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55,コリア


 今日も今日とて領地開発作業。


 今日は一日かけて労働者用の仮住居を作る予定。楽したいから1階建ての集合住宅にした。旅館とかは2階建てにするけど、ド素人2人で作るには少々難易度が高いので。



 今の時点で各部屋に水回りを作ることはできないからトイレは仮設と公衆トイレで何とかやって、風呂は仮設公衆浴場をいくつか作った。いずれ銭湯にする予定の場所に置いたので利便性もあるはずだ。



 この後はヘルガさんが面接官として向こうに戻って、俺はその間に何軒か完成させる。建築の人優先で、最小で2人、最大6人まで一部屋で暮らせる設計。

 サージスは1人っ子か、多くても2人ばっかで、5人以上の世帯ってほぼないから問題ないと思う。



 林業系の人達はなるべくラ・モールの森に近く、危険度が低い場所に建設。念には念を入れて結界も張っておく。


 骨組みができたら地魔法で壁をつくる。魔法で時短ができるから楽な工事だ。家具類は入居者が決まってからだからまだ置かない。竜ヶ丘から来てくれる技術者達の家も作らないと。日は沈みかけているが、あと少しだしササっと終わらせちゃおう。



 確か技術者の中には身長がアスベル様の2倍近くある人もいた。そういう身体的特徴にもちゃんと対応しないと。平均して体格が大きい魔族用にも、風呂とトイレは作らないとな。高さはどれくらいか?


 天井の高さは大体4Mくらいが妥当。身長ごとに建物も分けた方が良いな。超高身長は少数だから個室の数は一つの建物につき2個で良いだろう。いくつか作るから、そんなトイレの前で行列になるってことは多分ない。あ、じゃあ食堂も2種類作らなきゃだ。





 あーー! やることは増えていく一方なのに時間が全然足りない!



 よし、休憩所で水分補給だ。疲れた体には気合いの水だ。まだ気絶しない程度にしか疲労を感じていないから今日は徹夜でも良い。東屋で設計図を作成。勿論、でか食堂のデザインだ。



 広い場所を確保して焚き火っていうのが一番効率は良いよな。3M近くある人達の胃袋を満たせるような食材は俺が森に入って狩ってくれば問題ないし。



 うんうん、できてきた。サイズ的にテントを張ったりってことはできないけど、結界もテントも大して変わらないから平気でしょ。雪とか雨とかが防げれば良いわけだし。テント張ったところで寒いものは寒い。結界の下位互換にしかならない。




 場所探しだけど、浴場に少しでも近い方が便利だから……この辺かな。人間サイズ用と同じで、集合住宅から歩いて数分のところにある。


 大きい釜とか欲しいな。人間サイズ用じゃ何回作ったって足りない。足りるわけない。調理担当の労力だけが無駄に消費される結果に終わるだろう。









「ハルさん……」

「……!」


 辺りはすっかり暗くなり、少し眠気を感じてきた頃、俺の名前を呼ばれた。聞き覚えのあるその声に振り向くと、黒い笑みをうっすらと浮かべたヘルガさんが立っていた。


「えっと……もう、遅い、ですよ……?」

「僕も同じ言葉を返しましょう。現在時刻は午前2時。徹夜する気でしたね?」

「うっ……」



 有無を言わせぬこの笑顔……。怖すぎる……。逃げた方が良いかな。ちらっと逃げ道を確保しようとしたのがバレたようだ。

 その証拠に、次の瞬間には左手首と腰を完全に封鎖されていた。低身長ゆえ、逃げ出せない…。



「逃しませんよ、ハルさん」

「ひぇ……」

 魔法で逃げてもすぐに追いつかれる。触れているから転移も無駄。無限牢獄も無駄。あ、これ詰んだ。


「僕、ラッシュ君にハルさんを任されたんですよ。徹夜はさせるな、とのお達しです」

 お達しって……ラッシュの奴……。



「ラッシュ君に言われなくても、僕はルイ先生からも同じことを頼まれていますので」

 ルイ先生まで……。とにかく俺に対する睡眠の信用度がゼロってことは理解したわ。



「ということで、寝ましょう。転移する気がないのならここで寝ても良いですが、大分寒いですね」

「部屋に戻ります……」


「はい、それで良いんですよ。次はハルさんが面接なので進捗共有してくださいね」

「はい……」



 大人しく部屋に転移し、布団に入った。

 ……ヘルガさんってあんなんだったっけ。休憩所に灯されたの光のせいで逆光気味になって。





「超かっこよかった…………」

 しかも、最近声が低くなったってのもあって、頭に直接響く感覚がする。ルイ先生とはまた違う声質だけど、めっちゃ好き。











「一睡もできなかった………………」

 昨日? いや、今日か。言われたヘルガさんの至近距離「逃しませんよ」が頭にずっと残ってて、興奮して眠れなかった。寝る努力はした。でも眠れなかった。面接で欠伸しないように気をつけよう。


 俺って声好きなのかな。性癖ってやつだっけ。そうでないなら他に説明のしようがない。友達の声を聞いて興奮して眠れないって、それ端から見たら気持ち悪すぎる。自分で思い返してみても気持ち悪いんだ。


 はぁ……。申し訳なさすぎてヘルガさんに顔向けできない……。



「神……俺って変態なのかな……」

『変態ね』

「う゛っ……!」

 華麗にクリーンヒット……。



『友達の声で興奮して眠れなくなるなんて、変態以外の何物でもないわ』

 俺、もう駄目かも……。




「ハルさん――「すみません……」」

 ヘルガさんが来た瞬間、反射的に謝ってしまった。変態のくだりのせいで、申し訳なくて……。



「えっと……。どうしましたか?僕は謝られるようなことをされた覚えはないのですが……」

 俺には答えられません……。気不味すぎて。

 ぷるぷるする俺に、ヘルガさんは再び顔を近づけてきた。



「教えてください」


 あ、無理。そこで俺の意識は途切れ、次に目覚めたのは昼前。俺、相当重症だな。恋愛はできないけど声に恋することはできるとか? いや、だとしたらルイ先生の方は説明できない。浮気しまくり野郎になってしまう。



「あ、目が覚めたんですね、ハルさん」

「ヘ、ヘルガさん……」

「ヴィーネ様から聞きました。ハルさんは僕の声のせいで眠れなかった、と」


 え、せいとかじゃないよな? 俺がただヘルガさんの声が好きってだけだよな?

「まあ……正確には、僕の声が好きすぎるということでしたが」



 終わった……。もう何言われても良い。変態とでも何とも言えって感じ。

「僕の声で気絶できるならこちらとしては好都合です。無理矢理寝かせる必要がなくなりましたからね」

「へ?」


 何か予想と違う。何で? 友達から声が好きすぎるって聞いたら普通引かない? いや前例がないから普通かどうかわからないけど……。まず自分の声が特定の人間にとって兵器になり得ることに好感を見出さないでほしい。



「面接は昼過ぎからですし、今からなら間に合いますよ。どうします? 歩けますか?」


「た、楽しそうですね」

「はい。心から楽しいですよ。あのハルさんの弱点が剣術以上に、声と耳だったなんて。大発見ですよ。皆に言いふらしたいのを我慢するのが精一杯」

 言いふらし……それは困る! もしルイ先生の耳に入ってしまったら……!



「言いませんよ。こんな美味しい話、僕だけのものです」

 よかった……。ルイ先生とヘルガさんに前後挟み撃ちにされたら俺は逃げられない。精々、意識飛ばして現実逃避するくらい。

 とりあえず汚名返上のために面接、頑張りますか。



 領地にヘルガさんを飛ばし、俺は激安集合住宅に向かった。

 1人目は1時からか。昼の鐘と同時に開始だな。




 コンコンコン

「はい、どうぞ」

 1人目は丁度5分前に来た。




「……!」

 ヘルガさん……! じゃない。落ち着け。顔が似てるだけだ。


 内心の動揺を表に出さず、俺は対応した。

「面接官のハル・ペリペドットです。ご応募ありがとうございます。本日はよろしくお願いします。まずはお名前、経験職業、家族構成をお伺いしてもよろしいですか?」




「はい、名前はコリア、前職は大工です。左官業と造船業も少しだけ経験があります。家族はいません」

 元、コリア・アルバーンで合ってそうだな。家族に関してキッパリいないって言い切れるところを見るに、和解したのは本当のようだ。



「では、志望動機をお聞かせください」

「勤めていた建築商会が代替わりしたことで潰れてしまって、仕事を探していた時に知人から勧められたことがきっかけです。建築物の構造や展望を見て、自分もお役に立てればと思い、志望しました」


「ありがとうございます。では、最後に確認です。技術者が魔族ということは承知の上での応募ですね?」

「はい、事前に魔族の国に訪問済みです」

「冬の気温の平均が氷点下に達することも、ご存知ですか?」

「勿論です」



 よし、採用で良いな。過去はどうであれ、このキャリアは使える。しかも事前に文献じゃなくて会って確かめに行くなんて、行動力の塊としか言いようがない。



「これで面接は終わりになります。採寸がありますのでお時間ある際にこのお店に行ってください。制服を作る際に発生する費用は既にこちらが支払っておりますのでご心配なく。細かい仕事開始日はまだ決まっていませんが、2月中旬を目標としています。従業員用の仮住居は既に作ってありますので先に入居していただいても大丈夫です。では、1ヶ月後にまたお会いしましょう」


「ありがとうございました」




 特に何も言われなかったな。まあ、俺の顔を知らないから当たり前と言えば当たり前だけど。一瞬警戒した自分が阿保みたい。



 コリア……。すごい変わり様だったな。ヘルガさんを殺そうとしたコリア・アルバーンと今の、面接に来たコリアは本当に同一人物なのだろうか、と疑ってしまうくらい勤勉な印象を受けた。キャリアを積むために色々齧ったり、応募にあたって自力で竜ヶ丘まで行ったり。



 勿論、ヘルガさんが雇い主の1人ということは知らないだろう。求人票には俺の名前しか載っていないからな。彼が真面目に働いて成果を残してくれるなら俺に文句はない。



 よし、次を捌こう。まだ何人か面接予定が入ってるんだ。次は誰が来るだろうか。ヘルガさんから貰った名簿だと、林業系が大半で、建築系はほぼいない。

 まあ建築商会なんて、余程のことがない限り潰れたりってことはないからだろうけど。



 コリアも商会長が変わって潰れたって言ってたから、方針が需要に合ってなかったか、意図的に潰されたかのどちらかになるだろう。



 後はヘルガさんを見て何て言うか。ここだけが心配だ。




今回の登場人物

・ハル・ペリペドット(13歳)

・ヘルガ(15歳)

・コリア(15歳)

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