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34,演習 2


 その後は水を流し込みながら徹夜で何とか全員分作った。1徹くらいなら大丈夫。流石に5はやばいけど。



「あ、あのさ……2人、今日寝た……?」

 起きてきたラウル様に突っ込まれた。まあ、この大量の釣竿見たら寝てないってわかるよな。


「1日くらい大丈夫です」

「はい。5日までなら大丈夫なので」

「い、5日!? それ死んじゃうよ」

「死んでないですよ」



 幽霊じゃないよ。ただの人間でもないけど。

「し、死んでない……」

 ラウル様は生死を確認するように俺の足をもみもみとした。足くらいあるわ。生きてるんだから。


「とりあえず昨日1日で課題はクリアしたので今日からは魚魔物でも釣ってもらおうと思って。魔物が湧く泉に釣竿垂らすとたまに釣れるんですよ。魔物なので魔石もプラスで手に入りますし食料にもなります。焼いても煮ても揚げても蒸しても美味しいですよ、魚魔物」



 数少ない万能種だ。しかも魚だから陸にあげちゃえば仕留めやすいし。

「難易度はかなり落としましたが魚魔物も魚介類に影響を与えるので立派な討伐ですよ」


 難易度を落としたと悟ったラウル様は一瞬落ち込んだような表情をしたが、俺の言葉にはっとした。

「そうだな。4級だからと諦めていたが僕にもできることはあるよな。2人共、ありがとう。低級の僕達に合わせてくれて」



 それに少し引っかかりを感じた。だって俺の周り(平民)は大体5か4級。ラッシュは3級だけどそれはおじさんからの遺伝だろうし。


「世の中を構成している人間の大半は平民で、その中に3級以上の魔力量を持っている人はほとんどいません。1級に合わせようと思っていたら国民の大半を失います。俺達2人なら1級に合わせますが今は話が違うので当然のことをするだけですよ」

「……当然のこと、か。せっかく下げてくれたハードルなんだ。今日こそ絶対自分で討伐してみせる」



 拳を握り、はっきりと決意表明をするラウル様に、俺とヘルガさんは親しみと敬意を込めて拍手した。


 7時くらいになると皆起きてくる。先に起きていた俺とヘルガさん、ラウル様と後から来たテリーは朝食の準備をした。

 朝はあまり肉肉しくても重いだけだから軽めにスープとパンだ。スープの具は芋類、葉物野菜、魔物肉のベーコンなどが贅沢に使われている。スープは今作って、パンはありモンで妥協。


「美味しい……」

「学園の演習でこんな物が食べられるなんて幸せ……」

「な、何だこれ……美味すぎる……美味すぎるぞ……!」



 好評のようだ。みるみる皿が空になっていく。一応反対派の8人も「平民が作った物など……」と言いながら爆食し、おかわりまでした。何なんだ。矛盾だらけだな。


 朝食の後は歯磨きをして寝床を片付けて魔物討伐(釣り大会)に向かう。

 魚魔物がよく湧く泉まで行き、釣竿を垂らす。それを20人が円になってしているので中々にシュールな画が出来上がっている。




 ぐぐぐ、と竿に手応えがあった。

「おっしゃかかった!」

 腕を軽く引くと全長2メートルくらいの魚魔物がかかっていた。手早くシメて氷水の中に突っ込む。無限鞄に仕舞うとバレてしまうので。


「す、凄ぇ……」

 ヘルガさんの班員がポカーンとして思わずといった風に呟いた。


 俺の竿にかかってからは次々と釣る人が出てきた。ラウル様も朝の宣言通り、魔石を自分の手でゲットしていた。反対派も何人かは。昼食は当然魚魔物。今日はとりあえず煮込み料理にしようと思う。

 一度休憩所に戻り、仕込んでおいた、というよりも元々使っていた調理器具達を出して再びバーベキュースタイルへ。


 結界内に美味しそうな料理の匂いが充満する。トマトや玉ねぎ、葉物野菜とニンニクをぶち込んで煮込むだけでこんなに美味しそうになるなんて、魔物のくせに罪なやっちゃな。



 熱いうちに皿に移し、パンと一緒に配膳する。

 昨日とは別の意味で「演習ってこんなのだっけ」と思う。いつもの俺達のように何の緊迫感もない。

 ここの結界で入ってこれなくなってるのと、こっちに来ない分他の所に行かないように泉の方にもこっそり結界を張っておいたからほぼこの空間は無敵状態。緊迫感なんか生まれるわけない。



「ん、美味し」

「はい、この魔物も美味しいですよね」

「でも明日以降もずっと魚だと流石に飽きますよね」

「調理法を変えれば味も食感も全然変わってくるのでそれで誤魔化すか陸上の魔物肉を出すしかないですね」


 我先にとお代わりをする成長期の班員達を見ながら今後のご飯について相談する保護者目線の俺達。

「じゃあ明日は何にしましょうか」

「やっぱり連続は避けたいので明日は肉でしょうね。肉は昨日焼いたので焼き以外の何かが良いですよね。となると蒸す、煮る、茹でる、炙る、揚げる、くらいしか思いつきません」

「じゃあ唐揚げでも作りましょうか。鳥魔物は大量に余ってますし」

「ですね」




 そうして大きなトラブルもなく俺達は一週間の討伐演習期間を終えた。この後学園に戻って各班の結果発表だ。


 今回の演習の課題の達成率を調べ、最も多くの魔石を手に入れた班は成績に加算される。この成績が良い程良い職に就けるし、後継の有力候補になる。どっちも俺には要らないかな。反対派にも権力は握ってほしくないしどうか2位以下でありますように……!



「今回の討伐演習、最も多くの魔石を手に入れた班は……えっ……ちょっと、先生方。この数字本当に合ってるんですよね」

「間違いありません」


「はあ……。では、もう一度。最も多くの魔石を手に入れた班は1班で、128個」



 おうふっ……1班は俺の班だ……。

 釣りばっかしてたのに。こんなに魚魔物釣ってたんか? え、ヘルガさんの所と混ざってないよね?

「因みに2位は5班で、117個。100個超えはこの二班だけです。3位は同列で12班と7班の62個になります」


 あ、5班はヘルガさんのところだ。じゃあ混ざってないか。で、12班は確かステラのところだったかな。あれ、レオンのところだっけ。レオンが7班でステラが12班か。レオン凄いな。あの属性は戦闘向きじゃないのに。強化属性のフィジカルでゴリ押したとか?いや、ランクは5級だしそれはないか。



 後方で班員が騒いでいる。あーあ、やっちゃった。ヘルガさんの班に分けておけば良かった。面倒な奴が権力持っちゃうのが1番面倒なのに。当たり前だけど。





「はあ……」

 何でうちなんだろ。成績とかそんなの要らないよ。思わずため息を吐いた。


――――――――――

⚫️ラッシュside


「ねえ君」

 最近できた平民学校からの帰り道、俺はお貴族様っぽい人に声をかけられた。緊張して、背中を冷たい汗が伝うのを感じた。


「お、お、おれにな、なんの、ごご、ごようでしょうか……」

 言語の授業で先生から敬語を教えてもらった。でも、喉がカラカラで上手に喋れない。



「そんなに緊張しないで。この子のことを知ってるかな?」

 お貴族様が俺に見せてきたのは幼馴染で、今は身分の高い人ばかりが通う学園に行ってるハルの絵? みたいな物。俺は素直に頷いた。



「へえ、この子、名前何て言うの?」

「ハル、です。えっと……それがどう、か…………」


 ゴッという音と、頭に痛みを感じた。同時に俺の意識は暗闇に吸い込まれていった。








 目が覚めると、そこは見慣れた我が家ではなかった。体のあちこちが痛い。手足を強く固定されてるし、口には何か喋れないようにするやつが入ってる。


 それで俺は全部わかった。




 俺は、ハルの餌にされたんだ――



今回の登場人物

・ハル(12歳)

・ヘルガ(14歳)

・ラウル・モッシュ(13歳)

・貴族達

・ラッシュ

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