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53,卒業試験


 冬季休暇が開けて半月。今日は卒業判定試験がある。レオン達貴族は人脈作りのために学園に行っているので最低でも2年は通うが、俺は学費削減のために1年で卒業すると決めていた。

 この卒業判定試験に受かれば卒業パーティーまでは学園は休みだ。



 トイレと風呂用の魔石はもう開発したし、擬似心臓も俺が神に代わって神力を込めるだけになった。この休みを使って領地開発をしようと思う。



 と、その前に竜ヶ丘に行かないと。卒業パーティーで俺がお披露目するペリペドットの衣装の試作品。それを竜ヶ丘にオーダーしていた。試験終了次第受け取りに行くか。


 パーティーに限り、なぜか制服での出席が免除になる。制服の方が楽だと思うのだが、社会経験って意味ではそういう問題じゃないのか。

 制服じゃなくて良いなら、ということだ。パーティー用に装飾もしてもらった。

 衣装を楽しみに、試験頑張ろう。




 会場には一番に着いた。最後の方だと入った瞬間頭を下げられかねない。これは体験談だ。念には念をで試験開始2時間前に会場入り。勉強もできるし一石二鳥。




「では、第一科目、言語試験を開始します。時間は60分。始め」


 試験官の合図に、裏返していた問題用紙を捲る。よし、わかる。スラスラ解ける。カリウ先生のテキストだけで事足りた。外国語がメインだったが、それも一切迷わずに解けた。

 合格の条件は、全科目60点以上であること。楽勝。


 答案にズレがないか最終確認をして、答案用紙を裏返した。その間約15分。あと45分暇だな。隣のヘルガさんも25分と経たず解き終えてしまった。


 やることがなさすぎて、問題用紙に2体のイラストが完成したくらい。ソウルとスピリットは描きごたえがあるから暇な時に便利だ。


 どうせ回収されないから。入試で回収されなかった言語の問題用紙にはどれだけお絵描きしても良い。と、思ったのだが。





「回収なんて聞いてない……」

「どう考えても問題用紙に絵を描いたのが原因ですね。僕の隣に立った試験官が、ハルさんの手元を凝視していましたから」


 全っ然気付かなかった。俺のソウルとスピリットがぁ……。

 こうなったら仕方ない。全部の教科でイラスト描いてやる。そしたらまたやっとるわ、的なので見逃してくれるかもしれない。


 対抗心を燃やす俺に呆れたような視線が突き刺さっているような気がするが、多分気のせいだ。



 数学ではうろ覚えフェリーチェと神獣、国史ではオブシディアン、魔法史ではルイ先生とカリウ先生、貴族家ではレオンの似顔絵。どれも、かなり似ているんじゃないかと自賛できるレベルに描けたと思う。






「全部回収されるなんて……」

「まあ、そうなりますよね……」


 面倒くさくないのか!? 俺のイラストのためにわざわざ手間かけるなんて。結果的に全回収という、とても悲しい終わりになってしまった。あの子達は年度変わった瞬間に処分されるんだろうなぁ。



 はぁ……切り替えよ……。

 次は魔法の試験なんだ。切り替えないとヘマしちゃう。


 入試の時と同じ様に、演習場に集まる。結構いると思ってたけど、意外といないな。皆2、3年で卒業するんかな。



 級は変わらないけど1つだけ変わったことがある。1級の最初が俺になったこと。1年前は最後尾だったのにすごい変わり様。全種使えるということは周知の事実ではあるが、最初に公表していたのは強化属性なのでそれで受ける。



 入試と同じじゃつまらない。自分の足の下の空気に限界まで圧力かけて固くしたら空中に立てるのでは?という考えから生まれた技を披露する。



 まずは足の少し前辺りに、20cmくらいの四角い空気の塊を作る。固まったら階段や段差を登るように乗っかる。これで中に立つ人間の完成だ。


 俺が浮いたことに驚きを隠せないという表情のギャラリー。強化属性の試験官が俺の立っている土台を蹴って痛そうにしている。結構固いみたい。ルイ先生はバリアの時同様、腕を突っ込もうとしているが固すぎて全然入らない。



 結局、ルイ先生が折れて講評用紙を貰って終わりだ。

「ハルくん」

 立ち去る途中、ルイ先生に呼び止められた。

「はい」

「ハルくんの魔法史の問題用紙、僕が貰いますね」



「え……?」

 悪戯っぽく笑って、ルイ先生は戻っていった。何がルイ先生に刺さったんだろう。あ、お絵描き。ルイ先生とカリウ先生描いた。え、だから何だ?素人の落書きで満足できるんだろうか。



 にしても、相変わらず良い声だなぁ。耳元で出されたから危うく砂になるところだった。

 よし、帰宅だ。領地に行くぞ。タウンハウスはもうできた。オブリガード公爵家にお別れを言わないと。






「お世話になりました」

「いつでも泊まりに来ていいのよ」

「ああ、ハルくんとヘルガくんなら大歓迎だ。部屋はそのまま残しておこう」

「ありがとうございます」



 出してくれていた学費は全額返済して、挨拶もした。もう思い残すことはない。まだ見ぬタウンハウスに向かおう。

「早かったですね、この1年」

「はい。色々なことが目白押しで。ずっと走り回っていた気がします」


「僕もです。少し休んでからペリペドット領のことを進めましょう」

「ですね。俺もちょっと眠いです」




 今ベッドを前にしたらきっと爆睡するだろう。明日からでもきっとバチは当たらない。竜ヶ丘に寄ってからタウンハウスに戻り、寝る。とにかく寝る。






「すみませーん。服の試作品オーダーしてました、ハルです」

「はいよー。こっちね」

 竜ヶ丘の服屋に入ると、綺麗なお姉さんが出迎えてくれた。彼女がオーナーだ。



「これが試作品。絹と、こっちが綿。まだ男性用しか完成してないけど、良い感じにできたんじゃない?」


 見せてもらったのはどちらも保温性のある素材で作られた衣装。絹は俺達用で、綿は領民用で考えている。綿は絹よりもハードルが低いから選んだ。


 デザインは俺のオーダー通りで、カラーは白と緑。金色で鈴蘭の刺繍もしてある。襟部分、帯部分は緑でメインは白。裾に行くにつれて、緑のグラデーションがかかっていて、相当凝って作られているってことがわかる。




「凄い……。肌触りも良いし、綺麗……」

「試着?」

「お願いします」

 そして試着。



「お似合いだよ。それと上着も作ったんだけど」

「着ます」

 上着は着物の様な袖で、左右にスリットが入っている。服に合わせてグラデと刺繍も入っていた。



「ハルさん……。綺麗ですね」

「あ、ありがとうございます」


 面と向かって綺麗だと褒められるとなんだかムズムズする。多分、こういう服が似合うのは俺の髪が暗い茶色だからっているのもあると思う。

 黒系統の髪はこういう衣装似合う。俺も多分そういうことなんだろう。



「これで大丈夫そう?」

「はい、卒業パーティーでお披露目します」

「えっと……今回は試作品だから無料だけど、次回からは一着につき50万円の請求が出るけど平気かい?」



「あれ、通貨できたんですね」

 概念ないとか言ってなかったか?


「魔王様が、これからサージスと交流するし、あんたんとこで働く技術者が出てくるからってので通貨を流通させたんよ」


 余計に「円」のシステムが欲しくなったな。でも、50万ってどれくらいの値段なんだろう。


「50万円は……大金貨2枚以上ね」

「正装にしては安いんですね」

「うちにはミシンもあるし、絹と綿の生産も盛ん。分業体制も整ってるから1人1人の負担がそんなに大きくないのよ。しかも作り慣れた形だしさ。レンタルなら更に安くするよ」


 レンタルかぁ。俺の立場ならレンタルって選択肢はないかな。平民の間ではレンタルは1つの手ではあるけど、貴族が服をレンタルするって聞いたことない。



「いや、レンタルは大丈夫です。お金は何とか両替します。それと、技術支援に関してなんですけど……」

「はいはい」

「貴女の作る服をサージスでうちだけに卸してもらうことってできますか?」



 この店の人達の技術は本当に凄いから、無地の大量生産には向かない。というより勿体無い。それよりも平民のはこっちの雇用者に作ってもらいたい。


「ああ、構わないよ。あんたんとこの服飾屋に技術教えて、平民用に作らせたいってことね。アタシらは凝った衣装制作に集中できるし、新人が教えることに忌避感ないなら独占契約は成立ね」

「はい、お願いします」

 契約書に署名をし、控えを貰って服屋を後にした。



「結構大胆にいきましたね」

「あの技術は他の領地でも通用しますから。あまり流出させたくないんです」



 あんまり引っ張りだこだと労働環境にも問題が出てくるだろうし。独占契約すると若干安くなるっていうのもあって手中に入れたかったんだよな。

 店頭で買えなくなったわけではないから、そんな問題はない。デザインとかのオーダーメイドは俺のとこしかできないってだけで、サイズ合わせとかは契約外だし。あそこが有名になればなる程、国内雇用問題も出てくる。


 上位貴族はお抱えの服職人がいるのが一般的だが、一斉に乗り換えることがない、とは言い切れない。そこを危惧したってのもある。逆恨みはご免だ。






「ただいま」

「おかえりなさい、2人とも」

 タウンハウスに帰ると、母さんが出迎えてくれた。家のサイズは変わったけどこういうところは変わらないな。床とかは土足厳禁にしたかったけど、王都の価値観に合わせてタイル張りだ。


「あの、本当に僕も良いんですか?」

 ヘルガさんはもうすぐ無限牢獄に入ることになるが、それまでは身内と同じように同じ家に住むことになる。少々不安を感じているようだ。


「はい、イディスさんもいますし寂しくはないと思いますよ」

 イディスさんはうちで雇った。メアとエステルも、王宮使用人から大徳家使用人に転職。なるべく顔見知りで固めたのだが、まだ不安なのだろうか。

「えっと、そういうことではなくて……お金の問題とか……」


 あ、そっちか。

「そんなに変わらないですよ。パーティー用の服も綿の試作品で出るんでしょう?」

「はい。そのつもりです」


「貴族にならないのであれば、パーティー用に服を仕立てる必要もないですし、ラ・モールの森で獲ってくれば肉代魚代は無料ですし、お金に関しては問題ないですよ」



 ヘルガさんはちゃんと働いて、ある程度のお金は持っているけど、それはヘルガさんに使ってもらいたい。そのために俺は、自分達の食費は徹底的なコストカットをする。



「それと、ヘルガさんにはやってもらいたいこともあるんです」

「はい、何でも言ってください」

「労働者向けの食堂を作ってもらいたいんです。三食用意すると言ったものの、具体案が中々思いつかなくて。それなら好きな時に食べられる食堂が良いんじゃないかって思ったんです。

 なるべく安価で美味しいものを提供したいのでヘルガさんが適任かと思って。勿論、父さん達にも協力してもらってワンオペは回避します。どうですか?」


「それなら、是非やらせてください。レシピ本のメニューを使ったら良い宣伝にもなりますしね。乳幼児用のメニューも開発したいと思っていたので丁度良いです」



 良かった。やる気だ。俺が向こうで作業したり、求人出してる間にメニュー開発してもらって卒業と同時くらいにオープンさせよう。そうと決まれば、空調機器と調理器具のためにペステッド商会に行かないと。





 でも……今は寝よう。

 自分の部屋で靴を脱ぎ、ベッドにダイブした。







 ああ……柔らかくて…あった……か…い…………。




今回の登場人物

・ハル・ペリペドット(13歳)

・ヘルガ(15歳)

・ルイ先生

・両親

・服職人

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