18、お披露目舞踏会1
お披露目会は魔力測定も特技披露も終わり、残すは社交舞踏のみとなった。
白妃は、見るものは見たのでもう興味はないとどこかへ飛んで行ってしまった。
(人間同士の会話に付き合うのは退屈でしょうからね。私も正直面倒ではありますわ)
この舞踏の時間はお披露目の子供達以外の成人前の貴族も全員参加で踊る事になる。
初お披露目で皆初対面となるため事前に誘う事は出来ない。
そのためこの会では、その場で自由に相手を誘って良い事になっている。
そして、交流が目的であるため最低3人以上と踊る事と決まっていた。
(とはいえ結局、親の意向なのよね……)
上位貴族が下位貴族を誘うことは無く、下級貴族は中級貴族に、中級貴族は上級貴族を誘う為に動いた。
そして、最も人が集まるのは私たち公爵家のところだ。
私の元にもサランディア令嬢の元にも多くの上級貴族の子息が集った。
だが、私の元にはあの人物が近付いて来た為、全ての子息が道を開けざるを得なくなった。
「貴様と踊れと父上からの命だ。ありがたく思え」
その偉そうな物言いを公然とする人物は、当然ダビッド殿下である。
殿下は嫌な顔を隠しもせず私に手を差し伸べた。
(全然、ありがたくないのですが……。上位者である事に変わりありませんし、断ることができませんね……)
「光栄にございます。ダビッド殿下」
「当然だ」
私はダビッド殿下の手を取って舞踏の輪の中程へと進む。
そして、音楽が奏でられ舞踏が始まったのだが……。
(っ!危ない……また足を踏まれそうになりましたわ。わっとと……なんでそんな動きをするのですか!?)
貴族の嗜みとして舞踏も習っているものなのだが、殿下の舞踏は基礎に忠実な初心者より酷い有様であった。
私は1曲の間に幾度となく振り回され、2度も足を踏まれそうになりながらも何とか殿下の動きをカバーして踊りきる。
「まぁまぁ人とも踊れるのだな?先程ので1人でしか踊れない独り者かと思ったが?」
「……嗜みとして習っておりましたので」
(どの口が言うのでしょう……まともに踊れないのは殿下ではありませんか。それともわざと嫌味で踏もうとしたのかしら……ありえるけれど)
私は心の内を表情に出さないよう気を付けて、殿下にカーテシーで終わりの挨拶をする。
対してダビッド殿下は、挨拶もせず鼻を鳴らしてその場を立ち去った。
(……相当嫌われていますね。だとしても公の場では……はぁ、気にしてもしょうがないですわね)
上級貴族の子息が今度こそと踊り終えた私の元へ再び集って来たが、次の人物にも道を開けなくてはならなかった。
「フィリセリア様、ダビッド兄上が失礼を致しました」
「ヴァシュロン殿下が謝罪なさるようなことではございませんわ」
次に話しかけてきたのはヴァシュロンだった。
「ありがとうございます。……あの、フィリセリア様。僕と……踊ってはいただけませんか?初めの舞踏は貴女としたくて、お待ちして居たのです。どうか……僕に貴女と共にある時間をください」
まるで、プロポーズかと思うような甘い雰囲気を出してヴァシュロンが手を差し出し誘うので、私は思わず頬が少し赤く染ってしまった。
「……ヴァシュロン殿下にお待ちいただくなんて恐れ多いですわ。……もちろん。そのお誘いはお受けしたく存じます」
私は喜んでヴァシュロン殿下の舞踏の誘いを受けた。
だがーー
バシッ!
私の手が払いのけられる。
「お前は俺の女なんだろ!?ヴァーシュと踊るとかふざけるな!」
私の手を払い除けたのはダビッド殿下だった。
「っ!大丈夫……?ルチア、頼む」
『あらあら、今手当てしますわね〜?』
ヴァシュロン殿下は私を気遣ってすぐに私の手を確認して、念の為にルチアに精霊魔法による治癒を頼んでくれる。
「そんな奴に近づくなヴァーシュ!」
「ふざけているのは兄上でしょう」
「なにっ」
「このお披露目会の舞踏では3人以上と踊る事が決まりです。そしてその相手は自由に選んで良い事になっている。なのにフィリセリア様に『自分意外と踊るな』などと……」
「そんな決まり知るかっ!とにかく他の奴と踊る事など許さない!」
ヴァシュロン殿下は私を庇い前に出て、ダビッド殿下はヴァシュロン殿下に怒鳴り散らす状態は、長くは続かなかった。
「なっ!何をする!」
「陛下のご指示です」
「ふざっーー」
「静かに出来ぬのであれば退場せよと申したはずだが?」
ダビッド殿下を押さえつけようとする騎士を怒鳴りつけようとした殿下は、現れた陛下によって遮られた。
「なら、原因となったこの女もヴァーシュもです父上!むしろこいつらが退場すれば俺はうるさくなんかーー」
「ダビッドっ」
さらに騒ぎ立てるダビッド殿下を陛下が声を凄ませて名を呼び黙らせる。
「まぁまぁ、陛下。ダビッドの幼い嫉妬心ではありませんか。そのように叱りつけることありませんわ」
「アマランティア……」
そう言いながらこの場に現れたのは皇后アマランティア様だ。
「ヴァシュロン、ダビッドが誘ったご令嬢を舞踏に誘おうと待っていたですって?ダビッドのお相手を取るつもり?」
アマランティア様は、ダビッド殿下を優しく庇い立てしたかと思えば、ヴァシュロンにきつく言葉を放った。
「兄上のお相手を取るとは語弊があります。この会において舞踏のお相手は事前に決まったパートナーではございません」
「っ!…………まぁ、いいでしょう。ダビッド?そういう会なのよ。貴方の気持ちは分かるけれど我慢なさい?」
「……母上がそう仰るのなら」
皇后様がやたらとダビッド殿下に甘く、ヴァシュロンに冷たく当たろうとする事に違和感を感じたが、この場はとりあえず収まったようだ。
ダビッド殿下は皇后様が連れて行き、この場には私とヴァシュロンと陛下が残された。
様子を伺い動きを止めていた貴族達も取り残され、誰も動けなくなっている中で陛下がお声をかける。
「皆、騒がせた。お披露目会の続きを楽しもう」
そのお声で再び演奏が始められ、踊るものは続きを踊り、会話を楽しんでいたものは会話に戻る。
「すみませんフィリセリア様。……さっき程は、兄上が手を払いのけるのを止める事ができなくて……」
「いえ、その後ルチアに頼んで治療してくれたではありませんか」
「僕がちゃんと周囲に気を配る余裕があれば……」
私が大丈夫だと伝えてもなお気に病み俯くヴァシュロンに私は手を差し伸べた。
ヴァシュロンはその差し出された手を見て、少し驚いた様子で私を見る。
「私と踊ってくださいますか?ヴァシュロン殿下」
私が手を差し伸べ笑顔でそう言うと、ヴァシュロンは赤くなって固まってしまった。
(クスッ……私から誘うとは思って居なくて驚いているのね)
「この会では相手は自由に選べる。つまり、男女問わず……でしょう?」
「え、ええ……そうです、けど」
「私もヴァシュロン殿下と舞踏をしたかったのです。お相手してくださいな?」
「……喜んで」
ヴァシュロン殿下は、赤い顔のまま差し伸べた私の手を取った。
(自分からは良くても相手から誘われると緊張するのかしらね?)




