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第2章 ① 不思議と遭遇

第2章の1 不思議と遭遇


「おーい、こんなところで寝てんなカケル!まったく、夜遅くに出かけてこんなところで寝るなんて風邪引くよ。ホラッさっさと朝ごはん食べな!」


朝からうちの母さんの声が鼓膜に訴えかけてくる。自分は意識半分の状態でソファーからむくりと起き上がると台所近くのテーブルに着き、言われるがままに、朝ごはんを食べる。ご飯とみそ汁、焼き鮭の定番朝ごはんだ。おそらくみそ汁は、ばあちゃんが作ったやつだ。


「あれ?爺ちゃんとばあちゃんは?」

「ああ、お爺ちゃんは神社の方。おばあちゃんは朝からなんか依頼があるって出かけたよ。」

「そっかぁ。」

「それはそうと昨日はどうだった?何か不思議生物、例えばツチノコとかいた?」


母さんは納豆をかき混ぜながら面白がるように聞いてくる。しかし答えようにも肝心の自分の記憶が曖昧だ。


「どうって、どうもないけど‥」


改めて思い返すと、そういえば昨日は何があったんだっけ?何かがあった気がするが思い出せない。それとスマートフォンはどこに置いたっけか?その思いだけは頭に残滓としてあり、自分はその電子端末をどうしても探さないといけない気がしていた。


「あれ?スマホは?」

「え?どうせリビングでしょ。ソファーは?」


箸で指さす母さんに言われ探索をすると、本当にソファーの下に転げ落ちていた。


「あった、あった。あれ?」


見るといつの間にスマホケースにかじられた跡がある。「どこでこんな傷つけたんだろ。まぁいいか。」疑問はさておきまずは自分の腹を満たす。


ゴハンを食べ終えると母さんは身支度を終え、いわゆるバリバリのキャリアウーマンと呼ぶに相応しい姿へと変貌して話しかけてくる。


「カケル、食器とか洗っといて。もう家を出ないと、仕事遅れるから。」


父さんが亡くなってからは一家の大黒柱として働く母さんは、ベージュのパンプスを慌ただしく履くと家を出ていってしまう。

自分は言われたように仕方なく、台所で食器を洗う。そうして母さんの本当の思惑を知るのだ。


つまり魚焼く時にグリル使ったため、洗い物が増えたのだ。「ズル賢い。」そう心の中では文句を言いつつも、洗い物を済ませ部屋へと戻ろうとする。

台所から目線をふとベランダ越しに見える景色に移した瞬間。


思わず自分の目を疑った。それと同時に昨日の事を何もかも思い出した。


その存在が間違いなく存在する事を目を二三度擦って確認した自分は、咄嗟に外に出る。


「爺ちゃん、その猫どうしたん?」と恐る恐る聞く。


「え?この猫さんかい?この猫さんはなぁ今朝境内を掃除してたら社殿に寝てたんじゃ。ほらこう見ても動物好きじゃろ。前の虎丸が亡くなってからはもう年だし、飼わないと思ってたんじゃがのぅ。こんなかわいいとのぉ。」


と今朝の鮭の骨と皮を食べる黒猫を撫でている。


「つまり、爺ちゃんはこの猫を飼うの?」

「そうじゃのぅ。やはり、社殿にいた猫じゃからのぅ。これもまた何かの縁じゃと思もうてなぁ。」

「でも爺ちゃん、犬派でしょ。」

「まぁなぁ。それでも何かの縁だからのぅ。」


その反応を見るに、爺ちゃんが飼いたがっている十分わかった。しかし問題なのはこの黒猫が普通でない可能性がある事だ。この黒猫を見て昨日夜の出来事を思い出してしまった自分はこの猫がどうもしゃべり出す気がしていたのだ。そうは言っても猫は猫。普通に


「よしよし、かわいい猫だなぁ。」と撫でてみたが話し出す素ぶりはない。

「ニャーオ」と普通に猫だ。


「よし、爺ちゃんが何か餌を買ってきてやらんとのぅ。」


と爺ちゃんは自転車で買い物へと出かけてしまった。自分はここぞとばかりに黒猫に小声で話しかける。


「おい、お前ってしゃべれるか?」


と言っても反応はない。猫がよくやるあの仕草、後ろ脚で首をかくあの仕草だ。


「なんだ、黒猫の方は夢か。まったくややこしい夢だな。」


思わず本音が口をついて出る。しかしその言葉に慮外の反応が返ってくる。


「夢なわけ無いだろ。まったく。」


「あ(れ)、マ(ジ)、しゃべった。」


そんな出来事にも、言葉とは裏腹に存外冷静な自分に驚く。いやそう思った自分は頭が誤作動を起こしたのだと冷静に判断にしたのだ。そうは言っても、確認は必要だ。念には念を入れ、もう一度聞く。


「あのー黒猫さん。あなたはしゃべります?」


と疑問を投げかけるように質問すると


「もちろん。」


ものの見事に、かつあっさり返事して来た。もはや疑う方が異常なのか?若干の動揺が全身に広がる前に、続けざまに質問を続けてぶつけてみる。


「あなたは猫?」

「見ての通り。」


この短い時間でもう既に飽きてきたのか、短く端的な返答だ。どうにもしゃべる猫と言う新猫類は飽き性である。と学会発表での報告に記載出来るレベルの情報は得られたが、いかんせんそれでは論文発表には至れないだろうと、追加して質問をぶつける。


「じゃあ何で話してるの?」

「ああもう。質問多いなカケル。分かるだろ俺は普通の猫なの。」


普通の猫ならばなんの疑問もないだろ?と言わんばかりにアスファルトの地面に寝転んでいる。


「いやいや、普通の猫は話しますか?いや話しませんよ。」


今度はこちらが至極当然の疑問をぶつける。


「じゃあ、普通の話す猫だってことだろ。」


まったく答えになってない。しかし、この会話で自分は完全にこの世の常識には当てはまらない事がある事。それを認めざるを得なかった。何故なら今、自分がおかしくない限り、猫が…しゃべっています。その事実に呆然自失とその場に立ち尽くしていると、気怠そうにこちらを瞥見してくる。


「大丈夫。お前の頭はすこぶる正常だよ。」


確かに口には出していないにも関わらず、こっちの気持ちを先読みするかのように勝手に話してる事実にこちらが再び呆然としてると、追い打ちをかけるかの様に話しかけてくる。


「ああ、だってお前の脳に直接話して、直接読み取ってるからな。口に出さなくたって大丈夫だぞ。それにあんまり猫に話しかけるとおかしい奴だと思われるぞ。ふぁ~ニャムニャム。」


退屈そうに体を伸ばし、ついでに欠伸までしている。この態度だけでも完全に舐められていることだけは理解した。


「どうゆう事だよ。そんなの普通じゃないだろ。」


脳内を読み取られていると言われても、いまいちピンとこない。とりあえず周囲に怪しまれぬ様に用心して、小声で話しかける。


「まあ、説明してやっから。とりあえず‥」

「とりあえず‥何?」

「‥エサくれ!」


「は?」





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