第12章 ⑨ 旅は道連れ、情けをくれよ!
第12章 ⑨ 旅は道連れ、情けをくれよ!
「わかりました。詳しく話は宿でいいですか?」
ヒカルが脳内で返すと、宮田さんはコクリと頷いた。
「では、お二人とも、県警の方も待たせているのでまずは車で宿まで移動しましょう。」
「そうですね。マスター、ありがとうございました。お支払いを。」
ヒカルが支払おうとするとすかさず宮田さんは財布を取り出し、一万円札を店主に渡す。
「マスター、これで足りますか?」
「え、ええ。お、お釣りは?」
「いえ、お騒がせしましたので、チップだと思って取っておいてください。ヒカルお嬢様お早くお車の方へ。」
「ええ。マスター長居してしまいすいません。紅茶美味しかったです。また来ますね!」
そう言って手を振るヒカルに、店主はこの状況を飲み込めていないのか、唖然として口を半開きにしながら手を振り返していた。自分もお礼を言うと、店を後にする。
荷物を持ってかれたので、手ぶらになった自分は言われるがままに、店を出て、黒のクラウンに乗り込む。
助手席には宮田さんが座り、もちろん上座にはヒカルが座る。
外にはどこぞの要人なのかと気にする地元の制服警官が赤色灯を消して、パトカーの外で待ち構えていた。
「すいません!県警の方々。お待たせしました。無事要人は確保したので、通常業務に戻ってくださって大丈夫です!お疲れ様でした!」
何があったのかも知らされずに駆り出された制服警官を、大した説明もなく返す古賀さん。
その対応に憤懣やる方ない雰囲気を見せる制服警官達に、敬礼をして見送る。
古賀さんは部下のSPに指示すると、自分達の乗り込んだクラウンの運転席に乗り込んでくる。
「いやぁ、よかったよかった。とにかくお二人が無事で。」
乗り込んだ古賀さんの重さで、車がみごとに少し沈むのがわかる。古賀さんはエンジンをつけ、車を夜の国道へと向け動かし、左折のウィンカーを出す。
車が通り過ぎて入るタイミングを見つけると、スルリと合流する。すると後ろの車も追随してくる。
「古賀さんありがとうございます。地元警察官は何か言ってました?」
宮田さんが心配そうに聞いているが、心配するくらいなら、こんな大勢で来なければいいだけの様な気もする。それでもこんな大勢で大挙して来た理由は権力者の要望だろうが。
「いえ、大したことありませんよ。地元の警官なんて私達と変わりません。流石にぶつぶつ何か言ってましたが‥気にするんなら、職員照会しましょうか?あんまり大事にされると、昇進とかにも響きますからね、向こうはダメージ大きいと思いますよ?」
サラッと大人の恐い世界を見せてるけど、後部座席に中学生いるの忘れてませんか?大人の会話だだ漏れだ。
「いえ、そう言うことでは。こちらとしても、地元警察の方にもご迷惑をおかけしてしまいましたので。」
「そうですか?それならいいのですが。それにしても、神隠しだなんて、ヒカルさんも面白いこと言いますね!こんな兵庫の端の方まで来てるなんて、ビックリですよ!」
バックミラー越しにヒカルを見る古賀にヒカルは演技派の実力を見せる。
「ええ。すいません!二人で秘密の旅行に出たのはいいけど、少しトラブルで‥ごめんなさい。」
ヒカルがギュッと自分の腕と組んで近づいてきたので、自然と鼓動は弾む。
「あ、そ、そう言うことですかね!そ、それは大変でしたね。いやー、野暮なこと聞いてしまってすいません。」
「いいんですよ。このことはひ、み、つ!にしておいてくださいね!」
籠絡モードのヒカルは恐ろしい。特に中年男性向けならほぼ、無双状態だ。
「いやぁ!もちろんです!自分は、口は堅い方ですよ!守秘義務あるんでね!」
運転しながらも、チラッと後部座席を確認しながら言う古賀さんは何か勘違いしてるが、これはそのままの方が都合の良いのだろう。
手帳を見ながらスマホで、何か連絡していた宮田さんはも会話に加わってくる。
「ヒカルお嬢様。男選びは慎重にお願いします。お二人で逃避行なんて10年早いですからね。」
どうやらそのストーリーで済ませる予定らしい。
「えー。宮田さんは味方じゃないですか?二人の結婚式は宮田さんが仲人ですよ。」
「へぇあ!え!」
仲良くくっついて来るヒカルの発言に思わず、変な声を出してしまう。
その狼狽振りを見兼ねて、ヒカルは鋭い視線で、注意してくる。
どうやら今の演技は30点。落第レベルだから次はないぞ!の意味だと思う。
「それは結構。茂様はお怒りになりますでしょうが、彼が三上家の当主になった場合も想定しておきましょう。その場合は、彼には少々箔が足りない。恐らく海外留学には行って貰わないと。」
「えー。遠距離は嫌!その時はヒカルも一緒だからねー!」
如何にも熱を帯びた馬鹿ップルを演じるヒカル。これには本当に凄いとしか言いようがない。お世辞抜きで本気で女優になれると思う。
彼女の容姿と頭脳、家柄も合わさったらそれこそ天下無双だ。
「そ、そうだよね!ずっと一緒だよねー!」
どうも自分は大根役者であることは否定できないが、
仲睦まじい二人をすっかり微笑ましく見つめる古賀さんからは、疑っている様子はない。
「古賀さん。古賀さん達は二人を宿まで送り届けたら、知事の元に戻ってください。知事には報告しましたので。」
「ええ。それは構いませんが。お二人と、宮田さんは宿に泊まって行かれるですか?」
「ええ。もちろん。保護者がいなくては泊まれませんからね。私が付き添うことになります。」
「そうでしたか。てっきり私達も同じ所で休めるのかと。」
長時間の運転で疲労も見える古賀さんは、少し休みたそうだ。
「すいません。こっちでは部屋が取れなかったので。後で部下の方々にもお伝え願います。大阪の方のホテルにはこのまま行けば、2時間程で着きますよね?そこには宴会も準備してあります。明日は部下の方々含めて休日にするようにとの、知事からの命ですので、そこでごゆっくりお休みください。」
「ホントですか!それはありがたい。しかし、そうすると明日の警護は如何様に?」
「心配いりませんよ。地元の応援と、シークレットゲストの方が有り余るほどSPを連れて来るそうですから。」
「そうですか‥何か複雑ですね。知事には頼られてた気がしたのに。浮気された気分ですね。」
古賀さんは複雑な気持ちからなのか、イライラなのか、信号待ちにリズムを取る様に人差し指で、ハンドルをトントンとする。




