第13章 ⑭ 触れられない心
第13章 ⑭ 触れられない心
「おい、誰が人の家で大食い選手権やれって言った?」
「え?どこが大食いなの?通常より抑えめも、抑えめだよ?この後に〆の雑炊食べるでしょ?」
まだまだ食い意地を張るヒカルにやり甲斐を見出したのか、彼女も立ち上がる。
「わかりました!雑炊!作ります!」
彼女は鍋を再びキッチンへと運び、雑炊の準備に取り掛かるようだ。まったく、なんだかよくわからない状況にはなったが、この雰囲気なら親しくなるのもそうは難しくない様に思える。
こう言う相手の懐に飛び込む豪快さと、相手を惹きつける魅力はさすがのヒカルだと感心する。普通だったらドン引きのはずが、彼女がすればそうはならないのだ。
「おい。どこまで、状況を理解した?」
小声でヒカルに話すとバックに視線をやり何かを要求してくる。おそらくこの表情から導き出されるものは‥水だ。
自分はペットボトルの水を彼女に渡すと、無言で頷き、ゴクゴクと飲む。
「で?」
「状況は理解した。私が倒れてたところを彼女が助けてくれた。そして何故かカケルが彼氏!」
睨みつけて視線で攻撃してくるのはやめてほしい。チクチクと痛みを感じる。
「それは成り行きで。すまない。とりあえず仲良くなって悩みを聞き出すところに至らないと問題解決にならない。ヒカルならできるか?」
「うーん。この味。この食感。ウマイ。だから仲良くなれる!」
こいつは何を言ってるのかまったく理解できないがとりあえずわかったのは、ヒカルなりの独自友達指針には適合したようだ。そもそも名前も聞いてないのに仲良くなれるかは確信を持てるのだから、彼女の直感力は素晴らしい。
「それはよかった。ちなみにまだ名前聞いてないぞ。」
「あっと。それを忘れてた。」
やはり忘れてたか。こっちは記録上一方的に彼女の名前は知ってるが、彼女からすれば会って自己紹介もしてない間柄。ただの赤の他人だ。
「えーと、そこの可愛い子!そう、そこの白いセーターの可愛い子ちゃん!お名前なんて言うんですか?」
ずいぶんと馴れ馴れしい聞き方だが、ヒカルの必勝法なら自分は信じるしかない。
コンロから顔を上げた彼女はヒカルの距離感の詰め方に驚いていたのか、それとも可愛い子ちゃんに狼狽したのか、少し間があったものの、そこはちゃんと答えてくれる。
「え、あの、相田凪って言います。」
「へぇ!私は三上光。そっか、凪ちゃんか!いい名前!まさに名は体を表す!落ち着いて、心が和む感じがピッタリだね!」
そうヒカルが言うと彼女は目を丸くしてこちらを見る。出来上がった雑炊を持って彼女がやってくると、ヒカルは早く早くとねだる幼児に退化し、鍋を独占する。
「おい。こっちにも分けてくれよ。」
「う、ウマイ!だ、ダメだ。スプーンが止まらない!」
他人が給仕するのでは足りないのか、自ら取り分け、大半の雑炊を皿に盛る。残った少しを自分と彼女で分け合う始末だ。
ヒカルの食欲が落ち着きを見せたころ、予想に反して彼女達からヒカルに質問が飛ぶ。
「あの。三上さん!」
「ああ、呼び方はヒカルでいいよ。」
「えっと…なら、光さん!凪の意味をご存知なんですか?」
意を決して下の名前で呼ぶのを見た自分は、すっかり初めてのお友達作りに苦戦する幼稚園児を応援する保護者目線だ。ガンバレ!ファイト!
「へ?まあ。凪って、風の止んで、波も穏やかな時のことでしょ?それを知ってるのって何か特別なことなの?」
「いえ、普通なぎさは海岸線の方の渚をイメージしますから。凪でなぎさと読ませる方だと初対面で思われる方は珍しかったので。」
しまった。情報を下手に知っていたがために、墓穴を掘ったか。ヒカルにしては珍しいミスだ。相手が不審に思ってないかと心配になるが、当の本人は気にしていない。




