11,制裁
「とりあえず属性気にせず目が合った瞬間に倒しましょう。この辺りの魔物なら気を抜かなければ大丈夫ですから」
ヘルガさんの一言から、俺達は戦闘体制に入った。ラ・モールの森に住んでいる魔物はどれだけ高位の種でも所詮は泉から湧き出たモノ。頭は悪いので報復されることはないだろう。
俺も押し潰す以外の攻撃手段も試したかったのでほぼ全ての属性で攻撃した。地魔法で串刺しにしてみたり、火属性で焼肉にしたり。
因みに美味しくはなかった。ただ、ものによっては調理法を考えれば食べれなくはないだろう。あとは鱗がある魔物は加工すれば武器になるだろうし毛皮があるものは毛布や上着に使えそうだ。肉からは少しだけ油も採れる。
「食料にも道具にも日用品にもなるなんて、魔物は便利ですね」
「魔物を見てすかさず食べれるかどうか考えるのやめてくださいよ。聞く人が違えば普通に怖いですよ。まあ……美味しく食べてみたい気持ちがないわけではありませんけど……」
「大丈夫です! ちゃんと趣旨も覚えているので! それに魔物相手だけですよ。人間に対して美味しそうとは流石になりませんよ」
「………ハルさんが味方で良かったと改めて思います」
複雑そうに呟くヘルガさん。あの数学教師みたいな考え方なら俺は容赦なくヘルガさんを潰していただろう。物理的に。そういう意味では俺も、ヘルガさんがこちら側で良かったと思う。
「さ、始めましょう。魔法具1世に向けて試作ですよ!」
「よろしくお願いします」
この日はとにかく永遠に攻撃した。2人と2頭?がかりで一つの魔石を狂ったようにめったうち。属性を変え、攻撃する順番を変え、方向を変え。もし目撃者がいれば腰を抜かしていただろう。
「今回の実験でわかったことは。Dクラスの魔物の場合、5回までは耐えられること。Cクラスなら15回、Bクラスは32回。いずれも再生・治癒属性に弱いですね。低位魔物の属性で多そうなのは強化属性っぽいのでやはり主に強化属性に強く、それにプラスして個体の属性という感じです」
今回は少し深くまで行ってBクラスの魔物も3体倒した。今回の実験のためだけに。
「じゃあ身につけるための装飾デザインを考えていきましょう。避けた方が良いものとしては特定の家紋や国旗のデザインです。あとは王族以外なら青もやめておいた方が良いかと。これらはもし本人確認ができる方からオーダーされた場合は無効となります。
入れた方が好ましいものは国花である麦や指輪です。指輪は普段会うことがない人間がわかるようにとヴィーネ様が定められたものです。色も大体金や銀がベースになります」
「色々と規制があるんですね。じゃあ――」
『2人とも! 作戦会議中にごめんなんだけど魔物よ! それも結構大きいわ! ここから大体800mくらいのところ! 子供が1人襲われてる!』
あの怠惰な神がここまで焦っているのは初めてなので本当に緊急事態だ。
「ソウル、乗せて」
「この魔石の実験運転ですね。スピリット、行きましょう」
俺達は魔物の残骸を根こそぎ容量無限鞄に詰め込んで神の示す方角に向かった。
『あ! あれよ!』
目線の先には俺達より少し背の高い子供が1人。2匹の魔物に追い詰められていた。多少魔法によって傷付いてはいるものの、ジリ貧状態で神が見つけなければこのまま餌食になっていただろう。
「視界に入った魔物は全て倒す。ついでに食料と魔石もゲット。ヘルガさん、上から魔石で攻撃防げたりしますか?」
「はい、僕が投げたら攻撃お願いします」
魔物の視界に入らない位置で待機、ヘルガさんは上から襲われている人の真上にBクラス魔物の魔石を投げた。
「いくよ」
ソウルに合図してからほんの一瞬しか経っていないが決着はついた。ソウルが魔物の真下まで連れて行ってくれたので俺は魔物を下から突き上げる形で仕留めた。魔石のお陰で多分襲われてた人は無事だと思う。
水魔石から水を流し、血で汚れた体を流した。魔法を使えば楽なのだが地魔法で攻撃してしまったので。
魔石を拾い、鞄に入れたがこのでかいものはどうしようか。どう考えても普通の鞄には入らない。入れたら俺の正体がバレるかもしれない。
「ヘルガ様………!」
「イディス……?」
よし、今のうちだ。何か知り合いっぽいしこっそりしまっちゃおう。今のヘルガさんに様付けるってことは元いたアルバーン伯爵家?の関係者かな。ヘルガさんが呼び捨てにしてるし使用人か使用人見習いか、どっちかだと思う。
「ヘルガさん、知り合いですか?」
デカ魔物を収納した俺はヘルガさんに声をかけた。
「アルバーン伯爵家の使用人見習いだった少年です。僕の3つ上、ハルさんとは5つ違いですよ。最後に会ったのは生け贄の儀式の時、僕を穴に突き落とすよう父に命令されたのが彼です」
「そうだったんですね。ヘルガさんはどうしたいですか? 殺したい程恨んでいるか、訳ありだと思って保護するか。俺はどちらでも良いですよ。俺の知り合いではありませんから」
殺したいならここに捨て去るし、保護したいなら微力ではあるが協力する。
「イディスも多分、アルバーン伯爵家に、父に捨てられたんだと思います。だから僕と同じです。できるなら、助けてあげたい」
「ヘルガ様……」
「わかりました。協力はします。役に立つかどうかはわかりませんが」
「イディスはそれで良い?」
「しかし、私はヘルガ様を殺そうとしました……」
イディスさんはヘルガさんに対して命令されたとはいえ生け贄として直接手をかけたことに罪悪感や後悔を抱えている。ヘルガさんに何を言われても恐らく納得しないだろう。
「イディスさん、実は俺達、実験体を探していたんです。新しい物を作るのに犠牲は付き物ですから。ヘルガさんのためを思って残りの人生全部、捧げてくれますよね? 管理はヘルガさんに丸投げします」
有無を言わさぬ言い方に、イディスさんはコクコクと頷いた。こういう相手には多少不利な条件を出した方が納得しやすいのだ。管理を任せることによって実質保護という形にはなるだろう。多分。
「ハルさん、ありがとうございます。僕だけだったらあのまま膠着状態が続いてたと思います」
「イディスさんとは仲が悪かったわけではないんですか?」
「はい、同じ屋敷の中に居てもイディスは雇い主と顔を合わせてはいけないような下位の使用人見習いだったんです。だから当然、儀式までは僕とも会ったことはありませんでした」
安心したのか、疲れたのかわからないが眠ってしまったイディスさんの頭を撫でながらヘルガさんが言った。
「そうだったんですね。ヘルガさんは今後、どうしたいですか?」
「イディスの年齢ではもう孤児院に入れないので手っ取り早く衣食住を提供するなら神官見習いになりますね。神官は給料を貰って働いていますが神官見習いは無賃労働で良ければ誰でもなれるので。イディスにはもう、辛い思いはさせたくありません。僕のことで心労も溜まっているでしょうし暫くは落ち着くまで待ってあげたいです」
今後のイディスさんへの対応が決まったところで教会に着いた。デザイン案はまた後日。水魔石に火属性を加え、風呂用のお湯にしたところで今日は解散した。
面倒ごとに巻き込まれる予感はするが、ヘルガさんの決定に今回は異論はない。髪いじったり女装させたりとかすればそれなりに本人は特定されにくくなるだろう。俺にできることは伯爵家の元使用人見習いイディスという存在を秘匿することだけ。
呼び出される前に変装道具なんかも作っておいて損はないかも。
――――って思っていたのだけれど。
「まさかこんなに早く戻されるとは」
「はい……もう少し平穏を謳歌していたかったです。魔法具はどうしましょう」
「自習の時にデザインを描いて授業がない日はラ・モールの森に逃亡しますか。極秘事項ですしサプライズで渡すためにも見つかるのは避けたいです」
「そうですね。やはりそうした方が良さそうです」
小声の作戦会議を終え、王宮のソファーで暇を持て余していると、メアに呼ばれた。これからライゼン様の執務室で処遇的なことを聞く。
そしてご無沙汰の白シャツ黒スラックス。最近は実験、実験で汚れても良い服しか着ていなかったから久々で緊張する。
ただ、立ち方や歩き方は、高速で動く生き物に乗り続けて体幹が鍛えられたからか疲れにくくなっているから衣装に着られている、なんてことはなくなったと思う。うん。そう思う。
今回ソウルは周りにバレないくらいまで小さくなって俺の側にくっついている。スピリットはイディスさんの護衛としてお留守番だ。危ない目に遭ったら逃げるようにと言って出てきたので教会が血みどろになることはないだろう。
「お久しぶりです、ライゼン様、セリア様」
執務室にはレオンとシルヴィはいなかった。先程まで授業があり、今急いでこちらに向かっているところらしい。いや、逃げないから急がなくても良いんだけど。
「お待たせしました。ハル、ヘルガ、久しぶり! 会いたかったぞ!」
少し息を切らしたレオンは入ってくるなり俺達の手を順番に取ってブンブン振った。大分興奮しているようだ。落ち着くまで待とう。
「お兄様、そういったことはまた後でもできますわ。楽しみだったのは私にもわかりますが今は落ち着いてください」
レオンを引き剥がしたのは同じく少し息を切らしたシルヴィ。大方、授業終了と同時に飛び出したレオンに振り回されていたのだろう。
「ああ、わるい。久しぶりに会えたのが嬉しくてつい」
俺達が席に着いたのを確認してライゼン様は話し始めた。
「元数学教師レイチェル・バーンの処遇について、当事者である2人にも共有しておこうと思う。まず、彼女の生家であるバーン伯爵家は子爵家まで降爵、レイチェルは情状酌量の余地を与える必要はないと判断し、ベノム島に流刑になった。
ベノム島は犯罪を犯した人間に与えられる監獄のような場所だ。着飾ることや入浴は一切許されず、食事の配給も3日に一度、住処も与えられず一文無しで放り出される。ほとんどの場合は他の流刑者に淘汰され、半年以内に餓死するか、病死することになる。犯罪者にとってはある意味すぐに楽になれる死刑よりも辛い刑だろうな。実行は3日後に決まった」
「あの、質問してもよろしいですか……?」
話を聞きながら血管が浮き出る程拳を握り締めていたヘルガさんが震える声で言った。
「ああ、極秘事項でなければ答えよう」
「ありがとうございます。例えば、ヴィーネ様を信仰していない家の人間が、誰かを生け贄として殺した場合、今回のような降爵処分だけで済ませるのですか……?」
アルバーン伯爵家での扱いか、この間のイディスさんのことを思い出しての言葉だろう。
「生け贄? 誰かに何か言われたのか?」
「レイチェル・バーン先生に、次の生け贄はあんたで決まりね、と言われましたのでそのことだと思います」
アルバーン伯爵家の名前を出したらヘルガさんの立場やイディスさんの処遇は一気に悪くなると思う。ここは俺が助け舟を出すべきだ。
「なに!? 次の……ということはもう既に数人の生け贄を出している家があるということか……! 急いでレイチェルに確認を取れ! 死なぬように気を付ければ何をしても構わん!」
「かしこまりました」
「ヘルガ君、生け贄を出した場合は降爵処分では済ませない。家は解体、加担した人間は流刑に、無関係と判断された人間と成人前の子供、成人した年の子供は定期的な監視を付けるという条件下で平民に落とし、二度と貴族として生きられぬように戸籍からも排除する。
生け贄の被害者が生きていた場合は保護した上、王宮の治癒師が治療に当たる」
「そう、ですか……ありがとうございます」
やっと力を抜いたヘルガさんの手を握ったのはいつの間にかソファーを立ったレオンだった。レオンは、ヘルガさんのうっすら血の浮き出ていた掌をゆっくり撫でて、治療した。
「ヘルガが何か心に抱えているのは少し一緒に過ごしただけだけど、俺でもわかる。今回の質問にそれが直結しているかは深く追及しない。でも、もしヘルガが話したいと思った時はどれだけ辛い話でも、目を背けたくなるような残酷な話でも聴く。俺達はヘルガの一番の味方でありたい。それだけは覚えていてほしい」
「……普段子供っぽいくせにこういうところ格好良くて…………おかしいよ」
「貶されてんのか褒められてんのか微妙だな」
「褒め言葉だよ……。うん、ありがとう。今はまだ話せないけど、まあ…タイミングが来たら話すよ。僕のことや両親のこと、全部」
「ああ、死ぬまでなら待てる。俺の墓に話しかけるのは無しにしてくれよ」
「墓って……ふふっ、流石にそこまではしないよ」
良かった。レオンの言葉に肩を震わせて笑うヘルガさんにほっと胸を撫で下ろす。
「ヘルガ、私もお兄様と同じよ。何があっても貴方の味方だわ」
「うん、シルヴィもありがとう。ハルさんは…いつも助けてもらってるから、ありがとうございます。安心感があって、会う度に心が落ち着きます」
「あ、ありがとうございます。ヘルガさんも俺のことを救ってくれているのでお互い様ですよ。これからも沢山頼って下さいね」
ヘルガさんが望むなら不眠不休でも大歓迎だ。が、そんなことをヘルガさんが望むわけがないのでそれ以上は言わないでおいた。多くを知っていると第三者のいる前では下手に声をかけにくくなるからレオンの機転には感謝だ。
その後は少し気不味くなった雰囲気をライゼン様が上手くまとめてくれて漸く子供だけになれた。まあ、護衛はいるけども。
今回の登場人物
・ハル(6歳)
・ヘルガ(8歳)
・レオン・サージス(6歳)
・シルヴィ・サージス(6歳)
・国王夫妻
・イディス(10歳)
・ヴィーネ神




