57,発展
卒業パーティも終わり、本格的に街作りがスタートした。
採用した技術者、魔族の技術者を呼び、予め用意した設備にも案内した。それから、改めて仕事内容の確認をして、給料なんかにも触れた。
今日は1日目だし、ということで班分けから。誰がどこを担当するのか、設計図を見ながら決めていく。
集合住宅班、店舗班、街道整備班、大徳家屋敷班に分かれた。まずはこの4つから。林業系の人達もこの中に割り振られ、専属として切ってくる。
店舗は今のところ、俺が出す予定の平民向けの店と平民向けペステッド商会が入る。卒業パーティーの後、テリーと伝言について話し、それからペステッド商会長とも話を重ね、テリーを会長とする平民向け雑貨店ができることになったのだ。
魔石を使うことにより、価格を抑える商品の開発ができたそうだ。少し高いが、手が出せない程ではないという丁度良い価格帯であることから、了承した。既に土地はペステッド商会が購入し、店舗建設代と在庫保管所建設代は受け取っていて、関与した技術者達全員に、報酬として割り振る予定だ。
技術者の家族の中には子供もいたので、初日の集合前までに仮で学校を作り、勉強の補填をさせた。ちゃんと設備も用意して教師も資格を持った人間にすることで、臨時の学校でも学歴が認められるようにした。
まだ生徒数はそこまで多くないけど、これから技術者の増加に伴って増える予定だ。
支出が……増えていく……。全部回収しきれるのはいつになるか。借金こそしていないものの、かなりの赤字ではある。レシピの使用料とかで儲けは出てるけどそのうち追いつかなくなるぞ。
こうなったら、少しではあるけど自分でもお金を稼がないと。魔石産業が注目され始めてきて、魔石1つで結構なお値段がつく。
ヘルガさんは父さん達と食堂で売り上げを出し、生活費に。俺は魔石を大量に売り払い、街作りの資金へ。昔も今も、規模が変わっただけで金欠状態は維持されてるな。
次の代以降で俺が苦労しないためにも今の俺が頑張らないと。
まあ、今日はアイスブレイクってことで食事会だけだから明日から本気出そう。食事会は超高身長の人達のために用意した広場で開く。普通サイズのだと全員分作り終えるのに一体何日かかるのやらって感じなので。
良かった。食堂と離しておいて。食事会は広い場所であるから意味があるんだ。もともとは匂い混ざりが嫌で離したやつだけど、まあ結果良ければ何とやらって言うしな。名称も超高身長のための、じゃなくてただの宴会場で良いか。
今日は俺が狩ってきた魔物肉のバーベキューと、パーティーで持ち帰ってきた料理だ。こちらも匂い混ざりは嫌なので別で空間を作っている。
マリアやラッシュなど、雇い主側の人間がパーティー料理に手を出すと、遠慮していた子供達が負けじと一斉に食べ始めた。
大人達は子供に食べさせてあげようという気なのか、魔物肉が気になるのか、バーベキューに乗り気だ。
ヘルガさんは俺の無限牢獄に逃げた。イディスさんと夜ご飯だ。ヘルガさんは、俺がいない期間もイディスさんがいるから寂しくはなさそうだな。
「ん!」
「美味いな!」
「ハル様! これ美味いっす!」
「それは良かった。明日から働いてもらうから、今日はいっぱい食べろよ」
「はいっす!」
ムキムキの大男達が肉を頬張っている。このペースで食べられるならもう一塊用意しないとな。
「ハル、これ何だ?」
「テリー。来てたんか」
「さっき着いた。途中で迷いまくって3日もかかったわ。ふっ……! ぁ……。お陰で寝不足だよ」
大きく伸びをして肩を回すテリー。どうやら寝ずに3日間、近くの町から休まず歩き続けたようだ。立食形式だったが、疲れ切っているテリーのために俺の部屋から1人がけソファーを持ってきて座らせた。勿論地面にはマットを引いて足が汚れないようにもした。
もともと持っていた串焼き1本じゃ足りないだろうと踏み、追加で何本か渡しておく。
この街にはまだお酒とかがないから酔っ払ってハイになる人はいなさそうだ。二日酔いで出られません、なんて笑えん冗談。でも、もう少し発展したら報酬として仕入れても良いかな。
食事会は日付けが変わるまで行われた。片付けが楽なくらいの食べっぷりだ。残飯というものが一切ないからゴミ撤去だけで済む。
パーティーのお土産もあれだけあったのに、もうゼロだ。子供の食欲って凄いな。昼食配給、足りると良いけど。
翌日から作業は始まった。応募用紙に魔力属性を書いてもらっていたから大体知っていたが、凄い速さで出来上がっていく。
圧倒的に多かったのが地属性、その次に強化属性。その2属性と超高身長のお陰で二階建てもなんのそのって感じですぐに建った。
二階建て代表のペステッド商会も初日で土台ができていたのだから驚きだ。
あまりにも早かったのでもう少し後に予定されていた漁業、農業、造船、製紙も突っ込んだ。
漁業従事者は造船所と協力してより効率的に海産物が獲れる構造を探しているし、農業従事者は土地を開拓し始めた。製紙業も稼働はまだ先になりそうだが、研修を経て着実に成長している。
この調子でいけば、来年には正式稼働ができそうだ。紙は金になるから財源も確保される。
それぞれのジャンルの商会もできたので、事業が安定してきたら運営から手を引いても大丈夫かな。最初の方は補助金とかが必要かもだけどいずれ自立するだろう。
この時期になると、移住者の募集や選定ができるようになった。
条件としては、冬の寒さで負けないくらい体が強いか、魔族が街を普通に歩いていても嫌にならないか、他の領地よりはるかに高い徴税に耐えられるか、の3つだ。公共設備をかなり充実させたから、それの維持のためにお金がかかる。給料を高めに設定したのはその分徴税も多いからというのもある。
それと、戸建てを一から建設するための値段も、通常の8〜10倍に設定している。正直集合住宅の方が多くの人を住まわせられるので。
ただ、平均年収の人も頑張れば建てられないことはない。まあ、頑張ればの話だが。とにかくそれら全てに耐えられる人だけが入ってきてほしい。
街の入り口付近に役場を設置したからそこで手続きをしてほしい。
「結構順調ですか?」
粗方商会が安定し、補助金もかなり減ってきた時期、ヘルガさんがそんなことを聞いてきた。
「はい。役場に確認をしたところ、他の街に住みながらうちで働いて、お金がある程度貯まってから移住って手順を踏む人が多いみたいです。いずれにせよ、移住希望者は右肩上がり。あの徴税じゃ伸び悩むかと思いましたが、意外といけそうです」
「徴税以上のメリットがありますからね。安い集合住宅でも水回りがしっかりしているところ、公共交通機関が張られているところ、学校の他に未就学児の託児施設があること、いずれ娯楽施設ができるところ、公共施設も続々と建ち始めていること、などでしょうか。これらを維持するために税率が高いんですよと公言しているところも高評価のポイントだそうです」
公言? それは当たり前だと思うんだけど。自分の払った税金が何に使われるのか知りたいのは普通だし。
「基本的にどこの領でも税金の行方を知っている平民はいませんよ。どんなに善政を敷いていても、税金をどこに使うかを明かす領主はいませんし、高くすることに負い目を感じる人もいません」
え、そうなの!? じゃあアイクランド公爵領も、モッシュ侯爵領も税金の行方はわからないの!? そんなの払う側怖すぎるでしょ!
「じゃあ、それが流入の主な要因なんですか?」
「だと思いますよ。特に今は仕事はあっても人が足りない状態なので雇用目当てで来る人も多いです。初めは定住する気がなかった労働者も、3日目くらいで街を気に入ったみたいですよ」
どうやら、キッチンに篭りっきりのヘルガさんは父さん達から街の評判を又聞きしているらしい。因みにあの食堂は閉めたから今は軽食販売をしている。
要は、仕事の合間に食べられる弁当だ。スイーツはまだ、財力的に余裕がない人が多いだろうから先に弁当をリリースした。
あまり馴染みがないにも関わらず、その利便性と価格の安さから爆発的に人気になり、今では各地で弁当屋がオープンしている。場所によって味付けもサイズも、中身も違ってちょっと面白い。
超高身長でもお腹いっぱい食べられるように大盛り専門の弁当屋もできた。子供の偏食を防止するための策を講じる店も、親世帯に人気だ。
そんな中で俺が弁当のレシピ本を発売したものだから、即重版。特に街外からの人気が凄い。王都の書店で販売したいと言われたくらいだ。
なるべく王都でも手に入る食材を使用しているからだと思う。平民の時間が長いからどこで何が、どれくらいの値段で買えるは熟知しているのだよ。
紙はまだまだ貴重だが、大量生産ができるところから安く買わせてもらってるし、いずれはこっちでも賄えるくらいにまではなる。印税でギリ赤字は免れてるしな。
今は騎士の間で愛妻弁当が流行っているらしい。仲がよろしいようで何より。ここまで流行るなら、ちょっと大変だったけど作って良かったと思う。
もう少ししたら普通の料理本も販売するから、それも反応が楽しみだ。
今回の登場人物
・ハル・ペリペドット(13歳)
・テリー・ペステッド(13歳)
・ヘルガ(15歳)
・労働者




