21、公爵家でのお披露目会1
皇后様主催のお茶会の知らせが届いてから4日経った。
お茶会の衣装は仕立て始めており、余裕を持ってお茶会に間に合いそうだった。
(そういう事も考えて期間を設けてはいるのでしょうね……)
今日は午後に我が家でお披露目会を行う事になっている。
一応、皇城でも公式のお披露目会をしてはいるが改めて各家でお披露目会を開くのが貴族の通例なのだ。
皇城では白妃が傍に居たが、今日は念の為についてこないでもらった。
ダビッド殿下やサランディア令嬢がもしも来たら、また白妃が苛立ちかねないと思ったのだ。
(温厚な白妃が怒るくらいだもの……他の精霊たちも過激に出かねないわ)
私はひとつため息を吐いて、今日のお披露目会に意識を向ける。
今日のドレスはベビーピンク色のフィッシュテールスカートドレスを仕立て用意した。
(皇城に着ていくドレスはある程度、形式的なものである必要がありましたけれど。我が家で行うお披露目会での衣装は好きにしていいと父様にも母様にも許可を取りましたもの)
実はこのドレス、父様にも母様にもまだ見せてはおらず。
仕立て屋と着せてくれたリリアしかまだ見ていないのだ。
前が短く後ろが長いスカートをしたフィッシュテールスカートは、大人の女性は足を見せるものでは無いという認識のあるこの国で見たことが無い。
だが、私は自由にドレスを仕立てられると知って、すぐにフィッシュテールスカートドレスを思い浮かべた。
(前世の夢で当たり前に短いスカートも履いていたからかしら……。ウェディングドレス店に飾られるフィッシュテールスカートドレスを見たことがあるからかも?一度はこういうのを着てみたかったのよね)
ベビーピンクのフィッシュテールスカートドレスは、裾にローズレッド色の花の飾りとレースがあしらわれている。
「やっぱりとても可愛らしいですフィリセリア様!流行るといいですね!そのドレス」
「流行り?」
「あら?お披露目会を機に新たな流行を作ろうと奇抜なドレスを仕立てたのではないのですか?」
「流行……ですか」
流行を追ったり作ったりする事も上位貴族令嬢の仕事のひとつだ。
確かにこのドレスが多くの貴婦人や令嬢の目に留まれば、新たなドレスの流行となるかもしれない。
(ふむ……皇后様主催のお茶会までまだ衣装の手直しは効きますわね?)
もう少しでお披露目会開始時間となるので、私は急ぎリリアに髪を整えてもらい仕上げをされている。
開始時間は各家ごと日にちや時間帯を少しずらして、複数廻れるようになっているそうだ。
我が家は公爵家な為、その中でも特に早い方になる。
(我が家のお披露目会が終わったらそのままライダンシェル公爵家の夜のお披露目会へ参加するのですよね……)
「……出来ました。んん〜!素材がよろしいから軽く化粧を施しただけでとてもお美しいですフィリセリア様」
「ありがとうリリア」
私は最後の仕上げも済ませてもらうと、鏡でちらりと見て一応のチェックをして、両親の居るであろう玄関ホールに向かった。
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「まぁ!」
「ほお……」
私が玄関ホールに姿を現すなり、すぐに私に気付いた両親は感嘆の声をあげた。
「いかがですか?お父様、お母様」
「とっても綺麗よフィリス。どんなドレスにするのかと思っていたら、とても素敵なドレスになったじゃない!」
「ああ、よく似合っている」
2人の言葉に嬉しくなってその場でくるりと回って見せた。
短いスカートが舞い上がってしまうと思ったお父様は目を伏せ、お母様は驚いていたけれど、スカートの中はレースの見せパンツを上から履いているので問題ない。
「まぁ!スカートの中はズボンなの?」
「ええ。レースで出来ていますから一見して分かりませんが、スカートが舞い上がっても大丈夫なようにズボンを中に仕立てておいたのです」
「……驚かせないでくれ」
「スカートの中にズボンだなんて画期的ね!」
そもそもスカートを短くする事をあまり良しとしない文化のこの国において、キュロットスカートの認識も存在しない。
私は2人から好評をもらえたことで、これならフィッシュテールスカートとキュロットスカートを流行と化すことが本当に出来るかもしれないと思った。
「お一人目のお客様がいらっしゃいました。お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ。お通ししてくれ」
執事の言葉で私達は玄関に向き、一人目の来客者を迎える事になった。
「ファリシアとフィリセリア嬢は、お披露目会ぶりだな?」
「帝国の月、フィリップ・ティルス・シャルディルチア陛下にご挨拶致します。我が家のお披露目会に御足労いただき感謝致します陛下」
「お越しいただき感謝しますわ」
「帝国の月、フィリップ・ティルス・シャルディルチア陛下に御挨拶申し上げます。お越しいただき感謝致します」
(まさか陛下が一貴族のお披露目会にいらっしゃるとは思わなかったわ……)
皇族は現在4人しか居ないが、恐らくお披露目会を行う上級貴族全てから招待状が届く。
その中で期間内に出来るだけ多く廻るためには全員で廻るのが効率的だろう。
だが、陛下が貴族の家の宴会に顔を出すのと残りの皇族が顔を出すことでは全く影響力が違ってくる為、陛下が廻られる事はないと思っていた。
「こちらへ伺ったのがヴァシュロンでなくて残念かな?フィリセリア嬢」
「いえ、そんな事はございません。しかし、陛下がいらっしゃるとは想像にもしておりませんでしたので、少々驚いてはおります」
私が隠し立てせずそう胸の内を伝えると、貴族らしくなく感情を素直に見せた私を陛下は嫌うこと無く、むしろ喜んだ。
「正直じゃな。実に良い。どうだレストルーチェ公爵、フィリセリア嬢を皇族へ養子に出さんか?」
「ご冗談を……娘をどこであろうと養子に出すつもりなどございません」
「うむ……では、やはりダビッドと婚姻を結ばせるか……。いや、ヴァシュロンでもいいが……」
「フィリスの祝いにいらしたのではないならどうぞお帰りくださいませお兄様?」
(……?母様……。今、陛下の事を……)
つい訝しげな表情で母様を見上げると、それに気付いた母様が私に笑いかけた。
「ふふ。そうね。フィリスは知らなかったわね?フィリップ陛下は私の兄上なのよ?」
「え?……ええ!?お母様は皇族なのですか?」
「元皇族……ね?今はただの公爵夫人よ?皇位継承権も無いし公務もない。とっても気楽だわ」
「その点においては羨ましいほどだな」
「ふふ。お兄様も帝位を降りて老後生活になったら息を抜けるわよ?」
「まだ先になりそうだ……」
その後、他の来客者が続々来たのでその場ではそれ以上話は続かなかったが、あとから聞くと母様は第二皇女であったそうだ。
母様の兄妹は1番上にフィリップ陛下、2番目に他国へ嫁いだマリアンヌエル様、3番目にお母様で、母様は自ら望んで公爵家に嫁いだらしい。
(という事は、私にも皇族の血が流れているのですね……。あら?では、ダビッド殿下やヴァシュロンは従兄弟?)




