4,お披露目パレード 2
「そうか。ヴィーネ様が……。ハル君、襲撃現場を見ていたのは複数人か?」
「はい、パレードを見に来ていた平民のほとんどが目撃していたでしょう」
記憶が消える前に邪神は送り返しちゃったし見た人は覚えてるはずだ。
「ではサージス王家はヴィーネ様の教えを全面的に指示すると公表しよう。現在は私利私欲のためにヴィーネ様の、立場は違えど人は手を取り合うべきという教えに反する貴族が半数以上を占めているが王子を救ったと言えば勢力を削げるかもしれない。イーサン、頼めるか」
「お任せ下さい」
「そして、ハル君」
「はい」
「王立学園に入学する気はないか? その敬語を聞くに、読み書きもできるだろう?」
読み書きだけでなく計算や外国語、歴史も神のお陰で完璧です、などとは言えず曖昧に頷いた。
「では息子の学友として入学してほしい。教材や服など必要であれば王家が支援をしよう。我が国の騎士で歯が立たなかったならず者から守ったのだ。もし良ければ卒業後も息子の側近騎士として働いてほしい」
ちょっと待て。側近って言ったか? あの高給取りの? 剣を振るのが好きな男子が目指す騎士や私兵よりも上の? 確か神から与えられた情報だと貴族の私兵の給金が一月で大金貨1枚で、王宮の一般騎士が大金貨4枚で、位が上がると給金も上がると仮定して、それよりも多い側近騎士は……駄目だ。位が大きすぎてわからない。
「えっと……王子様に側近騎士の方はいらっしゃらないのですか?」
もしいるならぽっと出の俺に取って代わられるのは嫌だろう。それを理由に断ろうとしたが国王様はバッサリ切った。
「いや、いない。パレードが終了し次第募集を開始しようと思っていたからな。あの時護衛にあたったのは私の騎士達だ」
左様ですか。
「今決めろとは言わない。ただ1人分、枠は空けておく。検討してほしい」
「はい」
王家の頼み=命令みたいなものなので断れる可能性はほぼ0だろうが。
「それで、学園についてはどう思う」
「はい、学費や受験費用があれば行きたいとは思いましたが貴族様や王子様も通うような学園ですので一介の平民には到底出せそうにありません。諦めようと思っていました」
「費用については問題ない。こちらが援助を出すからな。息子を救ってくれた恩、この程度では返せないから受け取ってくれ」
「わかりました。本当にありがとうございます。よろしくお願いします」
これは断れば不敬になりそうだと判断したので素直に甘えさせてもらうことにした。恩と言われたら言い返せない。
「ああ、そうだ。学園へは城から通うと良い」
「はぃ!?」
思わず取り繕うのも忘れて素っ頓狂な声を上げてしまった。
「もし気に入らないのならアイクランド公爵家が妥当だろう。当主が私の幼馴染で宰相、信用における人物だ」
「あ、あの……実家からは通えないのでしょうか……?」
こんな豪華なところにいたら心労がやばそう。
「それは難しいだろうな。ヴィーネ様の教えは能力がある者はどんな立場でも雇用対象にするべきというものだ。貴族であれば家が、平民であれば貴族が周囲を含む安全を守ることが必要だ。
後ろ盾の無い平民ではヴィーネ様の教えに反する敵対貴族に潰されてしまう可能性があるし、家族や友人に手を出す輩も出てくるはずだ。これらのことを踏まえて王家か宰相家が後ろ盾となるべきだと判断した。勿論、家族や友人には影を護衛として付けよう」
家族や友達に…。逆行前の光景がフラッシュバックする。あの光景をもう一度見ないといけなくなるかもしれない。それなら貴族の後ろ盾を得た方が良い。あと皆に護衛がつくなら安心だ。
「で、ではお言葉に甘えて……よろしくお願いいたします」
俺がそう頭を下げると国王様と王妃様は満足そうに微笑んだ。王子様と王女様はわかりにくいがソワソワしている。
「それでは、もう夜も遅い。家まで送らせよう。馬車を用意しろ」
「はっ!」
そうしてパレード襲撃事件は幕を閉じた。帰る途中で王子様に手紙を渡され、それが招待状と気付くのは家に着いてからだった。
「ただいま」
「おかえりなさい。あなたヴィーネ教の熱心な信者だったのね。偶然神官の友達と会ってそこからずっと教会にいるなんて」
「わざわざ来てくれたんだよ。夕食も用意してくれたんだって?」
ヘルガさんはわざわざ神に住所を聞いて実家に連絡してくれたようだった。夕食は馬車の中で軽く食べた。謁見の間で盛大にお腹が鳴りまして。人生最大クラスの恥ずかしさを味わった。
「何食べたの?」
マリアが俺に抱きつく。
「ふわふわのパンとか果実水とか、色々食べたよ」
「えー! いいなーお兄ちゃん」
「うちにはふわふわのパンと果物を買うほどの余裕がないから……我慢をさせてごめんなさいね」
側近騎士になれば、マリアのこんな顔を見ないで済むかもしれない。戦闘訓練……。やってみようかな。
色々使えた方が絶対良いよね。屋台は王都の中心近くにあるけどこの家は少しだけ田舎に行ったところだから近くに森とかあるし……そこなら全属性とかバレずにつかえると思う。
ゴーン、ゴーン
就寝の鐘が鳴った。この国では朝、営業開始、昼、営業終了、就寝の5回、時間を知らせる鐘が鳴る。時計がない平民に対して時間を知らせるためだ。営業開始の鐘でほぼ全ての店が開き、営業終了の鐘で一斉に店を閉める。例に漏れず、うちもそれを参考にしている。
「マリア、もう寝なさい。私達はもう少し明日の仕込みをしてから寝るわ。ハルは体を拭いてから寝なさいね」
「はーい!」
マリアが元気に寝室に向かった。足音が聞こえなくなったことを確認して俺は両親に向き直った。
「父さん、母さん、話したいことがある」
守護者であることは話さないにしても、貰った手紙や王様とかについては話さないといずれ話が破綻する。
「どうしたの? いつになく真剣ね」
「この家の運命が変わる話なんだ。聞いてくれる?」
俺の言葉にゴクリと喉を鳴らした両親だったが、とりあえず聞いてくれるようだ。
「ごめん。俺、嘘吐いてたんだ。本当は教会には行ってない。ヘルガさんにも会ってない。実は、パレードを見ていたら王子様が襲われたんだ」
「襲われた!?」
「うん。これは他言無用でお願い。王家から発表があるかもしれないから」
「わかったわ、それで?」
「丁度それが俺の目の前でさ、俺強化属性1級だったから後先考えずに飛び出しちゃって。それでずっと王宮にいたんだ」
所々の改変は許してほしい。
「じゃあ教会にいたっていうのはマリアを不安にさせないための嘘ってこと?本当はお城に呼ばれたんだよね」
「うん。それでこれなんだけど」
俺は手紙に見えた招待状を机に置いた。
「何て書いてあるの? 記号? 文字?」
「文字。王家からの招待状」
招待状には明日の夕食に来てほしい的なことが書いてあった。
「ど、どうしましょう……招待されてもハルはそこまで綺麗な服は持っていないでしょう……?」
「追記、服に関しては招待側であるこちらが用意するので心配しなくて良い。夜も遅くなるので翌日に送り届ける。だって。王様のサインも書いてある」
母さん達はテンパって俺が急に文字が読めるようになったことに気付いていない。学園についても話したいのだけれど。
「明日はじゃあ帰ってこないの?マリアにどう説明しましょう……。まだ4歳よ。本当のことを言ったら嬉しくなって周りに言いふらすかもしれないわ」
青い顔をする2人に俺は次いで2つ目の重要事項を投下した。
「それと、俺に王立学園に行ってみないかって話もされた。王子様の友達として。金銭面でも用具面でも援助するからって」
「ハルが王子様の友達に……」
「着いていけないな。信じられないことが立て続けに起こって。あれ、でもハル、お前は父さん達と同じように読み書きができないんじゃなかったのかい?」
一足先にその事実に気付いた父さんが突っ込んだ。
「昔はできなかった。でも、教会に行った日から何故か読めるようになったんだ。真剣にお祈りしたからかなあ」
神の存在はこういう時だけ役に立つ。
「神? ヴィーネ様のことかい?」
「うん」
「そうだったのか。じゃあ今度、父さん達にも教えてくれるか?」
「うん、勿論だよ」
「マリアにはいずれ本当のことを言うとして、今のうちは教会とか出して引き止めておくよ。じゃあ明日、楽しめるかわからないけど楽しんでおいで」
「へへ……まあ、その日のメンバー次第かな」
王子様はもう既に抱きしめたことがあるので何とかなるような気がするが馬車で話したメア以外は殆ど話したことがない。お礼言われたりとかはあったけど。明日に少しの不安を抱え、その日は眠りについた。
魔法を使ったせいで眠かったのもあり、緊張で徹夜…なんてことにはならなかった。
今回の登場人物
・ハル(6歳)
・マリア(4歳)
・両親
・王族
・メア(17歳)