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9 両思い

 俺のせいだ、というアスールの言葉に、レティシアは首をかしげている。


「両親からは以前から様々なご令嬢との縁談の話がしょっちゅう来ていたんだ。はじめは律儀に返事を返して断っていたんだが、断っても断っても次々と縁談話が届いてくるからうんざりしてしまって」


 そのうち、両親からの手紙は開くこともなく放置する、ということが続いていた。中身を見ることすら億劫になっていたのだ。


 そして、今回の縁談についてもアスールは手紙に目を通すことなく、レティシアの縁談相手が自分だと気づかないままでいた。


「レティシアの縁談のことを聞いて、俺はどうしていいかわからなくなった。だからレティシアを諦めるために両親からの手紙にようやく手をのばしたんだ。そんな時、レティシアのおばあさまが突然やって来た」


 ちょうどノアールもアスールの元へやってきたタイミングで、レティシアの祖母もやって来たのだ。


「レティシアのおばあさまは、さっさとその手紙を見ろ、お前はいつまでレティシアを待たせるつもりかと言ってきて、何のことかと慌てて手紙を開いたんだ」


 そこには、レティシアとの縁談話が書かれていた。それを読んだアスールは驚愕し、そばで一部始終を見ていたノアールはレティシアの祖母を見て嬉しそうにニヤニヤと笑っていたという。


「俺は慌てて休暇を取って、レティシアのご両親の元へ挨拶に行き、自分の両親にも話をして、今こうしてレティシアの目の前にいる」


 アスールの話を聞いたレティシアは目を丸くしてアスールを見つめていた。


 まさか、自分との縁談相手が本当にアスールだったなんて。それに、自分を諦めるために両親からの手紙を読もうとした、とも言っていた。


「あの、私を諦めようとしたっていうのは……?」


レティシアが不安そうに聞くと、アスールは一度目を伏せてからふうっと息を吐いて、レティシアをしっかりと見つめた。その瞳には強い意思と熱い何が宿っていて、レティシアの胸はドキドキと高鳴っていく。


「俺はずっとレティシアのことを妹のように思っていた。それは嘘じゃない。でも、それがいつの間にかそれだけではおさまらなくなっていたんだ。レティシアの縁談話を聞いた時、俺の心は張り裂けんばかりでどうしようもなかった。レティシアが他の誰かの奥さんになるなんて信じられない、と」


 真剣にレティシアを見つめ紡がれる言葉に、レティシアは信じられずクラクラしてしまう。

 まさかアスールが自分に妹以上の気持ちを持ってくれていただなんて、あまりの嬉しさに体中の血が速く巡って、顔が赤くなっていった。


「ブランシュとレティシアが仲良くしていることも俺には耐えられなかったんだ。あんな風にブランシュに触れられているのを見て、許せなかった。そんな気持ちを持つ資格なんてないはずなのに」


 アスールはそっとレティシアの手を取って静かに口づける。突然のことにレティシアは驚きアスールをじっと見つめると、アスールは困った顔をして手をぎゅっと握りしめる。


「そんな可愛い顔をされると、抑えがきかなくなりそうだ。……レティシアは俺のことを兄のようにしか思っていないだろうけれど、俺はこの縁談をレティシアに受け入れてほしい」


 レティシアの手を取ったまま前にひざまずき、アスールははっきりと言った。


「レティシア、俺の奥さんになってくれませんか。俺のそばにいて俺だけを見ていてほしい。俺は君のそばにいて君だけを見る。君を生涯かけて幸せにしたい」


 アスールの求婚に、レティシアは信じられない思いでいっぱいだ。自分はただの妹のようにしか思われていないと思っていたのに、まさか自分のことを好きでいてくれただなんて。

 アスールを諦めるために縁談を受けるつもりだったのに、まさかその本人が縁談相手だなんて、どんな奇跡が起こったのだろうか。


「……やっぱり、俺じゃ嫌かな?俺のことは兄のようにしか思えないかな」


 驚きのあまり何も言えなくなっているレティシアを、どうやら困らせてしまっていると勘違いしたアスールは、不安げにそう質問してきた。


「ちっ、違うの。アスールお兄ちゃんが嫌なわけではなくて……その、私も、アスールお兄ちゃんを好き……になってしまっていたから……」


 顔を真っ赤にしながら目線を泳がせ賢明にそう言うレティシアを、アスールは呆然と見つめている。


「私は寮母として未熟だし、お兄ちゃんは団長だし、それにきっと妹として可愛がられているだけなんだって思っていたから、縁談話が来たときも、お兄ちゃんがどう思うかって不安だったの。お兄ちゃんは私の思う通りにすればいいって言っていたけど、私にとってはそれが突き放されたように感じて……でも、違かったんだね」


 ふわっと嬉しそうに微笑むレティシア。そんなレティシアの笑顔に、アスールの心はぎゅっとわし掴まれた感覚になり、今すぐにも抱きしめたい気持ちでいっぱいだ。


「……返事を聞かせてもらっても?」

「私で、……私でよければ喜んでお受けします」


 レティシアの返事を聞いた瞬間、アスールはレティシアを抱きしめていた。


「ごめん、あまりにも嬉しくてつい」


 謝りながらも、アスールは抱きしめる力を緩めない。レティシアはアスールの腕の中でクスクスと嬉しそうに笑った。





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