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札幌の戦い

2020年7月19日

北海道 札幌


住人の名前も知らないアパートの一室で俺は窓の外に双眼鏡を向けて何事も無いことを祈りながら外を監視していた。

窓の外には広い駐車場が広がっており、視界は良かった。しかしそれは敵にとっても同じ事が言えるのでやや不安だった。

砲声と銃声が遠くから響き、他人の部屋に無断でいる事と相まって非日常感を感じさせた。


「まさか札幌がこんな事になるなんてな、ちょっと前までは平和だったのに」


既にあの厄介な船が来てから一週間が経っていた、風呂にも入っていないので体中痒いし恐らく臭い、少なくとも俺の後ろで休憩している田中はここからでも分かるくらい臭い。

雨が降っていて濡れているのも臭さの原因の一つになっているに違いない。


そんな事を考えていると…いた。


「こちらスカウトワン、敵歩兵分隊を確認、オクレ」

「マジかよ、クソ」

「…こちらHQ、増援を送る、必要なら反撃せよ」

「…反撃って、何すりゃいいんだよ」


小銃の安全装置を単発に切り替える、小銃を向けて、監視を続ける。

敵は各々の銃か杖か釈然としない物をあちこちに向けながらゆっくりと歩いている。


「おい田中、一階に行って部隊長に伝えてきてくれ」

「おう、分かった」


見つからないようにするのを優先して窓からの視界から外れた壁の後ろに隠れる。

耳を澄まして敵の音を聞こうとしたが、雨音に紛れて全く聞こえなかった。代わりに田中が金属製の階段を下る足音は聞こえた。

田中が着いたのか一階からドタバタ音がする…

と同時に窓の外からそれなりに大きな声が聞こえてきた、外国語のようで何を言っているのかは全く分からない。

窓の外を覗こうとした瞬間、轟音が耳をつんざき目の前が真っ暗になった。





目を開くと部屋の中のタンスが倒れており、色々なものが床に散乱していた。


「おい田中?」


返事はない、窓の外を覗いてみた…敵の部隊の全員は杖の先をこちらに向けていた!

反射的に伏せる、頭の上をピュンピュン音を立てながら何かが飛んでくる。

訓練であれだけ鍛えた匍匐前進のやり方も忘れてとにかく逃げようと前に進み、玄関までたどり着くと立ち上がりその外まで走った。

外の廊下は右に続いていたが、下に降りる階段まで行けば奴らの視界に入ってしまう。

正面の柵を乗り越え、ぶら下がり、手を離し、5点着地で下に着地した。

敵はまだ部屋を撃っていた、助走をつけて敷地を分けているコンクリートの塀を乗り越えて隣の民家の庭から外に出ようと走り出しながら無線機を取り出した。


「こちらスカウトワン!本官以外の隊員全員が敵の攻撃を受け消息不明!増援を要請する!それと後退の許可を!オクレ!」

「……こちらHQ、増援は既に派遣している、それまで耐えてくれ」


一度止んでいた銃声が再び聞こえ始めた、道路まで出ると左の方に行って逃げようか迷ったが、後退の許可はされなかったがためにそれはできなかった。

なので右の方に行って、コンクリートの塀から小銃を敵のいた方に向けた。


まだ部屋の中を撃っていた彼らの一人に照準を合わせ、撃った、その隣も撃った。

耳元をグオンと音を立てながら何かが通り過ぎた、すると後ろで大きな爆発、身を隠す。

どうやらその弾は俺に当たらずに道路の突き当たりにある建物に当たったようだった。当たったであろう駐車場は炎上している。

それに銃声も聞こえ始めた、流石に無謀だったようだ。


民家の中に入り直して、玄関から階段を登り、寝室と思しき部屋のドアを開ける。

窓を開けて、手榴弾を手に持ち、壁に隠れる。





しばらくすると雨音に紛れていくつも足音が聞こえ始めた。

窓の外を覗くと…やはり警戒しながら歩いていた。


「………!!!!!」


そのうちの一人が何か叫んだが手榴弾を投げ、後ろに倒れて伏せた。

また頭の上を弾丸が飛んでいたし、何かが家の外壁に当たって爆発し天井を崩落させて轟音と共にまた目の前が暗くなった。





目を開けると目の前に瓦礫があった。

どうやら隣にあった棚に瓦礫がひっかかって俺が瓦礫の下敷きになる事はなかったようだ。

窓の外を見れば…奴らが倒れていた。


「…ハ、ハハ、ハ………」


笑うしかなかった。

一度立ち上がったのに地面にしゃがみ込んだ。

しばらくして通信機を取り出した。


「…こちらスカウトワン…敵分隊を全員殺…無力化した、隊員の安否を確認しに行っても良いか?オクレ」

「……こちらHQ…許可する」


立ち上がって瓦礫をうまく通り抜けながら外に出た。

敵の死体の間を歩いて、さっきのアパートまで歩いた。

開けっ放しにされたドアの隙間から中を覗くと…あまり見たくない光景が広がっていた。


階段を登って監視所にしていた部屋まで戻る、ボロボロになった壁を一瞥しながらベッドの上で横になった。


しばらくするとまた足音が聞こえ始めた。

外の階段を登る音がする。


「待ってたよ、全くひどい目に遭っ…」


目が合った、奴らだった。


「…!!!!、!!!!!!」

「ああクソ!」


反射的に拳銃を取り出して撃った。

倒れるまで撃つと叫びながら奴は倒れた。


「!!!!!、!!!!!!!」


ドアの外から声がする、逆方向からきたのだろう。

俺は壁に隠れながら小銃をドアの方に向けて構えた…すると何故か銃声が、しかも聴き慣れた89式小銃の銃声が聞こえ始めた。

しばらくすると雨音だけになった。


ドアの外に出て道路の方を見てみる、するとやってきたのは高機動車だった。


「あ…あぁ…」

「おい大丈夫か?!敵は!?」


俺は安心して気を失ってしまった。目覚めた天井は病室…ではなく高機動車の中だった。


「どうやら君は一時的に私達の隊に入るみたいだから、よろしくね」

「あ…あぁ…よろしく」


まだ戦わなければならないようだった。

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