宇宙戦争
2019年12月25日
アメリカ ケネディ宇宙センター
『最高のクリスマスプレゼントを帝国軍に!』
そう書かれているミッション徴章を眺めながら今回のミッションの歴史的な大きさをひしひしと感じる。
宇宙戦艦なんて100年経ってもできないものかと思っていた。
NASAとロシアの宇宙開発機関、そしてSpaceV社との業務提携により開発されたこのキロトン級の超大型ロケットは再利用が可能で、数キロトンのペイロードを運ぶ事ができる。
そしてそのペイロードこそが史上初の宇宙戦艦『ユニティ』だ。
「ブリーフィングでも話したが、成層圏を突破すれば付近の帝国軍艦艇からすぐにでも攻撃を受ける事が予想されている。準備しておくように」
画面の中では宇宙服を着込んだ艦長が乗組員に訓示を示している。
そして彼と彼の乗組員数人がユニティに乗り込むとクレーンでユニティは打ち上げシステムに載せられた。
「発射5秒前…4…3…エンジン点火…2…1…離床…!」
人類が今まで作った中で最も大きなロケットが宇宙に打ち上げられる。
それは一瞬で空高く飛んでいき、第一宇宙速度までユニティを加速させた。
「第一段分離…成功」
成層圏の手前で分離する。
「ユニティメインエンジン始動…成功」
ロケットエンジンを稼働させユニティは成層圏より先に進んでいった。
「敵艦100km以内に接近……敵艦の発砲を確認!」
「了解、回避軌道を取る!」
加速して軌道に乗ろうとするユニティだったが、やはり帝国軍がこれを見逃すわけが無かった。
付近に大型の艦艇がいない事は幸いだが、戦闘になる事に変わりは無かった。
こうして史上初の宇宙戦闘が始まった。
「レールガン射撃開始!」
船に載せられたメガワット級の原子炉で稼働するレールガンがわずか数グラムの弾丸を秒速十数kmで発射し始める。
白いトレーサーが敵の未来座標へと正確に飛んでいく。
「敵艦回避軌道を取っています!」
「予想進路に射撃し続けて敵のΔVを浪費させろ!とにかく軌道速度まで加速し続けるんだ!」
しばらくレールガンの撃ち合いと躱しあいが続いたが、ついに距離は10km以内にまで近づいた。
ここまで来るとレールガンといった速度の速い兵器を躱し切る事は難しく、ユニティの装甲にもヒビが入っている。
一方で敵艦はシールドのおかげで船体への大したダメージは受けていなかった。
しかしそれも機関砲が相手を蜂の巣にし始める前の話である。
「機関砲射撃開始!」
ユニティの先端部に取り付けられた30mm機関砲から弾が発射され始める、本来は対ミサイルの兵装だが、敵の攻撃を回避しきれない近接戦で機関砲は絶大な威力を誇る。
連射速度が速いためにまるで虚空に黄色い線が描かれるかのように弾が発射される。
最初は弾は敵のシールドに弾かれるか速度を奪われてしまったが、しばらく撃たれ続けるといくつかの弾がシールドを貫通し、装甲を穿った。
それから10秒ほどシールドは強度を保ったがついにはシールドは機能を停止し、敵艦は弾幕に生身で晒されることになった。
火花が装甲の表面で散る中で何千発もの弾が装甲を穿ち、突き破り、船体を真っ二つにした。
「敵艦電力喪失!無力化しました!」
ワァァァァァァァァという歓声が管制室に響いた。
人類が初めて帝国艦艇を宇宙戦闘で打ち破ったのは宇宙軍の明るい未来を示唆するものであった。
その後ロケットを給油してまた宇宙戦艦が打ち上げられたし、宇宙戦艦を打ち上げたのはアメリカだけでは無かった。
ロシアのミサイル駆逐艦『ボストーク』、イギリスの駆逐艦『ヴィクトリア』、中国のドローン空母『上海』、そして日本のミサイル護衛艦『ゆきかぜ』など多くの宇宙戦艦が一気に打ち上げられていった。
2020年1月4日には各国が相次いで打ち上げた宇宙艦艇を統合運用するためにそれらを一時的に国連軍の指揮下に置く事を定めた条約『ワシントン宇宙軍条約』が締結され、国連宇宙艦隊が発足された。
人類の宇宙戦闘史が始まる瞬間であった。
その後発足したばかりの国連宇宙軍は艦隊を高軌道に進出させて孤立している敵輸送艦を次々と破壊していた。
しかしこれを帝国軍が看過する筈もなく、北半球の多くの天文台からは第3.5惑星近傍からの大きな熱源移動を確認したとの報告があった。
地球影響圏への到着予想日時は2020年7月4日、独立記念日である。
来る7月4日に向け、各国は軌道上でより大型の宇宙戦艦達を造船していた。
巨大な銃身を持ち、数kgの砲弾を撃ち出すレールガンを備えた戦艦や段になっている発着場を備え、何十機もの宇宙戦闘機を搭載する空母などが造船され、国連艦隊の規模はどんどん大きくなっていった。
そして地上戦でも補給を失った帝国軍を前にロシア戦線では大きな戦果が上がっており、第二次スターリングラードと揶揄されたヴォルゴグラードの戦いでも勝利し前線は前へ前へと進んでいた。
世界に対する脅威は今の所接近しつつある帝国軍の大艦隊だけであった。