国交…樹立?
2018年12月25日
モスクワ ロシア軍司令部
明らかに彼らの戦力は増大しているように感じられた。
ウラル山脈を占領された事でロシア東部と西部が分断され、東部は中国軍に任せて撤退し東部の防衛に回る事が決定されたが、その時間稼ぎは中央アジアの国々を犠牲にする事で成り立っていた。
中国軍と共同で遅滞戦闘に取り組んでいたが、彼らは今までの魔法使いの歩兵だけではなく今やゴーレムのような機甲戦力や魔導砲兵のような砲兵戦力、そして竜騎兵のような航空戦力を有している。
竜騎兵に関しては戦闘機よりも旋回半径が狭いためにドッグファイトにおいて強力だしその上どこで覚えたのかチャフのように金属片をばら撒いたり魔法で火の玉を散布してフレアのように運用したりとミサイル対策も施している。
指揮官としてはうちにぜひ欲しい戦力であったが、どれも敵しか使っていないものだった。
一方で戦果を上げている兵器もある、ドローンだ。
最近は大規模な戦争がなかったために新兵器の開発は進んでいなかったが、各国からロシアに供与されたドローン達はどれも素晴らしい戦果を上げている。
ロシアでも国産のドローンを作るべきという意見も上がっているくらい強力な兵器だった。
しかし強力な兵器だけが戦争の推移を決める訳ではない、戦況は今の所劣勢だ。
インドも首都デリーを失ったが徹底抗戦を宣言してビンジア山脈に防衛線を築き、我が国からの武器供給が途絶えてもアメリカから武器を供給されて戦闘を継続している。
前の大戦の時と同じように根拠もなくクリスマスまでには終わると言われていた戦争もついにクリスマスを戦時下で迎えてしまった。
戦争は長くなるだろう。
2019年2月13日
国連総会
ニューヨークの国際連合本部ビルには各国から国家首脳が集まっていた。
ついに魔法人の言語の翻訳に成功し、捕虜に通信魔法を使わせる事で通信の確立に成功した事で異世界の国家の一つ、クッソニア共和国と通信が確立したからだ。
そして今ここに国連事務総長を代表として異世界との国交が…あまり平和的でない形で確立しようとしていた。
国連の演説台の前に椅子が用意され捕虜が座わっており、念話用の機械を膝に乗せている。演説台には国連事務総長が立っており人類で初めて公式に異世界人と話そうとしていた。
機械が発声したのは若い女性の声だった。
「はい、クッソニア外務省です」
「我々は国際連合です、あなた方と国交を結びに通信しています」
「…公共機関に対する悪戯念話はクッソニアでは重罪ですよ、今電話を切れば見なかった事に…」
「悪戯電話ではありません、私達はあなた方が侵略している地球の国家連合です。外交関係を結ぶために今私達は公式に…念話とやらを送信しています、ご理解されましたか?」
「…上層部と繋ぎます」
しばらくすると今度は壮年の女性の声が聞こえ始めた。
「…外務省大臣のメリタです、まず初めに説明させて頂きますが、クッソニア共和国は国の交戦権を認めていない、平和主義国家であり他国を侵略などしておりません。
ただし、我が国の隣国である帝国が…あなた方の領土を侵略していると我が国は考えております」
「帝国…何帝国なんですか?」
「帝国という名前の帝国です。
彼の国と我が国の間には最近戦争があり、その結果として我が国は平和主義国家になったのです」
「その国が地球国家を侵略していると?」
「えぇ、良ければ我が国の回線を経由して、自動翻訳魔法行使下での帝国との会談も可能ですが、どうでしょう?」
「…安保理で検討します」
既に外交官と首脳達のお互いに話し合う音で国連総会は随分騒がしくなっており、事務総長の判断で勝手に帝国と会談する事もはばかられる雰囲気になっていた。
その後安保理が開かれ、帝国と会談する事が決定された。
2019年2月15日
安保理
帝国との会談は安保理の理事国のみが出席する事になった。
帝国が会談の日程調整の段階でひどく敵対的な態度を見せていたからであり、人々に余計な不安を与えないために安保理での会談が決定された。
しかし話すのはやはり事務総長だった。
「…帝国外務省のルスクである」
「国際連合事務総長のグルステです。早速会談を始めて行きたいのですがまずは_」
「なぜ我々があなた方の国々を侵略しているのかについて聞きたいんだろう?
理由は簡単だ、あなた方…いや貴様らの国々は国と呼べない政体…民主主義と呼ぶのかどうか知らないが、それによって運営されているからだ、貴様らの国々は国ではない。
よって我々は侵略などしておらず、単に地球入植の上で危険を排除しているのみだ。
これは貴様らの民に伝えておくべきだろうが、原住民である貴様らには帝国の3等国民になる権利が与えられている、抵抗する場合は容赦なく踏みにじるが帝国に併合される事を望むなら、今の民が民を支配する矛盾した社会構造から脱出し皇帝陛下の下の秩序で平穏な暮らしができる事だろう、それと_」
「ふざけるな!お前らは我が国の国土を破壊しているんだぞ!」
最初に声を上げたのはロシアの代表だった。
「…確か貴様らの共同体の名前は…忘れたな。
ともかく貴様らの歴史の中にも王や皇帝が民を支配していた歴史があるだろう?そしてそれは何百年も続いていた…貴様らの民主主義とやらがせいぜい数十年しか続いていないにもかかわらずだ。
つまり、絶対的支配者が国を支配する体制こそ自然なものであり、民が民を支配するなど無政府主義に準ずる破滅的な政体という事だ。
ここまでは貴様らの頭でも理解できるだろうが、ここからはその中でも聡明な者に向けて話そう」
既に全ての国の代表が怒りを抑えていたが、それでもルスクという名の外交官は長々と話を続けた。
「我が国もかつては小さい王国群が王位の継承権やちっぽけな領土の領有権を巡って争っていた…これも支配者がいないから起こった暗黒の時代だ。
しかし今は皇帝陛下という絶対的支配者の下でこの国のみならず世界中の秩序が保たれている。
…おっと、きっと貴様ら民主主義者はこう言うだろうな、『あらゆるひみんちゅちゅぎせいたいはかならずふはいしてさいごには崩壊すりゅ!』、馬鹿げた理論だ。
皇帝陛下の一族には特殊な魔法がかけられていて、必ず民のために尽くす思考パターンが形成されるのだ。よって暴君がこの帝国を支配するなどという事はありえん。
聡明な者ならこの政体が貴様らの分断した世界を支配する民主主義より優れている事が分かるだろう。
分かったらさっさと貴様らのちっぽけな愛国心など捨てて民の安寧のために帝国に併合される事だな」
ロシアの代表は既に憤慨していたので問題なかったが、アメリカの代表は怒りを抑え込もうとして小刻みに震えながら小声でFワードを連発している。対照的にイギリスの代表は今にも皮肉を言いたそうな笑みを浮かべており、それを見るフランス代表は懸念の表情を浮かべていた。
しかし例外的だったのが中国代表だった。
(もしかしたら帝国の魔法は中華世界の発展の為に利用できるかもしれない)
中国共産党は腐敗に悩まされていた。
しかし帝国の「魔法」を官僚や共産党幹部に使えば中国が長年渇望していた優秀で忠実な官僚が手に入る、それは中国代表にとって魅力的な話だった。
もっともそれは帝国を倒した後になるだろうが、戦後の世界における中国の躍進は約束されたように中国代表は感じていた。
結局人類は一つになれないのだ。