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短編集

勇者パーティーから追放された悪役令嬢は溺愛スキルを使ってスローライフを送るつもりが魔王軍の邪竜を誤ってテイムしてしまい異世界転移してクラスで五番目に可愛いギャルVTuberと出会ったが色々もう遅いっ!

作者: Ztarou

 落ち着いて聞いてください。今から話すことはすべて真実です。


 おほん。


 ──ある日、勇者パーティーから追放された悪役令嬢であるルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私は……。


 て、ちょっと! あっ! 待って待っていかないで!


 あの、ほんと、行かないで。……あのその、ここまででも嘘はついてないんです。あの、ホントに、誰も信じてくれないんですけど、その、私ほんとのほんとに伯爵令嬢だったんです。


 自分で言うのもなんですが、私のおうちは良いおうちだったんですよ。


 地代の徴収もそんなに厳しくしなかったし、極東から蹄耕法なんかを取り入れたりもして、領民さんのことを沢山考えていました。みんなから好かれていたんです。


 私たち、幸せに暮らしていたんですよ。


 でもある日、海の向こうのアングレ・テラ王国に現れた「魔族」による侵攻を受けてしまい、王国が傾きました。


 自国を守るために時の王だったフリック七世は魔術の研究に没頭するようになり、そのいとこである私の父エーデルワイス伯はより多くの資金を求められ、次第に領民さんからの信頼を失くしていきました。


 悪徳伯爵なんて呼ばれるようになって失意に沈んだ父は、次第に自暴自棄になっていき、遂には娘であるルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私をお金の為に嫁に出すことにしたのです。政略結婚ですね。


 はい、そしてこの時点でおじさん……フリック七世の巻き添えを食らった私は、領民から悪徳令嬢と呼ばれるようになりました。


 ふん、いままで優しくしていたのに窮地になったら手のひらクルーなんて良い御身分ですわね! と怒った私は本当に悪に染まってやろうと思い、セルフ闇落ち──悪役令嬢ルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私の誕生です。


 その頃父は巻き添えでヤケクソになっていたので、まあ責めることもできませんが、言い訳のひとつでもしてくれれば、許せたのかもしれませんね。死に目にあえなかったというのがずっと引っかかっております。


 父は、魔族──その頃には魔王軍と名乗るようになっていた敵軍の強襲部隊である「邪竜騎兵隊」の殲滅作戦に巻き込まれ残念ながら死亡しました。


 一方、私は悪役令嬢を演じていたころです。お相手は隣国隣領のカイゼル伯。立派な名前に違わぬ手腕の持ち主で、私の祖国から敵軍が流入するのを見事に防いでいました。


 そしてある日、まだ若いカイゼル伯は、自ら前線に出て魔王軍の打倒をすることに決めました。人々はその勇敢な様を見て彼をこう呼んだのです。


 勇者、と。


 はい、ここまででわかりましたね? 私はほんとのほんとのほんとに貴族令嬢だったんです! 色々あったせいで当時は悪役令嬢をやっておりましたが、今さら悪役のごとき嘘をついても意味がありませんからね!!


 それで勇者パーティーにいたというのも本当ですよ? このあとちゃーんと説明しますから。とにかく、勇者は出てきましたね!


 そうです。悪役令嬢ルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私の、夫である二十六歳イケメン伯爵&勇敢でお金持ちことライアン・セン・カイゼル伯が勇者なのです。


 勘の良いあなたならお察しですね? そうです。私もその旅に同行することとなったのです。なんで??? 当時の私はそう思いました。だって普通に考えて戦えないですし。


 でもカイゼル伯というのがまた厄介な人で、私のことがめちゃくちゃ大好きだったんですね。それはもうゲロ甘でした。


 戦場でも離れたくないとか言い出したので悪役令嬢らしく断罪されるために悪事を働いてみたのですがどれも失敗。断罪で流刑になった方がまだましだと思える様な、地獄の一方通行片道切符ハネムーンに旅立つこととなりました。


 婚約破棄をしようとも思いましたが、そもそも婚約というか結婚までしていたので無駄でした!


 船酔いに負けながらアングレ・テラ王国に渡り、数日。


 私たち勇者一行は魔王城までノンストップフルマラソンを始めました。頭おかしいでしょ。私、妻なんだが?


 って、え? 私に何ができるって? あー、そうですねそれを話していなかったです。


 私のおじさんこと王様を覚えていますか? はい、フリック七世です。魔術研究に狂ったおじさんでしたが、当時は結構私も懐いておりまして、だから巻き添えを食らいもしたんですが、おじさんこと王様は、私にある魔法を授けていたのです。


 それは、溺愛魔法。


 なにそれですわね。私も今自分で言っていて何それ状態ですわ。


 でも、魔法の内容はシンプル。


 この魔法は対象に「魅了」を付与して、私にデロデロのゲロ甘になるようにさせる精神支配魔法なんです。


 魅了魔法と違ってこれが厄介なのは、常時発動型な上に全範囲指定なところ。つまり、私の近くにいる人は私にデロデロに惚れてしまうのです。


 はい、もうお察しですね。


 勇者兼夫、二十六歳イケメン伯爵&勇敢でお金持ちことライアン・セン・カイゼル伯はこの魔法にどっぷりかかっています。


 私が幾度となく嫌々言っても抱き着いてきますしキスだって……。私はもっとプラトニックな恋愛が好みだったのですが、この魔法のせいで色々変わってしまいました。


 まあ、嫌というわけでも無きにしも非ずな可能性はあるのかもしれないという所です。


 閑話休題です。


 カイゼル伯ことライアンの問題点は、私を魔法によって好きになったという所なのです。魔法とはていが良いですが、悪く言えば呪いです。


 魔王討伐戦の数週間前、最後の祠という名前のダンジョンを攻略したときです。その奥底には、大昔にも現れた魔王を撃退したという「破邪の鎧」なるものがあったのです。


 これはすごい装備だと言ってうっきうきでそれを着用したライアンこと夫。


 夢から醒めたようにちらっとこちらを向き……ごみを見るような目で見てきたのでした。


 それで次になんて言ったと思います????


 ──この魔女め。俺をたぶらかしたな。婚約は破棄だ。そしてお前をこのパーティーから追放する!!!!


 ですよ?


 はぁ~??? ですわマジで。


 婚約っていうか結婚してたんですけど????

 誓いのチーッスもしましたけど?????


 まあもういいです。着の身着のままほっぽり出された私は行く当てもなく彷徨いました。


 はい。冒頭で言いましたあれです。ある日、勇者パーティーから追放された悪役令嬢ルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私です。


 まあいいんです。今となってはもう過去の話ですから。


 で、結局のところ溺愛魔法というある種最強の洗脳スキルを失った勇者パーティは魔王軍の幹部こと四天王でも最弱のヨリンガ二世にヘルファイアで焼き尽くされました。可哀想ですが、もう私には関係のないことです。


 その訃報が私に届いたころ、私はアングレ・テラ王国の北にあります牧畜が盛んな地域でのんびりと暮らしておりました。


 というのも私は悪役令嬢がすっかり板についておりましたので、溺愛魔法こと溺愛スキルを使うことに何の引け目も感じなくなっておりました。


 というか常時発動型の呪いなので解呪の仕方もわかりませんでしたけれども。


 というわけで農夫パパヨンスの家に居りました私は、住み込みで農業に勤しんでおりました。


 元々農業が好きでしたし、こちらの地域には渡ってきていなかった蹄耕法を広めたところ皆様に喜んでいただけたのです。


 勇者が死んで数年が経ち、私が「農業令嬢」と呼ばれるようになった頃──私はテイマーとしての才能を見事開花させておりました。


 テイマーと言っても溺愛スキルにちょっとだけ色目を乗せるだけですので簡単簡単でしたわ~!


 特に羊さんを動かす牧羊狼さんを操るのに長けておりました私はあちらこちらへ引っ張りだこです。


 ただ、ここから第二章が始まります。


 冒頭の続きですが──溺愛スキルを使ってスローライフを送るつもりが魔王軍の邪竜を誤ってテイムしてしまい異世界転移してしまって……。


 あっ、ちょっと、待って待って。ほんと、ほんとだから。


 いや、ジョークではないんです、マジなんですこれが。


 まず溺愛スキルでスローライフという所までは合ってますよね? え、それすら信じがたい? なんで魔王軍が跋扈してるアングレ・テラ王国でパパヨンスは農業なんてできていたんだ……ですって?


 勘の良い人ですね……。ええ、ハイ。私は嘘をつきました。実はパパヨンスという人は魔族です。普通の魔族です。ええ、その土地はもう完全に魔王軍の支配下にあったんですよ。


 私だってねえ、幸せな生活をぶち壊した魔王軍なんかに媚びへつらいたくなかったですよ! でもパパヨンスはチーズ作るのがめちゃくちゃうまいしママヨンスのマンドレイクホットパイはとっても美味しかったんです!


 あ、聞いてない? そうですか……。


 おほん。まあ、話題は逸れましたが、私は魔族の中でもなんとか元気に生きていたんです!


 なのに! 魔王軍の幹部こと四天王の第一席こと邪竜王ヤマタノオロボロスさんが私の農地に視察に来たんですよ!!!!


 あの人──というかドラゴンですけどめちゃくちゃでかいくせに畜産業のこと何にも理解してないせいで、土地をぐしゃっと踏んづけたんです。サイテーです。


 しかもよくよく考えたら邪竜王ことヤマタノオロボロスさんって私の父を襲った強襲部隊こと邪竜騎兵隊の代表だったんですよ?


 晩年の父と仲が悪かったとはいえ肉親を殺された恨みってものはあるのです。私はそれをヤマタノオロボロスさんに伝えたんです。


 すると邪竜王ことヤマタノオロボロスさんは滅茶苦茶泣きながら謝ってくるではありませんか。


 なんでも、兵隊を傷つけるのが仕事であり、罪のない市民を傷つけたくはなかったと言うのです。


 まあ、そう言われたらなんて返せばいいかわかりませんよね。それが嘘こいているようにも見えなかったので私は許すことにしました。憎しみは憎しみしか生みませんし、罪を憎んで人を憎まずという言葉も極東にはあるのです。


 すると邪竜王ことヤマタノオロボロスさんは私にすっかり懐いてしまって、そこには四天王の面影もありません。でっかい犬を飼った気分でルンルン数日過ごしました。


 でもある時ハッと気が付いたのです。それってもしやテイムなのでは……? まさかもまさか、大当たりです。私は誤って、魔王軍の邪竜を誤ってテイムしてしまったんです!!


 これで信じていただけましたか? ほらね? こんなに即興でペラペラリと嘘なんてつきようもありません。私の言ったことは事実なんです。


 まあ、溺愛スキルの誤作動なんて納屋のネズミとかに対してもよく起きていましたから特にどうとも思っていませんでした。


 ですがそれを良しとしなかったのはなんとあの魔王軍のトップこと代表者こと魔王その人だったのです。


 あれです、魔王はあくまで選民思想みたいなのがあるみたいで、魔族は優れているからその四天王ことヤマタノオロボロスさんが一般人間こと私にへこへこするなど論外だと怒ったらしいのです。


 その頃には私はヤマタノオロボロスさんの背に乗って大陸を飛び回ったりしておりましたが、残念、その時にちょうど暗雲の真下を飛んでしまいました。


 暗雲魔法というのは魔王の得意分野だそうで、つまりそこから放たれた雷には、魔王の魔法が乗っているというのです。雷で時空が裂け、私は異世界に飛ばされました。


 で、勇者パーティーから追放されてなんやかんやあって異世界転移した悪役令嬢ルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私になるのです。


 ほらね? ちゃんと説明できたでしょう?


 そうして第三章です。え? 第二章が短い? この間は実は三年くらい経っているんですが、スローライフなんてそんなもんですよ。朝四時起きで馬の世話をして──あ、良いんですか? 結構楽しい話も……。あ、はい続きですね。


 ──それで私は、異世界転移して、そのクラスで五番目に可愛い、実は陰でギャルVTuberをやっているオタクに優しい清楚ギャルと出会ったんですが……。


 え? 待って待って、待ってください! 行かないで! ここからが一番興味深いパートですよ????


 そうです。魔王に雷を落とされて異世界に飛ばされた悪役令嬢ルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私は、この世界「ニポン」にやってきたのです。


 一番驚いたのは、元の世界の「極東」という場所で話されていた「ニポンゴ」がここでも通じる事なのです。


 ええ、蹄耕法を学ぶために私は二年ほど極東に留学していた経験がありますので、実はニポンゴが話せるのです。


 え? さっきからそのテイコウホウってなんだって……ああ、蹄耕法ですね。簡単に言えばめっちゃ放牧してめっちゃ耕すみたいなイメージです。フォカイドゥでは良く聞きましたよ。え、ホッカイドウ? なんですかそれ。


 ともかく私はニポンに飛ばされて数週間ひたすらさまよい続けました。


 あ、食べられる雑草をパパヨンスから学んだことがあったので、お腹はペコペコでしたがなんとか生き延びてはいました。植生も近かったんです!


 で、ある日私を拾ってくれた家族がいまして、そこも農家のおうちだったので、私は肉体労働で部屋代とご飯代を返していきました。でました、農業令嬢こと私です。


 そうして春が来ました。


 私の住んでいた世界には春というのがなくて、咲き誇るソメイヨシノに心が躍りました。


 何と言っても私を拾ってくれたおうちの名前がヨシノだったのです。ママヨシノとパパヨシノの間にはコドモヨシノがいませんでした。だから余計に私が娘のように思えたと言ってくれるのです。


 ある日ママヨシノが紺色のドレスを持ってきてくれました。でもドレスにしては丈が短い……。


 そう思っていると、ママヨシノはそれを「征服」と呼びました。魔族も征服という言葉が好きだったのですが、ニポンでも盛んなのかしらと思いましたが、それは服の種類だと言うのです。


 試しに着てみると、なんと気分がルンルンになりました。ヤマタノオロボロスさんの背に乗った時よりもずっとルンルンです。


 そしてパパヨシノは、この春から学校という所に行くんだよと教えてくれました。私は説明を受けて、それが物を学ぶ場所──極東で見た、寺子屋だと理解しました。


 そして勇者パーティーを追放されスローライフに失敗し魔王に雷を落とされて異世界に飛ばされた悪役令嬢ルース・フェンフェン・エーデルワイスこと私は、高校生になりました。


 はい、現在まで時間軸が追い付きましたね??


 そうです。嘘じゃないんです。私が頭のおかしな子というわけでもありません! これでも元令嬢です。


 で、無事に転入手続きは終わったのですが、問題はここから。私が高校生になったのは三年生からで、皆さんお友達を作り終えた後。


 私は同年代の友達など領民のテレスか、隣領のナナンか、メイドのロカしか居りませんでしたので、人間関係の構築をとても難しく感じており、震えておりました。


 特にクラスで一番顔面の整ったマツエさんはどうやら態度が少し大きいようで、ヘルファイアの餌食にしてやろうかと何回も思いました。まあ、私にはヘルファイアなんて使えないんですけれども、ええ、心の中でヨリンガ二世を何度も召喚しました。


 それと、マツエさんに群がる金魚の落とし物の方々、ウブキさんとサナガレさんとマチジさん。彼女たちは私の居た世界では見たことがないほどちゃんと綺麗で、いい匂いもするのに、なんて狭量で心が汚いのだろうと思いました。


 ええ、この世界はとても清潔で好きです。ですが、一部の人の心が汚れている気がしてならないのです……。


 そんな四人の美女さんを見ながら、私はその日もむつかしい勉強に勤しんでおりました。ちなみに委員会は美化委員会です。農園いじりができますので。


 その委員会で出会ったのが、クラスで五番目に可愛い新潟さんでした。新潟の潟という字がむつかしかったのですが、練習したので今では書けます。


 どうやら美化委員会というのはあまり人気ではないらしく、私は自ら手を挙げたのですが、新潟さんは押し付けられたようでした。


 そうです彼女の第一印象が、クラスで五番目に可愛いというものです。え? 失礼? いえいえ、私の居た世界では「五」というのは最も尊く、美しい数字なんです。


 最上級の誉め言葉ですよ。愛しい新玉ねぎにだって五はあげたことがないんですから。


 新潟さんは楚々としていて大人しく、それでいて優しい、春キャベツのような女の子でした。彼女はクラスで浮いていた私に唯一お話してくれました。そしてお友達になったのです。


 ほら、段々追いついてきたでしょう? うんうん。そうです。やっとわかりましたか! 私は初めから本当のことしか話してないんです。


 そして新潟さんと知り合ってから少しした時、私の趣味である、動画サイトのランダム再生機能が一人の女の子を紹介してきました。


 え? 趣味が現代っ子ですか? だって泥と馬しかいない生活からここに来たんです。ちょっとくらい楽しんでもいいでしょう? ですです。


 紹介されたその女の子はまるで「絵」なのですが、動くのです。

 驚きました。私はその頃にはアニメーションを日に十二話消化するような「オタク」というものになっていたのですが、その「絵」の女の子は、アニメとは違うような動き方でした。


 それが「らいぶつぅでぃ」という技術で、その女の子が「ぶいちゅうばぁ」というものだと知ったのは少し後です。


 それで、なぜその女の子が気になったかというと、ぬるぬる動くということ以外に、とても聞き覚えのある声をしていたからなのです。


 私はその後一晩考えぬいて、唯一お話できる新潟さんにその声を聞いたことはないかと尋ねてみることにしました。


 翌日、私が新潟さんに話しかけた瞬間、びびっと電流が走りました。魔王の雷より衝撃的です。その画面の中の女の子の声と、クラスで五番目に可愛い女の子こと新潟さんは全く同じ声だったのです……!!!!!!


 でも画面の中の女の子──VTuberさんはなんと金髪でイケイケ、バイブスマシマシでピアスバチバチのギャルだったのです。だからすぐにはわからなかったんです!


 と、そのことを新潟さんに訊くのは、私とて少しはばかられました。

 もしかしたら隠していることかもしれないし、縁を切られてしまうかもしれない……そうです、私は「ねっとりてらしぃ」がちゃんとしているのです。


 でもそうして私が迷っていたある日の放課後……。


 ──ね、ルース・フェンフェン・エーデルワイスって名前で満額赤スパ投げたの、ルーちゃんだよね。


 そう言われて私はきゃーっと叫びました。なんと私は動画サイトの登録名を本名にしていたのです。「ねっとりてらしぃ」はダメダメでした。しかもお小遣いを貯めて五万円スパチャを投げたのもばれてしまいました。はずかし! 五は高貴な数字なんですよ!?


 ──ああいう子、好きなんだ??


 すこし挑戦的な目をしてニヤッとした新潟さんにゾクッとしてしまいました私は理解しました。嗚呼、私はこのオタクに優しいギャル概念には逆らえないのだと……。


 ですが新潟さんは、普段は清楚な大人しい女の子のはず……。


 おもむろに彼女は美しい黒髪を耳にそっとかけて、その耳にこっそりと開いたピアス穴を見せてきました。


 ──ルーちゃんだけの、秘密だからね。


 センシティブです!!!!!!!


 私は新潟さんの虜になってしまいました。それ以来私と新潟さんはもっともっと仲良しになり、そして現在に至ります──。


 ふふふ。


 ね、嘘偽りはなかったでしょう? これが私の人生というわけです。ええ、別に後悔はひとつもないんです。私の人生はそこそこ楽しかったなと思いますし。


 でも……ひとつだけ寂しいことがあるとすれば、私が皆さんと仲良くできるのは、この溺愛スキルのおかげなんだと思います。


 この呪いが、きっと私から何もかもを、いつか奪い去ってしまう。そう思うと、夜のうちにひっそりといなくなってしまいたいと、そう思ってしまうんです。


 ……まあ、そんなことを言っても、きっと何もかもが、もう遅いんですけれど。


         ***


「えっと、ルーちゃん?」

「どうしました?」

「この話って本気の本気の本気で言ってるの?」


 新潟なつきは三年生から転入してきた吉野ルースの作り話を優しく聞いていたつもりだったが、途中から帯びた真実味に、動揺していた。


「そうですよ。だって親友に嘘を言う道理がないですもの。私はもう悪役令嬢ではありませんから。元です」

「──そっか」


 新潟なつきは昔から可愛くて、いつもいじめの標的になってきた。彼女の話だって、本当は全部嘘で、仲良くなったのだって罰ゲームかもしれないと思った。


 もう誰も信用できなくなっていた。


 でも、彼女が語る世界は──彼女の瞳が映す世界は余りに色鮮やかで、それを疑うことがバカみたいに思えた。


 彼女は、出会った誰よりも、心が綺麗だ。


 だったらば親友として、私は導き出したひとつの解答を伝えなければならない。それが真実でなくても、彼女が心の枷から解き放たれるのなら、そうしよう。彼女が私にそうしてくれたように──。


「ルーちゃん。きっとあなたに溺愛スキルなんて、ないよ」

「え?」


 驚くルース。けれど、新潟は続けた。


「お父さんはきっと、あなたが大事だから隣の領地に逃がした。勇者さんはあなたが大事で、四天王に勝てないと悟ったからあなたを邪険にして逃がした」


 それがたとえ、祈りでしかないとしても。


「使いは、領民は、王様は、あなたがあと腐れなく旅立てるように、冷たく突き放した。パパヨンスもママヨンスもきっと単純にあなたが好きで、なんとかボロスさんもきっとそう」


 それが救いになるのなら。


「だからあなたに溺愛させる呪いなんて、無いんだよ。吉野のおばさんとおじさんもそして私も、あなたのことが、普通に大好きなんだよ」


 言い終わると、そっとルースの頬に涙が伝った。


 勇者パーティーから追放され溺愛スキルを使ってスローライフを送ろうとしたものの魔王軍の邪竜を誤ってテイムしてしまい異世界転移してクラスで五番目に可愛いギャルVTuberと出会った元悪役令嬢こと、ルース・フェンフェン・エーデルワイスは──そして小さく呟いた。


「……まだ、間に合うんですか?」

「間に合うよきっと。これからだよ」


 彼女は、少しずつ飲み下すように、そして編むように言葉を紡いだ。


「呪われた私が、幸せを、願ってもいいんでしょうか」

「いいよ。私がそれを肯定してあげるから」


 ルースは子どものように泣き出した。波乱万丈の人生はきっと彼女を無理やり大人でいさせたのだ。


 それでも彼女は出会うことができた。そんな「呪い」を解いてくれる人と。


 もう遅いなんて言わせない。ルースは間に合ったのだ。


「うわぁー------ん!!!!」

「よーしよしよし。ルーちゃんが投げてくれたスパチャで、駅前のパフェ食べいこっか」

「行きます~~! うわぁー-----ん!!!」


 農園に舞い散る晩春の桜は、優しく二人を見守っていた。

同作者は他の作品で、毎日投稿中です(^^)/


少し覗いていただけましたら幸いです(*^-^*)

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[一言] うおおおおお( ノД`)シクシク… そうだとしたらなんという優しい世界( ノД`)シクシク…
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