10,魔法具考案
家に着いたのは丁度、営業終了の鐘が鳴ってから一時間が経った頃。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい!」
家に着くなりマリアが飛びついてきた。が、何かがおかしい。確かにマリアは甘えただが帰って来た俺にタックルするような子ではなかったはずだ。精々抱きついてくるくらいで。
「どうしたの? マリア」
「あのねあのね! バレッタおばさんがいっぱいくれたの!」
「何を?」
今の俺の頭には「?」が浮かんでいる。帰ってきて早々にタックルハグされ、何かを貰ったとはしゃぐ。可愛くはあるが理解はできない。
「調味料一式とお肉、あとパンよ。この前バレッタと会った時にハルが料理にして返してくれたからまた何か欲しくなったら食材渡すわって感じの話をされたの」
「つまりこれで何か作れってことね」
『神ー。何かある? この材料で使えるやつ』
『えっとね……あ、あったわ! 鳥肉で作るチキンカツよ! でもマヨネーズがないわね……その時のレシピは……これかしら。あれ、でもお酒も無いわ。まあ良いか。よし、始めるわよ!』
色々この世界には無いものがあるらしい。多分レシピはラフィーナ神の世界の物だと思うから。
『まずは皮を取って肉に数カ所小さく穴を開けて。皮は神獣にあげれば食べるわよ。そんでうーん……説明が難しいわ。地図の時みたいにレシピ表示するからそれ見てやって』
『自分でも説明できない物を作らせようとしないでよ。ましてやこの世界に無いものなんて』
『ごめんってば』
説明なしでどうするんだと思った俺だが、貰ったレシピは絵が付いていて言葉で聞くよりもずっとわかりやすかった。もう神の説明要らないかも。
レシピ通り、フライパンにいつもより少し多めに油を引いて一口サイズくらいに小さく切った肉を焼いた。あっちの世界ではこれを揚げ焼きと言うらしい。因みにチキンは鳥という意味だそうだ。
出来上がったチキンカツを熱々のうちに木の皿に盛り付けてちまちま食べてきた野菜の残りを添えた。
「中々良いんじゃない? 見た目も美味しそう」
「凄い凄い! すっごく良い匂いする!」
「あんなにぐちゃぐちゃになっていたのに凄い変わり様だね」
「癪だけど、バレッタの所に持って行きましょう。材料費はあっち持ちなんだから」
「うん。行ってくるね」
深めの皿に3人分のチキンカツを盛り、ラッシュの家の扉を軽く叩いた。
「はーい! 待ってたわよー! やっぱり凄いわね!」
「はい、俺も中々上手くいったと思います」
「ありがとう! 皆で食べるわ! またよろしくね」
「はい」
返事は一応したものの、次は何を要求されるかわかったものではない。俺の家はあそこと違って大した収入もないし……今回みたいに材料費を持ってもらわないとキツそうだ。
「渡してきたよ。バレッタおばさんも喜んでた」
「当然よ! こんなに美味しそうなんだもの!」
「うん!」
「じゃあ早速食べようか」
それぞれテーブルにつき、手を合わせる。
「「いただきます」」
4人だと1人ひとりの取り分は少なくなってしまったが、母さんも父さんも子供がなるべく多く食べられるように、と遠慮してくれて俺達は二欠片食べられた。
柔らかくてすごく美味しかった。感想としては下手すぎるけど言葉では言い表せない。そのくらいの衝撃だった。お肉は高すぎて俺達じゃ手が届かなかったため、人生で食べたことがあるのは王宮の食事会の時に出たステーキくらいだった。
こうして家族揃って食べられるのが嬉しい。逆行を思い出して感傷に浸っていると鼻がツンと痛んだ。
「お兄ちゃん、泣いてるの? どこか痛い?」
「ううん、どこも痛くないよ。こうやって家族で平和にご飯が食べられてるのが嬉しいんだ。父さんも、母さんも、マリアも俺の大好きで大切な人だからね」
溢れた涙は止められない。マリアの頭を撫でて笑って誤魔化した。
「お兄ちゃん……。私も大好き! お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんもみーんな! あとはー……ラッシュと、バレッタおばちゃんとロイニーおじちゃんも!」
「そうね、私達も皆が大好きよ」
「うん。ハルも、マリアも、ロアンも皆愛してる」
食べ終わった俺達は、お互いの気が済むまで抱きしめあった。
「それで安心して眠ってしまったんですね」
「はい。少し恥ずかしかったですが、俺を大切に思ってくれる人が近くにいることが嬉しいです」
「やはり、安心しますよね。今はもう平気ですが実家では心休まる時間がありませんでしたので」
数日後、俺はヘルガさんとラ・モールの森に向かいながらこの前のことを話した。ヘルガさんはもう、実家での扱いを過去のものとして捉え、昔は昔、今は今、と考えているそうだ。
強い人だと思う。ヘルガさんが自分のことについてどんどん話してくれるから、俺も逆行のことを話した。信じられないような話のはずなのにヘルガさんは信じてくれて、一緒に立ち向かおうと言ってくれた。
俺は強くいられない。そう言ったことがあるが、ヘルガさんにそっくりそのまま返されたことがある。
「人は1人じゃ強くいられない。信頼できる家族や友達、恋人がいて初めて強くなれる。僕が強くなれたのはヴィーネ様とハルさんがいたから。2人がいなければ僕は弱いままだった」
この言葉は俺の心に深く刺さった。その通りだと思った。俺達は強くない。でも、仲間がいれば強くなれる。例えそれが1人でも。俺はこの言葉を一生忘れない。強くあろうと思わなくてもヘルガさん達と一緒に居れば強くなれる。
大丈夫。世界は崩壊しない。神会議で裁かれ、肩書きを失った邪神は完全に消滅した。不安定だった俺の心はもう揺れなくなった。
これからはもういない邪神の存在に振り回されず、直近でやりたいこと、やらないといけないことを全力でやろうと思う。
その第一歩として、魔石の有用性を証明してみせる。
「あ、そうだ。昨日少し実験をしていたんですけど良いことを思いついたんです。聞いてくれますか?」
「はい、もちろん聞きますよ。何ですか?」
俺の同意など得なくても良いのに。今の身分に差があるわけでもあるまいし。そう思ったが言うタイミングはなく、話は始まってしまった。
「ハルさん、僕に何でも良いので攻撃魔法打ってください。昨日の実験通りならこの魔石は攻撃を無効化できます」
「確証が無いのに攻撃するのですか?」
「ハルさんなら例え僕が致命傷を負ったとしても治せるでしょうし多少の手加減はするでしょう?」
「まあ、それは当然ですけど……危ないと思ったら逃げて下さいね。スピリットもいることですし逃げきれないなんてことはないと思いますけど……」
ヘルガさんが取り出したのは強化属性の魔石。先日手に入れた中で一番数が多かったものだ。俺はその魔石に向かってヘルガさんが魔物を倒す時に使っていた刃をイメージして攻撃魔法を放った。
ヘルガさんが本気を出せば首の一つや二つは簡単に吹き飛ばせるくらいの威力があるが俺がそれを使うのは怖すぎるので失敗しても軽い切り傷で済むくらいを意識した。
「まあ、第一関門は突破しましたね。弱い攻撃なら防げそうです。後は手加減を知らない魔物相手に効くかどうか……。ハルさん、付き合ってくださってありがとうございます。僕はこの魔石を使って護身具を作りたいと思っています。
僕達のものはもちろん、ハルさんのご家族にもお友達にも使ってもらいたい。僕達2人がが全力で攻撃してもこの魔石が守ってくれるなら、王族に売り飛ばすのもありです。守護者に壊せない物を人間に壊せるとは思いませんから。念の為、スピリット達にも協力してもらって」
「確かに、高値で売り飛ばせばかなりの臨時収入が見込めそうですね。屋台を出すためのお金は余裕で入るかと。森で実験してみましょう!」
「はい! そうと決まれば王宮に連れ戻される前に仮で完成させてしまいましょう!」
王宮に連れ戻される。なかなかのパワーワードだがいつかは本当に呼び戻されるので笑えない。
材料は魔石を使うとして、装飾はした方が良いよな。石単体だと目立ちすぎる。身につけていても不自然じゃない物を作らないと。地魔法で宝石の類とか作れるんかな。試してみよう。
今回の登場人物
・ハル(6歳)
・ヘルガ(8歳)
・マリア(4歳)
・両親
・バレッタ
・ヴィーネ神




