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第14章 ② 優しさゆえに (注)残酷表現あり

このお話は性暴力や家庭内暴力を示唆するシーンがございます。

直接的表現は避けておりますが、ご気分を害する可能性があると考え、前書きにてお知らせさせて頂きます。


第14章 ② 優しさゆえに 


リビングで響く、物音、そして母の悲鳴に男の怒号。慌てて障子を開くと、母は割れた花瓶で腕を切っていた。



私は母の手当をしようとすると、男は私の髪を掴み、母から引き剥がすと、勢いよく突き飛ばす。


そして言った。


「お前は引っ込んでろ!こいつが言うこと聞かねえグズだから、仕置きしてんだ!」




私は大人の男と言う者をよく知らない。だから、私の中で男の人、大人とは、父のことだった。



しかしその男は、父とは似ても似つかない、欲望のままに動くそいつの行動に、私は理解が出来なかった。



これは、人ではないない何かに、私達は襲われている。



咄嗟に取ったスマートフォンに110番通報する。


すると、それを察知したそいつはスマートフォンを持ったわたしの腕を掴み、顔面を拳で殴り付けた。


それで意識を失った自分はそのあと何が起きたか、分からなかった。



どうやら通報を受け警察が来たが、交際中のトラブルから痴話喧嘩になっただけだと、そいつは言った。


愛想よく振る舞うそいつの口車を信じた警察は、30分ほどすると帰っていったらしい。



ああ、やっぱり誰も助けてくれない。



心の悲鳴はどこにも届いていないのだ。



見えない暗闇の中で彷徨う私に更なる痛みが襲う。




母は、その日朝から強い酷い吐き気に襲われていた。


二日酔いかと思いきや、妊娠検査薬を買って来た母はトイレから出ると、検査薬をゴミ箱に捨てた。


何も言わずに、そのまま寝室に入り寝てしまう母をよそに、私はゴミ箱からその検査薬を見る。


そこには陽性の線が入っていた。


私はどうしたらいいのかわからなくなっていた。


あいつの子かもしれない。

あいつは人ではない。

だったらあいつの子は悪魔かもしれない。

産まれて来てはいけないのなら早くどうにかしないと。



私は調べたが、母を説得しなくてはどうにもならない。


折を見てどこかに相談すれば、何とかなるかもしれない。


むしろ、そうしなくては父が守りたかったものを守れなくなってしまう。


意を決して私は近くの役所の入口まで来た時に、手を繋ぐ子連れを見かける。


手を繋がれて嬉しそうな笑みを浮かべる子供が、私の昔の姿に重なった。


例え父親が酷いやつでも、その子供も酷いやつになるとは言えない。


全てを優しく受け止め、包み込む。父の願いはそうだった。私は役所の入口を前に立ち尽くし、しばらくして家へと帰った。




その事を私は、心の底から後悔する。




家に帰った私は驚いた。あいつは欲望にかまけて母を蹂躙していたくせに、子供ができたと言うと、母に暴力を振るのをやめた。


あいつは時折見せる凶悪な顔を隠し、母を労るようになった。


私は少し安心していたのだ。

長袖に隠した痣が痛もうとも、目が腫れるほど殴られることがあっても耐えてきた。ついにそれが終わるかもしれない。


苦しみを耐えて、耐えて、耐え続けて。


これでやって報われる。そのはずだった。



母が仕事で帰ってくるはずのない時間に、玄関の扉が開く音がする。あいつの足音が次第に近づき、鍵をリビングの座卓の上に乗せた音がする。


気になった私は、障子の隙間から垣間見ると冷蔵庫を空けて何かを物色している。あいつは酒を取り出すと、テレビをつけて、DVDを見始めた。


男と女が体を逢わせ、女も男も声をあげる。それを見てあいつは酒を飲んでいた。


テレビから聞こえる声を聞かせるかのようにスピーカーのまま見る男に、心から気持ちの悪さを感じた。


私は気持ちの悪さから布団に戻り、耳を塞ぐ。そうしていれば、少しはこの気持ち悪さを和らいでいた。



そうやって私の意識がだんだんと、薄れていった時、誰かが私の布団に入り込んで来た。


私の足に、触れ、じきに下着の中に手を入れてくる。私はその手を払い除けようとすると、そいつは言った。


「なんだ。起きていたのか。なら相手したらどうだ?本当は興味あっただろ?」


私はそいつの言葉の意味がわからなかった。そいつは払い除けた手を押さえると、私の胸元を貪り始める。


私が抗おうとすると、そいつは私の顔を叩き、馬乗りになって、私を押さえ付けた。


「お前の母親が相手できないんだから。しょうがないよな。それにいつも隣で見てるだけじゃ、満足出来なかったろ?今日は相手してやるんだ。それなら、ありがとうございますだろ?」


口を手で押さえてくるそいつの表情が脳裏にこびりついて離れない。


不快な笑みを浮かべ、愉悦に浸っていた。


それはもう、人ではない。獣。私の体を貪ると、

身体の奥へと突き進んできた。



痛い。


汚い。


気持ち悪い。


嫌だ。


苦しい。



誰か助けて。



何で?何で誰も助けてくれないの?




私は次第に頭が真っ白になり、何も考えられず、

心は何も感じなくなる。ただ、下から突き上げる衝撃に耐え、そいつが満足するのを待つ。

そいつは息を上げてその衝動を満たすと、私を放置して寝室を後にする。



「また、相手してやるからな。」



その言葉は私にとっては死の宣告を受けたのと等しかった。


ああ。私は、汚い。汚くて醜い。だからこんな目に遭ったのかなぁ。


お父さんごめんなさい。私はお父さんの言った綺麗な子じゃなかったね。


本当にごめんなさい。



許して。お父さんが帰って来てくれたら、いっぱい、いっぱい、謝るから。



だからここに帰って来て、私を助けて。私はまだ、ここにいるよ?



汚れた体を浴室で流し、私はそこで崩れ落ちた。





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