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第1章 ① 出会い

第1章の1 出会い


自分はごく普通の中学二年生。

名前もカケル(翔)というありきたりな名前だし、特別な事なんてほとんど無い。


唯一と言えば、神社の家に引っ越してきて少しレアキャラになったくらいだが、田舎の人達はそんな事に驚く人達ではない。


小学校3年生で転校してきた当初こそ東京に住んでいた事で少しは珍しがられたものの、すっかりこの土地に馴染み、いまや普通の、否、馴染みの「田舎暮らし中学生」へと変貌を遂げていた。



物語の始まりは一学期の終業式の日。所謂夏休み目前というやつだ。


恒例の如く当たり前に体育館で行われている終業式。生徒の弛みは教師の緩み!を自負とするお堅い校長先生の話に、3秒以上聞く耳を持たない同級生兼友人のツヨシは、さっそく飽きたのか、けだるそうに話しかけてくる。


「たっぁく、なんでこんなにあつい中でつまんない話を聞かなきゃいけないんだか。」


そう言ってワイシャツをあおぐだけでは風量と冷涼感、何と言っても「雅」が不足していると主張する彼は、うちわ片手に話している。その様子は側から見れば全く雅は感じられないが、そこは置いておこう。


故に自分は余計な一言は加えず、同調するようにため息交じりに言葉を返す。という最低限の動作で省エネモードを維持する。理由は言わずもがな、暑いからだ。


「はぁ、確かに。どうせならクーラー効いてる教室で、放送で流してくれればいいのに。」


「ほんとだよ。どうせ、夏休みの過ごし方がどうとか、こうとか、っていうあれだろ。聞いてなくてもわかるっての。てかそれよりもさぁ、あの噂聞いたか?」


野球部の練習で日に焼けた、それはゴツい顔を「ドヤ」と、急に近づけてくる。思わず「ごっつこ!」しそうな近さだ。

男子同士では是非とも、というか何としても、積極的に、絶対回避したい画ずらだろう。だって可愛くないから。


「えっ?噂って?」


距離感の近いツヨシに引き離してから仔細を聞き返す。


暑いと言ってる割にツヨシ自身の圧力(熱量)の強さに本人は気づいていないのだから仕方あるまい。それに少なくとも悪い奴ではないので怒りはしない。


「お前知らないの。お前んとこの神社の森に、夜な夜な幽霊がでるって話しだよ。」


その話しを聞いて自分は「はぁまたか…」と内心呆れていた。


ツヨシのこういう噂話はいつもの事だ。例えて言うなれば、東スポのUFO記事並みの前科者だ。


例えば町の御幸池にカッパがいるやら、山に死んだ人の霊がうろついてるだ、夜の音楽室からピアノの音がするだの。


その辺の都市伝説から妖怪までバラエティに富んでいるが、本当だった試しがない。


過去何回か、調べてみたりもしたが、見事に全部ダメだった。無論今回もそのお誘いかと半分適当に聞いて流していた。


「へぇーすごいなぁ、まさか、うちの神社の森とは。」


棒読みの気のない返事をするとツヨシは


「おいおい、今度は本当だって。なにせ目撃者がいるんだから。」


と自信ありげに言う。「おうおうだったら見せて貰おうか?え?嘘だったらうちの兄貴が黙ってないぜ?」なんてアウトローな言い草ができればどれほど楽だろうに…。悲しいが自分は属性違いだ。いや族違いか?


まあしかし、そもそも目撃者がいなかったら噂にならないだろうとは思いつつ、興味本位で話を続けてしまうのだ。


そうやって自分もこういうノリを助長、幇助してしまうのだから本当のところ自分も悪い。故にツヨシばかりを責めるのは筋違いではあるが…。


「ほんと、で、目撃者って?」


「同じクラスのヒカルだよ。ヒカル。」


「ああ、あのヒカル。うちの近所の女子だろ。」


「バカ、違うって、そっちじゃなくて男の方だよ。」


男?男でヒカルなんてやつ‥そう言えば、中学から転校してきたやつはそんな名前だったような。たしか名字は倉橋だったか?


「えっと?三上じゃなくて倉橋の方?」


「そうだよ、というか女子を下の名前で俺が呼ぶか!って、まぁいいや。そのヒカルが見たって言ってたのを聞いたってのを聞いたのを聞いた。」


どうにも現行の証言では雲行きが怪しい。これでは裁判官の心証は明らかに「偽証」の烙印をおすレベルだ。加えて言うなれば、誰か彼に「伝聞証拠の信憑性」がどれほど危ういかを教えてあげるべきだろう。


「なんか、怪しいなぁ。それに直接倉橋に聞いた方が早いんじゃ。」


自分は疑いの目でツヨシを見る。すると半見の体勢がキツイのかツヨシは体の向きを変え、正対する。


「いやいや、直接聞いたらつまらないだろ。せっかくのミステリーだぞ、冒険したくないのか?それに本当だって。そっちこそ、三上をヒカルって呼んでんのか?それこそ怪しい。」


ツヨシは思わぬ嫌な所を突っ込んできた。


あまり、追及されるのも癪なので仕方なくツヨシの話題に乗っかる。一応の抗弁ではあるが、昔からの幼なじみだからそう呼んでいただけなのだが。まあ一応だ。其処らへんの詳細は日本人の美徳である「察し」の能力を発揮して欲しい。



「まあ、それはそうと調べてみたいんだろ?」


「もちろん。」


「それじゃあ、いつやる?こっちはいつでもいいけど。」


「そうだなぁ、善は急げと、言うだろ?さっそく今日の夜。丑三つ時に決行な!」と思わずやる気が口から出たのか「語尾」の「語気」が強まる。


そうして「丑三つ時に決行な!」が体育館に響きわたった訳だ。


「語尾」の「語気」を強めた発言を聞いた、我らが担任、ジャージの黒川が忍び寄る。


このジャージの黒川のあだ名を拝命した経緯は長く厳しいものだった‥と本人は振り返っていたが、その話はまたの機会にしよう。ともかく!睨みを利かせたジャージの黒川の愛ある制裁がツヨシの頭上を襲う。


「そうか、黒田。丑三つ時に決行か、ってそんな事言ってないで、しっかり話を聞け!」



一連のまるでコントのようなやり取りに対して体育館に「ドッ」と笑いが起こる。


まあ、ツヨシが怒られるのはこれもまたいつもの事だ。


そんなツヨシの騒がしい「やらかし」もなんのその。


平穏無事に終業式は終える。クラスごとに教室に戻ると、担任の黒川がホームルームで夏休みの課題を配る。


何か嬉しそうな顔の黒川が不気味でしかないのだけれど、その表情を崩さずに、いやツヨシの番はより一層笑顔を強めたようにすら感じたが、そのツヨシに対して追加で何かを渡しては二言三言言葉を交わす。するとげんなりした表情を浮かべて席に戻るツヨシ。



その出来事以外に特別な事と言うか気になるような事は何もなくホームルームも終わった。


あとは帰宅するだけだ。


因みにツヨシは野球部の練習がある為、滅多に一緒には帰らない。


故に最終確認(記憶の有無)はしておかなくては。自分は教室から下駄箱に向かう間に他の友人との世間話を挟み、間際になってツヨシに声をかける。


「そう言えばさ、ツヨシさっきなんか黒川から渡されてたけど、どうかした?」


するとツヨシは鞄から一枚の紙切れを取り出して見せてくる。


「ちぇっ、これ見ろよ。黒川のやつ俺だけ特別課題出しやがった。」


そう言ってA4用紙一枚に手書きで所狭しとばかりにデカデカと文字と言う名の課題が書いてある。


「えーと、丑三つ時とは現代において何時にあたるか?そもそもなぜそのような言い方をするのかしらべなさい。って何これ(笑)」


「ほんとだよ、まったく何でこんなのやらなきゃいけないんだよ。でもさ、ちなみにだけど、丑三つ時って何時?」


と聞いてきた時は驚いた。というか呆れた。


知らないで言ってたなんて、何時に来る気だったんだか。まったく恐ろしい話だ。例えて言うなれば、「幼稚園児が核兵器の発射ボタンを、おもちゃの発声機能のボタンと勘違いしている。」くらい恐ろしい。


いや…ちょっと待てよ…。数コンマの合間に自分で思考してその光景を想像したが、無論大業な例えだった。


修正しよう。例えて言うなれば、「昨日SNSのやり取りで彼氏と喧嘩した幼稚園の先生、由香子先生の次の日の機嫌の悪さ。」

くらい恐ろしい。(因みに由香子先生は普段は眼鏡をかけていて天使の様に優しいが時折見せる鬼の形相が園児を恐怖に陥れる先生であった。完全なる余談。)


よし!正解だ!



話の本筋に戻ろう。



「えーと、確か午前2時~2時半くらいかな。」


「そっかぁ、それなら、午前2時にお前んとこの神社の境内集合な。よろしく!」


「OK。ちなみに午前2時はわかるよね?」


「バカにすんな!夜の2時だろ。いやまてよ‥午前ってたしか朝だな‥いやでも‥」


無駄な思考を重ねるツヨシを見て自分はどうにも不安に駆られる。本当に将来的な事も含めて心配だ。


「なんなら、あとで連絡しようか?」


「うーん、そうだな。やっぱ後で連絡してくれると助かる。そしたら、またあとで。俺これから部活あるから。」とせわしなく靴を履いて校庭へと駆けていく。


そんなツヨシをよそに、自分は下駄箱の上履きを自前の靴入れにぶち込むと外履きに履き替え、さっさと自転車置き場がある校舎裏へと向かう。


因みに、自らの血となり、足となり、もはや肉体の一つと言っても過言ではない愛車、単なる「ママチャリ二号」は他の生徒と例外なく自転車置き場に安置されている。田舎では万全故に無双の防犯対策と言える、通常の鍵のみをかけては、待機モードで「ママチャリ二号」は校舎を挟んで、校庭の反対側にある自転車置き場で自分の到着を今か今かと、待ち望んでいる。


訳はないだろう。


無機物は喋りはしないし、意識も持たないのだから。単に名前を付ければ愛着が湧いた人間側の妄想の類である。


まあ零れ話はいいとして、その校舎裏には、何かと噂好きのツヨシからの情報だが、不気味になぜか置いてある猫の石像?らしき置物がある。どうにもその石像が夜になると動き出すというのだ。(「はぁ、またか」とこの時も言った気がする。)



その噂を証明しようと挑戦した事(夜中に学校に忍び込み、無論、警報器が作動する事件となった。下手人は未だに捕まっていない。ふぅ…。)もあるのだが、まあ、結果はご想像通りだったけど。


その石像を通り過ぎた辺りで声をかけられる。


「おーい、さっきは何話してたん?」


自分はその声の主へと体を反転させて正体を確かめる。やはり、声の主はヒカルだ。



彼女は先程の話にも出て来た幼馴染で、こちらに転校してくる前から知っている数少ない人物だ。


肩にかかるか、かからないか、絶妙なボブヘアー。クリンとした大きなヘーゼルカラーの瞳、

チョコんと小さく丸い鼻に、世界を柔らかくする丸い顔立ち。特に、唇の左斜め下にある小さなほくろがなぜか男を魅了させる。認めがたい事実だが、ようは美少女って奴だ。


個人的には風に靡いた髪が重力を無くした瞬間。その隙間から見えるうなじがチャームポイントだと思う。


その微妙な隙間から見えるうなじこそが彼女の本当の魅力だと気づく人間は自分だけだという変な自負はある。


これをヒカルに言ったら即、引く(石臼で挽く程の)反応を頂戴するにちがいない。故にその思いは封印し、努めて必死になって平生を装うのが日課だが。



「なんだ、三上か。」


発言者を確認すると自分は体を正面へと直し、そのまま自転車置き場へと歩く。我ながら素直さに欠ける対応だ。


「100点満点中30点。なんかめっちゃ塩対応。」と記されたカスタマーレビューが目に浮かぶ。


「なんだとは失礼な。せっかく話しかけてあげたのに。」


「いーよ、別に、話しかけなくても。」


「良いじゃん。それで何、またなんか調べてんの?くだらない噂とか?」


「うん、まぁね、ツヨシが今度はうちの神社の森に幽霊が出るって言うからさぁ。」


「なにそれ(笑)また言ってんの。面白いなあほんと。じゃあさ、もし本当に幽霊がいたら教えてよ。」


まったく冗談っぽく言われるが、こちらからすれば、現実に本当にいたとしたら、冗談では済まない。


命があるかも怪しい。もしもの時はヒカルの所に化けて出て、教える事にはなるだろう。「裏飯屋~」



「いたらな。それじゃあ、お先に。」



自分は鞄を前籠に入れると、そそくさと自転車にまたがる。


こっちだって本気でいるとは到底思っていない以上この話には先がない。よって話を切り上げて帰宅するのがこの場のベストな判断だ。


「なに?もう帰るの?」


「こっちも暇じゃないんだよ。じゃあな。」


片手を挙げて別れの挨拶を済ませると、自転車の向きを整えペダルに足をかける。


「そっ。いつも暇してるクセに。」


不満げな態度で去り際に言われた言葉を無視して立ち漕ぎで自転車のペダルをグゥーと漕ぎ始めて加速をつける。


何しろ家までは三十分ほどある。田んぼや畑に囲まれた道をひたすら行く。ひたすら行く。ただ行く。そこに道がある限り。


そうして最終関門として上り坂が待ち受ける。「行きはよいよい帰りは辛い」のやつだ。何しろうちの神社は少し丘になっていて最後の方はどうしたって帰りは少しキツイ。額に汗しながら最後の坂を登りきって家に到着すると、自転車をガレージに置いて神社の方に向かう。



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