第二次シベリア出兵
2019年3月5日
ロシア スモレンスク近郊
もはや放棄された農地を米軍のM1A1が土煙を巻き上げながら進んでいた。
戦車のエンジンの重低音を聞きつけたのか帝国軍は戦車隊に砲撃を加え農地を耕していたが鋼鉄の怪物の前にはあまり効果がなかった。
そのうち戦車隊の部隊長の目には道路の上を2列になって進軍する帝国軍機甲部隊の姿が入った。
「射程に入った!」
「よし、撃て!」
「待ってました!」
戦車隊は綺麗に横一列に停車すると一斉に戦車砲を発射した。
砲弾は正確に多脚戦車の胴体に命中し、爆発させた。
「後退しろ!次弾装填!」
戦車隊は丘を陣取っていたので後退して反撃から身を隠した。
そして戦車隊が次弾を装填している間に戦場の女神が時速560kmでこちらへ向かっていた。
「おい!あれを見ろ!A-10だ!」
誰かがそう叫んだと同時にGAU-8の30mm機関砲が連続して地面で破裂する至近距離の雷のような音がし始めた。
その後機関砲を発射する音が聞こえた、弾の方が音より速いからだ。
「Yeah!やってやったぜ!」
「Fooooo!!!」
「装填完了!いつでも撃てます!」
「よし、前に出て撃て!」
戦車隊が別の位置からもう一度前に出る、流石に反撃されエメラルド色に輝く砲弾が正面装甲に直撃したが、戦車の装甲はちょっとしたマジックでは貫けなかった。
戦車の窓から外を見てみれば既に敵機甲部隊の多脚戦車の殆どが油を垂れ流しながら倒れており、そのうちの生き残っているものから慌てて魔道士たちが後部のドアを開けて展開しようとしていた。
しかしそれを戦車砲は捉えていた。
この奇襲により帝国軍の進撃は初めて挫かれた。
そしてここから国連軍の逆襲が始まろうとしていた。
作戦名、第二次バグラチオン作戦
2019年5月9日
東シベリア 自衛隊駐屯地
「やっぱりシベリアは寒いなぁ…冬とかどうなってるんだろうなぁ」
帝国軍との戦いで窮地に立たされたロシア政府は領土問題を抱える日本に対して北方領土返還を見返りにシベリアでの防衛を自衛隊に任せる交渉を成立させた。
そうして私達はこの5月なのにとても寒い地にいる。
それにわずかな街の他には木しかない、とにかく木、木、木、森。
GPSが使えないまま行軍したので何度も道に迷いそうになったがなんとか目的地のエニセイスクという街まで着いた。
街の東を流れるエニセイ川は北極海まで流れていて、この川を防衛線として帝国軍の極東進出を防ぐはずだが私達は難民が対岸に完全に渡るまで防衛線の向こうの市街地での防衛を命令されていた。
エニセイ川はそれなりに大きな川で橋も少なく、渡し船が人々を忙しく運んでいた。
その様子を眺められるほど配置された場所は街中ではなく、私達は森の中で道の方を警戒し続けていた。
しばらく待っていると突然風切り音が空を通り抜けていった。
音が去っていった方を見てみればそこには…竜がいた。
「こ、こちらスカウト1!3時の方向に向けて敵竜騎兵が数騎飛んでいった!オクレ!」
「こちらHQ了解、現場の対空機関砲で対処せよ」
「こちらアロー2了解」
遠くから機関砲の発砲音が聞こえたと思えば遠くで飛んでいた竜騎兵達は身を翻して北の方へ飛んでいった。
敵の威力偵察だったのだろうか?
「おい!あれを見ろ!」
「あれは…鳥か?」
私は目が悪い方だったのでよく見えなかった、しかしかなりの数があることは分かったし奴らはどんどん近づいてきた。
「おい!あれは鳥なんかじゃない!人だ!!!人が空を飛んでいる!!!」
ようやく輪郭がはっきりしてきた…あれは人だ、人が大きな箱のようなものを背負って足から青いものを噴射して飛んでいる。
それも6つの群れが編隊を組んで市街地の方へ飛んでいた。
「…こちらスカウト1、敵の…飛行歩兵を発見、3時の方向に飛んでいる、総数60程度、オクレ」
「こちらHQ…各自の小銃で攻撃せよ」
「空飛ぶ小さな小さな的を小銃で?」
「まぁ、やるしかないだろう」
既に市街地の方では銃声が聞こえてきた、爆発音も、それに魔法を使う時に出る高音も。
恐らく既に奴らは地面に降りて戦っているのだろう、数的にはこちらの方が有利だが…
「こちらHQ、スカウト1、至急アルファに行け」
「こちらスカウト1了解」
「やばそうだなぁ、絶対特殊部隊だよあれ」
「ここに戦車の一台でもあればなぁ」
そう言いつつも足は急いで街の方へと向かっている、私もカールグスタフを担ぎながら急いだ。
市街地はまさに混乱していた。
中身が空のボートが川下へ流れていき黒煙が破壊された民家から登り車が道路に乗り捨てられていたり銃声があちこちで鳴っていたりと東京を思い出す状態だった。
「この建物の中に入ろう!」
「了解!」
訓練通りの動きで屋内に侵入する、しかし訓練通りでない点は屋内に民間人がいる事だった。
「うぇぇぇぇぇぇえええん!!!」
「Все в порядке, эти зеленые люди позаботятся об этом.」
小さな子供とその母親らしい人だった。
「あそこだ、あの建物の右に一チームいる」
小声で敵がどこにいるのか見つけ出す、彼らも建物の中に入ろうとしているようだった。
ハンドサインで攻撃までの秒数を数える。
3、2、1…
数個の銃声がパパパパと響いたと思うと民家に突入しようとしていた彼らは全員倒れてしまった。
しかしそれは別の敵も呼び込んでしまった。
一瞬何かが向こうで光ったと思ったら目の前に火の玉が飛んできていた。
もはや私の人生もここまでか、そう思った時
横からの強い力を感じ、横に倒れた。
誰かが上に覆いかぶさっているが、それは隊長だった。
「おい!危なかったな」
すぐに仲間が反撃し始めた、しかし家の中は火で燃えている。
「うぇぇぇぇぇぇえええええん!!!!!!」
「ладно не плачь」
まだ子供は泣いている。
「まだ敵が来るかもしれない、どうせ今攻撃してきた奴らはもう移動しただろうから我々も別の家に移ろう!」
「了解!」
通りで家々の二階に小銃を向けて警戒していると、北の方から竜騎兵が2騎帰ってきてしまった。
「クソ!竜騎兵だ!どこかに隠れないと」
「高射特科はどこ行ってるんだ!」
そう言った途端にPSAMがどこかの家から放たれ、我々の前でホバリングしようと速度を殺していたところを一騎が羽の付け根に当たった。
上に乗っていた人間は振り落とされてしまったしもう1騎は既に回避機動を取っていたが、問題は堕ちてはいるがまだ元気な竜だった。
「GRAAAAAAHHHHH!!!!!」
「ああクソ、随分お怒りだぞ…!」
「カールグスタフだ!撃て!」
周りが小銃を撃って時間を稼いでいる間に弾を入れ、安全装置を解除し、構え…
その頃には既に1m先にいた。
「GRYAAAAAAAHHHH!!!!!!」
「ああクソ!これでも喰らえ!」
そう言って山口がナイフを手に竜の羽を切り裂いた。
「GRUAAAAAAHHHH!!!!!!!」
「今だ!撃て!」
撃った。
それは声を上げる事もできずに中身をモンローノイマン効果でめちゃくちゃにされて息絶えた。
「やったな!竜殺しだ!」
「警戒しろ!まだ敵部隊は残っているはずだ!」
そう言っていると何かの羽音がし始めた。
「お、あれは…」
AH-64D、戦闘ヘリだ。
敵を発見したのか機関銃で木の影を撃っている、きっと彼らはヘリ相手に何もできないだろう。
戦闘が終わり、遺体は掃除されたものの血痕は残ったままだった。
そんな街の掃除もせずに私はまた偵察任務に戻ろうとしていた、その時だった。
目の前にさっきまで泣いていたあの少年がいた。
「спасибо, зеленый человек」
正直何を言っているのか分からなかったがとりあえず笑っておいた。