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49,償い


 レオン達に手紙を出した。あんなことをして、嫌われないわけない。向こうから縁切り宣言されるのが怖くて、自分から切ってしまった。



 自分が知ってる敬語を使って、敬称も丁寧につけた。もう二度とプライベートでは会わないだろう。

 ――と思っていたのだけれど。



「ハル、俺の行動力舐めるなよ」

 どうしてこんなことに――!?


 時は遡ること二時間前。手紙で大口叩いた以上、行動しない選択肢はない。うじうじから抜け出さないと。



 ということで、カリウ先生から貰った国史の教科書を参考に、俺なりに暗黒時代と呼ばれる歴史を教科書風に纏めてみたのだ。

 国史を専門にしている先生とかの協力が得られれば実装しても問題ないクオリティになるだろう。国内全土とはいかなくてもうちの領地くらいは。



 あとは製本するための紙を輸入して、あ、輸出用の魔石産業も進めないと。あとは候補地の決定と人材勧誘も。やることが多いのは良い。少しでも過去の歴史から目を背けたい。

 向き合わないといけないのはわかってる。でも嫌だ。まあ、こんな教科書作ってる時点で、いまいち背けられてないんだけどな。




 とにかく何もしていない時間が嫌だから、擬似心臓を量産することにした。でもこれが届くのは……いや、考えたら駄目だ。今の国民は何の罪もない、何も知らない一般人だ。守る立場の俺が裏切りみたいな真似してどうするんだ。






 そして、今に至る。しっかり施錠してあったはずの扉はあっさり開けられた。合鍵も持って部屋に入ったのに。



「個人の部屋レベルなら、外から針金1本で開けられるんだよ、ハル」

 という泥棒の常套句みたいな台詞と共に、レオンがズカズカ入ってきて、無理矢理目を合わせるように顔を掴まれた。




「手紙、読んだ。俺はあの提案を断固拒否する。友達は辞めないし、殿下呼びも敬語も許可しない。歴史については俺もショックだったし出自を恨んだ。でも、この地位に生まれた以上は向き合わないといけない問題であるというのも事実だ。実用化に向けて準備し、3年以内の教科書改正を目標に掲げた。ハルが信用してる時点で魔族に忌避感もない。竜ヶ丘には謝罪と賠償もする。まだ、何か必要か?」




 徐々に締め上げが強くなってるのは気付いていないようだ。これ以上されると顔が変形するので引き剥がした。


「し、謝罪と賠償についてはオブシディアンと話し合って決めてほしい。俺も1日おいて、少し落ち着いたよ。まだ整理する時間が必要なのは確かだけど、時間は進んじゃうからね。あんな、突き放すような手紙を書いてごめん。それに、怒鳴ったのも。自分でも訳わかんなくなって」


「いや、俺が能天気すぎたのが悪い。もっと過去の言動からとか察すれば良かった。過去に戻れるならあの時の俺を殴ってやりたい」



 血管が浮き出るくらい拳を強く握りしめるレオン。手の平抉れてそうだな。


「その、仲直りか……?」

「ああ。今後、あのような事件を起こさないためにも俺は王族として、務めを果たそうと思う」


「できることなら、協力するよ」

「ありがとう」



 お互いに、頭を冷やす期間が必要だったみたいだ。それがわかっただけでも今回のことは良い教訓になったと言える。

「あんなこと言ったから、縁切りされるんじゃないかって怖かった」

「だからあんな風に突き放すような手紙寄越してきたんだな」


 う゛っ……。

「今回のでわかっただろ? 俺はハルのことを失いたくない大切な友達だと思ってるって」

「まあ……ピッキング技術身に付けざるを得ないくらい信用がないことも、よくわかった」

「いざという時のためだ」



 さてどうだか。視線が泳いでるぞ。

 何はともあれ、仲違いは解消したと思う。レオンの行動力のお陰だな。


「あ、これって……」

「俺なりに主観が入らないように纏めてみたんだ。没にするか参考にするかはその時の情勢次第だね」

 俺の作った教科書モドキを食い入るように見るレオン。



「欲しいならあげるよ。複写機はあるでしょう?」

「良いのか? これ、苦労して書いたんだろ?」

「教科書の案は出せても、出版するのは俺じゃないから。大規模な改変をされたら流石にキレるけど手直しくらいなら自由にして」


 国レベルで歴史の隠蔽とかされたら流石にな。兄弟喧嘩の隠蔽とは訳が違う。国民全員が知るべきものだ。


「ありがとう。最終監査はハルに任せるよ」

「オブシディアンとの会談は?」

「父上が調整中」

 


 コツコツ

 考えていると、部屋の窓を何かが叩いた。

「鳥……?」


 それは顎の下あたりに赤い印がしてある鳥だった。窓を開けるとそれは、跡形もなく消え、後には手紙だけが残った。




 宛名は俺、差出人はオブシディアンだった。

『ハル、大丈夫だった? ごめんね、ボクも取り乱しちゃって。こっちはもう大丈夫だから落ち着いたらまたおいで。今度は観光で。お友達も連れてさ。それじゃ、いつまでも待ってるよ。 オブシディアン』



「観光、か」

 温泉も入れてないしな。でも、そろそろ学園休み続けるのもいけんのよな。


 長期休暇があるとすれば、冬だけど……。まあ、素直に冬行くか。多分冬の方が気持ち良いだろうし領地候補地の気候的に参考になる所は山ほどあると思う。



「冬季休暇中に行こうと思う。行く?」

「良いのか? 俺が行っても」

「レオンが来るなら他も誘うことになるけどそれでも良いなら。向こうの人達はサージスのことが嫌いなわけではないから余程のやらかしをしない限りは大丈夫でしょ」



 例えば、過剰に怖がるとか。品定めするように見るとか。そういうのは例えフェリーチェフィルターがかかっていても嫌われそうだ。


「今のうちに声をかけておこう。それじゃあ、複製したら原本は返すよ」

「焦らなくて良いよ。3年なら。あれ、でもレオン。いつそんなの決まったの?」

 手紙は昨日の夜に出した。で、今は朝9時。とても話し合いの結果を知っているとは思えない。



「ヘルガが伝書鳩になってくれた。今日朝イチで会議があって、そこに潜入して聞いたことをさっき俺に教えてもらった」



 職権濫用……。潜入ってことは無断……。

「無断では潜入していませんよ。半ば強引に参加したことは否定しませんが」


「ヘルガさん……!」

「回復しましたか?」

「はい。すみません、心配かけてしまって」

「いえ、ただ……」



 ヘルガさんは一拍おいて、レオンを見た。

「あまりレオンを泣かせないでくださいね。昨日のレオンは、放っておいたらそのまま飛び降りそうなくらいしょげていましたから」

「飛びっ……!?」


 思わずぐりんとレオンを凝視してしまった。そして、本人であるはずのレオンが一番びっくりしてるのは何で?




「ないないない! 絶対ない!」

 首をブンブンと振って否定の意を示すレオンだが、俺はいまいち信用できない。第三者から見たレオンの像とレオンが思う自分の像には相違があって当然だから。


「俺そんなに信用ないか!?」

「いや、そういうわけじゃないけど。あれでしょげてたって言われたら重く捉えるでしょ。出会って2日で敬語と敬称をやめさせた奴なんだから」

「当日にやめさせた奴もいたけどな」


 ヘンリーのことか。でもそれはレオンが原因でもあるからノーカンで。


「あの、ライゼン様から竜ヶ丘の場所を聞かれたのですが、説明できますか? 手紙を送りたいみたいで」

 手紙? ああ、賠償がどうのとかいうあれね。

「じゃあ俺が渡してきますよ。今取りに行けば良いですか?」


「もう書き上げてはいるそうですので、大丈夫だと思います」

 じゃあ、今から行くか。転移で部屋まで行けば楽だな。あ、でもそれじゃあ不法侵入か。ソウルに乗って時短っていうのが一番良いかも。


「受け取ったらそのまま竜ヶ丘に行ってきます。ついでに返事もしてきます」

「はい、行ってらっしゃい」



 少し迷ったヘルガさんだったが、結局は笑顔で送り出してくれた。心配、かけすぎてしまったな。反省、いや、猛省しなければ。

 門番は目が合った瞬間、入れてくれた。随分と顔見知りが増えたなぁ。



「ライゼン様、ハルです」

 あんな手紙の翌日に訪問というのも気不味いのだが、意を決してライゼン様の執務室の扉をコンコンと叩く。


 入室はできたのだが、すぐに窮地に陥った。俺を視界に入れた瞬間、ライゼン様が俺に頭を下げたのだ。これにはびっくり。頭を下げるべきは俺だ。


「すまなかった。あの報告書を読んで、血の気が引く思いだった。ハル君が前世、長い時間をかけて国の体制を整えてくれていたにも関わらず私達は、ぎ「お待ちください!」」



 ライゼン様の言葉を俺は途中で遮った。多分、虐殺と言おうとしたんだろう。


「今回は俺に非があります。過去と今をもっと切り離して考えるべきでした。こちらこそ、八つ当たりのような真似をしてすみませんでした」


「いや、王族として……」

「いえ、守護者として……」


 と、謝罪の応酬のようなことをすることになってしまった。幸い、お互い非はあったということでやめられたが。



「それで、手紙を受け取りにきたのですが……」

「ああ、生憎、私は竜ヶ丘という国の場所がわからないから、頼んでも良いか?」

「お任せください」


 手紙を受け取った俺は、すぐに竜ヶ丘に向かった。

「あ、ハル! もう来てくれたんだね!」

 昨日とはうって変わったオブシディアンの表情を、若干不気味に思ったが、敢えて突っ込みはしなかった。


「サージスの国王からお兄ちゃんに手紙を預かったんだ。あと、観光とかは冬に遊びにくることにした。友達全員の都合が合う日は多分冬季休暇くらいだから」

「わかった。じゃあ待ってるね。手紙読んだら返事書くけど、それまでどうしてる?お茶なら出すよ」

「じゃあ、その辺でお茶飲んで待つよ」




「お茶お持ちしました」

 ノエルさんが音もなく俺の前にお茶とお菓子を持ってきてくれた。お菓子は何だこれ。パンケーキとは、また違う気がするけど。何かと聞かれたら答えられない、独特な形をしている。



「それはどら焼きだよ。わかりやすく言うと……うーん……。少し甘めに味付けしたパンケーキ2枚の間に餡子を挟んだお菓子、かなぁ」


 全くわからないが、食べてみよう。お茶を少し飲んでから、そのどら焼きに手をつけてみた。




「……!」

 美味しい。すっごい美味しい。今まではクリームとかを使って甘くする方法を使ってたけど、この餡子もまだ何かに使えそう。



「こちらはフェリーチェ様が、唯一作ることができたお菓子です」

「俺に宛てられた手紙では、フェリーチェは料理ができなかったはずですが……」


「フェリーチェ様の前世の恋人の方がよく作っていたとのことで、説明だけは完璧にできたのですよ」

「ああ……そういうこと…」



 これくらいシンプルなら、調理法しかわからないようなフェリーチェでもできるだろう。にしても、本当に美味いな。単体で食べても美味いんだろうけど、お茶に合いすぎる。可能なら持ち帰りたいくらいだ。



「書き終わったよ。一応伝えておくと、謝罪は受け入れるってことと、賠償は要らないってこと。あとは会談日時の提案かな」



 数十分後、そう声がかかった。

「賠償請求しないんだ」

「うちでは貿易以外にお金を使わないし、800年前と今とじゃサージスのお金が変わってるからね。こっちからすると、今のサージスのお金を貰っても金色の板にしかならないんだ。

 それに、もしお金が変わってなかったとしても、虚しくなるだけだしね」




 貴族の流入と一緒にお金も変わったんだ……。

 逆に、1200年間ずっと変わってない要素を教えてほしい。まあ、ここはともかくサージスはないか。


「わかった。伝えておくよ。あと、冬に行くって話なんだけどさ」

「うん」

「団体客になりそうなんだ。幼馴染だけでも5人以上いるし、最近仲良くなった人も含めると10人近くになるから」


「大歓迎だよ。事前に具体的な日程と人数が決まり次第教えてくれたらボクから旅館の方に話しておくから」

「ありがとう。それじゃ、今日は日帰りだからそろそろ帰るね」

「あ、ちょっと待って」




 オブシディアンは帰ろうとする俺を引き留め、ノエルさんを呼んだ。何やらコソコソと話している。


「ちょっと待っててくれる?」

「日を跨がない程度なら待つよ」

 また座布団に座り直す。

「はい、これ持って行って。気に入ったみたいだしお土産にあげるよ」

「どら焼き?」



 だとしたらめっちゃ嬉しい。皆にも分けてあげたい。

「ボクが知ってるハルの知り合い分は入れてるから1人1個ずつなら全員食べれると思う。もし足りなかったら冬に遊びに来た時にでも渡すよ」

「ありがとう。それじゃあ、今度こそまたね」

「ばいばーい」



 オブシディアンとノエルさんに別れを告げて、俺はサージスに帰った。

 家族分とラッシュ達の分、ヘルガさんとオブリガード公爵家の分だけ先に出して、手紙を届けるついでにライゼン様にも渡すことにした。その他の人達はまた別で後日渡せば良いや。



「ライゼン様、お返事です」

「ありがとう」

「それと、これも。1人1個ずつだそうです」


 紙袋という何とも高級そうな袋に詰められたどら焼きを見て、ライゼン様は一瞬フリーズした。どうしたんだ? 食べ物に見えないとか?



「これは本当に私達が貰って良い物なのか?」

「オブシディアン自ら用意した物ですので。数えてみましたが、全員分ありました」


 流石俺の専属ストーカー。サークルメンバーにも渡せるくらいの数があった。どうやって保管してたんだろう。


 昨日の時点で、気分転換に何しようか。そうだ、どら焼き作ろう、とかいう話になったとかか?

 少し冷えてるから予め作ったものを保冷庫にでも入れてたんだろう。



「因みですが、恐らく紅茶には合わないでしょう。苦味のあるお茶と一緒に食べられるお菓子ですので」

 紅茶はあれに比べて結構甘めだからな。甘い×甘いは、重いことがある。甘いのばっかりだと当然飽きるし。


「皆を呼ぼう」

 そして、数分後。新たなお菓子に釣られた人間が3人。レオン、シルヴィ、セリア様。


 レオンは余程中身が気になるのか、パンケーキ部分を捲りたそうにしていたが、王子がして良い振る舞いではないとわかっているようで、自制していた。どうやら、気に入ったみたいだ。



 一緒に遊びに行けばまた出してもらえるだろうと言うと、すぐに予定の調整を始めていた。どれくらいの美味さと衝撃だったのかが窺える。




「賠償について、何か聞いているか?」

 手紙を読み終わったライゼン様が俺にそう聞いた。やっぱりそうくるよな。



「通貨は800年前の物を使っているそうですので今の物とは型が違うから、というのと竜ヶ丘では基本的にお金という概念がないことが挙げられました。それと、もしお金を貰ったとしても、死者が帰ってくるわけではないので虚しくなるだけだ、と」




 あの返答にはどう反応して良いかわからなかった。気丈に振る舞っているだけで、深すぎる傷は塞がれていない。あの言葉だけでわかった。オブシディアンのあのテンションはほぼ痩せ我慢。



「そうか……とにかく、この会談の日に私が直接話そう」

 悲しそうに顔を歪めるライゼン様にも、何て言えば良いかわからなかった。




今回の登場人物

・ハル・ペリペドット(12歳)

・ヘルガ(15歳)

・レオン・サージス(12歳)

・シルヴィ・サージス(12歳)

・国王夫妻

・オブシディアン

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