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18,守護者の魔法


 今日はアスベル様のタウンハウスに行く予定だ。因みに今のアスベル様はサージス姓ではなく、オブリガード姓でアスベル・オブリガード公爵となっているそうだ。


 俺と同じ年の双子がいると言っていた。アスベル様は今22歳で、6年前に子供が産まれたならその頃はアスベル様は16歳……貴族の人って皆そんなに早く子供産むの……?確か母さんが俺を産んだのって25歳くらいだったような……。


 気になってヘルガさんに聞くと、アルバーン伯爵家も同じようなものという答えが返ってきた。どうやら貴族の中では普通のようだ。



 寧ろ母さんの年齢になると行き遅れと蔑視され、相手が一気に狭まるのだとか。怖すぎる……。

 守護者である俺はいつか貴族にならないといけないと言われた。家でもできるだけ多くの時間を勉強に割いているが貴族文化的なところは全くもって理解できない。


 いや、理解はできるけど家によっては道徳的にアウトなんじゃないかとかいうようなことが平気で行われていたりするらしいし。貴族の考え方とかも俺とは全然違う。



 年を重ねた時の扱いも女は減点、男は加点、みたいな感じだったし騎士を志す女性は周りから孤立させられたり。胸糞悪い男尊女卑社会だった。平民はそんなことないのに。全員が護身術を親から習うし子供も近所ぐるみで育てる。


 そんな中で育った俺が貴族の文化に馴染めるわけがないと頭を抱えていると「守護者に逆らえる人間なんかいないんだから自分が常識になっちゃえば良いんじゃないか?」とレオンから大変ためになるアドバイスを貰った。そうだ。俺は守護者だ。利用できるだけこの立場を利用してやろう。



 決意を新たにし、公爵家(元王族)のタウンハウスに足を踏み入れた。

「おかえりなさいませ、アスベル様。ようこそいらっしゃいました、ハル様、ヘルガ様」

 オブリガード公爵家の偉そうな初老の人が俺達を出迎えた。

「ああ、ただいま」

「「お、お邪魔します……」」


 俺達は公爵邸の床にビクビクしながら足を踏み入れた。こんな鏡みたいにピカピカの床、土足で入るなんて憚られるだろ。

「部屋の用意は済んでいるな」

「はい」

「じゃあ2人共……あれ、どうしたの?」

「あ、あまりにも綺麗で汚すのが怖くて」


 今後のことに関わるのでここは素直に白状した。

「ああ……チャン。あれを」

「かしこまりました」

 待つこと十数秒、俺達には新品の靴が手渡された。



「うちに入る時これに履き替えれば床を汚さずに済むよ」

「「あ、ありがとうございます……!」」

 予め用意してくれていたそうだ。これで床を汚してしまうという緊張感からは解放された。

「兄上から好みを聞いて部屋は極限まで装飾を減らしたんだ。どう?気に入った?」


 俺用に用意された部屋は凄いの一言だった。シンプルながらも高級感のあるデザインで、ベッドも壁際に寄せてくれている。


「はい! ありがとうございます!」

「良かった。ヘルガくんの部屋は右隣ね」


 ヘルガさん用の部屋も凄かった。俺はダークブラウンを基調としたデザインだったがヘルガさんは黒を基調としたモノトーンだった。家具も俺の物とはデザインが違う。


 神官は白い服を着るが神官見習いは黒い服を着るからだと言っていた。俺がダークブラウンにしたのは自宅が木製だからという単純な理由だ。やっぱり見慣れた色の方が落ち着く。ただでさえ最上級の家具で落ち着かないんだ。このくらいしないと眠れない。



「一度僕の家族も紹介しておくよ。息子2人に関してはいずれ君たちと同じ学園に通うことになるわけだしね」

「「はい」」

 現在奥様はご友人と優雅にお茶会らしい。双子はお勉強中。

 それなら俺達も勉強しよう、と貰った教科書を開いた。俺はライゼン様がわざわざ俺用にと用意してくれた人体の構造図鑑と初代国王についての資料、ヘルガさんはカリウ先生からのプレゼントを部屋で熟読している。



 初代国王に関する記述は多くなく、はっきり読めるのは名前や没年、何を行ったかの簡単な説明くらいだった。後は見たことのない文字で何かが書いてある。言語に明るいカリウ先生でさえ見たことがない文字らしい。ただ、図説だけは理解できた。


 フェリーチェ・サージス。建国者であり、守護者でもある。成人前に誰にも見つけられていなかった大陸を発見し、国を作った。圧政を敷く貴族が多い国の平民であった彼は貴族制度を嫌い、王族以外を平民とし、政治は平民の中から選ばれた者を採用。子供への教育や魔法による医療も充実させて72歳で亡くなるまで王族が権力を持たない制度を作ることに尽力したそうだ。そこからは記述がない。



 なぜ貴族制度ができたのか、国が変わったのはいつか、この辺りは書いてあったとしても都合が悪くなった貴族か王族によって消された可能性が高い。

 フェリーチェが広めたカルタ遊びもカリウ先生の言う通り、もうほとんどない文化だ。当時の絵が載っているのだが、見たことのない建物ばかり建っている。


 後ろの方のページには守護者特有の魔法についての記述があった。属性の八つ目。空間魔法についてだ。

 文字は読めないが絵だけで理解できるのは四種類。


 一つ目は俺も使っている無限鞄の。時が止まった別の空間に物を仕舞う能力。


 二つ目は無限牢獄。こちらには生物を生きたまま収納できるようだ。例えば死後、腐るのが早い魚介類を生きたまま持ち帰り市場で捌く、などの使い方があるみたいだ。これは便利だ。魔物を生け捕りにできる。丁度欲しかったんだ。


 三つ目は転移魔法。ピン留めした地点に現在地から一瞬で移動できる。絵だけでは推測に留まるが、国を追われた人間を国に引き込む時に纏めて転移させていたようだ。極めれば自分以外の人間も転移させられるのか。


 四つ目は結界。今の俺は空間に強化魔法で限界まで圧力をかけて空気の壁を作るやり方を実践していたが結界が使えれば強度も防音機能も段違いになるようだ。



「んーー地図地図地図……お、あるある」


 最後のページに当時の地図が載っている。今は世界地図もサージス国の地図も国家機密らしく、公開されていないが昔は各地に設置された地図を見て勉強していたようだ。だからこの本にも載っていた。



 位置が一切変わっていないのはラ・モールの森だけだから地図上に指を置き、空間魔法を発動させてみた。ちゃんと外出しますの旨は置いてきたから大丈夫だ。多分。

「わっ。行けた」


 改めて見ると地図には赤い点が2つ付いていた。一つはオブリガード公爵家タウンハウスにある俺の部屋、もう一つは現在地だ。点に指を当てるとその場所について説明が出てきた。

 おお、これは便利。


 ただ、無闇矢鱈に森以外に転移するのはやめた方が良いかも。昔は使われていなかった土地でも今は住宅地になっていたりするから。いきなり俺が登場したらきっと皆びっくりする。ついでに正体もバレる。


 折角森にいるし他も試してみよう。

 自分の周りに薄い膜を張るイメージで結界を発動させる。いまいち分からないな。張られている感覚はあるが強度がわからない。内側は防音機能が付いているらしいから試しに叫んでみるが近くの動物は音に驚いて逃げ出したりしない。外の音はバッチリ聞こえる。


 攻撃を受けてみよう。

 少し奥の方に入るとCランクの魔物に遭遇した。何の抵抗もなくこちらに向かってくる。言わずもがな、俺を殺すために。鋭い爪で俺を引っ掻き薙ぎ倒そうとするもこちらは一切無傷だ。


 それに一瞬戸惑った様子を見せた魔物だが気を取り直して攻撃を再開した。だが、一切のダメージがない。強化魔法で壁を張った時は魔力が消費されていく感覚が強かったがそれもない。魔力消費はとても小さいようだ。強度もCランク程度なら申し分ない。



 神の言う10年以内の魔物クラスターに備えて高ランクでの実験もしなきゃ。

「んーー。君じゃ相手にならないみたいなんだ。だから……さようなら」

 風魔法で切り刻み、魔石を回収した。今回のは地属性だった。属性も渋いな。


「今日は収穫無しかぁ。残念!」

 相当深くまで行ったがSランク以上の魔物には遭遇できなかった。精々B+ランク。下から四番目、上から五番目の中途半端ランクだ。属性も、殆どが地属性か強化属性で光属性は一つだけだった。


 再生・治癒属性の魔物もいるはずなのにまだ一度も出会えてない。早くお披露目してほしい。

 レア魔物で実験したいことは沢山あるんだ。

 俺は次の目標を立てて自室に転移した。




「おかえりなさい、ハルさん」

「た、ただいま戻りました、ヘルガさん」

 部屋の入り口には仁王立ちのヘルガさんがいた。少し怒っているようだ。なぜだ?書き置きはしておいたはずなのだが……。


「ど、どうしましたか……?」

「どうしたもこうしたもありません! 出掛けるなら一言声をかけてくださっても良いでしょう?こんな紙切れ一枚なんて……全く………」

 溜め息を吐かれてしまった。ここは素直に謝るとしよう。


「すみません、次からは一緒に行きましょう」

「はい、それで良いのです」

 ヘルガさん自分だけ置いてけぼりにされたことが余程不服だったようだ。機嫌が一瞬にして治り、鼻歌でも歌いそうな雰囲気である。


 初めこそ俺が放つ魔法に引き気味だったヘルガさんだったが、あるラインから戦うことを楽しんでいたからな。戦闘狂爆誕だね。因みに俺も人のことは言えないくらい楽しんでいる。


 魔物についての書物も城の図書館に少しだけ置いてあったのでそちらも読んでみたのだが、この世界には全ての魔物を統べる王、魔王がいるらしい。魔物が人間を襲うのも魔王が操っているからだと記述があった。



 胡散臭いけどな。魔王がいるならわざわざ魔物を焚きつけなくても一人で滅ぼせるだろう。それに魔物は泉から“湧く”ものだ。生まれるのとは違う。魔王なら魔物の一体や二体生むのなど容易いはずだ。


 書物に記載されていた魔王は羊の角を凶悪にした何かが頭から生えていて両手足は鎧のような物で覆われていた。そして全身黒い服に身を包み、髪は闇のように黒く、瞳は血のように赤かった。


 ただ、書物に記されていることが全てではないから一度見てみたいものだ。できれば手合わせも願いたい。守護者が持つ力のせいで戦う時に全力を出したことがない。実力の一割を出す前に勝手に敵が葬られていくからだ。話にならない。強すぎるのも悩みどころだ。



「ハルさん、どうしましたか? 今度は何をするんですか?」

「魔王に会ってみたくて。あとはSSクラスの魔物とも戦ってみたいです」

「ああ……。確かに今までの魔物は僕達の足元にも及びませんでしたしね。ハルさんはともかく、僕も実力を出したことはありませんし。魔石回収がてら探してみましょうか」


「はい。少しはまともだと良いんですけど……」

「僕も同意見です。早く全力で戦える敵に出会いたいものです」


 そう言った俺達はお互いに顔を見合わせた。そういえば、俺とヘルガさんの実力って同じくらいな気がするな。守護者としての力が大きくはたらいている俺の方が有利ではあるけどヘルガさんはスピリットが空だから地の利を活かせる。



「やりましょうか?」

「そうですね。少し自信はありませんが」

 生まれて初めてまともに対戦できるかもしれない。



今回の登場人物

・ハル(6歳)

・ヘルガ(8歳)

・アスベル・オブリガード

・チャン

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