「必ず成功させましょう!」
目に金を映しているような気が……。まあ、やる気を増大させる効果があるなら良いか。
うちからもどっかに修学旅行させてみたいな。竜ヶ丘が多分文化的にも近いはず。違う所って建物とか服飾くらいか。
クラスターで建物が全壊した後、領地の建築様式が変わり、建物の印象がかなり変わった。勿論畳の部屋はあるが、室内履きを前提としたタイル系の床、長方形の机から円形のテーブルへ。
建築物に使用される色も赤や黄色、緑など今までにない色が取り入れられるようになった。まあ、屋敷とかの重要建造物だけだけど。
それと、服装も少しだけ変わった。
女性は袖部分は着物と同じ、裾部分はドレスを採用、別で作った羽織にはレースをあしらってもらった。
男性は着物っぽさを出しつつ、胸元部分を変更。着物と同じにしていたのを詰襟っぽく。袖には彩度低めのレースを。女性用のレースは裏が透ける仕様だが、男性用は布って感じ。
礼服として作ったものだから平民は勿論、俺達も普段使いはしない。
マリア達はワンピースでもスラックスでも好きなものを履けば良い。準貴族で、正式なパーティーに出るわけじゃないし、冠婚葬祭だけ着てくれたら。
俺はバレッタおばさんと竜ヶ丘の服職人がノリで作った物を着る。燕尾服の要素と着物の要素が混ざったような袴だ。
どうやったらこんな奇抜な衣装が思いつくのか。着物に親しんだ職人と、ワイシャツ文化に慣れ親しんだ職人が合わさらないと生み出されなかった代物だと思う。
これは俺の好みだったので普段着として使うことにした。礼服に比べたら気楽に着れる構造というのも理由の1つ。
ペリペドットと竜ヶ丘。類似性のある別の文化、ということで勉強にはなるんじゃないかな。企画書を提出したら今度はオブシディアンとも話し合ってみよう。
1週間後、俺は各委員会から回ってきた資料を元に企画書を作成した。これを参考にしながら向こうは話を進めてほしい。
大体どの委員会も、対象年齢は12歳〜15歳くらいに設定している。教育期間を延ばすって言ってたし、向こうとしても、これくらいは許容範囲だろう。
体験型イベントは焼き物体験と服の着付け体験、バーベキューと温泉が実施可能、と。後は図書館と博物館も立ち入り自由。受け入れ可能人数も最大150人前後。これだけ多く受け入れられるなら、どの領地でも人数オーバーになることはないな。
各家庭の支払い額の内訳も書いて、相談から10日程で、纏めた話を王都の教育課に提出した。受け入れるとしたらどのルートが最短なんだろうか。
安全性を考えると今引いてある道が一番安全だ。山賊に襲撃されたとしてもすぐに応戦できるくらいの道の広さがあり、落ちるような崖も近くにない。休憩所も点々としている。
ただ、向こうが安全より早さを取った場合、新しく道を引くか馬車の速度を上げないといけなくなる。乗り心地は悪くなるし安全性にも不安が出てしまう。
これはもう、生徒の安全を第一に考えられる教師が多いことを祈るしかない。
「ハル様、お手紙が届いております」
呼び出され待ちだった俺の元にメアがやって来た。
「手紙? 今まで届いてたっけ」
いつも首根っこ掴まれてたような……。
「いえ、呼び出しではなく……」
ん? メアが珍しく言葉に詰まってるな。そんな重大なものなのか?
とりあえず受け取り、ペーパーナイフで開封する。
えっと……。
「……何、これ」
「ハル様宛の釣書です。こういったお手紙が山のようにございます」
姿絵と令嬢の一言、便箋いっぱいに書かれた当主からのメッセージ。正妻が無理なら第二、第三夫人でも……という内容まで。
確かにサージスでは一夫多妻に同性婚など、他国ではあまりない恋愛が認められているが、俺はそもそも恋愛自体ができない。
出費も増やしたくない。行動に制限をされたくない。俺の政治には口を挟まないでほしい。挟んで良いのは先輩フェリーチェと、ずっと一緒にやってきたヘルガさんだけ。
「よし、これら全てに返事をするのは面倒。俺の妻になる条件を満たしていない令嬢の釣書は受けない。そうしよう」
とても、とても上から目線だが、今は結婚とかどうでも良い。14歳で考えろって言われても。まあ逆行前と合わせたらもう30のおじさんになるわけだけど。でも、流石に14歳はないわ。
俺が提示した条件は世の女性を全否定するような内容だった。
・魔物を1人で捌けること
・無詠唱で魔法を使えること
・人前で素足を見せることに一切の抵抗がない人
・夫から愛を受けられなくても傷つかない人
・料理ができること
・過度にお金を使わない人
・夫が何も言わずに家を長期間空けていたとしても1人で守れる人
・過剰な自尊心を持っていない人
・20㎏の物を1人で持ち上げ、運ぶことができる人
上記これら全てをクリアできる人を大徳夫人とする。
「これで良いかな」
「このような女性が世の中にいるのでしょうか……特に20㎏の物を1人で運べる女性など、貴族にはいないと思うのですが……」
「マリアは持てる。品出しで慣れているからな」
「特殊な事例です。そして無詠唱の魔法発動はハル様とヘルガ様以外でできる人はいないと思いますが」
「シルヴィとかレオンならできそうだけど」
「レオン様を降嫁させる気ですか」
なわけ。んなことしたらペリペドットが一代で終わっちゃう。そして俺はシルヴィとマリア以外の女性と付き合いがほぼない。だからわからん。
「仮に対象がシルヴィ様でも流石に全ては満たせないと思います」
ま、落とすための条件だからな。貴族の弱身を突きまくればいつか諦めてくれる。
「とりあえずこれを公開して。これで暫くは静かになると思う」
「承知いたしました」
不服そうにしながらも、メアは退出した。
面倒事を押し付けてしまって申し訳ないが、今はもう少しだけ自由でいたい。
20歳くらいになったら、条件も一部撤回して、今度こそちゃんと向き合うから。
今回の登場人物
・ハル・ペリペドット(14歳)
・メア
・ペリペドット大徳領民




