59,決闘
魔物5体に囲まれた俺、そしてそんな俺を見て薄笑いを浮かべるヘルガさん。どこの誰か知らんけど、ヘルガさんの顔でそんな表情しないでほしいんだけど。
今更だけど、俺、絶対コイツと気合わないわ。
一気に攻撃されたら俺もちょっとヤバいな。どうしたら一気に避けられるんだ。
と、思っていたらもう来た。とにかく相殺しよう。真上に跳んで魔物同士の攻撃をぶつけた。相殺の衝撃で魔物が吹っ飛び、その勢いでかなりのダメージを負った模様。
よし、まずはサシにもっていって――
「っ……!」
今度は空からヘルガさん。両手にトルネードを装備した状態で俺に攻撃してきた。やば、本気で俺のこと殺す気だ。あれに攻撃された魔物が肉片になったところはずっと近くで見てきた。危険性は嫌というほどわかっている。
ギリギリで躱し、バランスが崩れている俺に、追攻撃が来ないわけがない。
「ぐっ…………」
強化魔法をかけたような威力の足が喉の下あたりに入った。治癒魔法のお陰で鎖骨は折れてないが、痛いことに変わりはない。
ヘルガさんは体術が得意じゃなかったはず。これも何かの影響なのだろうか。だとしたら危険だ。今のヘルガさんには自我がない。つまり、死ぬまで動き続ける。例え何があっても。
そうなるとヘルガさんの命が危ない。早く助けないと。
こちらはヘルガさんの体のことを考えてしまうせいで決定的な攻撃に出られない。でも、相手は俺を殺す気だ。何とかしないと。
「ヘルガさん……!」
何度呼びかけても返事がない。この状態じゃ俺には抵抗することしかできない。
「ヘルガさ――」
「っ……!」
俺を押し倒した“ヘルガさん”は、苦しそうに泣いていた。実際、ヘルガさんの中には別の何かがいる。でも、感情と意識だけはまだあるようだ。大丈夫。まだ大丈夫。まだ体だけ。
なら、全力で戦おう。1対6。何、よくあることじゃないか。相手が強くなっただけ。難易度が跳ね上がっただけだ。
今までは治癒魔法常時発動だったが、それに強化魔法常時発動も付け加えた。
「ヘルガさんの体は返してもらうからな」
自分を鼓舞し、まずは魔物を狙う。こっちには最強魔法、転移があるんだ。魔物の背後に回るのは簡単。背後に回ると、俺を攻撃しようとした魔物に攻撃され、魔物同士で争ってくれる。
見事生き残った魔物が敗者の肉を食べる前に殺してしまえば良い。そうすれば魔力の節約だ。
「お前を許さない」
「は?」
ヘルガさんではない声で、そんなことを言われた。いきなり喋ったと思ったら、第一声がそれですか。許さないのは俺なんだけど。
「お前は俺の邪魔をした」
「サッパリわからないな」
本気でわからない。でも、自覚してやった出来事ならある。
レオンに呪いをかけようとした邪神を追い払った時だ。
その時のことを言っているのであれば、納得だが、何でヘルガさんが関係あるんだ。
「早めに乗り移れれば、かずや……フェリーチェに会えたかもしれないのに」
フェリーチェ? なぜ? フェリーチェは1200年以上前に死んでるが。しかも、かずや? 誰? フェリーチェの前世の名前か? じゃあコイツは……
「フェリーチェの、前世の恋人」
「……!」
図星か。残念だな。フェリーチェが好きという気持ちが暴走した結果がこれか。
「当たりだな」
「ちがっ……!」
「フェリーチェならもういないよ。何でかって? 俺がフェリーチェの生まれ変わりだからだ」
俺がいるということは、前世であるフェリーチェはいないということ。
「そんな……。折角神を引き摺り下ろしたのに……。やっと見つけたのに……」
この世の終わりのような表情をした“邪神”。次の瞬間、信じられないことを言い放った。
「……こうなったら、俺はお前を手に入れる。どこにも行けないように縛って、縛って、縛り付けて、死ぬまで絶対に逃がさない」
うわ、怖っ! 怖すぎる! フェリーチェに対する執着がヤバいって!
棘まみれの蔓が俺の体をぐるぐるに縛る。
は?
何で、何で何で何で! 何で抜け出せないの!
「神の力って本当に便利。使わない人間には抜けられないんだから」
「は? 神力?」
ここでそんな量の神力は使えないんじゃ……
「あの間抜け神が、馬鹿みたいなこと言うから、そう思うのも仕方ないよね。でも、俺は人の恐怖を力にするから無駄だよ。あの時は美味しくなくて手放したけど、こんなに美味しくなって戻ってくるなんて。驚いたよ」
「っ……!」
生け贄の儀式。
俺の脳裏に、出会った頃のヘルガさんが蘇る。ヘルガさんが生き残ったのは恐怖心がなかった。実の家族に殺されるというのに。
「美味いとか不味いとか関係ない。フェリーチェがお前のならヘルガさんは俺のだ」
「宙吊りで言われてもね」
「うるさい。今考えてるの。ちょっと黙って」
生け贄……神力……恐怖心が糧に……。
よし、俺にはこれしかない。ヘルガさんに乗り移った邪神は、今の自分より遥かに強い。それは全面的に認めよう。ただ、勝たないとは言っていない。ヘルガさんは必ず俺が取り戻す。
俺の神力は邪神の半分以下だ。これを同等以上にするなら、それ相応の対価を払う必要がある。
『神、聞こえてないだろうが俺は神力を視力を交換するからな。二度と、未来永劫、目が見えなくなっても良い。左目をくれてやる。俺が全部終わらせる。俺が糧にするのは……戦意だ』
普段、神に話しかけるように宣誓。戦意を糧にして、これで終わらせる。
「何をするの?」
「……成功、だな」
俺を縛っていた蔓はいとも容易く切ることができた。片目の視力は……若干残ってるな。ボヤけまくってるけど、この際色が識別できるだけで良い。眼鏡が必要だな。ガチ眼鏡ユーザーのカリウ先生にオススメを聞いておこう。
「なっ……!」
「お前のフェリーチェは、もういない。これで終わりだ」
今度は俺がヘルガさんを押し倒す番だ。暴れているが、力づくで押さえつけ、俺の神力を注ぐ。俺の方が強いなら、ここまでやれば邪神は無効化できる。
「あっ……ぐ……!」
苦しそうに呻くヘルガさんを見ると、罪悪感でいっぱいになるけどこれも全部邪神を追い出すため。謝罪は終わった後に沢山すれば良い。
温かくて白い光が俺と邪神を覆い、目を開けることすら難しくなる。
あ……ヤバい……意識、が……
そこからの記憶はない。
「……ん…………ハルさん……!」
「うっ………」
まず目を開けた瞬間の感想。眩しい。何がって? 俺の放ったらしい神力の残り香だ。それと、ヘルガさん。
毛先は暗めの色だが、いつもの金髪だ。瞳も、前と同じ桃色。少しだけ左右で色が違う。片方は桃色、もう片方は暗い赤色だ。あの忌々しい色を纏っているのに、神々しく見える。
「ヘルガ、さん……?」
「はい……ハルさん…………」
俺の頬に垂れる雫とヘルガさんの腫れた目元。珍しいな。
「ヘルガさんが、俺の所に戻ってきてくれて、良かったです。嬉しい……」
俺も鼻の奥がツンとしてきた。もらい泣きかな。
「首……大丈夫……?」
少しずつ声も戻ってきたかな。
「ハルさんこそ……僕、手加減しなかったから……」
「死ぬかと思いましたよ」
「すみません……」
「でも、邪神が無力化できて良かったです」
「そのことなのですが……」
言いにくそうに切り出すヘルガさん。
「この子……メビウス神だと思うんですけど……」
ヘルガさんが俺に見せたのは、赤ちゃんと同じくらいに小さくなった邪神らしい生物。神力はほぼ感じられないが、ヘルガさんの近くにいたならこの赤ちゃんが邪神であっていると思う。
「ヘルガさん……少し待っていてください」
俺は根に持っている。俺を縛ろうとしたこと。仕返しだ。俺も縛ってやろうじゃないか。無限牢獄からロープと球体関節人形を引っ張りだす。60cmの巨大ドールだ。
俺がフェリーチェを模したイラストを竜ヶ丘の職人に送り、それを元に作ってもらった力作だ。これに邪神ブチ込んじゃおうかって魂胆だ。
紺色と銀色の生地が使われた袴を着たフェリーチェ(人形)に邪神を捩じ込む。とりあえず邪神が起きる前に終わらせる。
俺が捩じ込んだ瞬間、起きた邪神。だが、覚醒するまでにはまだ時間が必要だ。寝起きでポヤポヤしている邪神の周りに神力増し増しの特性結界を張った。よし、封印完了。
これなら無限牢獄に入れられる。縛ろうとして逆に縛られるなんて。可哀想な邪神。
「ヘルガさん」
「……? はい」
「お風呂にします? 軽食にします? それとも、報告ですか?」
俺達の服はどこも裂けまくって、それに加えて、泥塗れ血塗れ瘴気塗れで、とても謁見できるような状態じゃない。正直俺は立とうと思えば立てるのだが、今立つと高確率で下がずり落ちる。立てないわけではないから心配なさらず。
「……お風呂で」
「やっぱりですね。じゃあ、無限牢獄」
人形を椅子にグルグル巻きして俺はバスルームに入った。肩までお湯に浸かると、ガチガチに固まっていた体がゆっくりと解されていくのがわかる。
サッと色々流したら着替えて報告に向かう。どこに転移するのが良いだろう。俺の放った神力が成功していれば、もう魔物はいない。ならライゼン様の所に転移しよう。城に転移、と。
あれ、落ち着いて考えてみると、何で俺戦闘中に地図タップなしで転移できたんだろう。あそこは慣れてないはずなのに。
また今度検証だな。火事場の馬鹿力だった説もあるわけだし。
まだわからない出来事はあるが、今は報告が先だ。
今回の登場人物
・ハル・ペリペドット(14歳)
・ヘルガ(16歳)
・邪神(メビウス神)
※「かずや」は漢字で「和也」、当時大学生だったメビウス神と恋人でした。ちなみにメビウスの前世の名前は「りく」で漢字は「理久」です。




