54,建築開始
「ん……」
翌朝、カーテンから溢れる朝日で目を覚ました。
「よし、やるぞ」
作成したやることリストを確認する。
まずは地図に沿って区画の目標を立てて、俺達の仮住居だな。その後に雇用者の仮住居、それも終わったら食堂。あ、避難所も作らないと。とりあえずまずは避難所優先かな。休憩所も早めに作ろう。
「ハルさん、朝食できましたよ」
「ヘルガさん、もう起きてたんですね」
「はい、エステルに頼んで早めに起こしてもらったんです」
俺もちゃんと起きないと。冷めちゃう前に食べたい。
「顔洗ってから行きますね」
「はい、待ってます」
「ん〜〜〜〜!」
大きく伸びをして部屋の外に出た。
朝食は焼き魚と味噌汁、白米、緑茶だ。旅館で食べた朝食が大変気に入ったので、個人で輸入していたのだ。父さん達は苦いのが無理だろうと踏み、温かい麦茶だ。
「美味しい……」
「良かったです。なるべく本家の味を再現できるようにって頑張ったんです。ハルさんが外出してる間に結構練習もしてて」
「本家と同じですよこれ」
「気に入っていただけて嬉しいです。食堂でも出そうと思っているので」
食堂で! めっちゃ人気出そう。小銀貨1枚とかなら手も出しやすいんじゃないかな。給料としては月大金貨2枚くらいにする予定だからそれなりの生活はできるはずだ。
大金貨2枚は一般的な私兵より高級取りになるわけだが、それは私兵の給料が低すぎるだけだ。フェリーチェの一族が統治していた時代は大金貨2枚が平均だったそうだから。
多少の上下はあるだろうが、建築業や漁業、農業など肉体労働の人には最低でもこれくらい渡したい。その上で徴税とかがあるから。
とにかく目標は普段の生活に加えて、娯楽に使えるお金が安定して入る環境にすること。
ただ、一つ問題がある。それは、大金貨が平民の物価に合わないこと。俺の住んでた集合住宅の家賃でも大銀貨レベル。
ますます「円」が欲しくなる。
よし、ライゼン様に交渉しに行こう。
「ごちそうさまでした」
皿洗いは母さんがやってくれるとのことだったので、とりあえず手紙で通貨に「円」を導入したい旨を伝える。返事が返ってくるまでは領地まで行って仮住居を建てる。
建材はラ・モールの森で切り出した木材達。海水でも腐食しないから造船にも使える便利な木だ。しかも、取りすぎても翌日には増殖してまた元に戻るという完璧仕様。
枠組みはこの木材、素人では強度に不安があるのでそういうところは地魔法で補う。完璧な作戦。冬だから氷点下に吹雪での作業だが、自分がやることで労働者の苦労を知ることができる。
危険すぎるし、対策が必要だな。結界を張れば吹雪は回避できるけど、寒さまではカバーできない。やっぱり無難に焚き火かなあ。焚き火を使うとなると、木造建築は火事対策が必要になるから面倒なんだよな。こうなったら服で何とかするしかない。
作業着に火属性の魔物の皮を使えば、防寒効果があることがわかっている。火属性で、皮も使えるのはゲロ不味の熊型魔物。7歳の誕生日翌日に、吐き出したくなった思い出のある魔物だ。毛皮は上着に使える、なんて話をしていたのを覚えていた。
作業着の上からでも着れるように少し大きめにデザインしよう。袖がダボダボだと引っかかったりして危ないから袖用の細いベルトも付属でつけた方が良いな。これをまた、今度は別の服職人に依頼する。
給料、仕事内容、待遇、制服・作業着、募集期間と人数。これを記載して第一次ペリペドット求人とする。各地域の教会に設置した求人票を見て、希望者が面接に来る。
面接のために激安集合住宅を一部屋借りて、萎縮させないようにする対策はバッチリだ。
第一次求人は建築系と林業系のみ。粗方店舗や民家、公共施設などが建ったら漁業と造船、製紙や農業を入れて、最後に服飾系や雑貨系を入れる。
自分達の仮住居が建った。もう日は暮れている。暗くて見にくいからまた明日、求人票を貼ってから見に来よう。
翌日、まずは各方面に許可を取り、求人票をばら撒いた。誤解させないよう、技術提供は魔族によって行われるってことも書いた。双方不快な思いはしたくないだろう。魔族がわからなければもう個人で調べてくれって感じ。
次。ライゼン様から返事が返ってきた。毎回恒例のお呼び出しだ。
「失礼します」
「ああ、そこに座って待っていてくれ。この書類にだけ目を通しておく」
「はい」
数分後。
「待たせたな。ハル君の言っていた通貨の件だが、前々から議題には上がっていたんだ」
何ですと!? 「円」を皆様ご存知で!?
「サージスは鉱石が採れず、全てを輸入に頼っているのになぜ通貨は金や銀を使っているのか。もっと他に画期的な方法はないんだろうか。そういう話は数年前からあった」
これは……検討してくれるってことでよろしいかな?
「ハル君の案はとても画期的なものだと思う。しかし、現状サージスでは紙もまともに量産できないのだ。結局輸入頼りになってしまう」
「オブシディアンに相談したところ、製紙業もペリペドットで行えるよう技術支援をしてくれるそうです。材料となる木は無限に生えてきますし、数年後には自国で賄えるようになると思います」
これは本当。竜ヶ丘では襖に紙が使われているから製紙業が発達していないとおかしい。俺の所は寒くなるから襖は紙の代わりにガラスを使う。でも、紙は本だったりチラシだったり、多用するので色々な材質の紙を作れるようにする予定だった。
オブシディアンは自国で通貨を生産してるから、ペリペドットでも紙幣に使う用の紙も作れるかも。
「そうか。では、賄えた体で話をしよう。通貨変更は現在所持している分をそれと同じ価値の貨幣に置き換えることになるだろう。平民は良いだろうが、貴族や国家予算等、桁が大きくなると話は変わってくる。大変手間のかかる作業だがそれについてはどう考えているんだ?」
「いきなり全ての国民に通貨変更を迫ることはできません。ですので、まずは各店舗にご理解いただき、通貨を変更させてもらいます。そして、次に消費者の通貨変更。変更後数年は、旧通貨も使用可能としますが全体的に馴染んできたと判断できるまでになったら廃止して良いと思います。今まで使っていた金貨達は溶かせばまた再利用できますし、俺も作る予定ですが、博物館に展示しても良いですね」
お金の歴史、的な感じで。
「では、また会議を行おう。結果が分かり次第また報告する」
「はい、ありがとうございます」
城を出た俺達はその足で領地に向かった。今日は休憩所と避難所、できたら労働者用の仮集合住宅を作ることにする。
ヘルガさんの食堂も、休憩所の中に作る予定。あの水は結構ヤバいから提供はできないけど水魔石と光魔石を使えば綺麗な水が飲める。それで勘弁して欲しい。看板は建てておこう。それか、もしできるなら池自体をなくすとか。
休憩所はなるべく多めに作りたい。そんなポンポン生やしてもダメなんだろうけど、学校の裏手とか街の中心部とか、観光スポットを集中させたい所とかには置いた方が良い。
「神々しい雰囲気にならないようにしないとですね」
「はい、一般人はあんな不気味な所、入りたいと思わないですからね」
神々しすぎると不気味に感じてしまうのは皆一緒。俺もそれはわかってるから街の雰囲気に合わせて木の種類も変えようと思う。
こういうのにはやっぱり桜一択。オブシディアンがフェリーチェから預かっていた苗をいくつかお裾分けしてもらって、それを神獣に成長させてもらう。木の下には東屋を作って休憩所としてちゃんと機能するように。
地図を見ながら植える場所を決めていく。既に区画設定は終わっていて、地面に看板を立てているからわかりやすい。過去の自分にぐっじょぶ。
休憩所を置き終わったら、避難所を作る。これは各地に点在させる。目立つデザインで、でも、浮きすぎないように。
物置小屋っぽく作れば、点在させても煩くはならないはず。公衆トイレも同じように避難所のすぐ近くに設置する。トイレに寄る度に、避難所の場所を確認できる。避難所に魔鉱石を設置して完成。
街路樹とかも植えたいけどそれはまた先かな。道路の整備をして歩道と馬車道を分けてからの方が良い。まだまだ先は長そうだ。
今回の登場人物
・ハル・ペリペドット(13歳)
・ヘルガ(15歳)
・ペリペドット家
・国王




