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63,平民学校行事


「よし、完成だな」

「はいっす! それじゃ、自分は戻るっす!」


 クラスターから半年。クレームと王家からの圧力に曝されながら、なんとかタウンハウスが完成した。クレームはライゼン様から景観系で指摘をされていた。

 資金が揃うまでは応急処置をしつつ、直せるところは少しずつ直していく予定だった。しかし、思わぬクレームが入ったせいで取り壊しの決断をせざるを得なくなった。


 あれは大変だった。新築というのもあり、建築士達は存命だ。彼らが時間と労力を割いて建ててくれた屋敷を取り壊すのはどうなのだろうか、という問題に直面したのだ。各方面に謝罪と取り壊しの許可を得るために苦労した。許可を貰ってからは結構早かったな。


 費用を抑えるために領民から建築士を連れてきたのだが、それだと領地風の建物になってしまう。高さと豪華さで見劣りする部分が多いらしい。しかも、土足厳禁ときた。

 フェリーチェ曰く、内装は実際の寝殿造りとは全然違うようだが、見た目だけはフェリーチェの世界にいた貴族が住んでいた屋敷。クレームを入れられる理由がわからない。



 俺の手元には手紙が5通。彼らの言い分は、「地味な屋敷が隣にあると自分達の株まで下がりそう」だそうだ。全て邪神寄りの中立派からの手紙だ。


「フェリーチェ……」

 腕の中の人形に話しかける。

「おん?」


「俺の屋敷、地味なのかな……」

「見栄張ってるよりずっと良いんじゃないか? クレームの要望を全部満たしつつ、万人受けする建物なんてこの世に存在しないんだから。鳥の囀りくらいに思ってれば良いさ」


 鳥の囀り……。随分煩い鳥だな。囀りというより、威嚇では?


「そういえば、じゃ……メビウス神はどう? 落ち着いてる?」

「ああ理久? ああ、大分。レシピの再現、頑張ってるよ。人形サイズだから大変そう」


「フェリーチェは手伝わないの?」

「俺は何回かキッチン全土を駄目にしてるからね。出禁なんだ」



 うわっ。下手の度合いが違ったわ。これは出禁にされても文句は言えん。まず全土を駄目にするってどんな失敗したんだろうか。火に直接油を注ぐとかそのレベルだとキッチン以外も駄目になるし……。



「俺は電子レンジで卵加熱して爆発させたことあるしー……。スクランブルエッグ作りたかっただけなのに天ぷらの要領で油入れちゃって、コンロ周辺油まみれにしちゃったこともあるね。弱火で良いところも強火にして火災警報器鳴らしたこともある。火消し用の水でキッチン以外も水浸しになったよ」


「絶望的に料理の才能ないな、それ。そりゃ来世に期待して正解だと思う」



 しかし……俺の知らない単語が多かったな。デンシレンジ、カサイケイホウキ……何だそれ。


「あ、ごめん。全部俺の世界にあった便利道具。こっちで再現したかったんだけど全然できなくて諦めたんだ。やっぱ仕組みがわからないからかなぁ」



「カサイケイホウキってやつなら作れそうじゃない? カサイは火事、ケイホウはそのまま警報、キは機器のことだろ? 火属性の魔石と水属性の魔石を繋げたらできそう。火属性の魔石が過度な火気を検知したら導線で繋いだ水属性の魔石がシャワー放出する、とか。うちの領地は木造建築ばっかだから必要になりそう」


「え! 作ってくれるの!」

「今世で作れるかはわかんないけどな」

 やることが多すぎて……もう……。

「いつになっても良いよ。別に急かさないからさ」


 めっちゃ助かる……。フェリーチェのはすぐ急かして叩いてくる現代社会にも見習ってほしい姿勢だわ。



「俺が今も普通に生きてたら反論できたんだけどなぁ。この体じゃカッコつかない」

「今も生きてたら反抗する相手いないだろ。攻め入られることもなかっただろうし、もし攻められても返り討ちにできたろ」

「まあな。俺が生きてたら俺の子供達も早死にせずに済んだわけだから」



 そうなると俺も生まれてないことになるな。別の誰かとして生まれるかもしれないけど、今の俺とは違った形になるはずだ。どちらにせよ、マイナスとプラスがあるということだ。


「ま、起きちゃったことをどうこう言うことはしない。恨みがあるなら俺の子孫が化けて出て今の王族含めて全員呪い殺してるだろうよ」

 確かに。非業の死を遂げた彼らがどこかで幸せを掴んでいることを願おう。


「とりあえず、1つ目の課題が終わったし、領地に戻ろう」

「だねー」



 真珠の輸出を考えたのはフェリーチェだ。それを装飾品にしようと言ったのも、開発を手伝ってくれるのもフェリーチェ。

 フェリーチェは特に漁業に従事していたわけではないらしいが、前々世で世界間転生の妄想を繰り返し、何か役に立ちそうだと思ったことを調べていたらしい。妄想癖があったようだ。それがこうして役に立っているのだから、世の中本当に何が起こるかわからない。



「ハル様!」

「フェリーチェ様の通りに試作品を作ったんですけど見てもらえませんか?」


「俺が見るよ。あ、ここはねー……」

「ふむふむ……」



 飛び交う単語がわからない。漁業関係者にはわかるんだろうけど、俺は漁師じゃないから。あの場はフェリーチェに任せて俺はヘルガさんに会いに行った。


「屋敷は完成しましたよ」

「土足問題は解決しましたか?」


「はい、客が入る可能性がある部屋は全部板張りにして室内履きも各部屋に用意しました。廊下は土足を黙認することにしました。部屋ごとに履き替えるのを嫌がる人もいるとは思いますが、うちに来る以上、多少のことは譲歩してもらいます」



 選ばざるを得ない状況だったとしても、せめて各個室は汚さないでほしい。馬車で移動してあんま汚れてなかったとしても。とにかく従ってほしい。従ってくれるまで頭下げ続けたって良い。俺の屋敷のためなら。


「ハルさんも大分譲歩しましたね。ベッドを大きくしたり、座椅子からソファーに変更したりって結構労力も予算も消費してましたしね」

「滞在に金取りたいくらいですよ」



 ま、宿じゃないから流石にそれはできないけど。

 俺とヘルガさんがタウンハウスの対応をしている間にも領地は復興が進み、図書館や博物館など、クラスター前には建てられていなかった娯楽施設も徐々に建ち始めた。

 博物館には入館料がかかるが、図書館には本の貸出料、利用料がかからないので子供の集団勉強スペースとして人気らしい。楽しそうで何よりだ。 



 フェリーチェから伝来した絵本、ヘルガさんが趣味で書いたらしい小説も置いてある。因みにペンネームは「ペリー」らしい。フェリーチェとメビウス神が爆笑していたが、何か面白いものでもあったのだろうか。カイコク? クロフネ? みたいなことを言っていたものの、俺には何一つ理解できなかった。


 ヘルガさんが書いた小説、俺も読んでみた。冒険小説から恋愛小説まで色々なジャンルがある。所々クスッと笑える描写があって読んでて飽きない。


 小説家ペリーの作品は瞬く間に人気を博し、王都の本屋でも売られる予定らしい。まだ国内の本屋が復旧作業途中なので、領外に住んでいる人達がこの本のために来領するくらい。小説家ペリーを誰も見たことがない、謎の存在というところもまた人気に火をつけているとか。


 特に子供には冒険小説、大人には恋愛小説が人気。遊び心のある描写、仲間の大きさを感じさせるような裏切り。涙を誘う別れ、バックグラウンドに基づいた登場人物達の色。

 今では本好きの貴族達の中で、小説家ペリーの本を知らない人間はいないそうだ。持っていることも一種のステータスになるとか言われてた。


 シルヴィ曰くで、実際見たことはないが、領地の本屋に貴族の使用人らしき人達が買いに来てるのを見ると間違ってはいないと思うけど。



 図書館でも予約が殺到したので1つの作品につき5冊は常備しているようだ。それでも追いつかないというのがまた凄い。小説家ペリーの登場により、領地には製本工場ができ、出版商会も立ち上げられた。右肩上がりの売り上げにホクホク顔の商会長を思い出す。

 俺を介して数量限定かつランダムに直筆サイン入りの本が発売されるなど、盛り上がり方が異常だ。



 俺の無限牢獄にヘルガさん専用の執筆部屋と書庫も作ったので次から次へと新作が上がってくる。小説家ペリーの大ファンであり、国内に噂をばら撒いた張本人である俺には、新作が上がる度に直筆サイン入りの小説が納品される。こういう特別扱い、とても気分が良い。ちゃんと売り上げにも貢献してるから大丈夫。


 サイン入りのは観賞用。俺が買うのは自分で読む用と他人に広める用の2冊。シリーズ物だと同じようなジャンルの本が何十冊にもなる。直ったばかりのカントリーハウスに俺用に作った蔵書室はファンとして崇めずにはいられない神々しさを放っている……ように感じる。元弟であるコリアも、作者の正体はわからないながらもしっかり売り上げに貢献していた。




 有名になりすぎたペリペドットは旅行先としても注目されるようになった。やっと一区切りついたと思ったのも束の間、今度は教育機関から呼び出しをくらった。1ヶ月、無人の領地を探させてしまったのは申し訳なかったので外に出ていたのだが、これ幸いと捕獲されてしまったのだ。

 しかも、平民学校からの呼び出し。何かあったのだろうが、何があったのかはわからない。面倒なことじゃなきゃ良いけど。






「ハル・ペリペドットです。ご用件を伺いに参りました」

 学園の敷地近く、魔法研究所横に建てられている国内教育課の課長室をノックする。


「どうぞお入りください」

「失礼します」

 質の良さそうな本革のソファーに腰を下ろし、用意された紅茶を口に含む。


「それで、どういったご用件でしょうか」

「我が国の平民教育は始まったばかりですが、既に教育期間を伸ばそうという話が上がっております。基礎的な内容だけではなく、より発展的な内容を教わる権利がある。守護者様が治められている土地で私の部下が驚愕して帰ってきたのです」


「はい。確かにペリペドットの領地では国が定めた規定に沿いつつ、独自のルールを設けています。最低でも15歳になるまでは子供に教育を受けさせる義務を課し、それまでは正式な雇用をしての労働も禁止しています。6歳から9年かけて規定のプログラム以上の内容を学び、各々就きたい職について深く学んでもらっています」



 平民学校の他に、フェリーチェの提案した専門学校もある。学費はかかるものの、独学で学ぶよりもより多くのことを学べる。作家業、調理業、接客業、清掃業。世の中には職が多様にある。自分の意志で自分のやりたいことについて深く学んでほしいという想いで開校した。高い学費に見合った教育を受けられるということで多くの領民から高評価を得ている。



「ペリペドット領では就職の年齢が他のどの領地と比べても3歳以上遅い、という認識が広まっております」

「はい、専門学校に通う人が多いので就職の年齢は18歳くらいになる事例が多数派です」


 専門学校で基礎的なことを教わってから本格的な修行を行うから覚えは早いと思う。まだ施工してからあまり時間は経っていないがその道のプロ曰く、就職体験に来る学生は皆筋が良いとのこと。目標としては間違ってない。



 質の良い教育を受けた人間が多ければ多い程発展する。逆に、中途半端だったり全くされていないと発展途上のままストップしてしまう。これはフェリーチェが昔掲げていた国の方針の1つらしい。


 フェリーチェの意志を継ぐ者として、この方針は初期の段階で掲げ、協力者を増やしておいた。何の反発もなく受け入れられているのは協力してくれた領民達の力が大きい。結局はお互いの信頼関係と有言実行力にかかってくるだろうな。


「ただ真似するだけでは受け入れられないでしょう。領地によっては領主やその家族の顔すら知らない人間がいますので。そんな中、新しく出費を増やすような政策が打ち出されたところで受け入れられるのか。まずは領主と領民の信頼関係が必要になります。また、領地自体が大きくないと、ここまで多くの学校を建てるということは非現実的だとも思えます。建てられたとしても1、2校が限界でしょうね。ペリペドットでは各施設までの連絡用の馬車も用意しているので、その分の料金もかかります。よく検討して実践するかどうか判断すべきかと」



「そこまで多くの問題を解決しなければならないものなのですね」

「平民教育という概念すら消え去っていた国ですから、当然です」


 少し棘のある言い方になってしまっただろうか。だが、生半可な気持ちで無駄な校舎を建ててほしくはない。うちは外から来る学生のために安く寮を提供しているが、それは他領では不可能だろう。反発が起きる気がする。質も期間もサポートもってなると一体いくらかかるのやら。俺と違って理由も伝えずに徴税額を上げれば人口も減るだろうし。


「そのような、他と一線を凌駕したシステムを導入している領地に社会学習として生徒を数日滞在させるのはどうかという話が持ち上がっております」


 あれ、学校作るって話じゃなかったっけ。そもそもそんなこと言ってたっけ。忘れたわ。で、何だって? 短期滞在? それ親が許可するのかな。



「滞在する側にアンケートは取りましたか? 教育期間を長くするなら何歳で訪問する予定ですか? 冬から春にかけての積雪量は危険なレベルですが、そんな領地に行くことに対して親御さんからの賛同は得られるのでしょうか?」

「それに関しては問題ございません。こちらがアンケート結果になります」


 担当者が見せてきたのは、各領地で行われたという学校生活についてのアンケート結果。生徒側はもし他領に滞在するならどこが良いかという問いに対し、約9割の生徒がペリペドット大徳領と解答していた。5歳から10歳の生徒全員合わせて9割だ。あとの1割はアイクランド公爵領やオブリガード公爵領といった南の有名所。

 保護者に対して行われたアンケートでは、信頼できる領地としてペリペドット大徳領が挙げられていた。



「滞在が実現した際はこちらとしても全力で歓迎いたしますが、流石に無料で、とは言えません。人件費もいつも以上にかかりますし、旅館の貸し切りをした場合もそれなりの費用がかかります。子供ですし、備品を破損させてしまうこともあると思います。その際の修理費も必要です。あまり多くは取りませんが、一定金額はこちらに払っていただきます。勿論、内訳は公表しますのでご安心を」



 こっちとしても領地でお金を落としてくれればありがたいしな。土産物屋が儲かりそうだ。


「かしこまりました。他領の教育課とも話し合いを重ね、またご連絡させていただきます。今回は以上になります。ご検討ありがとうございました。それでは、お気をつけてお帰りください」


「こちらこそ、有意義な話し合いでした。ではまた、お会いしましょう」



 そうして解散、俺は先輩フェリーチェに聞くことにした。フェリーチェなら前世で何か経験しているかもしれない。まあ、まともな返答が帰ってくるのであれば、メビウス神でも良い。



「ああ、修学旅行系ね。そういえばこっちではやってなかったかも」

「良いんじゃないの。修学旅行は大人になっても思い出に残る行事だし」


 話を聞いてみると、体験型のイベントを開催するのが効果的らしい。学校としては勉強として連れて行くわけだから子供が興味を持つ物でないと意味がない。

 何をしたか思い出してもらったのだが、2人とも博物館には行ったらしい。あとは登山もしたそうだ。バーベキューや伝統工芸品の制作体験なんかも。



 俺の領地は新興だから伝統という伝統はないが、焼き物は有名だ。茶碗や酒瓶に使われている。完成品を後日輸送とかでも良いのなら相談してみるのも良いな。


「わかった。各方面に確認を取ってから企画書を教育課に送るよ。参考になった。ありがとう」

「どういたしまして〜」

「まあ、お前には借りがあるからな」



 よし、そうと決まれば早速向かおう。旅館と、工房と、博物館もだな。旅館には修学旅行生限定でバーベキューセットを貸し出してもらったり。

 ま、発注からやらないとだけど。また更に忙しくなりそう。


今回の登場人物

・ハル・ペリペドット(14歳)

・ヘルガ(17歳)

・フェリーチェ・サージス

・メビウス神

・建築士

・教育課課長

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