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43,ヘルガの誕生日


 守護者お披露目から少し経った3月52日、今日はヘルガさんの誕生日だ。

 ピンクサファイアで作ったネックレスに加え、新たに神に教わった、さつまいものカップケーキも用意した。毎年幼馴染組で集まって誕生日会を開いているのだが、今年はテリーとラウル様も一緒だ。

 それぞれが思い思いのプレゼントを持ってくる。



「誕生日おめでとう!」

「ありがとうございます!」


 まずは食事から。最近は王族組も料理に興味を持ち、実際に作ったりしている。数回の練習の結果、シルヴィはお菓子作り、レオンは家庭料理が得意だった。パーティー料理ではなく、平民の家庭料理。意外すぎる。


 レオンが作ったのは4年程前にサージスに渡ってきたパスタ。一皿でかなりの満足感があり、作るのも比較的簡単。そして種類も豊富だ。


「どうだ? 美味いか?」

「すごく美味しい。レオンこそ良い“お嫁さん”になりそうだね」


「嫁……。……! お、俺は男だぞ! 俺が嫁入りするのか!? 王子など誰が貰うんだよ……次期国王が婿を取るなんて聞いたことないぞ。もし俺が婿を取ったら国王はシルヴィになるのか……俺はどんな手順を踏んでも後継が産めないからな……」



 ヘルガさんの冗談に対して、だんだんマジで考え込むレオン。


「レオン、一応僕達も継承権はありますよ。ですから、本っ当に、婿を取るなり嫁入りするなりしたいなら、早めに言ってください」

「ああ、そうなったら追加で勉強があるからな。王になるとしたら、シエルだろうけど」

「確かにそうだな。そういうことになったら連絡しよう。その前に、まずすべきは初恋からだな」



 もしシエルかステラが即位するなら自分が勉強してきたことは全て無駄になるが、その辺は良いのだろうか。若干本気っぽい空気感ではあるけど仮定の話だし、良いのか。


「話題振った僕が悪い。レオンが批判されるのは耐えられないから、とりあえず人間に恋はしないで。人間以外だったらいくらでもして良いから。フライパンでも、動物でも」


 最初一番ノリノリだったヘルガさんが一番気不味そう。批判されるのはどっちの意味でだろうか。国のトップが後継を残す気がないなんて、か、同性と結婚するために地位を捨てるなんて、か。


 半々とかになりそう。正直俺は友達の恋人が異性だろうが同性だろうが無機物だろうが、それが本人の気持ちなら尊重する。でも周りはきっと許さない。この地位に生まれてしまったから。



 異性との結婚、出産義務がある。これら貴族社会の常識は、俺が思っているよりも大変そうだ。

 一番可哀想なのは俺に嫁入りしないといけない女性側だ。自分を好いてくれない男と子供を作らないといけないんだから。



 


 ……やめやめ! 今日はヘルガさんの誕生日なんだから変なこと考えるの禁止! 結婚の話題は俺にとって良いものではないから、無理矢理頭から追い出した。


「あ、シエル。公爵家の方で展開したお店はどう? まだメニューも少ないと思うんだけど、何人か来た?」

「オープン初日から今までで、公爵家で展開しているどの事業よりも営業成績は良いみたいですよ。レオンやシルヴィをはじめとした高位貴族からの評判が良いという噂、そして先日あったハルのお披露目と家名発表。この2つが合わさったせいで予約が殺到して若干キャパオーバー気味です」


「ああ……ペリペドットの名前ね」

「はい。守護者様自ら開発したスイーツだ、と話題で、皆お茶会用のお菓子として購入したがっていました。僕の婚約者候補の女性から招待された茶会では、フルーツサンドが出てきました。手掴みで食べたら驚かれましたよ」


 すっごいな。守護者の名前。それにしても、ヴィーネ神派の貴族ってそんなにいっぱいいるんだ。半々くらいのイメージだったんだけど。


「あのパレードとパーティー以降、改宗する家が増えたらしいぞ。パレードで神獣に乗っていたこと、パーティーで抗議した女に対するハルの威圧と、バックの神々しさで、邪神派が過激な家を除けば大体が中立、またはヴィーネ神信仰派になったって」


「神々しさ? そんなのあったか? 過度に威圧したような自覚はほんの少しあるんだけど」

「ヴェールでそのお顔は見えなかったですが、あの方は確実にヴィーネ様でしょうね。恐らく、抗議者が現れてからハルの顔色を伺おうとしていた多くの貴族が目撃していますよ」


「え、俺の後ろにいたってこと!?」

「はい、最初から最後までずっと」



 必死すぎて気付かなかった……。でもそのお陰で信仰者は増えたよな。神力はまだあまり変化がないけどそれは一部の過激派のせいだろうか。まだパーティーから数日だし、わかんないな。


「守護者様に対してなんて態度を取ってしまったんだーって一部からは謝罪したいとの声もあったぞ。わざわざ王家まで連絡寄越して。パレード入りを一部の家から断られたんだって? あ、勿論父上は全部断ってるから安心してくれ」


「ああ、パレードに行った地ではこれでもかってくらい歓迎されたぞ」

 事前にどこがヴィーネ神派か知っていたからアポ取りは楽だった。来んなって言ってくる奴はもう事前に言ってくれてた。


「僕はパーティーにもパレードにも参加していませんが、ハルさん達の話を聞くと、相当な規模で一斉に手の平返しが行われたんでしょうね」

 そう言うと、ヘルガさんは最後の一口を頬張った。


「こっちとしては利益になるから別に良いんだが、今までのハルに対する風当たりが強かっただけに、複雑な気持ちだな」

 ステラが苦々しい顔をしてそう言うと、ラウル様が激しく同意した。演習のあれか。ヘルガさんの班員を盾に、無理矢理服従させる以外方法なかったくらいだからな。


「ヘルガ達の方はどうだ? 本」

「僕達の方も大分分厚くなってきたよ。国外から入ってきたものも許可取って掲載してるから特に富裕層向けのバリエーションが豊富。ハルさんが僕の説明文にプラスしてわかりやすく絵も付けてくれてるから見開き1ページで料理一品かな。今はジャンルごとに分けてる最中」


 ヘルガさんは無限鞄から清書の複写版を出した。複写機が入ったことで、こういったことも簡単になったんだから文明って凄い。


「おおー……」

「凄いな……」

「ハルって絵描けたんだな」

「いちごジャムの時にラベルに、パンに塗った状態の絵を描いたはずなんだけど」

「そうだっけ」


 まあ6年も前だからな、そんなどうでも良い情報なんて忘れるか。



「これ美味そ」

 レオンが指したのは、平民向けのレシピ本の1ページ。じゃがいもを油で揚げた食べ物だった。芋と塩と油だけで作れるし、美味しい。


「じゃがいも料理。貴族は芋類食べないし、芋は安いからこっちに入れた。今マリア達から貰ってこようか? 多分今作ってるから」


 レシピを教えると2人仲良く作り始めた。毎日のように。そろそろ飽きるくらい食べた。本人達も自分が食べるというより、誰かに食べてもらうために作ってるっぽいから、声をかけたら分けてくれそうだ。


「良いのか?」

「ああ、ちょっと行ってくる」

 無限牢獄のキッチンに行くと、マリアとラッシュが揚げ芋を作っていた。


「2人とも、俺の友達に食べさせたいんだけどまだ余ってる?」

「おお! めっちゃある。全部持ってって良いぞ」

「今お皿に盛るね」

「ありがとう」


 そうして、山盛りの芋を貰った。これ全部1人で食べたら健康には何かしらの悪影響が出そうだな。

「ただいま。2人とも全部くれた」

「全部食べて良いのか?」

「ああ、皆で分けてくれ。俺は飽きるくらい食べたからな」

「僕も平気」


 最初は遠慮してた皆だけど一口食べて手が止まらなくなったようだ。我先にと食べている。

「何でこれが貴族に流通してないんだ?」

「芋類はフェリーチェが飢餓対策に植えたらしいんだけど土の中にできる植物だからさ、後から貴族文化が入って来た時にそれが地面を這いつくばる平民のようだって言われて、そこから一般的に食べられなくなったらしい。で、今に至る。

 このままだと水不足に陥った時に貴族は飢えるよ。まあ、水魔法がある時点で多少は持ち堪えられるだろうけどさ」



 芋は水がほとんどなくても育つ植物として有名だ。魔法はあるけど一応、念のため、そういった精神で普及させたのだろう。


 国史の教科書には飢饉に見舞われたという話は書いてないから、大規模なものはまだないんだろうけどこの先起こらない保証はない。対策を取って損はない。


「凄いな。知っていても、見知らぬ土地で、人々を纏めて作物を育てるなど中々実行できるものではないだろうに」

「フェリーチェは建国前にいた国で、人として扱われないような酷い生活を送っていたらしいから、同じ思いを子供達にさせたくなかったんじゃないかな。建国者が王様になるから、その有り余る権力を行使して飢餓撲滅に勤しんだと思うよ。あくまでも俺の推測でしかないけど」



 同じように、教育と、医療も。昔はされていた平民への教育がどうして今されていないのかは、貴族にとって都合の良いことではなかったからなのだろう。今よりずっと独裁的だったのかも。






「ハルさんは自分の領地に学校や医療施設を建てたりとか、そういったことは考えてますか?」

「はい。雪の降る場所を領地に持ちたいと思ってるので、それぞれの施設までの公共交通機関が必要かなってところくらいまでしか決まってないですけど。あとは、温泉を作りたくて。来客用の旅館もそうですが、平民でも温かいお風呂が当たり前のようにある、というのを最重要視しているので」



 建築物に関しては、フェリーチェの設計図と要相談だな。

「温泉ができたら教えてくれよ。皆で入りに行くから。平民用の大衆浴場を作ったら、貴族用のも作るんだろ?」

「ああ、そのつもりだ。ただ、旅館では料理を出したいし、部屋の清掃業も必要ってなると人材育成から入らないといけなくて、なかなか時間がかかりそうな事業だよ」


 オブシディアンがどこまで俺を好いてくれてるのかわからない以上、手伝いは期待できない。自分でやる必要がある。それに、他にも仕事はたくさんある。

 全部を旅館に捧げるわけにはいかないからまず人を集めないと。豪雪地帯だけど、住みたいって思うような要素も必要だよな。



「ハルは既存の国有地治めるのか? それとも一から始めるのか?」

 ヘンリーからのツッコミに少し悩む。


「初めは国有地を貰おうと思ったんだけど、俺が入ることで、回っていた仕組みが壊れるなんてことがあるかもしれないと思って今悩んでる。呼びかけて、新しく街を作った方が良いんじゃないかってね」


 日本建築っていうのはまだどういうものかわからないけど、見たことのない建物の絵、あれがそうだとしたら既存の家を取り壊さないといけない。その間、野晒しにしておくわけにいかないから、それなら新しく作った方が多くの人間のためだ。



「ああ……そういう危険性もあるのか。それならもし人で不足になったら協力する。建築する人達の待遇はどうするつもりだ?」


「空調設備を整えた仮小屋を労働者全員の世帯分建てるのと、三食配給、気候に合わせた服も何着か用意する。給料に関しては相場より高めが良いだろうな。雪の中は過酷だろうし。もちろん事故はないように策は尽くすよ」


「凄く、高待遇ですね。ハルのように、労働者に全て用意してあげるような領主はいませんよ。朝から晩まで一食以下で働かせて、過労死・事故死は日常茶飯事。遺族や友人が抗議しても聞く耳を持たず、好き放題。

 これが一般的な貴族です。4割はそんな感じじゃないですか?それなりの家でも金は出しても衣食住は保証しないところはたくさんありますし」



「そうだな。今の内容で求人を出せばかなりの人数集まると思うぞ。労働者に優しい領地があるらしいぞ急げーって感じで」


 そうだろうか。じゃあ一応、場所が決まったら出してみよう。他にも清掃員、調理スタッフ、接客スタッフ、魔法具作り、農業、必要な人間は山ほどいる。それらも同じように出そう。

 あ、魔法研究所俺のところにも建てらんないかな。所長さんに建設許可貰えるか聞いてみよ。王都の魔法研究所まで行くのは大変だろうし。








 そうして脱線したヘルガさんの誕生日会は終わった。

今回の登場人物

・ハル・ペリペドット(12歳)

・ヘルガ(15歳)

・レオン・サージス(12歳)

・シルヴィ・サージス(12歳)

・シエル・オブリガード(12歳)

・ステラ・オブリガード(12歳)

・ヘンリー・アイクランド(13歳)

・ラウル・モッシュ(13歳)

・テリー・ペステッド(12歳)

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