17、特技披露
魔力測定が終わると次は子供達の特技披露だ。
これもまた下級貴族から初めて最後の見せ場が公爵家となる。
これは、上位貴族の方が日常的に教養がよく施されており、一般的に上位貴族の子供の方が上手に特技を見せられる為、そう配慮されているのだ。
(剣舞と楽器演奏ばかりね。まぁ、室内でできる見栄えある特技披露ってそういうのくらいしか無いものね?)
『魔法や魔術でもいいのでは?』
(まだ、習っていないと思うわ。私が魔法を使えるのは例外だもの)
かくいう私も家からリフルーティとバリシテを持って来てはいる。
これらは夢で見た世界の楽器によく似ていて、リフルーティはフルート、バリシテはバイオリンと同じ形だ。
ただ、これらは貴族のみが扱う物なので前世で見たものより彫りや絵付けを凝っているものが多い。
特技披露も中級貴族まで終わり、上級貴族の特技披露も始まった。
やはり、上位の貴族になるほど剣舞も楽器演奏も上達している。
(綺麗な演奏……歌いたくなる。それに、こんな綺麗な演奏の中踊ったらきっと気持ちいいわね)
貴族たちの認識で『歌』は、楽器を買うお金もない貧民が自らを楽器として安売りする行為と蔑まれる。
このお披露目会では、当然誰も歌など歌わない。
(歌だって楽器に負けない素晴らしいものなのにね……貴族で歌を歌うものなど居ないのよね。……うん。やっぱり私は……)
私が他の子供達のお披露目を見聞きしながら思案するうちに上級貴族のお披露目も終わり、公爵家の子供の番となった。
特技お披露目の順番は先程の魔力測定の時と同じな為、レン令息がまずは前に出る。
(レン様は剣を持って出たからきっと剣舞ね……なんだかこれまで見た子供たちよりも様になってる……)
『あの少年、他の子よりお上手ですわね』
レン令息はまるで数多くの敵を相手取るかの様な見事な剣さばきをしつつ、とても優雅に剣舞を舞った。
(すごい……レン様の剣舞とっても素敵。優雅なのに無駄があまりなくて……もしかして実戦も慣れている?)
レン令息の剣舞は上級貴族の子供達よりも明らかに抜きん出た素晴らしいものだった。
皇族席からも大人達からも一際大きな拍手が送られて、レン令息が座席に戻ってくる。
「とても素敵な剣舞でした」
「あ、ありがとうございますフィリセリア令嬢」
私が剣舞を褒めるとレン令息は少し恥ずかしそうに礼を言った。
「ふんっ!確かにまぁまぁ出来のいい剣舞でしたけれど、私の演奏には叶いませんわっ!」
サランディア令嬢はそう私たちに言うと前に出た。
(サランディア様は負けず嫌いね……)
『やっぱり気に入りませんわ』
サランディア令嬢はバリシテをかまえて演奏を始めた。
その演奏は他の貴族の子供の演奏よりずっと難易度の高いものでありながら、サランディア令嬢はつまづくこと無く弾いていく。
(このお披露目に向けてすごく努力を重ねた事が窺える……。自信満々な理由になるくらい日頃から努力をしている方なのね……)
難易度の高い演奏を一度も失敗無く弾きあげた彼女に、皇族席からも大人達からもレン令息の時と同じくらい大きな拍手が送られた。
だがその結果に納得のいかないサランディア令嬢は、不貞腐れた顔をして座席に戻って来る。
「なぜ同程度の拍手しかもらえませんの!?練習通りにしっかりと演奏をこなしましたのに……」
「サランディア様、とてもお上手な演奏でしたわ」
「ふんっ!世辞などいいですわ」
「世辞なんかではありませんわ。難易度の高い演奏をーー」
「お次は、フィリセリア・レストルーチェ様です」
世辞ではないことをちゃんと伝えようとしたら私の番だと呼ばれてしまった。
私は、先程決めた通り何も持たずに前に出る。
「……?楽器を持たず?剣もないけれど何を……?」
そう呟いたのはサランディア令嬢だけでは無い。
その場に居た誰もがそう心の中で思ったり、つい口に出したりしていた。
「あの……楽器等は……?」
「私には剣も楽器も必要ありませんわ」
進行役をしている皇城務めの貴族が心配してそう声をかけるも私は必要ないと答える。
そして、私は胸の前で手を組み歌い始めた。
初めはそよ風のように囁くように、それから雨雫のようにリズミカルに、その歌に合わせてクルリと回ったり軽く跳ねたりと踊る。
その度に、3層になっているドレスのスカートがフワリと舞って大輪の花を咲かせる。
「まるで……花が美しく咲きほこるよう……」
誰かのその呟きは、見るもの皆の気持ちそのものだった。
可愛らしくも美しく思える歌声と、優雅にしかし大胆な踊りは見るものを魅了した。
恐らく、この国全土の歌姫、舞姫を全て探したとてこれ程素晴らしいものにはならないと思わせるほどの歌と踊りを披露して、お披露目を終える。
私は、特技お披露目をし終えてカーテシーをその場でしたが……レン令息やサランディア令嬢の時のように拍手が得られない……。
(やはり……歌や踊りは貧民の身売りだと思われてしまったかしら)
『いいえ、とっても素敵でしたわよ?』
……パチ……パチパチ
初めに拍手をしてくれたのはレン令息だった。
それから皇族も貴族達も皆が拍手をし始め、先程のレン令息やサランディア令嬢の時よりも大きな拍手となった。
拍手を貰えたことに内心胸をなで下ろして座席へと戻ると、サランディア令嬢が涙目で睨みつけてきていた。
「許せない……許せないわ。私より目立つだなんて!何なのよアレ!貧民の身売り芸をこんな場所でやっておいて恥ずかしくないの!?」
「けれど、皆さんから好評をいただけたようですわ」
「私、貴女のことは絶対に認めませんわ!」
「お手柔らかに」
私の披露が随分と目立ってしまったが、まだヴァシュロンの番がある。
前に出たヴァシュロンは、少し困ったような顔をこちらに向けてからリフルーティを構えた。
(ゔ……やりづらくしてしまったようですね。ごめんなさいヴァシュロン)
男子達は剣舞がほとんどで、たまにバリシテを演奏する者も居たがリフルーティの演奏をする者は居なかった。
女性のみの楽器と決まっているわけではないが、一般的にはリフルーティを演奏するのは女性の方が多いのだ。
けれど、金髪に黄金の瞳で全体的に色素が薄く柔らかい印象のヴァシュロンには、リフルーティがとてもよく似合っている。
リフルーティで始められた演奏はとても美しく流れるように奏でられ、その清廉な響きは聴く者を魅了した。
(ヴァシュロン……こんな特技があったなんて……。すごく綺麗……彼の演奏で歌い踊れたらきっと素敵ね)
『いいですわね!私達も踊りますわ』
演奏が終わりヴァシュロンが姿勢を正すと、会場にいた皆が即座に盛大な拍手を送った。
ただ一人、ダビッド殿下だけは不貞腐れた顔をしてそっぽを向き拍手を送らなかったが、恐らく私の時にもそうだったのでは無いだろうかと想像できた。
(ダビッド皇子は、8歳に成られると思うけれど……。随分と行動は幼い……これから変わっていってくださると良いですけれど……)




