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48,罪を背負う一族 レオンside

 


「王族が起こした虐殺事件のせいだ」 

「後から来たはずの王侯貴族がフェリーチェの大切なものを根こそぎ奪ったんだ! あの文明人気取りが!」



 そんなことを言われた時、目の前のハルと、俺の知っているハルは別人なんじゃないかと、耳を疑った。今までそんな攻撃的な言葉をハルから向けられたことがなかったから、余計に動揺した。



「ごめん……。レオンが悪いわけじゃないんだ。全部俺が悪い」


 俺が何を言おうとしても、ハルは遮って俺に謝り続ける。終いには、転移で帰ってしまった。 


 何が起きているのかわからない。魔族の国に行くと言ってからまだ1日だ。魔族の国で何があったんだ。魔族は魔物と同じで、凶暴な種。理性も常識もない。

 それが多くの人類が持つ魔族への印象だ。俺自身も魔族は、魔王は、恐ろしい存在だと教えられてきた。


 でも、フェリーチェ王の手紙を読んでから、教えられてきた事実は真っ赤な嘘なんじゃないか、と思い始めていた。そんな最中で今回のハルだ。あの発言は確実に王侯貴族に対して悪い印象を持っていた。俺でもわかる。本当にどうしたんだ。



 そう疑問に思って考えてみた。そしたら、文明人気取り。虐殺事件。800年前の国王生前交代。文化継承者の激減。人口の推移。「魔族と交流していた暗黒の時代」という国史の先生の言葉。


 ハルの話と今まで習った国史の授業を組み合わせると、恐ろしい過去が思い浮かんだ。


     



 ああ……そういうことか。そりゃあ、嫌われるよな。俺達はハルが前世で築いた国を、一方的に壊した人間の末裔だから。あくまで今の段階じゃ俺の憶測でしかない。でも、あのハルがあそこまで激昂するなんて、それ以外考えられない。


 今までも口の悪さが出る部分はあったけど、今回は格が違う。俺は言われた時、胸が締め付けられるように痛んだ。でも、それ以上にハルが苦しそうだった。



 言葉が溢れて止まらない。それに一番驚いて、傷ついたのは多分、本人だ。


 料理でもしようと思っていたけれど、父上達に報告しよう。サージスは過去に関して、何か重大な問題を隠蔽している。

 それは王族として看過できるものではない。国民は正しい歴史を知る権利がある。仕事中ではあるだろうが、執務室に乗り込もう。



 持続性のある胸の痛みと、爆発しそうな自分の不安に蓋をして、執務室の扉を叩いた。


「誰だ」

「父上、レオンです。至急、お話したいことがあります」

「入って待っていなさい。急ぎの書類を片付ける」

「はい、失礼します」


 邪魔にならないように部屋の隅に立っている間も、胸はズキズキと痛みを訴える。早くなる鼓動は深呼吸で抑えた。



「待たせた。では、話を聞こうか。二人を呼んだ方が良いか?」

「ショッキングな内容になりますので本人の意思にお任せします」


「声をかけてくれ。それと、人払いも」

「はっ」



 数分後、漸く全員が揃った。永遠とも思える時間だったが、ここからは更に地獄の時間が待っている。一度呼吸を置いて、話し始める。




「「王族が起こした虐殺事件」はご存知ですか。いえ、王族だけじゃない。貴族文化が入ってきた時の、サージスの暗い過去を。学校でも、家庭教師にも、王太子教育でもやらなかった内容です」

 ハルの言葉と語気の強さから察することができる推測だが、ほぼ真実には近いはずだ。


「いや、聞いたことがない。王族が虐殺など」

「では、先日ハルが魔族の国に行ったのは周知の事実ですが、今日、帰ってきたようです。

数時間前、キッチンでばったり会いました」


 喜びから一転、地の底に叩きつけられたあの時間は絶対に忘れられない。忘れたくても。再現しろと言われたらできるくらいの衝撃だった。



「ハル君が帰ってきていたのね!」

「母上……そんなことは言っていられません。俺も最初は嬉しかったです。でも、ハルは俺に向かって先程の言葉を発したのです。本人が驚いていましたので、きっと無意識だったのでしょう。

 それと、フェリーチェ王の大切なものを奪った、とも。800年前、当時20代だったサージス国王が、急病により退位し、新たな王族が立ったというのは国史の授業で誰しもが習うことです。



 歴史的事実と1200年間の人口推移、遺産の保存状態、ハルから投げられた虐殺と略奪という単語を組み合わせて推測すると、どうなるでしょう」




 俺がここまで言うと、何か嫌な予感がしたのか、全員の表情が曇った。


「建国から400年で、今の王族と貴族、そして平民がここを支配したと考えたら? 急病で退位するならなぜ身内ではなく外部からの人間に統治させた?

 

 この資料を見ると、一瞬、20〜40代の若者の人口が激減していますが、特に病気が蔓延していた記述もない。その後、子供やお年寄りの人口が激減、こちらは感染症が流行ったと記述があります。

 しかしなぜでしょうね。フェリーチェ王は教育と医療には力を入れていたはず。なぜ助からない人が現れたのでしょうか? なぜ平民への教育が数年前までされていなかったのでしょうか?


 かつてサージスは魔族と貿易をしていたそうですね。ではなぜ今はしていないのですか? 魔族という存在自体知らない人が多いのはなぜ?」




「まさか……!」

 俺の言いたいことが伝わったのだろう。3人共、絶句している。


「私達の一族の背景には、排除されて傷を負ったフェリーチェ王の子孫がいた、ということだな」

「ついでに言えば、国民も原住国民の子孫はほとんどいないでしょうね。歴史の先生で、魔族と交流があった時代を暗黒時代と呼ぶ人がいましたし、過去のサージス国民は野蛮人だとも言っていました。そんな人が教師になる世の中です。差別がないはず、ありませんよね?」


 ハルに話を聞くのが早いんだろう。でも、またあの傷ついた顔は見たくない。今は誰が相手でも一緒だと思う。

 俺が、能天気に声をかけなければまた違ったのかもしれない。今すぐ時を巻き戻したい。電撃訪問を渋っていたハルが何の報せもなく城にいるわけがない。そのことに早く気づいていれば……。



「ハルくんを呼び出すことは可能だろうか」


 そう呟いた父上に俺はカッとなってつい、叫んでしまった。



「ふざけたこと言わないでください! 俺は、ハルが怒鳴るのを初めて見たんです! 今刺激したってハルを傷つけるだけでしょう!」


 ましてや、略奪者であり殺戮者でもある人間の子孫だなんて。ハルは図太く見えるけど、精神の不調が体調に現れるくらいの繊細さは持ち合わせている。しかも頭痛や吐き気など、顕著に現れるのだ。









「陛下、ハル様からお手紙が届いております」

 険悪極まりない雰囲気になった俺達に、ハルからの報せだ。受け取った封筒は、報告書の山と同じくらいの重さと厚みのある大きなものだった。



『先程の、感情に任せて王子殿下に声を荒げてしまったこと、深くお詫び申し上げます。先日、私は竜ヶ丘というフェリーチェ王の作った魔族の国に訪れ、魔王オブシディアンと会談してまいりました。別紙は、そこで聞きましたサージス国の歴史になります。こちらをどうするかはお任せします。


 ペリペドット家は今後、竜ヶ丘から技術支援を受け、積極的に貿易もしていきたいと考えております。こちらの歴史に関しては私共が運営する学校にて、国史の教科書に掲載するつもりです。

 略奪者の子孫に生まれてしまった以上、罪から逃れることはできません。ですので私はこのような凄惨な出来事が二度と起こらないよう、正しい歴史を未来に教える義務があります。


 魔族に抵抗があっても構いません。今後、恐らくプライベートでお会いすることもないでしょう。誠に勝手ながら、私は殿下のご学友には相応しくありませんので、地位を返上させていただきます。

 必要とあらば、自主退学もいたしますし、オブリガード公爵家からも出ていきましょう。この度は大変申し訳ございませんでした。 

             ハル・ペリペドット』



 血の気が引く思いだった。初めて会った時でさえこんなに他人行儀に接されることはなかったのに。それに、オブリガード公爵家から出て行かれたらもう一度話すこともできない。学園を退学されるのも嫌だ。

 一年で卒業するつもりだと聞いた時も寂しいと感じたのにもう二度と会えないなんて、辛すぎる。


 でも、別紙を見ろと言われた以上、見ないわけにはいかない。予想より酷いことを覚悟して、ページを捲った。














「「………………」」

「ここまでとはな……」

「酷い……」


 嫌われて当然、か。相応しくないのはハルじゃなくて、俺達王族だったみたいだな。こうなったのは、加害者なのに何も知らなかった俺達のせい。



「少し外の空気を吸ってきます」

 そう言って俺は足早に執務室を出た。

 自室の鍵を閉めて、バルコニーへ。


「っ……」

 今日ほど王族に生まれたことを後悔した日はない。過去に行って当時の王族を最低でも一発ずつ殴り倒したい。



「レオン」

 泣くのを我慢して上を向くと、神獣に乗ったヘルガが苦笑していた。


「ハルさんの手紙を読んだんだね。あれを読んでわかるように、ハルさんは今、精神的に相当参ってるんだ。僕達がどう声をかけても右から左に流れているみたいな返事しかしない。レオン達が、というより、自分の出生がショックだったみたい。

 

 自分はフェリーチェの生まれ変わりのはずなのに、何で侵略者の子孫に生まれてしまったのかって。終いには自分は何でここにいるんだって存在自体を疑問視する始末。あの手紙はそういった精神状態で書かれたものだから、ハルさんにはまだ嫌われてないと思ってて良いと思うよ。


 今は自分の部屋に引きこもってる。無限牢獄は家族がいるからね。今日は刺激しない方が良いけど、明日には回復させるってさ。

 どうかわかんないけど、トンズラされる前にこっち来る?」



「ああ、絶交なんてゴメンだ。学園は辞めさせないし、友達も辞めさせない。椅子に縛りつけてでもな」

「ハルさんなら脱走できるけどね」

「それは言わないで」



 ヘルガのお陰で少し希望が見えてきた。当たって砕けろ。砕けても骨は誰かが拾ってくれる。砕けることを恐れるな。大切な友達だろう。




 夜はすっかり更けている。大丈夫。大丈夫だ。俺ならできる。絶対やれる。置き手紙を残し、俺はヘルガの部屋に降り立った。

今回の登場人物

・ヘルガ(15歳)

・レオン・サージス(12歳)

・シルヴィ・サージス(12歳)

・国王夫妻

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