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19,謎の視線



 サージス国からラ・モールの森を抜けて更にその奥に行くと、そこには竜ヶ丘と書かれた看板があり、目の前には大きな屋敷が建っている。街はそれなりに発展しており様々な風貌の種族が混在して存在していた。



 屋敷の奥。黒髪の美丈夫が頬杖をついて臣下の報告を話し半分で聞いていた。


「オブシディアン様。聞いておられますか?」

「ああ、聞いてる聞いてる。で、何の話だっけ」

「はああーーー……ではもう一度。二人目の守護者がサージス国で誕生したそうですよ。現在6歳の少年です」





「え!? フェリーチェたんが!?」

「はい、あのフェリーチェ様の二代目です」

「ちょっと見てくる! フェリーチェたん! 待っててね! 今行くからね!」

「あっ! ちょっと!」



 この自由奔放な男の名前はオブシディアン。魔族を統べる王、魔王である。そして初代サージス国王であるフェリーチェ・サージスに対し、気持ち悪いくらいの好意を寄せるストーカーでもある。



――――――――――


「ん?」


 今何か視線を感じたような? 気のせいか?

「ハルさん、どうしましたか?」

「いえ、何でもないです」



 どうやら気のせいのようだ。ねっとりとした視線を感じたような気がしたんだがな。まあ良いか。これからオブリガード公爵家の面々と顔合わせがあるんだ。気合い入れ直そう。


「初めまして、アスベルの妻のソフィアよ。ハルくん、ヘルガくん、よろしくね。気軽にソフィアと呼んでちょうだいね」

「長男のシエルです」

「次男のステラだ」

「「よろしくお願いします」」



 入学までは自宅に住むとはいえそれまでもサポートをしてくれる予定なのだ。入学後は更に。試験に受かれば一年で卒業もできるから負担を減らすためにも頑張って一年で卒業しよう。



「なあ、ハルってめっちゃ強いんだろ? 剣の相手してくれよ」

「駄目ですよステラ。ハルさんには僕が魔法を教えてもらうんです。貴方は引っ込んでいてください」




「あ、あの……俺もヘルガさんも剣はほとんど握ったことがありませんし魔法も人に教えられるようなものではなくて……」

「「そんなわけないでしょう(だろ)」」


 ほんとだってば……。魔法に頼り切りで本物の剣は握るどころか間近で見たこともほとんどないし。魔法も毛色が違いすぎるし俺自身感覚で使っていて頭ではあまり考えていないから教えられない。そう言ったつもりだったが言葉が足りなかったのか即座に否定されてしまった。


「こらこら二人共。剣なら俺がいるじゃないか。それに魔法も属性の教師がついているだろ? それじゃあ駄目なのか?」

「そういうことじゃないんです」

「ああ、それに魔物は剣を使わないじゃないか」


 兄弟一斉に抗議する。つまり二人は人外の俺と対魔物戦の訓練をしたいらしい。

「シエル様、ステラ様。そこまで仰るならやりましょう。手加減はしませんからね。ヘルガさん」

「ええ、立場なんてガン無視です」


 もう日は暮れそうだがここまで言われて黙っているわけにはいかない。

「アスベル様もリハビリがてら参加しますか? 自分で言うのも何ですが俺とヘルガさんは個人でも相当強いですよ?」


 何せAランク魔物を単独で瞬殺できるんだから。

「そうだね。俺も鍛え直さないとだ」

 訓練場全体に結界を張った。外から見えないような細工もしてある。アスベル様に埋め込んだ擬似心臓は訓練にならない機能しかついていないので一旦切った。



「それじゃあ始めましょう。手加減はしませんが流石に周りを巻き込みたくないので大規模魔法は使いません。さあ、どこからでもどうぞ」

 舐めてかかれば負ける可能性のある相手だ。目の疲労を抑えるために治癒属性を常時発動させる設定にした。首が飛んだらわからないが手足くらいならいくら飛んでもオートで再生してくれる。便利。


 先攻はあちらだ。3人一斉にこちらに向かってくる。

 二手に分かれるなどして偏るかと思ったがそんなことはないようだ。

 束になるならこちらにも策がある。卑怯で効果的な策が。


 まずはライト。周りを極限まで明るくして視界を奪う。一瞬でも奪えればこちらの思惑通り。地盤を一瞬緩め、足を取られたところでヘルガさんが風の刃物で斬りつける。




 「うわっ」という声と共に2本の剣が落ちる音がした。

「やはり貴方には通用しませんか」

「何を言う。避けていてもかなり危なかったぞ」


 アスベル様は俺達の攻撃を軽々避けた。流石、騎士団長になるだけある。騎士団長なんて、騎士団の中で最強と言っても良いくらいの強さなんだ。先に2人分の全力を削っておいて正解だった。

 俺は全身に身体強化をかけた。この中で一番の年下は俺だ。190オーバーの大人に挑むには少し身長が足りない。なら身体強化でカバーすれば良い。


 ヘルガさんが魔法を使ってある一点に追い詰める戦法をとった。それなら俺がするのはただ一つ。先回りして迎え撃つまでだ。

 地魔法を展開ながら先回りがバレないように時々攻撃もし、所定の位置についた。


 俺の姿を確認したヘルガさんは一瞬バランスを崩した。そこを突いて攻撃したアスベル様を俺が地魔法で成長させた蔓草で縛り上げて戦闘不能にする。

「ふっ……降参だ。俺の負けだよ」

「……? まだ剣は持っていますよね? そんなにあっさりしていて良いんですか?」


 剣までは取り上げられなかったからこれ幸いと蔓を切って反撃に出てもおかしくないと思ったのだが。


「こんな岩みたいなの、いくら植物とはいえこの剣じゃ切れないよ」

 相手が降伏したので俺は蔓を切り、アスベル様をゆっくり降ろした。それと同時にシエル様とステラ様にかけた魔法も解いた。抜け出してアスベル様の助太刀をしても良かったのだが、どうやら2人には抜け出せなかったようだ。


「お二人共、魔法を展開する際の詠唱をしていませんでした。僕は詠唱をせずに発動などできませんし光属性にあんな使い方があったなんて……教えを乞うて得こそすれ損するなどあり得ないでしょう」

「剣も使わずに俺達2人を一気に戦闘不能にするなんて……なんて強さだ。騎士団長であるあの父上でさえ赤子のように簡単に負かしてしまうなど……是非とも教えを乞いたいものだ」



 ブツブツ呟くシエル様とステラ様を横目に俺は水を飲んだ。

 渇いた喉に冷たい水が通る。うん、運動の後に飲む水はやっぱり美味しい。


「2人共今日は泊まっていきな。さっきメアが親御さんに連絡しに行ってくれていたからね」

「わかりました。ではお言葉に甘えて」


 公爵邸で出てきた食事は城で食べるものとほとんど変わらない出来栄えだった。貴族はこれが普通なのだろうか。俺は貴族の普通どころか少し裕福な平民の普通もよくわかっていない。バレッタおばさんのところもそれなりにお金持ちの家だが本人曰く、そこそこの商家に比べれば月とスッポンらしい。



 それこそ何十分の一とか。それならうちは何百分の一だな。なにせ、葉物のサラダが出てきただけで今日の食事は豪華だな、とか言う家なんだから。


「ごちそうさまでした」

 俺は手を合わせ、用意された自室に戻った。部屋には様々な魔法具が置いてあり、これらは使い放題だ。当然、風呂やトイレなどの水周りも魔法具。バレないようにコソコソと1つずつ見て回る。


 蛇口を捻ると一切汚れていないお湯がドバッと浴槽に溜まっていく。夕飯前に入ったが、魔法具の観察ついでにもう一度風呂に入ろう。


 服を脱いで肩までお湯に浸かる。メアが入浴まで手伝うので普段は落ち着けないのだ。いや、貴族でここまで手伝われるのが当たり前だったら良い。だが俺は今も逆行前も、実家で風呂に入ったことが無い。手伝いを求めるなど言語道断。


 いつかは俺も自分の領地を持つことになる。その時はなるべく北の寒い領地を貰おう。公共浴場を作るんだ。寒ければ寒い程風呂の需要が高まりそうだからな。



 そのためにまずは下水に繋がないと。蛇口を捻ったら真っ茶色のお湯、とか勘弁してほしいからな。実家には蛇口がないから意味はないけどいざという時のためにも蛇口の方に浄水機能もつけておきたい。光魔法はもともと光を灯す以外の使い道はなかったが、カリウ先生達が発見したことによって光魔法で浄水ができるようになった。


 光魔石に浄水の魔法を組み込んでそれを火魔法と水魔法を混ぜ合わせた水魔石に組み込む。因みに火魔法を水魔石に組み込むのは人が心地良いと感じる温度に保てるお湯を出すためである。


「ん? 誰かいるのか? メア?」

 またあの視線を感じたので声をかけてみるが、浴室に響くのは自分の声だけで、誰かいるわけではなかった。


「なんなんだ? まあ良いか」

 少し不気味に感じたものの、見えない敵にいくら神経を使っても見えないものは見えないのだからと楽観的に考えることにした。このお風呂を自宅で再現したい。そのためにも早く学園に入学しないと。受験可能年齢引き下げてくれないかな。



――――――――――


「ノエル! ノエル!」

「はいはい、何ですかオブシディアン様」

「フェリーチェたんが! フェリーチェたんが!」



 古い屋敷にオブシディアンの歓喜する声が響き渡る。

「ええ」

「ノエルはもっと歓喜しろ! 待ち続けたあのフェリーチェたんが漸く戻って来たんだ!」


「良いことを教えてあげましょう。今の彼の名前はフェリーチェ様ではなくハル様というそうです。記憶は無いようですがフェリーチェ様が推し進めていたプロジェクトを復活させようとしています」


 オブシディアンはハルの記憶がないことは知らなかったようで少し驚いた表情を見せた。



「そうなの? じゃあまずはボクを知ってもらわなくちゃ! ハルたんね! フェリーチェたんの文化を復活させるならハルたんにはこっちから技術支援もしないといけないな……それから……」




 かなりのハイテンションから急に冷静になったオブシディアンに、その温度差で心臓が止まってしまうのでは、とその場に居合わせたノエル含む魔族の部下達は思った。

今回の登場人物

・ハル(6歳)

・ヘルガ(8歳)

・シエル・オブリガード(6歳)

・ステラ・オブリガード(6歳)

・オブリガード公爵夫妻

・オブシディアン

・ノエル

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