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20,誕生日


 今日はラ・モールの森で高ランクの魔物を狩りつつ魔法の練習をしに来た。多くの魔力が感じられた泉の前で待ち、湧いた魔物を収穫、ついでにその調理法も考える。昼食を持参しなくて済むので魔物肉が食べられるのはデカい。 


 ヘルガさんはこれ以上魔力を増やすことはできないが、減った魔力が回復する感覚はあるらしいし俺は魔力が増大するのを感じている。魔物肉には美味い不味い関係なく魔力回復の効果があるようだ。


 それなら美味い肉を探したいじゃないか、ということでこうして調味料一式持参の上で産地直送の食事を楽しんでいるわけだ。これらは城に売った食べ物類の収入で買った。良い感じに仕上がったら家でも作るつもり。

 俺の臨時収入でお肉も食べられるようにはなったがやはり高いものは高いので。




「ん! ハルさん、この唐揚げという料理は凄く美味しいですね!」

「ですよね、この魔物は揚げるのが美味しいみたいです。色々な調理法を試してみましたが油ですか……。少し手間はかかりますがこれだけ美味しいと串にでも刺して父さんの屋台で出しても良いかもしれませんね」



 父さんの屋台は歩きながら食べられる物をってコンセプトでやっているからな。今までは野菜と肉を挟んだサンドイッチしか売っていなかったからマンネリとかも出てきてるだろうし。昼食に買う人も多いから唐揚げ棒みたいな名前で売り出すのもありかも。


 材料は俺が買ってサンドイッチより少し高めの値段設定で売ったらウケるだろう。貴族は揚げ物を食べないから(俺調べ)平民の流行にだってできるかもしれない。


 流行になれば売り上げは伸びるだろうし家具類も新調できるはずだ。もうあの布じゃ寝れない。布を構成する糸が色々なところから露出してるしな。冬は雪こそ降らないが風が冷たいんだ。健康のためにも寝具と衣服くらいは平民の中で浮かない程度に新調しておきたいところ。




 そうだ、学校に指定の制服を作るのはどうだろうか。制服があれば夏でも冬でも皆同じ格好だ。家があまり裕福でなくても制服があれば絶対に浮かない。ただなぁ……。そうなると無償教育ってコンセプトが崩れそうなんだよな。


 他国からミシンが持ち込まれてからは多少の負担は軽減されただろうけど一般的な服飾店では基本普段着と作業着しか売ってないから技術が無いだろうし……。


「ハルさん、どうしましたか? 考え込んで。悩みがあるなら聞きますよ」

「ああ、稼働予定の学校に制服があれば服を新調する余裕が無い家でも浮かなくなるだろうし、一目見て生徒だってことがわかるから効果的なんじゃないかって思ったんですけど、よく考えてみたらそこまで無償化しちゃうとどこかを有料にするか税金を上げるかしないといけないかなって思って」


「そうですね……。でも言うだけならタダですし提案するだけしてみませんか? 他国との貿易額は黒字らしいですし上の判断次第にはなりますが上手くいけば採用されるかもしれませんよ」



 言うだけならタダ、か。確かにそうだな。じゃあ今度また登城した時にでもライゼン様に提案してみようかな。





 結論から言うと、この案はあっさり採用された。貴族のようにシャツ、ベスト、ブレザー、スラックス、ではなく最近入って来たらしいセーラー服というデザインを起用するらしい。シャツとベスト、ブレザーのように分かれているわけではないので費用を抑えられるようだ。


 素材を俺が調達するという条件付きではあるが革靴と革鞄も勝ち取った。貴族が使う牛革には劣るがそれなりに見栄えはする。牛型の魔物はDランクと低いレアリティだから大量に手持ちにある。



 鞄はヘルガさんがデザインした物のアレンジ版が使われる。両手が開くように鞄は背負える仕様だ。俺もデザインを見てそんなアイディアが……! と驚いた。神は何て言ってたっけ。確かランドセル? みたいなこと言ってたような。知らない単語だったから忘れちゃった。

 俺も欲しいな。肩かけだと跳んだり走ったりするのに手に当たったりして不便なんだよね。いつか店頭に並んだら買えるかな。






「な、何だこれ……」

 翌朝、俺の枕元には一つの手紙と共に革鞄が置いてあった。背負える仕様の。


『ハルへ、誕生日おめでとう』



 何だこれ。俺ですら忘れてた誕生日を見知らぬ人が知っていることは不気味すぎるな。そうか、今日誕生日か。この国の一年は6ヶ月で1ヶ月は約10週間、日に直すと60日。

 1週間は7日でそれぞれ、地、火、水、風、力、光、再生、と魔法属性になっている。1週間の終わりである再生の日は休みの店が多い傾向だ。


 俺は5月の48日生まれだ。今日、漸く7歳になった。学園入学に1年だけ近付いた。


「まあ、ありがたく受け取っておくか」

 俺は無意識に口角が上がるのを感じながら革鞄をぎゅっと抱きしめた。


――――――――――


「あぁーーーーー!がぁい゛い゛ーー!ハルたんかわいいーーーーーー!ハアハア」

 

――――――――――


「「お誕生日おめでとう!ハル(お兄ちゃん)!」」

 リビングに行くといつもより豪華な食事と満面の笑みを浮かべた家族がいた。


「ありがとう……! みんな」

「お兄ちゃん、これプレゼント!」

 マリアは一枚の栞をくれた。押し花にした四つ葉のクローバーが一つ。


「いちごを採りに行った時に偶然見つけたんだ!」

「そうか。ありがとうな。俺、凄く嬉しいよ」

 頭を撫でるとマリアは嬉しそうにはにかんだ。

「父さんと母さんからはこれを」

 両親からは万年筆とインク。これ、随分高そうな物だが大丈夫だろうか。



「これ、高かったでしょ? ほんとに俺が貰っても良いの?」

「ああ、父さん達からのプレゼントなんだからな。貰ってくれないと困る」

「あ、ありがとう! 大事に使うね」

 栞は使うのが勿体無いしお守りとして持ち歩こう。筆記具は学園に持って行こう。




 あ、俺からもあるんだった。


「俺からも皆にプレゼントがあるんだ。キッチンを後で使っても良い?」

「良いわよ、まずは朝食にしましょ」

 今日は贅沢にステーキだった。最近は深夜に帰ることも多いから朝に出してくれたんだろう。葉物野菜のサラダもある。



「ん〜美味しい〜〜!」

 城での食事は美味しいけどやっぱり母さんの料理はいつ食べても美味しい。別格だ。

 食後は俺があれを作る。昨日試作した魔物肉の唐揚げ。鳥魔物だ。


 予め仕込んでおいた魔物肉と衣の材料を手当たり次第油に放り込む。これだけで美味しくなるんだから不思議なものだ。大量の油を使うが使い終わった油に再生魔法をかけると新品に戻るので一切遠慮せずに使った。守護者、なんて便利な役職。



 今日はどこにも行かずに家にいることにした。神を伝書鳩代わりにヘルガさんの所に行ってもらったところ、「じゃあ一人で行ってきますね」という答えが返ってきたそうだ。俺に似てきたか?


「皆、できたよ。父さんの屋台で売り出せないかなって思って考えてみたんだ。肉だけど俺が狩ってきたから実質肉代はタダだから遠慮せず沢山食べて」

 鳥魔物なんて腐るほどいるんだから。

「ハルがそう言うなら……。いただきます」

 父さんは恐る恐るといった風に唐揚げを口に入れた。


「美味い! 一つでかなりの満足感があるにも関わらず食べる手が止まらない!」

「ん! これ美味しい!」

「これは売れるわね! このお肉はまだ沢山あるの?」

「腐るほど」


「じゃあ新メニューに加えても良いね。正直言って売り上げは落ちてきてたからこの辺りで新メニューを出したいと思っていたんだ」



 好感触だ。後はメニューの伝授だけ。

「油は沢山使うけど俺に渡してくれたら新品に戻してあげるから大胆に使って良いよ」

「わかった。形が決まったらメニューに加えてみよう」

 今日はずっと唐揚げを作っていた。作りすぎてしまい、ラッシュの家までお裾分けに行ったくらいだ。



 俺が教えたから3人とも簡単な文章なら読み書きができる。紙に書いたレシピも一応渡しておいたからもし忘れても大丈夫。


 それにしても美味しいな。魔物肉、侮るなかれだ。これからも倒しながら食べていこう。俺もヘルガさんもあのピアスを着けているから最悪毒があったとしても肩代わりしてもらえる。毒を食べた時はピアスが熱を発するので他の人に食べさせないようにはできる。



「この唐揚げをこうやって4つくらいをひとまとまりで串に刺したら歩きながら食べられるよね」

 俺は言いながら串に唐揚げを刺していった。容器に入れても良いのだが、串の方が持ちやすいし、サンドイッチと違って片手で簡単に食べられるのが利点として挙げられるからやはり屋台では唐揚げ棒として売り出すのが良いだろう。




「命名、唐揚げ棒」

「シンプルでわかりやすいな。早速明日の早朝に仕込んで、遅くとも昼頃には出そう」


 俺は翌日、いつもよりかなり早めに起きて仕込みを手伝った。久しぶりに屋台の方まで行って少しだけ接客もしたし宣伝もした。そのお陰か、物珍しさで買っていく客がその日のうちにリピート客へと変貌。大量にあった唐揚げ棒は午前で売り切れてしまった。流石にこれは想定外だ。



 残り僅かを確認してから更に仕込みはしたがそれも完売。過去最高額の売り上げを叩き出した。こんなに売れるならまた狩ってこないと。


 肉を贅沢に使っているのに値段がサンドイッチより少し高いだけというのもウケる要因になったんだと思う。これは俺達にしかできない戦法だ。 


 レシピ? そんなの教えるわけないじゃん。ラ・モールの森は一応危険区域なんだから。一般人が入ったら魔物肉をご飯にするどころか自分達が魔物のご飯になって終わりよ。腕の立つ人でもSランクに遭遇したら無傷じゃ済まないだろうしさ。

 てことで父さん達にはレシピは他言無用だと釘を刺しておいた。


 真似されたら他の店と差別化できなくなって売り上げが落ちるかもしれないしね。俺の立場を知っている父さんは明日以降は手伝いは必要ないと言ってくれた。母さんとマリアで回すそうだ。



 確かに店の手伝いに時間を取られたら呼ばれた時に対応できないし勉強時間も減る。この提案には素直に甘えることにした。途中でヘルガさんがイディスさんを連れてやってきた。売り上げは上々だと伝えると満足そうに頷きながら2本買ってくれた。ヘルガさんは一番応援してくれたから1つサービスしておいた。



 こんなに好評ならこれからも何か魔物肉系考えたいな。神に協力してもらって。このままだと神の友達……確か、ラフィーナ様?のところみたいな食文化になりそうだな。こうやって作っててわかったけどサージス国って食のレパートリーないんだな。


 貴族とか王族でさえ単純な調理法の組み合わせばかりだったし、この世界全体で見てもかなり食文化後進国なのかもしれない。魚とかも美味しいのに肉ばっかりで食卓には上がってなかったし根菜類もあんま見てないかも。



 何か原因があるのかな。芋とか美味しいのに。まあ貴族で流行らないなら市場から芋が消えることはないだろう。俺の取り分は減らないから別に良い。貴族に市場が乗っ取られるのは嫌だし下手に流行は作らないようにしよう。

 


今回の登場人物

・ハル(6歳→7歳)

・ヘルガ(8歳)

・マリア(4歳)

・両親

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