23,入学
「ハル、ヘルガ、合否通知来たそうですよ」
「はいはーい」
3日後、シエルからの呼び出しに俺とヘルガさんはつまんでいたサンドイッチを口に無理矢理詰め込み、ソフィア様の元に向かった。アスベル様は騎士団にいるため不在。魔物クラスターに向けて自分含め、鍛え直しているそうだ。
「じゃあこれがハルくんのね」
「ありがとうございます、ソフィア様」
筆記も実技もかなり自信はあるがやはりこういう時は緊張するもので、封を恐る恐る開けた。
中には紙が二枚。一枚目は合否結果、二枚目は筆記試験の点数のようだ。
『審査の結果、合格となりましたのでお知らせいたします』
下には学園長のサインもある。もう一枚。
『言語…100点 数学…92点 魔法史…100点 国史…98点 経済…90点 貴族家…100点
各100点満点』
あれー? 俺どこで間違えたんだ? 数学は多分一番最後の8点問題で落としたんだろうけど国史とか心当たりがない。経済はあまり自信がない科目だったので一番点数が低いのも納得だ。
言語100点と魔法史100点は当然。言語はカリウ先生の科目、魔法史はルイ先生の科目。やらない理由がない。貴族家に関しては舐められたくないので気合いだ。
「うわっ! ハル凄くない!? ほぼ満点じゃん!」
俺に覆い被さるようにして点数表を見たのはステラ。
「ステラ、はしたないですよ。ですが……本当に凄いですね」
「俺に配られた問題は簡単だったから。皆頭抱えてたし思うだけ問題が違うんだと思ったんだけど、皆はどうだったの?」
あんな簡単な問題解けて褒められるなんておかしい。ミスか何かで俺だけ問題が違ったのだろう。そう思っての言葉だったのだが、同意した者は誰一人いなかった。
「ハルさん、僕は数学と言語、貴族家については同意できます。しかし、歴史関係には全くもって同意できません。魔法史も国史もマニアックな問題が多かったので余程の研究魂が無ければ満点など到底取れないでしょう」
ヘルガさんが自分の点数が書かれた紙を見せてきた。
『言語…100点 数学…95点 魔法史…80点 国史…85点 経済…96点 貴族家…100点
各100点満点』
何だ、無理と言っていた割には取れているじゃないか。半分程度しか取れなかった人が無理と言って良いんじゃないか?
「そう言うヘルガだって全教科8割は取れてるじゃん。俺達歴史系7割だぞ」
マニアックな問題が多かった中で魔法ばっかりやっているわけじゃない2人が7割取れたなら別に良いと思う。俺が満点取れたのはルイ先生に自分をアピールしたかったからだし。
「魔法史を満点取れたのは過去に1人だけだったそうですよ」
「ルイ先生かな」
「多分。ハルは記念すべき2人目ですね」
「魔法史満点って凄いことだったんだ……全然わからなかったわ……何で皆こんな問題に頭抱えてるんだろうって思ってた」
「まあ魔法好きなら簡単に解けるんだろうな」
もう一度点数表に目を落とす。さっきまでは何とも思わなかった満点の数字が誇らしく思えた。
合格した人には後日制服採寸がある。制服は元の型があり、一着の完成までには一週間くらいしかかからない。後はラ・モールの森に行く時や、魔法を扱う授業がある時に着る実習着みたいな物もあるらしい。戦闘時に動きやすい構造になっているとのこと。
「制服を着るのが楽しみだな!」
「ああ、妹が着ているのを見て羨ましいと思っていたんだ」
結果確定の翌日には服飾師が公爵邸を訪れた。身分が高い家から順に回ってくるらしい。俺とヘルガさんは平民だが、公爵家の名前を使って受験したのでこの日に採寸できる。
採寸用に用意されたパーテーションの奥で体のサイズを隅々まで確認される。それで採寸は終わりだ。
届いたのは丁度一週間後。スピードが速いのに手抜きは一切されていなくて誰が見てもベテランの服飾師が作った物だとわかるだろう。
男性は実習着とシャツ、ベスト、ブレザー、スラックスは共通。ネクタイの色のみ家柄によって変わるそうだ。
王族は青、公爵家は赤、侯爵家は緑、伯爵家は橙、子爵家は桃、男爵家は黄色、商家は白、平民は黒。無地の生地に金色でワンポイントの刺繍が施されている。
色が身分によって違うのは貴族と関わりが無かった人が入学した時に一目見て身分の判別ができるようにするためだ。今のところ侯爵家以下の身分の貴族とはほとんど関わりがない。あるとしても教科担当の先生達やメアやエステルさんなど貴族出身の使用人くらいだ。これはかなりありがたい制度だな。
着心地を確かめるために一度部屋で着てみることにした。黒いスラックス、黒いベスト、黒いブレザー、黒いネクタイ、黒い革靴。…………葬式か……?
多分ネクタイが黒いのが原因だ。もしこれが黒じゃなかったらまだ良かったかもしれない。黒が全てをぶち壊す。諸悪の根源、黒ネクタイ。ベストとブレザーの着用義務はないらしいので普段はシャツ一枚で良いや。式典とパーティーくらいは上着た方が好ましいかもしれないけどそれ以外はクローゼットの中で良い。
今までずっと平民で、防寒着を買う余裕がない生活をしていたんだ。教室は室内だし真冬でもシャツ一枚で平気だ。
入学式は葬式みたいな格好か……。気は進まないけど仕方ないよな。変に悪目立ちするのも嫌だし大人しくブレザー着ていこう。
半月後、ついに入学式の日がやってきた。ステラとシエルの制服姿は今日初めて見る。黒い制服に公爵家を示す赤いネクタイをかっちり締めていて、少なく見積もっても3歳は大人っぽく見える。
それとは反対に俺は、全身真っ黒で葬式に出席した子供にしか見えない。同じ年齢でもここまで違うものか。
まあ恨み節を飛ばしても意味はないので我慢は式典の間だけだと言い聞かせて式場に入った。席は身分ごとに分かれており、後ろに行くほど身分が低くなる。ので、俺とヘルガさんは何の迷いもなく一番後ろの席に座れた。もしこれが伯爵家とかだったら椅子を見つけるのにまず時間が取られていただろう。
受験の時にした予想通り、平民は俺とヘルガさんだけだった。黒ネクタイの子供は他にいない。周りにいる人は全員が白。商家の人達だ。
何となく白ネクタイ側から視線を感じ、その跡を追うと、1人の男子生徒と目が合った。確か……試験の時隣にいた人。暫く見つめ合っていたが、学園長の登場と共に視線をずらしてしまった。一体何がしたかったんだろうか。
全くもって理解できない行動だが、とっ捕まえて聞き出す程気になっている訳でもない。このことは早急に忘れてしまおう。
「初めまして、学園長です。新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。我々教師、そして在校生はあなた方を心より歓迎いたします。我が学園は――――」
長い話を要約するとこうだ。学園は入学してから4年間の学びを経て卒業する。卒業試験は希望者を対象に毎年実施するので最短1年で卒業する人もいる。そして年に数回、社会経験としてダンスパーティーや立食パーティーも開かれ、卒業パーティーなどもある。
在学中、特に目立った成績を収めた者には相応の地位と報酬が与えられる。希望すれば魔法研究所や騎士団、王宮使用人などへの紹介もしてもらえるらしい。
魔法研究所かぁ。ちょっと覗いてみたい気持ちはあるんだけど貴族の肩書きだけで手一杯になっちゃう気がする。
貴族は領地を持つことが常識だから俺は経営系もやらないといけない。魔法にばかり時間は使えない。俺のためにも、魔法研究所の研究員のためにも関わるのはやめておこう。
学園長の話が終わったら学級ごとの担当教師、教科ごとの講師、サークルの紹介、そして最後に生徒会の紹介がある。
「4組の担当教師、エリーラです」
俺のクラスは4組だった。女の先生らしい。
因みに1組は王族と公爵家、2組は侯爵家と伯爵家、3組は子爵家と男爵家、4組には商家と平民が属することになっている。立場が近い方が気負わずに済むだろう、という学園側の配慮かもしれない。
俺の友達は全員1組だから大分離れるな。人がいる所では貴族と平民という関係性だと決めていたけど1組と4組はまずフロアが違うから会うことはないだろう。食堂も更衣室も何もかも別々だし。暫くはゆっくりできそうだ。
入学式が終わったら屋台も借りに行かないとだしお店も週末から始める。学校の日はサークルに入りたいから会いたくても多分会えない。忙しくなるから。
教室に着くとまず、ささくれの目立つ木の机が目に入った。恐らく、身分で教室の備品とレイアウトが違う。
俺はささくれがあっても気にしないしそれが当たり前として逆行前16年生きていたからここ数年であり得ないくらい綺麗な机に慣れるわけない。こっちの方が落ち着く。
「なあ……だよな…」
「ああ……が…………ない」
「…………だわ」
落ち着いてみると、半分以上が俺達のことを見ていることに気付いた。殆どその会話は聞き取れないが、良い話ではないと思う。大方、「平民如きと一緒だなんて最悪だ」的なことを言っているんだろう。めんどくせぇ。商家だってほぼ全員平民のくせにさ。何が違うんだよ。
初日からうんざりしている俺達に、1人の男子生徒が話しかけてきた。
「ねえ、ハルくんとヘルガくんだよね? 俺はテリー、テリー・ペステッド。ペステッド商会の次期商会長なんだ。俺さ、ずっと2人と話してみたかったんだよ。これからよろしくね」
「テリー………ペステッド……?」
その名前には聞き覚えがあった。数少ない友達だとレオンが言っていた。まさか同じクラスとは。じゃあ試験の時に感じた視線はこの人のものだったのか。
「ああ! 俺の名前はテリー! 同じ平民同士だし敬称も敬語も要らない! 俺も今からハルとヘルガって呼ぶ!」
押しの強さはレオンと同じだが同じ平民同士ってなるとあんまり抵抗ない。
「俺はハル。よろしくテリー」
「僕はヘルガ。よろしくね」
「ああ! よろしく! そうだ! そういえば2人はサークルとか入るのか? ちなみに俺は入らない!」
元気な人だ。レオン達も、こんな人が側にいたら毎日楽しいだろうな。
「僕は入らないよ。屋台の店番したいから」
「え!? 屋台は週末だけにしようと思ってたんですけど平日一人でなんて負担が大きすぎませんか!?」
「僕がやりたいんですよ。義務感とかじゃなくて、店番をやりたいです。だから、良いですか?」
「………無理はしないでくださいね」
週7で働いたらいつか倒れちゃいそうだしイディスさんとの時間も取れない。
「仕事かぁ。それならしょうがないな。じゃあハルは?」
「俺は魔法研究サークルに入りたいと思っているよ。実技試験が終わった後ルイ先生から場所を教えてもらったんだ」
俺が何気なくそう言うとテリーの顔は驚愕の色に染まった。何か今の文おかしかったか?皆特に疑問に思ってなかったしよくあるのかと思ってるんだけど。
「じゃ、じゃああのルイ先生に唯一傷を負わせた生徒って……ハルのこと!?」
「傷を負わせたというか、自分から傷付きにきたというか……」
多分あれは傷を負わせたのうちに入らない。俺はただシールドを張っていて、特に何もしてない。ルイ先生が勝手に腕突っ込んできたんだ。
「でもルイ先生の腕を折ったみたいな噂は一部で流れてるよ」
「あーー……まあ半分くらいは事実かな……?」
俺の張ったシールドで怪我したなら半分は俺のせい。でも勝手に突っ込んできたんだからもう半分はルイ先生のせい。
「凄いな! 魔法の授業の時に見せてくれよ!」
「まあ、良いよ」
魔法の実践授業の前に座学があるのを知っているだろうか。試験の時魔法史で苦戦していたようだし……。実践授業の前に力尽きないと良いが……。
今回の登場人物
・ハル(12歳)
・ヘルガ(14歳)
・シエル・オブリガード(12歳)
・ステラ・オブリガード(12歳)
・テリー・ペステッド(12歳)




