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22,入学試験


 朝食の時間にいつもより遅れてしまったせいで皆に心配をかけてしまった。実際食事前には着いていたのだが普段はもっと早いのに、と。昨日のことを話すとシエル様とステラ様は急にソワソワしだした。



 自信が無くなってきた2人に問題を出してる間に朝食は終わった。因みに問題は全て外国語で出してみたが大体全問正解だった。これでもし落ちたら周りはレベルが高すぎる。サージス国内にあるかも怪しくなるだろう。



 王族以外は試験会場への従者の同伴は禁止されているので俺達は子供だけで馬車に乗った。今日の服装は貴族の中でトップクラスにロークオリティーの服……らしい。いつも着ている麻のゴワゴワした服と比べてしまうと全然だが。貴族とそうでない者とでは会場が違うので、俺とヘルガさんの服は男爵家が人と会う時以外に使用するデザインだ。とアスベル様が言っていた。


 この日、男爵家は貴族には含まれないためこの服は浮かないらしいが不安だ。男爵も一応爵位だ。俺達の顔をパーティーで見たことがないとわかればダル絡みされるのは不可避だと思う。



 学園付近で馬車を降り、そこからは歩いて行く。周りの視線がザクザクと刺さる。まあ無理ない。従者に見えないような得体の知れない男2人(俺達)が王弟の家、オブリガード公爵家の人間(シエル様とステラ様)と歩いているのだ。気にもなる。



 貴族用の受付とそれ以外用の受付で別れたら流石に視線は向けられなかった。皆自分のことで精一杯っぽい。ここにいるのは男爵家、商家、平民の3種類。ただ、服装を見たところ、平民はいなさそうだ。平民は俺達くらい。もっと言うと純粋な平民は俺1人。


 自分の受験番号が書かれた席に着く。最後の確認をしようとテキストに手を伸ばしたところで視線を感じた。横、後ろ、上、と辺りを見回してもそれらしい人はいない。気を取り直して……というところでまた視線を感じ、もう反応しないと確固たる意思でテキストを読んだ。読んでる間も視線は感じていた。多分隣の人だ。




 最終確認はあまり集中できなかったが思っていたよりも試験問題は簡単だった。難しいだろうと警戒していたのに、だ。

 マリアでも解けるような問題の応用みたいな計算にちょっとした外国語の読解文、歴史などなど拍子抜けした教科ばかりが続いた。



 こんなの貴族ならできて当然の問題だ。それなりに努力すれば誰でも解ける。受験会場間違えたか? 舐められすぎではないか?


 ペンを置いて解答用紙を裏返しにしてこっそり周りを見渡すと意外にも皆頭を抱えていた。あれ? 問題違う? 筆記試験は困惑してばかりだった。





 次。筆記試験が終わると魔力属性ごとに魔法の試験がある。ここで不合格と見做されると一つ下のランクに落ちて授業を受けないといけないらしい。その逆もあり、一つ上のランクに上がることもある。そしてなんと、試験官の一人はルイ先生だった。


 顔は見たことがなかったが、試験官の名前リストに載っていた。嬉しい。ルイ先生に評価してもらえるんだ。酷評だったらそれはそれで良い。ルイ先生がそう判断したなら俺は良くするように努力すれば良いし、好評なら更に高みを目指して努力すれば良い。



 つまり何が言いたいか。ルイ先生に評価されるって事実だけで発狂したいくらい嬉しいってことだ。

 俺は一応1級ってことになってるから1級の待機所に行く。知っているのはレオンとステラ様だけだ。隣の待機所には準1級のヘルガさんとシルヴィがいる。


 知り合いではあるが俺とレオンが話すことはできない。他にも何人か上位貴族がいるからっていうのと、外では他人の振りを、話しかけるのはレオンから、敬称は必須。こういった初歩的なルールを城内部のみ適応外にしたのだ。当然のことだが。


 だからレオンは貴族の子息子女に囲まれて媚びられまくっている。完璧な笑顔で対応しているが、内心は変顔しながら舌でも出しているだろう。



 今回の試験は身分が高い順に呼ばれるので準1級の最後、ヘルガさんが終わった後すぐにレオンが呼ばれた。再生・治癒魔法はどんなものを披露するのか気になって見ていたら試験官達が慌て始めた。

 よく見るとレオンは自分の腕を折ろうとしていた。



 確かに一番効果的かも知れないが仮にも次期国王なんだぞ。練習でやっていたことが試験で認められるとは限らないんだ。


 呆れ顔のルイ先生が自分の腕をスパッと切った。傷口は深く、結構出血もしているから以前のレオンなら怖気付いて何も出来なかったかもしれない。でも今のレオンはあの時とは違う。俺の荒療治に耐えただけあって一切動揺することなく完璧に治してみせた。



 一瞬傷痕を見て驚いたような表情をしたルイ先生はサラサラと紙に何かを書いてレオンに渡した。どうやら魔法の方はその場で結果が出るようだ。


 ステラ様は強化属性。武器を使ってもルール的には問題ないので飛び道具に魔法をかけて100メートルは先にある的を中心から玉砕した。結果を見て満足そうにしているのできっと良いことが書いてあったのだろう。



 ついに俺の番だ。受験票を見せて名前を告げる。

「ハル様、強化属性1級で間違いありませんね、ではどうぞ。何を壊しても構いませんよ」



 ああ……ルイ先生の声、耳に心地良い。魔法ができて声も良くて顔も良い。そして高学歴。欠点はないんか欠点は。


 俺は皆のように物を壊しても良かったが強化属性は防御にも使えるということを示したかったのでシールドを張った。あの、いつもの空間に圧力をかけるやつ。


 俺があまりにも何もしないから不審に思っていた試験官達だったがルイ先生が何か察したのか俺の張ったシールドに腕を突っ込んだ。

 え、何してんの?




「いててて……よし。試験は終わり。ちょっと待っててください。今評価シート書くので」

 ルイ先生、自分が負う傷に頓着がないのだろうか。俺が普段実験してる時みたいな行動だった。あらぬ方向に腕曲がってたし。痛覚麻痺してるのかな。


「どうぞ」

「ありがとうございました」


 これで一通りの試験は終わりだ。評価シートには俺の名前と属性、入学した際の魔法実践のクラスについて書かれていた。あと、一番下の欄に評価の理由なんかも書いてあった。

 強化属性の常識に囚われない発想が評価されたようだ。



『魔法研究サークルは北棟3階付き辺りにあります』



 アドバイスの代わりにこんなことが書かれていた。俺を知っているのだろうか。カリウ先生とそういった話題になっていたら知っているか。でもこれはありがたい。彷徨う必要がなくなった。


 北棟はインドアサークルが詰め込まれている場所、反対に西棟はアウトドアサークルが詰め込まれている場所。校内案内図を見てそう判断した。

 インドアサークルは魔法研究サークルや言語研究サークル、外国文化研究サークルなんかがあるようだ。



 アウトドアサークルは騎士研究サークルが有名らしい。騎士研究サークルは騎士を志す人が入る場所で、そこに入っていると優先的に訓練場が使用できる。しかも講師は現役騎士団員。入らない選択肢はないだろう。俺は入らないけど。


 思いもよらなかったルイ先生からのコメントにニヤつきそうになる頬を宥め、乗ってきた馬車に戻った。


「お疲れ様」

「レオン、何でここに? 城の馬車は?」

 オブリガード公爵家の2人とヘルガさんだけが乗っているはずの馬車にはレオンとシルヴィ、そして入試を一年ずらしたヘンリーが乗っていた。車内はそれなりの広さがあるが、数が多いのでかなりミチミチに詰まっている。



「来る時に帰りの迎えは要らないと言っておいた。だから城の馬車はない。アイクランド公爵家の馬車もな。この後は城で試験お疲れ様会を開く!王家の馬車で行かないのはハルとヘルガが戸惑ってはいけないと思ったからだ」



「そういうことね。俺とヘルガさんで何か作ろうか? 長年試行錯誤を繰り返していたフルーツサンドが完成したんだ。パンの種類を変えたり果物を変えたりホイップを変えたりしてね。今なら一番良いものを作れるよ」

「おお! 漸く完成したのか。材料はあのキッチンにあるからお疲れ様会は試食室で開こう!」


「レオン、突っ込むかどうか迷ったのだが、2人に敬語を使わせていないのか? 俺達には敬称を付けるし敬語も使うのに」



 ステラ様がレオンに聞いた。何も問題なさそうだったからそのまま話していたけど確かにステラ様とシエル様はちゃんと敬称もつけてるし敬語も使ってる。そんな俺達しか知らないから疑問に思うのも当然だ。



「俺達がハルとヘルガに頼んだんだ。父上も乗り気だったから問題ないよ。外してほしいって言わなければハルもヘルガも喋り方は変えない。羨ましいなら頼めば?」


 ドヤ顔のレオンと真顔を俺達を暫く見たシエル様とステラ様は期待を込めた熱い眼差しを送ってきた。



「シエル、ステラ。これで良い?」

 俺が半分諦めてそう名前を呼ぶと2人はぱっと笑顔になった。この国の貴族って平民に呼び捨てされるのが好きなのだろうか。性癖なんか?喜ぶ2人に水を差すのは悪いので取り敢えずその疑問は飲み込んだ。



 しっかし……俺も慣れたなあ。金銭感覚こそ変わっていないが慣れてはいけない何かに慣れてきてる気がする。気を付けよう。一体何に気を付けるのかわからないが。










「ん! 美味い!」

 俺の出したフルーツサンドを頬張りながらそう叫んだのはヘンリーだった。シルヴィは感想を言うことすら忘れて黙々と頬張っているし、シエルとステラも驚きでそれどころではなさそうだ。


「やっぱりクロワッサンか?」

「ああ、色々試してみたが見た目も可愛いし食感も好みだったのがこれだ。気に入ってもらえると良いんだけど……」



「ひにいっはわ」

「シルヴィ、ちゃんも飲み込んでから話せよな」

 珍しくレオンがシルヴィに注意をしている。スイーツが絡むとポンコツになるのは変わらないな。



「これ以上はもう無いのかしら」

「この量を平らげるとは思わなかったんだよ。もしさあ、これを売ったらウケるかな」


 元は平民向けに、と考えていたがコストがかかるため値段設定とか苦労しそうだ。

「見た目も味も良いからウケるだろうな。ただ、かなりのコストがかかっているから平民向けにするには少し価格が高くついてしまうだろう。平民にも売りたいのならグレードが下がることは大体予想できる。それでも良いなら売れると思うし、貴族には確実に売れる。王族が絶賛するものだと言えば売り切れ待ったなしだろ」



 王族が絶賛……説得力しかない。

「平民向けかぁ……あ、ハルさん。ジャムサンドはどうですか? ジャムであればクリーム系の値段は抑えられますしフルーツ代も多少は浮きますよ。フルーツを使うというコンセプトには沿っていますし」



 俺はヘルガさんの手を取った。

「それです! 良いですね! 早速試作しましょう!」

「はい!」


 既に幾つかのジャムは作ってある。これを耳を切った食パンに挟むのだ。勿論パンの耳は切って終わりじゃない。ラスクにすることで美味しいお菓子になる。これはフルーツサンドを買ってくれた人にサービスで付けるつもりだから正直売るつもりはない。



 砂糖も大した量使うわけじゃないし、バターもパンに塗った時の余りをそのまま再利用するからラスクは無料でも問題ないと思う。


 最終的にバターを塗った食パン一枚目、ランダムなフルーツジャム、バターを塗った二枚目の食パン、と五層構造にした。ジャムは今のところいちご、オレンジ、ブルーベリーの三種類。好評であれば増やしても良いが、資金が安定しないうちはとりあえず三種類で良いかな。



 それに学園生活にプラスしてやることだから俺は週末しか予定を空けられない。ヘルガさんも週末はイディスさんと一緒にいたいだろうし。ワンオペは週一が限界だ。



 ああ、そろそろ屋台とかも借りないと。今後の予定表を作りつつ、俺は公爵邸に戻った。



今回の登場人物

・ハル(12歳)

・ヘルガ(14歳)

・ヘンリー・アイクランド(13歳)

・レオン・サージス(12歳)

・シルヴィ・サージス(12歳)

・ステラ・オブリガード(12歳)

・シエル・オブリガード(12歳)

・ルイ先生

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