22、公爵家でのお披露目会2
陛下の次にお越しくださったのは、焦げ茶色の髪に緑の目をした青年だった。
「レストルーチェ公爵、この度はフィリセリア嬢のお披露目おめでとうございます。本来は父が来るところですが、我が家のお披露目会が今日の夜に控えており大変忙しくしている為、代理で来ました」
「ありがとうございますラグダリガ様。お披露目会ぶりですな。フィリス、こちらはライダンシェル家長男であるラグダリガ・ライダンシェル様だ」
「お初にお目にかかりますラグダリガ様。お越しいただき嬉しく存じます」
(サランディア様のお兄様という事ね。彼女みたいに偉そうな態度とかは無さそう……?)
「ええ。以後お見お知りおきを」
その後、ナディル公爵もいらして、ガルマ公爵家からはガルマ公爵とマイ・ガルマ公爵夫人、レン令息がいらっしゃった。
「長男のサイと次男のユウも連れてきたいところでしたが、彼らには他の仕事があり任せざるおえなく……」
「いえいえ。公爵夫人とレン殿もいらっしゃって嬉しい限りです。一昨年、嫁いで行かれたマヤ様はお元気で?」
「ええ。ワディス国で元気にしているようで、この前もあちらから便りが来ました」
(マヤ様はワディス国に嫁がれたのね。ワディス国と言えば日本に似た島国だわ)
私が大人達の会話を盗み聞きしてガルマ家の内情を頭に入れていると、レン令息が私の元に近付いて来た。
「お披露目会ぶりですねフィリセリア嬢」
「ええ。またお会い出来て嬉しいですわ。その節はありがとうございました。此度も私のお披露目会にご参加いただき感謝致しますわ」
「とんでもございません。それと、我が家のお披露目会も明日行われます。フィリセリア令嬢もいらっしゃいますか?」
「ええ。ご参加させていただくつもりですわ」
「では、その際に存分におもてなしさせていただきますね」
レン令息は基本低姿勢で会話するので、とても話しやすいわと思いながら社交辞令を続けているうちに続々と他の来客者達が入場してきた。
私は、レン令息に断りを入れて両親と共に来客者の出迎えをすべく、両親の元へと戻った。
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来客者全員の入場が終わり、定時になるとお披露目会が開始される。
「我が家のお披露目会に、これ程多くの方々がご参加いただいたこと感謝致します。お披露目会で既にお目にしていただいていることとは存じますが、ここに紹介致します。娘のフィリセリアです」
「シディス・レストルーチェの娘、フィリセリア・レストルーチェでございます。本日は私のお披露目会にご参加いただき誠にありがとう存じます。どうか、以後お見お知りおきをよろしくお願いいたします」
挨拶に拍手をいただいてからは、自己紹介の一部として特技披露をする。
このお披露目会では歌と踊りではなく、バリシテを用意した。
(夢で見た前世でもバイオリン、ピアノ、琴などいくつかの楽器を扱っていたからか自然と楽器演奏の上達が早かったのよね。フルートも吹奏楽部でやっていたし……)
リフルーティをお披露目で使うことも考えたが、夢での経験で1番多いのは弦楽器なので、特技披露というならこちらかな?と思い今回はバリシテを選んだ。
この国での楽器演奏は楽器の見た目の美しさを見せつけたり、難しい曲をミスなくこなす事を見せつけるのに使われることが多い。
そのため、短い音で刻むような曲ばかり習わされた。
(けれど、弦楽器の魅力はそこではないと私は思っておりますわ……なので)
私はゆっくりとバリシテを弾きはじめた。
弦を滑らかに滑らせ、弦楽器特有の響きを味わうように弾いていくのは前世で好んでいたG線上のアリアだ。
家での音楽の勉強の時間は、きっちりこの国特有の曲ばかりやらされていた。
そのため前世の曲を練習する時間は無かった。
なので、一番弾き慣れていてそれほど難易度の高くないものを選んだのだ。
観客達は始め、バリシテの音を確かめでもしているのかと思い怪訝な顔をしたり、首を傾げたりしていた。
だが、そのまま演奏は始められ、そしてその音は今まで聴いたどのバリシテよりも美しいものだった。
会場はシンと静まり返って私の演奏を聴き入る。
誰も物音を立てず、静まり返ったホールで響き渡るバリシテは、まるでたった1人でこの場でバリシテを奏でているかのようだった。
演奏が終わると途端に拍手が湧き、会場内は一気に拍手の騒音にまみれた。
「バリシテがこんな美しい音を立てるなんて!」
「とっても素敵だったわ!」
「すごい!とても素晴らしかった!!」
誰もが賛辞を述べてくれる事に、見た目は堂々としているものの私は内心胸を撫で下ろしていた。
(よかった……ゆっくり聴き込ませるような演奏でも好評いただけたわ)
私の特技お披露目が済むと陛下は満足して帰られ、その場に居た貴族全員で礼をして送った。
その後は、社交の時間となった。
決まって皆、私のバリシテを褒めてぜひまた聴きたいと言う。
同じ賛辞を何度も聞いて少し疲れたところで、レン令息が私の元を訪れた。
「皇城お披露目会でもここでも大差ないようですね?フィリセリア嬢」
「今日は主役ですもの……仕方ありませんわ。でも、正直申し上げますと少々疲れました」
「では、私に公爵邸の庭を案内するという名目でここから席を外しませんか?少しは息抜きになるでしょう?」
「!そうですわね。お客様のおもてなしをすることも宴会主役の務めですもの」
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私はレン令息と共に近くに居た母様に声をかけて許可を貰うと、暖色の庭を訪れた。
「綺麗な庭園ですね」
「お気に入りの場所なのです」
私はそう言って東屋近くに咲き誇る淡紅色の薔薇に目を閉じて顔を寄せた。
ふわっと薔薇の甘い香りがしてとても心地いい……。
私が綺麗に咲き誇った薔薇の香りにうっとりしていると、レン令息が息を飲み驚いた。
「っ!髪が……。それが、噂のミラージュヘアですか?」
そう言われて目を開けると、髪の端が淡紅色に染まっているのが見えた。
「ええ。不思議でしょう?近くにある色を移してしまうのです」
「皇城のお披露目会の時は藤色だったのに今日は薄水色だったので、寒色系の色だけなのかと思っておりました……」
「淡紅色では変ですか?」
「いえ……、むしろ貴女にとても似合っていて……可愛らしいです」
「ありがとうございますレン様」
レン令息がまっすぐ私を見て可愛らしいなんて言うので頬を赤くしかけたが、直ぐに社交儀礼だと思い私は素直に礼を言った。
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会場に戻るとそろそろ終会にしようかというところで、父様が前に出て閉会の言葉を述べた。
「皆様、本日はお越しいただきまして本当にありがとうございました。ぜひ、今後とも娘共々よろしくお願いいたします。お気を付けてお帰りくださいませ」
我が家のお披露目会が済んだら一休みして、次はライダンシェル公爵家のお披露目会だ。
「フィリセリア嬢は、ライダンシェル公爵家のお披露目会に行かれますか?」
「ええ。レン様は?」
「私もこの後、向かいます。では、またあちらで会えますね」
「そうですね。また後ほど」
(公爵家2つのお披露目会に参加して、明日は自分の家のお披露目会。レン様もお忙しいわね……。まぁ、私も他人事ではありませんけれど……)




