15、お披露目魔力測定1
ファンファーレが鳴り響き、貴族同士の挨拶がそこかしこで行われていた会場内は静まり返る。
そこにフィリップ・ティルス・シャルディルチア皇帝陛下並びに皇后アマランティア様、続いてダビッド第一皇子と本日がお披露目となるヴァシュロン第二皇子が入場した。
「面を上げよ」
私達は陛下の言葉に従い、頭を上げた。
陛下の隣に控えるアマランティア皇后様は艶のある真紅色の御髪に赤紫色の瞳をしており、青紫色のドレスは彼女にとても似合っていた。
(姿絵でも思っていたけれど……とても堂々たるお姿ね。女王陛下だと言われても納得してしまいそうな程の存在感だわ)
『ああいう女性も格好いいですわね』
(今日は白妃しか居ませんの?)
『希暗にはここは明る過ぎますし。龍水は水が豊富なところで休むそうですし。翡翠はいつも通りどこかへ飛んで行ってしまいましたわ』
(なるほど)
ダビッド皇子は黒の正装で堂々たる様子で貴族達を眺め、ヴァシュロンは白の正装でその隣に立って居る。
ヴァシュロンも控えめながら物怖じはしていない様子だ。
ダビッド皇子は、チラリとヴァシュロンの方を見ると不快そうに顔を歪めた。
(きっとヴァシュロンが緊張で固まって居ないことが気に入らないのでしょうね……公の場でくらい感情を隠して欲しいものですわ)
『相変わらずですわね』
フィリップ陛下が皇后や皇子に手をかざして着席を促し、前に出て挨拶を行う。
「月の統治に安寧がもたらされるこの帝国に、また新たな星屑たちが迎えられる。この良き日を迎えられたことを私は心より祝おう。これより、本年のお披露目を始める」
陛下の開始のお言葉に貴族皆が拍手を送る。
そして、お披露目になる子供たちは舞台前の椅子に座り、保護者たちは用意されている各自の格席に座る。
全員の移動が済むと、神殿の神官たちが前に並び台座が用意され、そこに水晶玉が置かれた。
(多分、あれが保有魔力量を測るための魔道具なのね……)
このお披露目を迎える貴族の子ども達は、この保有魔力量計測の為に1週間ほど前から収魔のブレスレットを外している。
収魔のブレスレットに魔力を吸われ、ほぼ魔力の無い状態で計測などさせない。
中には、子どもの魔力量を少しでも多く見せたくて2週間、3週間も前から外させておく親も居る。
そうなると、魔力暴走を起こす可能性もあるのだが、魔力暴走を起こすか魔力保有量を多めに計測できるかで賭けに出る貴族も中には居るのだ。
実際、魔力視魔法を目にかけて周囲をこっそり見れば半数程の子供たちが魔力を暴走させそうなギリギリの状態であることが見て取れた。
(結構多いのね……。下級、中級貴族の子どもに無理をさせられている子が多いけれど、上級貴族の子供にも暴走ギリギリの不安定な魔力状態の子達が居るわ)
『危ない事をしますわね〜』
私が金色に変わった目を周囲に見られないように薄目で周囲を伺っている間に、保有魔力計測は始められた。
先に計測していくのは下級貴族の子供達、その次が中級、上級、公爵家の子供となる。
魔力暴走しそうな子が下級貴族に多いので、その順番は妥当と言えた。
魔力量の多い上級貴族を目立たせる為だとは思うが、不幸中の幸いだ。
保有魔力計測は、その子供の魔力を枯渇しない程度に水晶玉が吸い、玉の中に色の塊が現れる事で計測できるようだ。
保有魔力量計測の指揮を執っている大神官が水晶玉に現れた色と、どの程度玉の割合を占めるほどの塊かを確認して傍らにいる神官の持つ色と染まり量を示す表を指差し、他の神官が記録をとる。
水晶玉は先程吸った子供の魔力を人数分用意されている黒い水晶に吸われて元に戻る。
(あの黒い水晶は多分、魔力検査の時のと同じね。きっと、神殿に魔力の記録を残しておくんだわ)
『ああ、あの時の。確かに同じものですわね』
計測は流れ作業でどんどんと進み下級貴族のほとんどが色の薄ら付いた程度の色で、玉の割合としては2割ほどを占める色の塊。
中級がまぁ、はっきりと色の違いがわかるくらいの薄い色で、玉の割合としては4、5割ほどを占める色の塊になっていた。
各自で色が違うのは得意な属性でも示しているのか、本人の保有している魔力と同じ色をしている……。
上級貴族の子供達は、中級貴族と同じくはっきり色の違いがわかるくらいの薄い色で、玉の割合としては6、7割を色の塊が占めている。
中級貴族の子供にも居たが、青と緑や赤と黄色など複数の色が水晶に現れている者は得意属性が複数あるのだろう。
公爵家を除く全ての上級貴族の子供達の計測が終わると、次は私達の番だ。
「レン・ガルマ様、前にお越しください」
「はい」
レン令息が大神官に促されて水晶玉に触れると水晶玉は、赤、黄、緑、黒の色を浮かべた。
玉を占める割合は8、9割はある。
「さすがはガルマ公爵家のご子息、四種とは素晴らしい……魔力量も申し分ありませんな」
大神官が思わずそう呟き、他の貴族達も後ろの方でざわざわとしている。
(この様子からして四種属性が水晶玉に現れるのは稀なようね……。ふーむ……)
次に大神官に呼ばれたのはサランディア令嬢だ。
サランディア令嬢は自分が最後を華々しく飾るものと思っていたのか呼ばれた時、ポカンとしてそれから私の方を睨みつけてから前に出た。
(あらあら……感情を隠せないのはダビッド皇子だけでは無いみたい。まぁ、サランディア様は、まだ五歳だからそんなものかしら?)
『今日はフィリセリア心の声が随分盛れますわね?』
(静かにしていなきゃならないとなるとつい……)
彼女が大神官に促されて水晶玉に触れると水晶玉は、赤、青、黄、緑と四種の色を浮かべ、その割合はレンの時と同じく8、9割程ある。
「サランディア様も大変素晴らしい。魔力量もさすがは公爵家ですな」
大神官はレンの時のようにこれもまた驚いてサランディア令嬢を褒めるが、本人は納得がいかないのか不貞腐れた顔をして戻ってきた。
後ろの貴族達もまたざわざわとしているが、先程より落ち着いているように思う。
(基本魔属性が火、水、土、風で全てと言うなら、後ろの貴族達がレンの水晶玉で驚いたのはそこに含まれない闇があったから?闇にさらに三種だったから驚きが大きかったのかしら……)
『普通は人間に闇属性は付きませんからね……』
(そうだったわ……。レン様特有かしら?それともガルマ公爵家が……?)
「フィリセリア・レストルーチェ様、前にお越しください」
私は大神官に呼ばれ、慌てた様子を見せないように気を付けながら前に出た。
「水晶玉に御手をのせてください」
私は大神官に言われた通り水晶玉に手をのせる。
私が水晶玉に手をのせると水晶玉は、赤、青、黄、緑、白、黒の色を浮かべる。
「なんとっ!基本魔属性四種に特殊属性二種まで!全種適合ですと!?」
大神官は思わず叫び。
見守っていた計測の終わった子供達も後ろに控えていた大人達も皆ざわめいた。
「だが魔力量は……それほど多くはありませんな……。いや、しかし全種とは素晴らしい才能です。(それにこの濃さは……)」
私の水晶玉は、全属性の色を浮かべたがその色の割合は、中級貴族レベルかそれ以下という少ないものだった。
これは、私の仕組んだことだ。
私は他の子供たちが魔力計測を受ける様子を魔視で見ていて、水晶玉が魔力を吸うのをこちらの魔力操作で調整可能なのではないかと考えた。
そこで、あまり悪目立ちをして皇族との婚姻を確かなものにされたくない私は、わざと魔力操作で水晶玉に送る魔力を制限したのだ。
(まぁ、属性を下手に隠して後で罪に問われては困りますからね……属性で目立つのは仕方なしとしましょう。あっ……属性別で魔力操作可能ならそれも今後の訓練に良さそうですね……)




