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37,無限牢獄

「見ても良いか?」

「私もお兄ちゃんの作業見たい!」

 準備をしていると、ラッシュとマリアが作業へに入ってきた。


「良いけど、面白くはないぞ。削って組み立てるだけだし」

「うん! お兄ちゃんの見たことないから楽しみ!」

「それじゃあ怪我しないようにね。あと勝手に作業道具は触らないこと」


 作業部屋はヘルガさんのプレゼント用のスペースと普段の魔法具作成のスペースがある。いつもは壁際で作業するが、今日は見学者のために見やすい位置まで作業台を持ってきた。



 A+ランクの光属性魔石が中途半端に切り出されていたのでそれを使うことにした。あとは目立つだろうけどプラチナも中途半端に使ってたから再利用。


 今回は服装に合わせたお洒落重視じゃなくて如何にして目立たないかを重視したいから全員一粒ピアスで装飾は一切彫らない。


 眼精疲労防止に治癒魔法を目に展開して加工を始める。研磨も接着も一代目よりずっと要領良くできるようになった。一つ作り終わるごとに一度城の部屋に戻って向こうの時間を確認しないといけないのは面倒だけどこっちは時間が進まないから仕方ない。



 俺とヘルガさんのピアスは片耳だけの仕様だが不安なので皆には1人二粒ずつ作る。

 この場にいる2人の分から作っているのだが、すぐ側に対象の耳があるのでとてもやりやすい。魔石が割れずに最大限効果を発揮できるサイズと目立ちにくいサイズが一度にわかる。


 向こうも初めて見るジュエリーだったってのもあってそれなりに楽しんでいたようだ。俺の夕食時間までの全部の時間使って1セットちょい。


 とりあえずマリアのはできた。ラッシュのは途中で終わっちゃったから夕食後また作ろうと思う。軽くシャワーを浴びて、無限牢獄の部屋から城の部屋に戻る。


 ライゼン様に両親も含めて食事をしないかと誘われたが、放心から解放されたのはおじさんだけだったので子供だけで参加することになった。おじさんは父さん達のお守りだ。父さん達には俺が軽食を置いておいた。


 夕食前には皆一度着替える。俺は1人で、ラッシュはメアの手伝いで、マリアはシルヴィが連れていった。昔からマリアと友達になりたい、なりたい、と言っていたからこの機会を逃すまいとグイグイいってるのだろう。


 「私のことはシルヴィ姉様って呼んでね、マリアちゃん」と小首を傾げて上目遣いをする様子がありありと浮かぶ。


「な、なあハル」

「おん?」

「俺、似合ってんのか?これ」


 メアの手によって3割り増しくらいになったもののどこか居心地悪そうにしながら、ラッシュが言った。うわぁ、昔の俺みたい。ヘルガさんと照れながら褒めあった記憶がある。



「めっちゃ似合ってるよ。あまりのカッコ良さに、マリア卒倒しちゃうかもな」

「そ、そういうハルも似合うな。何というか、洗練されてるというか……」

「まあ、かれこれもう6年も猫被ってるからな。ラッシュは立ち方変えたらもっと似合うようになるぞ」

「猫被り歴6年か……。初手ハル相手はハードルが高すぎるかも……」



 俺は何だと思われてるんだ。平民の猫被りなんて貴族に勝てる訳ないのに。初手俺じゃなければじゃあ誰になるんだという話になる。子供か? 子供なのか? 貴族の子供はもっと自尊心ありそうだけど。


 俺の知る貴族の子供と、目の前で身長に似合わずモジモジしているラッシュを比べてみる。

 うん、ラッシュの方が初心で純粋だな。


「それじゃあメア、行ってくる。ほらラッシュ、行くぞ」

「ああ、キャリーはしてくれよ」

「行ってらっしゃいませ」


 部屋を出てから会場に着くまで、ラッシュとは歩き方とかカトラリーの使い方を軽く教えた。今思えば向こうでやっておけば良かったのだが、俺があんまりにも阿保だった。忘れていたので今の超特急だ。


「ラッシュ、大丈夫か?」

「う……微妙……緊張してて、忘れる」

「今回のは公のパーティーじゃないし、ライゼン様達の人柄は知ってるから言えるけど、テーブルマナーちょっとミスったからって摘み出されるようなことは絶対ないぞ」



 初めての食事会を思い出す。ヘルガさんに教わりながら会場の前でひたすら叩き込んだな。あの時の皆の顔、面白かった。


「それなら良いけど……マリアはどうだろう……」

「んー、シルヴィが結構グイグイ行くタイプだから振り回されてるうちに食事会終わってました、って感じになりそう。居心地悪いと思わせないように話しかけたりもするだろうし」



 6年前から友達になりたいと思っていた人間が今、自分の手の届く所にいる。こんなチャンス、シルヴィがみすみす逃すとは思えない。文通くらいなら迫ってもおかしくない。

「そっか。マリアが良いなら俺も良いや」

「嫉妬しないんだな」

「嫉妬? するわけないだろ。だってマリアは俺が好きなんだから。マリアは俺が好き、俺はマリアが好き。嫉妬要素どこもないぞ」



「…………ラッシュはそのままでいてよ」

「……? ああ」


 この純粋な子、全人類で保護すべき。恋人が他の人間といて一切ヤキモチ妬かないなんて、こんな希少種中々いない。しかも一片の曇りもない眼で「マリアは俺のことが好き」って。



 うっ……2人が結婚したら俺、愛の供給過多で1日に何回かは意識離散しそう。

 口元を押さえて心の中で悶絶する俺に、ラッシュの怪訝そうな眼差しが向けられているような気がするがきっと気のせいだろう。






「揃ったな。では、いただこう」

「「いただきます!」」


 落ち着いた俺は何事もなかったかのように料理に手をつけた。シルヴィはマリアに、レオンはラッシュとよく話していた。


 特にマリア、シルヴィペアはまるで幼馴染のようだった。着替える時に何を話したのかはわからないが初めて来た時の俺より順応してるのだが。まあ、楽しそうでなりより。


 レオンとラッシュは主に戦闘に関する話をしていた。剣だったり魔法だったり。現役騎士から毎日指導を受けているのと筋が良いというので剣に関しては王族のレオンよりも動ける。


 俺は魔法を使わないで戦ったら確実にラッシュに負ける。それくらい剣ができない。貴族になったらうちで騎士やらないか声をかけてみようか。ラッシュもできる限り長い時間マリアの側にいたいだろうし、心から信頼できる人が1人いるだけで心強い。



 俺はヘルガさんと魔法具について話している。俺の無限牢獄を有効活用できないか、というものだ。王都だけなら騎士だけでもきっと守れないことはない。でもこの国を形成しているのは王都だけじゃない。郊外に各貴族の領地がある。


 そして、魔物が最初に襲うのはそういう所からだ。事前に魔物がどういう挙動をするか完璧にわかってるわけじゃないけどそれだけは前例があるから阻止したい。


「避難所、ですか……」

「はい。ラッシュと話している時に思いついて。郊外にある領のために俺の力を使いたいんですけどそのための方法がよくわからなくて。魔石には既に魔力が宿っていますし、上手く魔法を上書きできる自信がないんです」


「……ラ・モールの森で建物を建ててみたら実験になりそうですね。ハルさんは地魔法が使えますし豆腐建築レベルならできるんじゃないですか?」

 ここで言う豆腐建築とは、四角い箱のような仮小屋のことだ。


「実験……じゃあ俺がサークル休むので近いうちに行きましょうか」

「ですね。実験台ならお任せください」

「実験台って……今回は多分いりませんよ」



 普段は今のように喋りながら食べたりしないようだがシルヴィがどうしてもマリアと喋りたいからと、平民の食卓とほぼ同じ環境を作ってくれた。お陰で違和感なく次の魔法具について相談ができた。

「ハル君、ヘルガ君。2人は少し残ってくれないか?」

 食事会終了後、ライゼン様に呼び止められた。しかし……ラッシュはどうしよう。マリアはシルヴィといるけどラッシュは1人だ。俺が呼ばれるってなるとレオンは付いてくるだろうし。



「俺、向こうに帰ろうか? その方が安全だろ。ハルのセキュリティなんだから」

「そうだな。じゃあマリアも一緒に帰して良いか?」

「ああ」


 ラッシュは楽に帰せるだろう。で、問題はマリアだな。

「シルヴィ、マリアは安全面を考慮して先に帰らせようと思うんだけどどう?」

「え!? この時間に!? 泊まっていけばいいのに……」

「いや、俺の能力で別の空間に移動させるんだ」

 本気で俺の頭を心配するシルヴィ。あんなことがあったのに俺がついて帰らないとかあり得ないだろ。全く……。まあ、そんな子だから黙ってマリアを渡してるんだけど。



「じゃあ私も行って良いかしら」

「マリアの部屋と、共用スペースだけなら良いよ。定期的に来たいのであればマリアの部屋の隣にもう一つ部屋も用意する」



 ぱあっと笑ったシルヴィはマリアの両手を掴んで上下にブンブンと振った。仲良いな。

「お父様、私はマリアちゃんのお部屋にお泊まりに行きますので朝食まで留守にしますわ」

「許可しよう。ハル君の信頼している人物の元なら問題ない」

「んじゃ、飛ばすね。無限牢獄。……先程の話の共有ですか?」


 同じテーブルについていたのだから会話が聞こえていてもおかしくはないし、それなりに距離もあったから断片的な内容しかわからない、という状態もあり得る。


「ああ、私の部屋に移動しようか」

 使用人全員を下がらせたライゼン様は、自室のソファーにどかっと座り、すぐさま聞きの体制に入った。セリア様とレオンも同様に、俺の話を待っている。


「今日思いついたというのもあってまだ完全に纏まったわけではないのですが、守護者の魔法の一つ、無限牢獄の有用性について、俺のわかる範囲で話そうと思います」

「ああ、纏まっていなくても構わない。聞かせてくれ」



 俺は出入り自由な無限牢獄について話した。俺が生け捕りにした魔物は出られてないから無限牢獄から出られるのは俺の許可した人物だけ。同時に、入れるのも俺の許可した人物だけ。無限牢獄を、魔物を捕まえるために使うのではなく、魔物から逃げるために使う。魔物の侵入を許可しなければ住民は出入りが自由になるし、魔物は入れない。

 無限牢獄も一種の魔法ではあるから魔石に組み込むことができる。でも、魔物に守護者属性というのはないから魔石への上書きが大変そうで、できるかどうかもまだ未検証だ、ということを話した。



「……。それは魔石でないと不可能か?」

「どういう意味ですか?」

「魔鉱石には決まった属性が無いものもある。というよりそれが特に多い。魔法を込めるのに属性が要らないのなら無属性魔鉱石を幾つか渡そう。実験で、使えると判断したらもう一度声をかけてくれ」

「良いんですか? 魔鉱石は高価ですよ?」



 幾ら王族でもそんなにポンポン魔鉱石買ってたら苦しくなるんじゃ……。

「構わない。民の安全が金で買えるのならいくらでも出そう」


 おう……かっけえ……。

「わかりました。ありがとうございます。結果が出次第、報告書という形に纏めます」

「助かる。ああそうだ。一つ言っておこう。くれぐれも、無理はするな。ハル君にまた倒れられたら今度こそアスベルに殴られる」



 ゾワゾワとする体を抑えるように腕をさするライゼン様。俺に無理をさせないための嘘だな、これは。だってアスベル様がライゼン様を殴る訳ないんだから。


「はい、自分なりに休息は取ります」

 少しくらいは寝なくても大丈夫。少しくらいなら、ね。バレないバレない。


「ハルさん、毎日僕が寝かしつけてあげても良いんですよ? 言っておきますが、僕にはバレますよ。徹夜後のハルさんはいつもよりも多めに水分を摂るのでわかりやすいんです」

「「え!?」」



 それは初耳だぞ。ヘルガさん、俺の観察日記でもつけてるのか?ってくらい俺のこと知ってるな。俺が知らない俺の体のことも知ってる気がする。



「何でハルも驚いてんの?」

「俺も知らなかったから」

「ヘルガ……」

「うん?」


「もしかして、変態……?」

「んなわけ。ただハルさんがわかりやすいだけ」

 そんなに俺わかりやすいかぁ? 頬をムニムニと揉んだら少しだけ硬かった。普段から顔に出てるみたいだ。気を付けないとだな。



 今日は無限牢獄の有用性を示すための一歩を踏み出せた。それだけでもう十分。徹夜云々に関しては自分も気をつけよう。そう決意した。



今回の登場人物

・ハル(12歳)

・ヘルガ(14歳)

・レオン・サージス(12歳)

・シルヴィ・サージス(12歳)

・ラッシュ(10歳)

・マリア(10歳)

・国王夫妻

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