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魔物使いで奴隷使い  作者: しおだれはみさーもん
第一章
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第二話【才能】

ステータス


アレン=ジース性別 男

Lv12 【才能無し】職業【魔物使い】


体力43 攻撃力16


守備力15 魔法攻撃力12


魔法防御力12 速さ10


武器 無し


防具 布の服


人類国サーマライズ。


人類種の住むこの国は、主に三つの大きな城下町から成り立っており、レベルの低い者や一般市民層が暮らすスラスト。


富裕層や、ある程度実力が高い者達が暮らすシース。


貴族や王族、勇者等のこの国の重要人物が暮らすアラウディアの三国からなっている王政国家であり、冬は乾燥し、夏は湿潤する温暖湿潤気候に国土を構えている。


この世界に来てから十年程の年月が経過していた。


ゲームマスターが放った巨大なカマキリ型モンスターから受けた被害や度重なる野生モンスターとの戦闘、謎に包まれたこの世界の探索等で、それぞれ六種族合わせて七割程の命が失われていた。


それでも、人々は生きる事を諦めずに抗い続け、六種族力を合わせついに巨大なカマキリを討伐する事に成功した。


ここまでは順調だった。


だが、次第に各種族は手柄や領地の要求、意見や主張の違いにより綻び、対立。


各種族はそれぞれ六つの国、人類種はサーマライズ国。


竜人種はドラコニア国。


鬼人種はキリシア国。


エルフはハイリース国。


ドワーフはグリース国。


獣人種はガトラダ国を建国。


争い、敵対する様になった。


そんな人類国サーマライズ国スラスト街の一角住宅区にて。


太陽が昇り、鳥達のさえずりが朝を伝える。


現在時刻午前八時。


近隣に住む人々はそれぞれ仕事や学校、家事や狩り等の為に支度をし、それぞれの目的に出かける。


そんな日常を送っているのだが…


すぅ─すぅ─


一人の青年が睡眠を謳歌していた。


年の頃は十七程で、短髪黒髪の特徴も無いどこにでも居るような青年だ。


上半身は何も身にまとっておらず、下半身には黒い半ズボンというすごくラフな格好をしている。


これが彼の睡眠時のスタイルらしい。


気持ち良さそうに寝ている青年は、まだまだ起きる気配がなさそうだ。


だが、そんな彼の幸せな時間もやがて終わりを告げる。


とんとんとんとん───


誰かが楽園へ至る階段を登る音が、聞こえる。


とんとんとん──


だんだん音が近付いてくる。


階段を登る度に、ギシッギシッと木材で出来た階段が軋む。


とんとん─

楽園への侵入者は、青年が寝ているドアの前まで到着。


がちゃり。


ドアを、開けた。


「アレーーン!!早く起きなさい!朝ご飯が出来てるわよ!」


年の頃は二十歳程。


夕日のように赤く綺麗なロングヘアーに、紅玉色の瞳が特徴的で、精密に整った顔やスレンダーな身体つきからまるでモデルの様な女性だ。


「うう…アル姉うるさい分かってるよ……あとちょっとだけ」


アレンと呼ばれた青年アレン=ジースは、布団を頭まで被り応戦しようとするのだが。


「いいから早く起きる!!」


アル姉と呼ばれた女性アルトリア=アースの手によって布団が引き剥がされ、アレンの楽園は崩壊するのであった。


*


「「いただきます」」


アレンとアルトリアは、木のテーブルに並べられたアルトリア作の朝食を食べていた。


メニューは、目玉焼きにサラダ、焼き魚と白米という理想的な朝食だ。


何故かアレンの焼き魚だけ、骨と身が綺麗に分かれている。


「そう言えば、私達がこの世界に来てからもう十年が経つわね」


アルトリアは、焼き魚を箸で白い身と骨に分け、身を口の中へ運ぶ。


身に香辛料を降った簡素な味付けだがほんのり乗った脂と香辛料がマッチしていて食欲がそそられる。


「もうそれくらいになるのか。お偉いさんは一体いつ俺達を、元の世界に返してくれるんだろうな」


対するアレンは、ぶつくさ言いながらサラダを食べていた。


みずみずしい野菜のシャリシャリとした食感が心地よい。


十年前、巨大なカマキリ型モンスターから逃げ切り、幼かった二人はゲームマスターが用意した世界【Real life and fantasy】で大人になっていた。


アルトリアは戦いの才能が無く、武器や防具の作成に適性が秀でている事から現在は鍛冶屋を営んでおり、スラストでは屈指の人気鍛冶屋として、日々様々な武具を作成している。


アレンはというと、戦いの才能はアルトリア程無い訳ではないが、それでも平均以下という残念なステータスをしており、誰かパーティを組んでくれると言う事も無く基本一人、ソロだ。


また、生産職業に適性があると言えばそんな事は無いわけで、アルトリアの稼いだお金で生活している。


つまり、ニートという事だ。


どこの世界も理不尽らしい。


「さあね。それよりも私は、アレンが働いてくれたら嬉しいんだけどなー」


アルトリアがジト目でアレンを見つめている。


だが、当の本人は。


「ちょっとアル姉、魚の骨はちゃんと全部取ってくれって言っただろ!?しっかりしてくれよ!!一本入ってるぞ!」


アレンは、アルトリアが綺麗に分けた身の中に骨が入っていたらしく、骨を取り損ねた事にご立腹の様だ。


子供っぽく頬を膨らましている。


「はあ・・・。お姉ちゃんが甘やかし過ぎたか」


世話好きだったアルトリアは、幼い頃からアレンの世話をしていた。


それはこの世界に来てからも同じで、同じの家に住んでいるものの、毎日の炊事や洗濯は勿論の事、食材の買い出しや色々な支払い等、異常なまでにアレンを甘やかしすぎた事により、今のアレンの現状に嫌気が刺してきていた。


勿論アレンがこうなった理由もまた、別のものもあるのだが…。


「とりあえずアレン、今日はモンスターでも倒してお金を稼いできて。お姉ちゃん今日は忙しいからね」


「え、めんどくさいから嫌だ」


何を急に言い出すんだと、言わんばかりの不満顔を浮かべているアレンの様子に心の中でふつふつと怒りが込み上げて来るが、あくまで穏やかに冷静にニコニコと笑い、


「アレン?そろそろお姉ちゃんアレンに外に出て欲しいな〜て思うんだけど」


「いや、俺今から二度寝を謳歌するつもりだから。全くアル姉には困っちゃうわ〜。骨は取り損ねるし、睡眠を妨害してくるし」


「あ〜骨を取り損ねたのは悪かったからさ、ね?外に出て欲しいなぁ〜お願いアレン」


「どお〜〜しよっかなぁ〜〜!!アル姉が俺の事をアレン様って呼んでくれるなら、考えてやらんでもないかなぁ〜!!」


アルトリアのこめかみに、ビキビキと青筋が走る。


そろそろ我慢の限界のようだ。


「アル姉がどうしてもって言うなら仕方ないなぁ〜〜!!でもなぁ〜人に頼む時は、もっと別の頼み方とかあるんだけどなぁ〜!!」



どんどん調子に乗るアレンに流石のアルトリアもキレたらしい。


「メニュー。武器装備。鋼のハンマー。」


左手で空をなぞりメニュー欄を出現させ、どこからか出現した鋼のハンマーを右手に持っている。


その様はまるで、鬼のようだ。


「武器スキル【振り下ろし】」


「あ〜〜その〜流石に調子に乗りすぎたというか。い、行くから!!行くから武器をしまって!?ちょっとやめてこっち来ないで!?お姉ちゃぁあああああ───ッ!?」


こうして、アレンの外出が半ば強制的に決定するのであった。


*


スラストの街は、ギルドを中心とした十字街で方角によって、街並みが大きく変化する。


北には、鍛冶屋や道具屋等の商業区。


西には、出店や露店、風呂屋等の娯楽施設。


南には、主にモンスターを家畜化させる為の研究所や各職業の研究、修練場。


東には、学校や人々の住む居住区。


そして、街の中心にそびえ立つドーム状の巨大な建物、ギルド。


石と木材で造られた簡素な作りながらも、看板には勇者によって討伐された巨大なドラゴンの頭部が設置されている。


ギルド内部は、外観と同じ素材ながらも無数の長椅子とテーブルが規則正しく設置され、西側は、冒険者用のクエストボードと受付嬢。


東側には、生産用のクエストボードと受付嬢。


冒険者用ギルドと生産用ギルドが一体になっているのが、スラストのギルドの特徴だ。


ギルド内では、様々な冒険者がクエストボードをみて受けるクエストを見ていたり、木の椅子に座り周りの冒険者や生産者と談笑を楽しむ者、パーティメンバー募集を呼び掛けている者などで賑わっている。


そんなギルドの中に、アレンはいた。


「うへぇ。相変わらず賑やかだなここは…。俺でもクリア出来そうなクエストを見つけてさっさと出るか」


人が密集している所が苦手なアレンは、肩を竦め足早に冒険者用のクエストボードへ向かい、貼られているクエストに目を通していく。


「ふーん。ウルフの群れの討伐か。これは無理だな」


ウルフ。


狼型のモンスターで、鋭い牙と爪を使い群れで獲物を襲うモンスターで、一体一体の強さはそれほどでもないが、アレンにはまだ厳しいモンスターだ。


「ゴブリンの討伐か。しっかり準備すればいけるな、ん?これはウィンドラゴンの討伐!?誰が受けるんだよこんなクエスト」


ゴブリンは、人型のモンスターで醜悪な見た目から嫌われているが強さも全く強く無いため、レベル上げを目的とする冒険者にうってつけのモンスターである。


そして、ウィンドラゴンは風を操る竜型のモンスターであり、中級の冒険者がやっとの思いで討伐出来る程の強力なモンスターだ。


スラストにいる冒険者では、誰も太刀打ちする事が出来ない。


スラストを出て、東のコーラル山につがいが移り住んだ事により、付近の生態系が崩壊する恐れがある事を懸念して討伐クエストが出されているらしい。


「うーん、ゴブリンの討伐を受けるかどうしようかな」


アレンが、クエストボードに貼られているクエストに悩みに悩んでいる時だった。


「お、おい!あれ本物の勇者様か!?」


「うわ……本物だすごい」


ギルドの入口付近にいた冒険者達の言葉でギルドにいた冒険者達の視線は、ギルドの中に入ってきた男に釘付けになっている。


年の頃は十七程で、金髪でピアスの様なチャラチャラした物を耳につけ、上半身下半身共に、この街では見たことの無い装備を身につけたただならぬオーラを纏わせる一人の男と男の取り巻きだろうか。


二人の頭の悪そうな女が男に、ベッタリとくっ付いていた。


どうやら例の男は、クエストを受ける為にギルドを訪れた様だ。


目が合った女冒険者に手を振りながら、クエストボードへと向かう。


手を振られた女冒険者達は、キャーキャーと黄色い声を出し、はしゃいでいたがアレンはそんな事など気が付かず、自分の世界に入っていた。


「俺もクエスト見ていいかい?」


不意に背後から聞こえた男の声で初めてアレンは、自分の後ろに人が居ることに気付く。


昔から集中すると周りの音が聞こえなくなったり、周りの物が見えなくなるという悪い癖がアレンにはあった。


「あ、すみません」


クエストボードを占領してしまっていたアレンが、バツの悪そうな顔をして振り返ると。


「あ?誰かと思えば落ちこぼれのアレンじゃねーか。まだ生きてたのかお前」


「コール───ッ!」


開口一番に馬鹿にしてきた男に、アレンは眉間に皺を寄せ、握り拳に自然と力が入っていた。


「落ちこぼれの癖にクエスト何か受けようとしてんじゃねーよ」


アレンの目の前にいるコールという男とは、色々と昔から因縁があり対峙しているだけで怒りが湧いてくる。


「知るかよクソ野郎。俺は、お前が俺にした事を忘れないからな」


「あん?俺は落ちこぼれのお前に現実を教えてやっただけだろ?勇者の俺が落ちこぼれのお前にな。あ、そうだ」


勇者。


人類種の切り札的存在であり、その力は世界を救うと言われ多くの民達の憧れだ。


そんな現人類種の勇者フレイザー=コールは、何かを思い付いたようで何やらニヤついている。


「お前昔よくゲームマスターを倒して世界を救うのは自分だとよく言っていたよな。だが実際はどうだ?お前には世界を救う才能が合ったか?ましてや、戦闘能力は合ったか?いや、お前には何も無かった。強いて言うなら集中力だけか?」


アレンは幼い頃の学生時代、父親の最期の言葉通り、自分がゲームマスターを倒し世界を救う。


そう思い続けており、日々の訓練や学問を必死に頑張っていた。


だが、現実は残酷で、アレンには何も才能が無かった。

この世界は、才能は一番重要視されるステータスであり、才能が無ければこの世界において死を意味し、才能の無い者に世界を救う事など出来ない。


そんなどうしようもない越えられない現実の壁を、突きつけられてしまった。


更に、非情なもので昔から突っかかってきたコールに勇者の適性が合った。


散々いじめてきたあいつが勇者?


当時のアレンは、信じられ無かった。


信じることが出来なかった。


だが、それは現実だった。


やがて、アレンは全てが馬鹿らしくなり逃げ出した。


コールは楽しくなったのか、身振り手振りを大きく加え更に、アレンに畳み掛ける。


「お前は逃げたよな。それもそうだよなぁこの世の中は才能がない奴は生きる価値がないんだからな。怖いよなぁ何も出来ない自分なんて惨めで。だが、俺は逃げたりしないぜ?なんたってお前がなりたかった勇者なんだからな」


コールが周りに聞こえるよう大声でアレンを煽り、馬鹿にし、ギャハギャハと下卑た笑い声で笑う。


勇者とアレンが言い争いをしている。


そんな様子に、ギルド内の冒険者達の注目の的になっていた。


「しかもお前の適性職業は、最弱職の魔物使いだ。才能が全ての世界に戦士、魔術師、癒し手、騎士、武闘家では無く、最弱職の魔物使いに適性があるなんて流石だよなぁ!俺は最強職、お前が最弱職。これが現実だ。最弱職になるくらいなら奴隷になった方がマシだぜ」


「────────うるせえッ!!」


とうとう我慢の限界に来たアレンは、コールに殴り掛かるが。


「ふん。雑魚が」


片手でアレンの拳を受け止め、アレンの視界から霞のように消えると共にもう片方の手で全身のバネを使いアレンの腹部へ殴打。


アレンの身体が衝撃で浮き、肺が押し出され、鉄の味が口の中に広がる。


「ぐッ!」


「雑魚が。さっさとここから逃げろよ。いつものようにな」


痛みで倒れ伏せるアレンに、コールはそう吐き捨て取り巻きの女達はクスクスと笑い、アレンに軽蔑の目を向ける。


「くそッ!!」


アレンは、痛む腹部を手で抑えながらよろよろと走り出しギルドから逃げ出した。


アレンの逃げ出したギルドの中には、なんとも言えない雰囲気が漂っていた。




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