大気圏強行突入
2020年7月11日
地球静止軌道周辺
敵艦隊はたった7日で静止軌道まで移動しており、それを追撃する国連艦隊のΔVの消費は激しかった。
敵艦隊が減速しつつある中で国連艦隊は逆に高度を下げて速度を得ながら加速していたためなんとか軌道を近づける事ができた。
しかし相対速度はかなり速く、接敵時間は短めになる事が予想された。
「敵戦艦ではなく敵輸送艦を沈めろ!奴らが地上に降下すれば全世界が奴らの危険に晒される事になる!」
国連艦隊の大型レールガン砲の一斉射撃が戦闘の始まりを告げた。
大型レールガン砲は発射した戦艦に船体を伝って大砲の発射音のような轟音を響かせ、小型ロケットモーターを搭載した誘導砲弾は目標に正確に命中しようとしていた。
対して敵艦隊は前回はミサイル迎撃に使っていた魔導レーザー砲を今度は砲弾の迎撃に使っており、虚空の中でいくつもの迎撃された砲弾の爆発が連続していた。
しかし発射された無数の砲弾の全てを撃墜する事は叶わず、国連艦隊の砲弾は敵艦隊の発していた最も大きな熱源…レーザー砲の放熱板に命中した。
「戦闘機を全て出せ!敵魔導機関砲にだけは注意するよう伝えろ」
空母レキシントンの側面の射出機からいくつもの有人戦闘機がポンポンと打ち出され、発進していく。
「ドローンばかりがソラを支配するなんて、冗談だろ?」
小型原子炉を後部に、レールガンと機関砲を前部に、そしてミサイルを船体に巻き付けている円筒状の戦闘機達はドローンにも負けない火力を有していた。
「敵対空砲火だ!ミサイルを撃て!」
戦闘機隊が接近し、敵対空砲火に晒されるとそれを分散するためにミサイルが発射される。
目論見通り敵艦隊はミサイルの迎撃を優先せざるを得なくなり、戦闘機隊はこれ幸いとレールガンを発射し始める。
しかしミサイルが全て撃墜されてしまうと今度こそ戦闘機隊は対空砲火に晒され始め、特にレーザー砲が戦闘機に深刻なダメージを与え、ついに戦闘機隊のうち一機が撃墜された。
「クソ!23番機がやられた!」
「もっと加速しろ!敵艦隊の間をすり抜ける以外に生きて帰る方法は無い!」
「おい!フレアを出したら奴らの狙いが逸れたぞ!」
「本当か?!」
その声とともに戦闘機隊からフレアが発射され、黒色の宇宙を鮮やかな赤で染めた。
するとレーザー砲の多くは狙いがフレアに逸れた。どうやら赤外線誘導で狙いを付けているようだった。
そのうち敵艦隊は戦闘機隊の機関砲の射程に入り、黄色のトレーサーを載せた弾丸が赤で彩られた黒色に黄色の線をいくつも描き加えた。
「敵15番艦撃墜!」
「42番艦もだ!」
「12番もやったぞ!」
機関砲の一斉射撃は威力が絶大で、いくつもの輸送艦と推測されていた船を撃墜していく。
しかし多くを撃墜する事は叶わず、そのうち敵艦隊の隙間を戦闘機隊がすり抜けてフライバイしてしまった。
もう戦闘機隊のΔVも少ないので反転してもう一度インターセプトする事も叶わず、戦闘機隊は戦闘から離脱していった。
その頃提督は思考を巡らせていた。
(もしこのまま艦隊を突撃させたら敵艦隊を壊滅させる事はできようが、こちらの艦隊も深刻な被害を受けて次の襲撃に対応できなくなるだろう…)
「現在の軌道を維持し、遠距離から砲弾を浴びせろ!」
実際それは正しい選択で、敵の保有する艦隊の総数が分からない以上ここで大きな損害を被るのは悪手だった。
その後国連艦隊も敵艦隊をフライバイして戦闘は終結した。
一週間に及んだ2回の戦闘で国連艦隊はいくつかの艦艇の小破とドローン、戦闘機を損失し、敵艦隊のうち三分の一を撃墜した。
しかし敵艦隊は残存し、分散して地球への大気圏突入を図った。
「おい!あれを見てみろよ」
「まぁ綺麗、砕けてるものもあるわ!」
地上から見ると美しく見える大気圏突入も損傷した艦隊にとっては非常に危険なものであり、いくつかの艦艇は熱で破壊されてしまった。
2020年7月12日
アメリカ ニューヨーク
「現在戒厳令が発令されています!市民の皆さんは落ち着いて付近の地下鉄などの安全な場所に避難してください!」
いつもは人で溢れているニューヨークの通りも今は無人になっている。
歩道のそばで車が乗り捨てられている通りをM1エイブラムス戦車が最高速度で走っていた。
「敵はジョンFケネディ国際空港に着陸している!戦車砲で吹き飛ばしてやれ!」
その近くまで来ると既に銃撃戦が始まっており、家々に魔道士が潜伏していた。
「これでも食らえ!吹き飛ばしてやる!」
榴弾が窓から魔道士が乗り出していた家を戦車砲で破壊すると木造の家を貫通する12.5ミリ機関銃を撃ちまくった。
「敵も撃ち返しているぞ!」
「大丈夫だ!装甲があるからな!」
しかしそれは過信だったし油断でもあった。
次の瞬間彼らは死んでいた。
新たに開発されたのか、対戦車魔法が装甲を貫通し戦車を吹き飛ばしたからだ。
「戦車がやられたぞ!」
「クソ!撃ち返せ!」
しかし防衛に成功しているとは言えず、その人数からなる圧倒的火力を前にしてアメリカ軍は後退しつつあった。
ニューヨークやワシントンなどのアメリカの諸都市でも戦闘が起きていたが、それはヨーロッパや中国、そして日本も例外ではなかった。
日本には大阪と東京、札幌に敵輸送艦が降下しており、駐留していた自衛隊との激しい戦闘が繰り広げられていた。
地球全土の主要都市で市街地戦が繰り広げられていた。