終わりの終わり
『ひぐらしのなく頃に』の完結から一年後。竜騎士07さんは完全新作の『うみねこのなく頃に』を発表しました。今回もEpisode1からの8部構成となります。
次なる舞台は80年代、孤島の洋館です。
主人公の祖父の莫大な遺産。
それを巡る親族間の駆け引き。
広間に掲げられた碑文の暗号。
ベアトリーチェという謎の女性。
そして第一の殺人事件。
Episode 1はとても面白い出来でした。やはりこの人はホラーの作家だと再認識します。これから半年ごとに『うみねこ』の新作が読めるということに心躍らせました。しかし、ホラーノベルであったのは、このEpisode 1だけでした。
Episode 2では体は人間で頭は山羊の怪物が、洋館で人間を襲ってきます。
・・・なんだ?私は何を読まされているんだ?これは心象描写かなにかなのか?戸惑うプレイヤーに追い打ちをかけるように、物語は斜め下へ走っていきます。怪物に囲まれて絶体絶命の危機に陥ったのは洋館の使用人。仕方ないとばかりにマジックシールドを張って耐えてみせるのです。
・・・え?いや、これはおかしい。一体全体なんだっていうんだ?
普通の推理小説の間にこのような謎展開が発動されるのです。そうしてまた普通の推理小説に戻るのです。このような謎展開はEpisode 2よりEpisode 3という具合にどんどん尺が長くなっていきます。最終章となるEpisode 8では魔法の打ち合いを延々と描写していた記憶があります。孫悟飯vsセルの最終局面みたいなやつです。
幸か不幸か。流石にこれだけやってしまえば、この謎展開の意味合いも明確になってしまします。作者である竜騎士07さんの心の叫びです。前半では怪物を使った謎展開で示唆していましたが、後半になると抑えきれなかったようです。キャラクターにその心の内をセリフで言わせてしまう始末でした。まとめてみると、ざっと以下のようになります。
「お前らさ、『ひぐらし』の解答編で俺のこと馬鹿にしたよな。だからよ、もっと荒れるものを書いてやったぜ。おいおいおい、逃げるなよ。推理することを放棄するなよ。そうしたら俺の不戦勝だからな。あ、今批判した奴いたな。はい、残念それも俺の勝ち。批判とか逃げるのと同じだから。ほら、推理したいんだろ?どんどんしてくれよ。まあ、俺は正解知らないけど。なに?ええ!?お前らって解答があるものにしか挑めないの?はあ~、薄っぺらい人生送ってきたもんだねえ。かわいそうに。ねえ?今どんな気持ち?ねえ、どんな気持ち?」
ゲーム内ではもっと下品な言葉を使っていますが。内容としては、こんなものです。
『うみねこのなく頃に』では日常において使うことのない言葉が多用されます。「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」「シュレディンガーの猫」「悪魔の証明」「ヘンペルのカラス」「リザイン」などです。恐らくは『ひぐらし』の謎解きが叩かれ、そこから再起をかけようとして推理小説を勉強したのでしょう。孤島の洋館という舞台もいわゆる本格派推理小説への意識が見えます。
残念だったのは、熱意のベクトルが「本格派でアンチを黙らせる」ではなく「本格派自体をコケにする」というダメダメな方向へ向けられたことです。
当時、『うみねこ』関連の外部掲示板は「ファンスレ」「アンチスレ」「考察スレ」「長文考察スレ」の4つが稼働していました。Episode 8の発表直後、全てがアンチスレ化しました。擁護する人間はいませんでした。ゼロです。
私はひとつの巨大コンテンツが終わる歴史的な場に居合わせた心持ちでした。
『うみねこのなく頃に』にとどまらず「竜騎士07」というブランドも終わりを迎えました。そして過去作品でもある『ひぐらしのなく頃に』も同じ扱いを受けることになります。
今、私が夢中になっていたホラーノベルを語る人はいません。ネタ要素の強いコピペが一人歩きをしているだけです。
最近、『ひぐらしのなく頃に』が再アニメ化されました。私はチェックしていません。竜騎士ブランド崩壊から、10年間のノーヒット。そして今、自分自身で壊した作品を再利用する姿には、なかなか寂しいものがあります。