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モスクワ陥落

2019年5月2日

ロシア モスクワ



モスクワは火に包まれていた。

緑美しい庭々は黒い炭と化し、建物は燃え落ちている。

その瓦礫の中でも祖国を守らんとロシア兵約10万人が両軍からの砲撃の中で戦っていた。


「あのマンションに移動するぞ!」

「火力支援を頼む!早く!」


アルマータ歩兵戦闘車が通りの向こうに30mm機関砲をばらまき派手な制圧射撃をしているすぐ下をロシア軍歩兵がしゃがみながら病院から向かいのマンションへと走っていた。


「空爆が来るぞ!伏せろ!」


かつて敵がいた所を連続する爆発が太い線をまっすぐ引くように爆風で覆っていく。


「多分やったはずだ!進め!」


その声と共にアルマータの後ろに歩兵がついていくような形で通りを前進する。

すると風切り音、そして爆発音と金属の悲鳴。

対戦車魔法によりアルマータは正面装甲を全壊、中の乗員も恐らく助かってはいないだろう。


「クソ!対戦車兵だ!!」

「あるだけ撃て!」


連続する雷鳴のような発砲音が街を支配する。


「граната!!!」


接近したスペツナズがグレネードを建物の中に放り込む、叫び声の次に爆発音、そして銃声。


「やったぞ!また魔法使いどもを1人やった!」


そう喜んでいる歩兵の頭上から帝国軍の魔導弾が降り注いだ。




2019年5月8日午後11時

モスクワ 赤の広場


6日間の激しい戦いは遂に終わりを迎えようとしていた。

既にモスクワ中の建物は廃墟と化しており、黒煙があちこちから登っている。

しかしその中でもロシア軍は首都を死守しようとしていた。


「なんとしても赤の広場は死守しろ!大統領命令だ!」


前線指揮官が前線に出てまで士気を保とうと努力していたが、どんどん破壊されていく街と何時間も連続する戦闘で兵士達の間には明らかに疲れの色が見えていた。

そんな中、赤の広場に急造されたバリケードの向こうで地響きが轟いた。


「クソ!またゴーレム、だ…」

「おい!どうしたんだ!早く迎撃の準備を…」


9M119対戦車ミサイルを構えたと思えば固まった兵士を前にそう促す前線指揮官、しかしその視線の先には今まで見た事のない群れがあった。

バリケードを踏みつけている6本の太い脚と長い大砲、そして紅く光る目を持つそれは明らかに新兵器だった。


「…あれが何だって良い!とにかく攻撃しろ!やらなければやられるだけだぞ!」


そう言って前線指揮官は固まっている兵士の体を退けて、照準を合わせ、発射した。

ミサイルはポンと発射筒から出たかと思えば急激に加速し、回転しながら秒速200mで多脚戦車の腰のような関節部に命中した。

兵士達の腹に響く爆発音が威力を証明していたし、実際命中した多脚戦車はよろめき、そばにあった建物を破壊しながら倒れた。


しかし彼らはとにかく数が多かった。


「…くそ、撃て!撃ったら装填してまた撃て!」


そう言って他の兵士達も9M113対戦車ミサイルを発射し始めた。

煙の軌跡が市街地を飛び交い、大抵命中した。

しかし多脚戦車は仲間の残骸を踏み潰しながら進撃した。

そしてその内の一体が砲身にエメラルド色に輝く文字のようなものを砲身に纏わせ、紅い目を一瞬光らせたと思うと一発の砲弾を放った。


それは戦場に似つかわしくない紫色の粒子を軌跡に残して9M113が設置されていたトーチカの一つを吹き飛ばした。


「クソ!なんなんだあのふざけた兵器は!」

「叫ぶな居場所がバレる!」


そう言って陣地転換したチームだけが砲弾の威力から逃れる事ができた。


「俺の後ろに立つなよ!」


そう言ってある兵士はRPG-29を発射して砲弾を放つ寸前の多脚戦車の胴体に命中させ、爆発させた。


「やったぞ!皆RPGをう」


彼は言おうとしていた言葉を言い終わる前に吹き飛ばされてしまった。


「航空支援はいつ来るんだ!」

「もう何日も来てないだろ!砲撃は頼んだのか?!」

「もうすぐ来るはずだ!」


その声と共に幾つもの榴弾が同時に爆発し天地にその轟音を轟かせる。

そのうちのいくつかは多脚戦車のすぐそばで爆発し、脚を吹き飛ばして動けなくさせた。

その上地面の細かい瓦礫を爆風が巻き上げて視界を悪くした。


「煙のせいで照準が…」

「今のうちに移動するぞ!」


そう言ってまた陣地転換しようとする対戦車兵、しかし発射器を片付けて終わる頃には煙が晴れ、ついにやられたはずの多脚戦車の群れがもう一度姿を現した。


「クソ!まだ生きてやが」


やはり言い終わる前に彼は砲弾で吹き飛ばされてしまった。


「もうダメだ!撤退するしかない!」

「おい勝手に逃げるな!逃げても奴らに踏み潰されるだけだぞ!」


しかし既に赤の広場を守っていた兵士の多くは戦死したか姿を消しており、このままでは全滅するしかないのは目に見えていた。


「おい!増援が来たぞ!戦車だ!」


T-90戦車だ。


「やった!これでかて」


それは一瞬で多脚戦車の群れの集中砲火を受けてすぐに爆発炎上した。


「クソ!クソッタレ!どれだけいるんだこのクモどもは!」

「だから叫ぶなって居場所がばれるぞ!」


いくら撃ってもまだ後続が来る多脚戦車を前に遂に終わりの時が来た。


「敵が増えたぞ!魔法使いどもだ!!」


多脚戦車の残骸に隠れながら帝国軍の魔導士達がじりじりと赤の広場にじり寄っており、既に装甲車は破壊されているので対戦車ミサイルと僅かな小火器しかない彼らに勝ち目はなかった。


「やってられるか!俺は家に帰るぞ!」

「お前の家は奴らに占領されてる所にあるだろ!」


士気が崩壊し兵士が逃走し始める、もはや敗北しか指揮官の目には映らなかった。


「…撤退だ、司令官に新型の兵器が現れたと伝えろ」


重火器を捨てて身軽になった兵士達が既に橋が落とされたモスクワ川を渡って対岸に逃げ始める。

その様子を多脚戦車達は特に攻撃せずに見つめる。後ろでは魔道士達は歓喜の声を上げながら時計台に浮遊魔法で登り、帝国の赤い旗を掲げていた。


かつてはドイツ軍さえ退けたモスクワは遂に帝国軍の手に落ちた。




『モスクワ陥落』

そのニュースはヨーロッパ全土にすぐに伝わり、ヨーロッパへの帝国軍の侵入を印象付けた。


しかしそれを世界の警察は黙って見ていなかった。


アメリカ合衆国主導の平和維持軍はヨーロッパで編成を終えており、攻撃命令を待っていた。

最新鋭のF-35戦闘機が空中で、大西洋艦隊はバルト海で、そして海兵隊と陸軍は主要都市で防衛の準備を進めていた。



そしてロシア軍もやられてばかりではいなかった。


司令部はサンクトペテルブルクに移り、陸軍は大規模な動員により徴兵された兵士達の訓練を終え前線に送り出しており、航空宇宙軍は米国と共同で次々と地球にやってくる帝国軍宇宙艦隊を迎撃するための宇宙船の開発を進めていた。


日本を含めた地球上の国家の殆どが臨戦体制に移っており、侵略を受けている中央アジアやロシアに軍隊を送っていた。




科学文明の反攻が始まる。

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