反撃
2018年2月3日
カシミール地方 中国軍支配地域
「クソ!インド軍の連中もパキスタン軍の連中も一体何を考えてるんだ!」
銃声の鳴り響く前線基地でそう叫んだ。
世界各地に降下しているUFOどもはここカシミール地方にも降下してきたが、これを我らが中国軍は撃滅せんと攻撃した、それがまずかった。
奴らは巧妙に我が軍をインド軍、パキスタン軍支配地域に誘導し、越境させたのだ。
そして同様に両軍も誘導され我が軍と鉢合わせし戦闘が始まってしまった。
これが本部に知れたら俺の首は間違いなく…物理的に飛ぶだろう。
それ以前にここで死ぬ可能性も高い。
「クソ!クソッタレ魔法使いどもが!」
もはや我が軍のジェットの音も聞こえなくなった、全て魔法使いどもに撃ち落とされたのだ。
それに銃声はだんだん近づいてきたし、何なら奴らは攻勢を仕掛けてきて我々を包囲している。
「クソ!クソ!」
拳銃の薬室に弾を込め、ドアに向ける。
ドアが開きかけた瞬間にドアの向こうに向けて撃ち始めた。
バンバンバンと銃声が部屋の中に響く、そして叫び声、やったか?
ドアを開け、下を見る。
倒れていたのは我が軍の戦闘服を着た兵士だった。
「あ…あぁ…」
これで俺は間違いなく死刑だ、目の前が真っ暗になる。
そしていくつかの足音がした後に弓を引く音が聞こえた、きっと奴らだ。
これなら奴らに捕まったほうが生き残れるかも知れない。
俺は銃を捨て両手を上げて降参した。
どうやら両手を上げる動作は彼らの中でも同じ意味を持つらしく、彼らは俺の手首に縄をかけると山の奥深くへと連れていかれた。
その瞬間だった。
「死ね!裏切り者!」
反射的に後ろを向くと自動歩槍をこちらに向けている我が軍の兵士が…
2018年2月5日
日本 首相官邸
官邸内は騒然としていた。
安部総理が官邸に入るとまず防衛大臣である小川氏が対策本部に着くまでの間に状況を説明した。
「まず北海道で確認されていた敵基地からの動きは確認されておりません、一方で長野県と岐阜県に新たな敵基地が確認されており、東部方面隊と中部方面隊が対応しています」
「破壊できないの?」
「敵基地は自衛隊の攻撃をバリアのようなもので防いでおり、陸上部隊も敵がどのように攻撃するか分からない以上接近できない状況になっています」
安部総理はそれなりにイライラしていた。
日本の国土と主権が正体不明の敵に侵されているのだ、国民も危険にさらされている。
それにバリアなんて謎の技術を使う敵を相手に戦争をせねばならないというストレスは彼の胃の持病に悪い影響を与えていた。
「また海外ではカシミール地方や中東などの紛争地域に集中して降下しており、一部地域では支配の確立に成功したものと見られています。
またロシアとアメリカでは上空で飛行していた敵不明飛行物体を撃墜する事に成功したと見られています」
「破壊できるんじゃん」
「しかしアメリカは上空で飛行している、レーダーにも映らない敵不明飛行物体を撃墜する事で破壊しているため参考にならず、ロシアは10万発以上の砲弾を撃ち込んで破壊しているため参考になりません」
「…そっかぁ…」
自衛隊は保有している弾薬の数が少ない。
その継戦能力は三日程度と言われており、一つの敵基地を破壊するのに10万発も砲弾を使っていてはすぐに戦闘を継続できなくなる。
それなら敵が攻撃してきた時に迎撃して敵戦力の方を破壊したほうがいいというのは理に適っていた。
対策本部に着くと部屋の中の自衛官達が安部総理に敬礼した。
彼は敬礼し返すとすぐに作戦会議を始めた。
「10万発使えば敵基地を破壊できるっていうのはどうなんですか?」
「自衛隊の保有弾薬の量を単純計算して言えば数十個の敵基地なら破壊できますが、実際には戦闘でも砲弾を消費するためそれより少ない数が破壊できる数になるでしょう」
「破壊してバリアの構造を分析すれば、同じものを作れるようにはならないんですか?」
「…それについては未知数です、去年の襲撃事件の際に回収した敵船を分析した結果核融合エンジンにより推進している事は分かりましたが、どのように核融合を実現しているかはわかりませんでした」
「…じゃあ長野県に降下している敵船を破壊して、その構造を分析するっていうのはどうですか?」
「その意見は部隊の中でも出ていました、では、そうする事にしますか?」
全員の賛成を得ると会議の結論が出た。
翌日
長野県
耕作放棄された畑の敷地にいくつもの榴弾砲が並べられている。
「撃てぃ!」
その号令と同時に全ての榴弾砲が同時に発射され、轟音に驚いた野鳥が一斉に飛び立った。
「だんちゃーく」
砲弾は敵船へと向かっていき
「いまっ!」
バリアの透明な膜の上で砲弾が弾けた。
しばらくして爆発音が響き、確かに効果があると思わせた。
「装填完了!」
「撃て!」
「だんちゃーく、今!」
その号令が何度も繰り返され、日が沈みまた登り、その間ずっと砲撃が続けられてようやく効果が現れた。
透明な膜にヒビのようなものが入ったのだ。
すると今まで沈黙を保っていた敵艦隊のうちの小さい船が動き出した。
重低音を山に響かせながら浮かんだのだ。
バリアの膜を通り抜けると船は砲撃陣地へと飛び立った。
「敵飛行物体の離陸を確認!」
「待機中の戦闘機全てに迎撃を命じる!攻撃開始!」
「FOX2!」
戦闘機の編隊がミサイルを発射し、敵船へと吸い込まれていく。
敵船は回避しようとするような動きを見せたが躱しきれず、全てがその横っ腹に命中し爆発した。
金属の悲鳴を上げながら胴体を二つに割って墜落していく。
「敵飛行物体撃墜!」
本部に歓声が響く。
「だんちゃーく、今!」
今度は砲弾はバリアにより空中で爆発する事なく、ヒビだらけになったバリアを通り抜けてついに敵船の上で爆発した。
「バリア無効化!」
「よし、陸上部隊攻撃開始!」
普通科によって安全を確保された山道を10式戦車が進む。
そして敵船のある開けたクレーターに出ると周りに立てられたテントに戦車砲を喰らわせた。
この時点でほとんどの敵が破壊されているが、それでもまだ船の中から多くの敵が出てきて例の火の玉を戦車に命中させ、装甲をへこませた。
しかし戦車の前でそれは無駄な努力だった。
腹に響く轟音が一斉に響き、叫び声さえ残さずに敵を殲滅した。
「普通科部隊攻撃開始!」
これだけ破壊のかぎりを尽くしてもまだ船の中に敵兵は残っている。
最後に戦うのは結局歩兵なのだ。
数十両のLAVが敵船の側で停車し、普通科隊員が銃を構えて出てくる。
そして彼らはひしゃげたゲートから船の中へと侵入した。
小銃の連続した銃声と手榴弾の爆発音が廊下に響く。
いくつもの部屋を制圧しながら進んでいたが、突然彼らはアンプに通電した音を聞いた。
「…コウフクシマス…」
不慣れな日本語での降伏宣言が聞こえた瞬間全てのドアが開く。銃を構えながら彼らが艦橋と思しき部屋に出ると水兵風の服に身を包んだ敵兵が両手を上げていた。
自衛隊の勝利である。