第七話【狂える正義】
「何ニヤニヤしてんのよ」
外に出たアレン達は、孤児院から近い草原地帯に腰を下ろしていた。
「だってよ、あんなに感謝されたら嬉しくないわけないだろ?」
「まぁ分からなくもないけどね。でも、あそこまで感謝されるとは思わなかったけどね」
「そうですね。人に感謝されるってこんなに嬉しいんですね」
「だな。まぁこれで少しでも助けになれたらいいんだけどな」
「そうね。でも、あの商人さんも中々やるじゃない。まさか衣食住を保証するとは思ってなかったわ」
「確かにな。普通に考えてもかなり良い待遇だよな」
「ですね!今度セリアさんのお店に行きましょう!」
「ああ、そうだな。どんな所か楽しみだ」
「さて、じゃあちょっと真面目な話をしましょうか」
メダリアが突然、そう切り出す。
「ん、なんだ?」
「あら、アレンは気付いて無かったのかしら。メダリアは気付いているわよね?」
「え?何のこと?」
「ああもう!なんで気付いてないのよ!」
「ちょ、ちょっとどうしたんだよ!」
「はぁ~。もういいわ。いい加減隠れてないで出て来なさい!」
そう言うとメダリアは、誰もいない場所に向かって叫ぶ。
すると、何も無い空間が一瞬歪むと、そこにはシルクハットを被った人物が立っていた。
「この僕の隠密魔法に気付くなんてやるね」
「ぜ、全然気付かなかった……」
「全く……やっぱり貴方だったのねシリウス=フィーレ」
「やれやれ、流石にバレちゃったか」
「当たり前でしょう。私を甘く見ないで頂戴。ただまぁ貴方がわざと私に分かるようにしたのでしょうけど」
「こいつがメダリアやネーヴェが言っていた奴か!?」
「ええ。レイド戦の時に私達の方にモンスターを魔障で強化して送り込んでた張本人よ!」
「ああ、その通りさ。あの時“近いうちにまた会う”と言っただろう?その言葉通り、会いに来たという訳さ」
「なるほどな。それで、わざわざ姿を現したのはどうしてだ?」
「ふふっ、それは、君達にプレゼントがあるからさ。僕は正義の行いをした人にはちゃんと報いを与える主義だからね。だからこれは僕からのささやかな贈り物さ」
「おい、それはどういう意味──」
「さあ、受け取りたまえ」
アレンが言い終える前にシリウスがパチンと指を鳴らす。
すると、空間がぐにゃりと歪みそこから一人の少女が現れた。
雪を溶かした様な純白の髪を腰まで伸ばした少女。
その容姿は、ネーヴェと瓜二つでまるで双子の様だ。
「え、うそ……でしょ」
現れた少女を見た瞬間、ネーヴェは目を見開き驚きを隠せない様子だった。
「おやおや、そんな顔も出来るんだね。まぁ無理もないか。何故なら君が探していた妹だからね」
「ど、どういうことよ!!何でアンタがスノを……何が目的なのよ!」
「そんな怖い顔をしないでくれよ。言っただろう?僕は正義の行いをする者にはそれ相応の対応を取るってさ。つまり、彼女に会いたいと思っている君の願いを聞き届けてあげたって事さ。今は催眠状態だけどね」
「ふざけんじゃないわよ!私の質問に答えなさい!!」
「おい落ち着けネーヴェ!」
「そうだよ!落ち着いてネーヴェちゃん!」
「これが落ち着いていられるわけ無いでしょう!妹が……スノが!!」
「ふふっ、まぁそういう反応になるのも仕方がない。だけどね、僕は君の妹を邪教の信者から救ってやったんだ。まぁ、“邪神教団を皆殺しにしたついで”だったけどね。僕がいなければ君の妹は、今頃生贄になってたかもしれないんだ。感謝されてもいいと思うんだけどなぁ……クククッ」
シリウスはそう言って愉快そうに笑う。
「ッ!!」
「ほら、妹の声が聞きたいだろう?催眠を解いてあげよう」
そう言うと再びパチンと指を鳴らし、それと同時にスノの瞳に光が戻る。
「……あれ、ここはどこ?」
「ス、スノ!大丈夫?!怪我はない?!」
「お姉ちゃん?私は一体……」
「よかった……本当に良かった……!」
「お、お姉ちゃん苦しいよぉ」
「スノっ!すのぉ……」
「うんうん。感動の姉妹再会って感じかな?」
「……お前の目的はなんだ。どうしてこんな事をするんだ」
アレンがそう尋ねると、シリウスは不敵な笑みを浮かべる。
「ふふっ、そうだねぇ。ただの実験さ」
シリウスはそう答える。
「実験だと?それはいったいどういうことだ?」
「いやいや、そのままの意味だよ。この世界に蔓延っている悪しき者達を根絶やしにして、僕の絶対正義を知らしめる為の実験さ」
「な、何を言っているんだ」
「分かりません……私にはさっぱりです」
「ふむ、やはり君達には難しかったか。まぁ簡単に言えば“僕が世界を変え、僕の絶対正義で世界を正す”ということさ」
「世界を変える?そんなの絶対にダメよ!そんなことをしたら大変なことになるわ!」
「ああ、大変なんてものじゃないよ。この世は地獄に変わるだろうね。でも、それがどうしたっていうのかい?僕はね、自分の信じた正義を突き進むだけなんだ。例えそれでどんな犠牲が出ようとね」
「……く、狂ってる」
「なんと言われても構わない。だって僕は正しいのだから」
シリウスの表情からは狂気しか伝わってこない。
「さて、僕はプレゼントを与えると言ったが、君達に僕の実験の手伝いをしてもらおうか」
すると、突然スノの背後に二体の機械仕掛けの天使が現れ、スノを引き剥がしシリウスの元へ連れていく。
「お姉ちゃん!」
「スノ!」
ネーヴェが咄嵯に手を伸ばすが、あと一歩届かず空を切る。
「じゃあ始めようか」
そう言うと、シリウスは懐から黒い球根の様な物を取り出した。
「この球根は風竜ウィンドラゴの怨念が球根化したものでね。この球根を人に与えるとどうなるかな?」
「ま、まさか……!そんな事はさせないわ!!」
ネーヴェが氷魔法【アイススピア】を放つが、天使達に防がれてしまう。
「くっ!?」
アレンやメダリアも攻撃を仕掛けるが、これも天使達に阻まれる。
「くそ!」
「そんな……」
「さあ!実験開始だ!!」
シリウスがスノに球根を掲げると、スノの身体に吸い込まれていった。
すると、スノの全身から禍々しいオーラが吹き出す。
「うぐッ!?……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛アアアアア!!!」
スノは苦しみ悶えながら絶叫を上げ、すぐに変化が訪れる。
髪が白から深緑色に変化し、頭部に長い角が生えてくる。
背中には四枚の羽が生えているが、片方は黒くもう片方は白い。
手足にも鱗のような物が浮き出ており、爪が鋭く尖っていく。
そして、最後にスノの瞳孔が縦長になり血のように紅くなった。
その姿はもはや人間とは言えない。
まるで、風竜ウィンドラゴを人間化した様な異形の姿だった。
「これは……素晴らしい!!予想以上の結果だよ!流石は、魔障とウィンドラゴの怨念といったところかな!」
「ス、スノ……嘘でしょ……そんな……!」
ネーヴェは変わり果ててしまったスノを見て、絶望の淵に立たされていた。
「やっと会えたのに……こんな事って……お願いスノ……!目を覚まして」
『グルルルル……ニクイ!あの人間がニクイ!よくも我を…ッ!許さんぞあの“勇者もどき”がアアアアア!!』
「スノ!?」
「ほう、精神は完全にウィンドラゴに乗っ取られているね」
シリウスはスノの状態を確認すると、満足そうな笑みを浮かべた。
「ふむ。面白い。さぁ君達!彼女の相手をしてあげてくれ!そして、見事彼女を元に戻し、感動の物語を紡ぎ出してくれたまえ!」
そう言うとシリウスは魔法を唱え、虚空へと消えて行った。
「クソが!ふざけんなよ!」
「ご主人様落ち着いてください!今はスノちゃんを助けることが先決です!」
「分かってるよ!だけどどうやって……」
アレンはシリウスを追うことを諦め、目の前にいるスノを見据える。
『グオオオオオオオオオオオオオオン───!!』
スノだったものは翼を大きく広げ、雄叫びを上げた。
その声は空気を震わせ、木々はざわめき、大地は揺れ動く。
「……お願い……アレン、メダリア。私の妹を……スノを元に戻すのを手伝って……一生のお願いだからっ」
ネーヴェは涙を流し、声を震わせながら懇願する。
「ああ、もちろんだ。俺達は家族だからな」
「はい。必ず元に戻しましょう」
「ありがとう……」
ネーヴェは袖で涙を拭い前を見る。
そこには変わり果てたスノがいた。
(絶対にお姉ちゃんが助けてみせるから!それまで待っていて!スノ!)
自分の武器である杖を握り締め、想いを固める。
「さぁ、行くぞ!必ず元に戻すんだ!!」
「はい!」
「ええ!」
こうしてアレン達の激しい戦いが始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
さて、物語は急展開を迎え遂にネーヴェの妹であるスノが登場しました。
そのスノをモンスターに変えた男シリウスの目的も判明しましたね。
果たしてこれからどうなるのか。アレン達はどう立ち向かうのでしょうか




