第三話【出会い】
ステータス
アレン=ジース性別男Lv12
【才能無し】職業【魔物使い】
体力43 攻撃力16
守備力15 魔法攻撃力12
魔法防御力12 速さ10
武器 無し
防具 布の服
アレンは、目的地など決めずただふらふらと痛む腹部を抑えながらぼーっと歩いていた。
ギルドで起きたコールとのいざこざによる取っ組み合い。
一発。
たった一発の攻撃だけで、コールとの絶対的な実力の差を身体に刻まれてしまっていた。
「何熱くなってたんだ俺。俺が勇者様に勝てるわけないだろ…」
アレンは、先程の事を思い出していた。
アレンの拳を受け止めたコールの反撃が、アレンには全く見えなかった。
一瞬でアレンの視界から消えて、腹部へと鉄のように重い一撃。
「俺だってガキの頃血反吐吐きながら稽古したんだがなぁ。これが才能の差か…………」
そう、アレンは幼少の頃、他の自分と近い年齢の子供が遊んでいる時間も、面倒を見てくれていた騎士に頼み込み、アレンの思いに根負けした騎士が特別に稽古をつけてくれていた。
剣の振り方、戦闘時の身のこなし方、自分よりも格上のモンスターとの躱し方等を必死に身体や頭に叩き込んだ。
自分が世界を救う者だとそう信じて。
世界を救う者じゃなくてもサポート出来る者になれるとそう、信じていた。
だが、学園卒業時に行われる職業采配の儀。
主に、自分の生まれ持った才能とステータスを中心とし、戦闘職、生産職のどちらかに割り振られ、自分の職業が決まる。
そこでアレンは、最弱職と呼ばれる戦闘職、魔物使いだったのだ。
魔物使いは、モンスターを使役し、パーティメンバーをサポート出来る職業で、魔物使い自身も剣を使って前衛が出来たり、魔法を使って回復、攻撃をしたりと後衛も出来るのだが、全てが各職業の劣化であり、中途半端。
そもそもモンスターを使役、捕獲するのに魔法の詠唱時とは比べ物にならない程の凄まじい集中力を使用する為、自身は動く事が出来ないといった、ほぼデメリットしかない職業なのだ。
一応魔物使いにしか出来ないモンスター同士を掛け合わせて上位のモンスターを創り出すことができる数少ないメリットもあるが、魔物使いになるくらいなら生産職になった方がいいという考えの者も多いのが現実だ。
そんな魔物使いに決まった当時のアレンは、自分に失望し、面倒を見てくれていた騎士との稽古にも行かなくなってしまった。
「ジンとの稽古を続けていたらまだマシになってたのかな。…んなわけないか」
アレンは、在りし日の思い出を思い出しながら肩を大きく落とし、ため息をついた。
*
スラスト商業区の表通りは、所狭しと建ち並んだ鍛冶屋や武器屋、防具屋等の冒険に役立つ物や野菜や果物、魚に米や肉等の食料や衣服類といった生活必需品等様々な物が売られており、人の出入りが盛んで活気に溢れている。
その表通りをしばらく進むと、建ち並んだ店がぱったりと少なくなり、人通りもかなり少ない。
道の端には恵んで下さいと書かれた物を首にぶら下げ、服と呼ぶにはみすぼらしい物を着た男がじーっとアレンを見ている。
恐らくホームレスだろうか。
あるいは───
そんな裏通りの十字路に、アレンは無意識に迷い込んでしまっていた。
「うっ。すまない。手持ちが少ないんだ。これで勘弁してくれ」
こちらを見てくる物乞い男の視線に耐えきれなかったアレンは、申し訳なさそうに手持ちの金から五ラズを渡した。
「ありが、とう。これでしばらくは生きられる。ありがとうありがとう」
アレンから金を受け取った男は、消え入りそうな声で何度も何度も頭を下げお礼を言っている。
長らく誰にも恵んで貰えて無かったのであろう。
男の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「達者でな」
アレンは男に別れを告げると、裏通りから表通りに抜けれる広場の方に向かって歩き出す。
ふと後ろを振り返ると、先程の男がまだぺこぺこと頭を下げているのを見て、ふっと小さく笑い、曲がり角を曲がった。
裏通りにある広場には、表通りには売られていない法に触れるか、触れないかのギリギリの物が売られており、裏世界の住人や一部のマニアにとても人気な場所。
通称ブラックマーケットと呼ばれている。
そして、このブラックマーケットではとある大人気の商品がある。
それは、奴隷だ。
この世界は、才能がないステータスが低い者は奴隷として生きていくしか選択肢がなく、都合の良い道具の様に扱われる。
そして、その奴隷達を売っているのが奴隷商人達だ。
奴隷商人の周りには強面の如何にも裏世界で生きている様な男や、小太りできらびやかな服を身にまとい、ニヤニヤと鼻の下を伸ばした顔で奴隷を品定めをする様にじっくり見ている貴族の男など、様々な客が奴隷と奴隷商人達の周りに群がり、盛り上がっている。
「こんな場所があるのは風の噂で聞いていたが、実際に見てみると胸糞悪いな……」
アレンが足早に立ち去ろうとした、その時だった。
「嫌ッ!嫌ッ!嫌ァァァ────ッ!?」
アレンは、悲鳴が聞こえた方へ視線を向くと、年端の行かない女の子が、小太りの貴族の男に無理やり連れていかれようとしている。
その横には恐らく女の子の姉だろうか、妹の手を掴み連れていかれない様に必死に抵抗しているが。
「離せクソガキ」
「きゃあああああ────ッ!?」
「痛い痛い痛い痛い────ッ!?」
小太りの男が姉妹にそう言うと、姉妹の左腕に眼の様な紋様の奴隷印が浮かび上がり、バチバチバチっと電流が姉妹の幼い身体に暴れ走る。
その痛みで少女の姉は、思わず手を離し倒れてしまった。
「嫌ッ!お姉ちゃん助けてッ助けてぇ!?」
「スノ!誰か、誰か私の妹を…!」
奴隷印の電流によって、びりびりと痺れる身体を無理やり起こそうとしているが、上手く身体に力が入らず起き上がることが出来ないようだ。
姉が動けないその隙に妹は、小太りの男にどこかに連れ去られようとしている。
そんな少女の姉とアレンは、目が合ってしまった。
「そこの方お願いです!!私の妹を!スノを助けて下さい!!」
少女は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、もしかしたら助けてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を。
望みを。
希望を少女は、アレンに抱いている。
だが、そんなアレンは頭の中でグルグルと思考していた。
(もしかしたらこの子の妹を助ける事が出来るかもしれない。だが相手は貴族だ。助けてどうなる?助けた後権力によって殺されるかも知れない。俺だけが殺されるのはまだいいが、アル姉も巻き込んでしまうかもしれねぇ。だが、助けてやらないとこの子達はどうなるッ!?)
故にアレンは、一つの回答を導き出した。
それは────
「…………すまない」
アレンは、家族を守る為に、少女達を見捨てる判断を下した。
蜘蛛の糸の様な細い、細い希望に縋っていた少女は、少女の心は、バラバラに砕け散り、深い深い絶望に囚われて。
少女から感情が消えた。
そんな気がした。
「どうして?」
感情の無くなった少女がそう小さく呟く。
その呟きはアレンにとって、耳元で囁かれたようなまとわりつき、鋭く、深くアレンの心を抉る。
数秒の沈黙の後、アレンはそんな少女のつぶやきから逃げるように背を向け、走り出すのであった。
*
アレンは、大きなサーカステントの前にいた。
何故、奴隷店にいるのか。
それは、アレンにも分からなかった。
ただ何故か表通りに向かっていたはずだが、この場所に無意識に誘われる様に足が向かっていた。
「痛っ」
不意に、手のひらに激痛が走った。
恐る恐る手のひらを見ると、自分の爪が食いこんだ後があり、血が滲んでいる。
先程の事が原因なのだろう。
アレン自身も気付かない内に、拳を血が滲むほど強く握り締めていたのだ。
そんな自分に苦笑いをするアレン。
「少しだけ、少しだけ覗くだけだ」
自分にそう言い聞かせ、アレンは、サーカステントの中の下の階へ通じる階段を下り始める。
階段の脇には所々松明が置かれており、自分が通った所から松明の灯りが付き、通り過ぎた所の松明の灯りが消えるというさながらダンジョンの中の様だった。
そんな階段を下る。
下る。
下る。
階段を下り終えると、そこには無数の檻がそこら中に置かれていた。
檻の中を覗き込むと中には、自分と同じくらいの年の奴隷や子供の奴隷。
人体実験に使われたのであろう人の形をしていないおぞましい造形をしているモノ、ウルフの身体にハエの頭といった本来自然には掛け合わせる事の無い生物【キメラ】と呼ばれる生物もいた。
奥へ進もうとすると奴隷達は怯え、キメラが檻の中で暴れ回りガンガンと激しい音を立てる。
その様子に、アレンはビビりながらも奥へと進む。
やがて、最奥部に着いた時、アレンは一人の奴隷を見つけた。
年の頃は十ほどで、ホコリや汚れでくすんでいるがアクアマリンの様に蒼い髪。
エメラルドの様に綺麗な瞳。
そして、他の奴隷達にはない特徴を持っていた。
それは獣耳としっぽ。
人類種ではなく、獣人種の奴隷だ。
何故、こんな所に獣人種の奴隷が?
そんな疑問がアレンの頭の中に浮かんだ、その時だ。
背後から気配を感じ、アレンが振り返るとそこには、黒いシルクハットを被り黒のスーツとズボンを履いた、いかにも怪しい男がそこに居た。
「おやおや、ここにお客様が来るとは大変珍しい事もあるんですなぁ」
「あんたは?」
「私は、ただの奴隷商人でございます。見た所お客様はこんな場所には縁の遠いお方だと思いますが?」
「いや、分からない。何故かここに行かなければ行けないと気がして」
「ほう。それは不思議な事ですなぁ。まぁいいでしょう私とお客様の数奇な出会いと思えば」
「あ、ああ…。ちなみに何だがあそこの奴隷は獣人種だろ?」
アレンは、檻の中の獣人奴隷を指差した。
「おお!お客様はお目が高い。あれは、確かに獣人種でございます。二ヶ月前に私の所に来た奴隷ですな。中々獣人の奴隷は手に入らないものでして、かなりのレア物でございますな」
「そうなのか」
「あの奴隷を購入致しますか?」
何故かアレンは、あの獣人の奴隷の事が気になって仕方が無かった。
頭の中から離れなかった。
そんなアレンの心の中を見透かしているのか。
それとも、たまたまなのか。
怪しく笑う奴隷商人の提案に、アレンはドキリとする。
「い、いや俺はまだ買うと決めた訳じゃ───」
そう言いかけた時、助けてあげられなかったあの姉妹の事がどうしても脳裏にチラつく。
姉妹の泣き顔。
姉の希望が打ち砕かれた顔。
感情が消えた顔が、脳裏から離れない。
この子もあの姉妹の様になってしまうのではないか。
そう思ったアレンは、覚悟を決めた。
「分かったこの子を買おう。手持ちが五十ラズしかないが大丈夫か?」
「ありがとうございます。本来は百ラズなのですが、お客様には特別に、五十ラズでいいでしょう」
「助かる」
一通りのやり取りを終え、奴隷商人が獣人の奴隷が入っていた檻の鍵を開け、アレンの元へ連れてくる。
「では、正式にお客様専用の奴隷にするための奴隷印をこの奴隷に施しましょう。奴隷印はお客様を主とし、主の命令に背くと奴隷に激しい痛みを与えます。これで躾も簡単でしょう。お客様の血で眼の紋様を描くだけで結構です」
アレンは、言われた通り自分の血(手のひらに滲んだ血)で眼の紋様を描いた。
すると、紋様が淡く光が浮かび上がり、しばらくすると淡い光が消え、左腕に眼の紋様が刻まれている。
「おめでとうございます。これで、この奴隷はお客様専用の奴隷になりました。あとは道具のように使うもよし、性奴隷にするもいいでしょう。お客様の自由でございます」
なんかすごいことが聞こえた気がするがアレンはスルーする事にしたが、ちょっとだけ気になり獣人の方へちらりと向くと獣人の顔が真っ赤になってモジモジしていた。
「世話になったな」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。そうそうお客様。言い忘れていたのですが、あの奴隷少し特殊でして今のお客様ならあの奴隷の能力が見れると思いますが、彼女の才能が謎でして」
「いや、そういう事は早く言ってくれよ」
アレンは、獣人に向かって目を凝らす。
すると、獣人の周りにステータス、職業、技、才能の欄が出現した。
普通は自身の家族の者しか見れないのだが、奴隷だけは特別で、奴隷印をつけた奴隷の主は能力を見ることが出来る。
(確かにステータスは低いが…。才能が塗りつぶされている?何だこれは…)
「確かに謎だな」
「そうなのです。まぁ、もうお客様の奴隷ですので私は何かあっても責任は持ちませんので」
(こいつ…!?)
責任転嫁してくる奴隷商人に、二度とこんな所に来ないと誓ったアレンであった。
「さて、帰るかって……あっ!!金全部使っちまったらアル姉に怒られるじゃねぇか!!やばい!どうしよう!!」
奴隷商人のサーカステントから出たアレンは、ふと当初の目的を思い出し頭を抱える。
そんな騒がしい主人を横目に、どれくらい久しぶりだろうか地上の光に、目を眩しそうに細めていた。
「あ〜そうだ。まだお前の名前を聞いてなかったな。名前は?」
気を取り直したアレンは、どこか恥ずかしそうに獣人に名前を聞く。
「………メダリア。メダリア=ファームですご主人様」
ボソボソと答えるメダリア。
「そうか。俺はアレン。アレン=ジースだ。これからよろしくなメダリア!!」
何故か嬉しそうなアレンはメダリアに手を差し伸べ。
「えっと…よろしくお願いします…」
そんなアレンに戸惑いながらも、今までにメダリアを買って行った人達とは違うかもしれない。
そんな小さな希望を抱きながら、その小さな手でアレンの手を取るのであった。
ステータス
アレン=ジース 性別 男 種族 人類種 Lv12
【才能】無し 職業【魔物使い】
体力43 攻撃力16
守備力15 魔法攻撃力12
魔法防御力12 速さ10
武器 無し
防具 布の服
メダリア=ファーム 性別 女 種族 獣人Lv7
【才能】??? 職業【奴隷】
体力28 攻撃力10
守備力10 魔法攻撃力3
魔法防御力8 速さ12
武器 無し
防具 ボロの布切れ