13、一生分の夢【3】
これは……いつか見た夢の続き?
私は巫女でミトという名前、私の他に幼なじみの男の子二人も巫だった。
ここは海に浮かぶ島で、私たちは海の神に感謝と安寧を願って祈り歌う巫女。
毎日、祈りの時間には三人で海に祈りの歌を捧げるの……物心つく頃からずっとそうして過ごしてきた。
特に親しい男の子といつも私たちを見守るようにそばに居てくれるルカ……。
特に親しかった彼の名は……シェイル。
ある時からルカが姿を見せなくなった。
私が14歳になる頃だったと思う。
私とシェイルは恋仲で、でも3人で居続けることに違和感なんて無くて、ルカも居心地悪そうなんかでは無かったのに……。
ある日突然、海が荒れた。
ルカが居なくなってからも毎日シェイルと祈りの歌を歌ってずっと穏やかだったのに……。
まさかルカに何かあったの?
ルカは私達巫女の中でも特に海神様に愛されていた……。
私とシェイルが祈りの歌を歌い続けても海は荒れ続け、段々と島が海に沈んでいく……間違いなく海神様が何かにお怒りなのだわ。
沈みゆく島に人々が怯え、その恐怖は私たちに怒りとして向けられた。
とても優しくいつも私達の祈りの歌に感謝していた人々は、半狂乱になって『お前たちがちゃんと祈らないからだ!』と石を投げつけてくる。
石を投げつけられ続けても私達2人は歌おうとしたけれど、あまりの石礫の多さと人々の怒りで怖くなって歌えなくなる。
そして、歌えなくなると『さっさと歌え!』と石を投げられ蹴りつけられる……。
祈りの歌は3人で歌わないと本来の力を発揮しない……お願い戻って来てルカ。
お願い……怒りを収めてください……みんな、海神様……。
****
(毎日、幸せに感謝することを忘れずに過ごしていたはずなのに胸に悲しみが湧いてくるのは、そういう事だったの……)
私はボロボロと涙を流し胸を締め付けられながら目を覚ました。
まだ真夜中、窓の外には蒼月が輝いている。
美しい月を眺めていたら、自然と歌が口から紡がれた。
聞いたことなどない、今思い浮かぶままに口ずさむ歌……。
貴族教育に楽器はあるが、歌は無い。
学んだことなどないはずなのに、いくらでも歌い続けられる気がした。
****
ヴァシュロンの魔法指導を終えてからの4ヶ月は思っていた以上にあっという間に過ぎ去った。
真冬だったので雪が積もり、ドレスの仕立て屋がなかなか屋敷に通って来れずお披露目のドレスの仕立ては、本当にギリギリになった。
仕立て屋が来ない日は、お披露目のための事前準備や毎日習慣にしている魔法訓練を行って過ごした。
雪は溶けて、まだ風は少し冷たいものの草花が姿を見せるようになり、人の手が加えられる花壇は、ひと足早く花で溢れている。
「とうとうお披露目ですね」
貴族のお披露目は皇城で行われる。
お披露目の主役である5歳になる貴族の子どもは、皇族や他の貴族が集まるその場で内包する魔力を映し出す水晶に触れる。
それで、この者は確かにその位の貴族として確かな魔力を備える者であると示すらしい。
(まさかお披露目がそういったものだったとは……)
内包する魔力をかなり増やしている私とヴァシュロンは相当目立ってしまうことだろう。
だが、増やしてしまったものは仕方ないし、魔力が増えた事でできるようになった事は多い。
それと、お披露目の主役にはもうひとつやる事がある。
(何か一つ特技を見せる……か。忙しかったのもあるし、なんとでもなるだろうと思って保留にしたまま当日になってしまったわ)
皇城で行われるお披露目会は昼前に始まり数時間に渡り行われ、夕刻頃に子どもたちはお開きとなる。
夜にも大人だけの宴席が設けられているようだが、子どもたちには関係の無い事だ。
「フィリセリア様。そろそろドレス合わせをしてもよろしいですか?」
「え……もう?」
「フィリセリア様の晴れ舞台ですもの!ドレスだけではなく髪型も髪飾りもこだわらなくては!」
リリアにそう言われて、朝食を済ませたばかりの私はお披露目の支度へと駆り立てられた。
「いつ見ても素敵な御髪ですね〜」
「自分では鏡を見ないとわからないですけれどね?」
お披露目のために用意したドレスは、藤色にピンクの小さな花の飾りがドレスの裾の方にあしらわれた、襞が多い薄手のドレスだ。
襞を多くするためにスカートは至ってシンプルで、裾に金の刺繍やレースがあしらわれてはいるが全体的な飾り気はあまりないドレスだ。
私は試しにその場でくるりと回ってみる。
ファッ
ふわりと腰近くの高さまでスカートが広がる。
でも、3段になっているドレススカートのおかげで残りの2段の広がり具合がまた違うため、素足が見えすぎることも無い。
「わぁ!フィリセリア様、まるで可憐な花のようです!」
「思い通りの仕上がりだわ」
このドレスが映えるのはダンスを踊る時。
お披露目では、魔力確認と特技披露の後に子ども同士の交流としてダンスもある。
(だから、ダンスで映えるドレスにしたかったのよね)
これだけヒラヒラとしたドレススカートであれば、普通に踊っても裾が動きに合わせて広がってきっと綺麗なはずだ。
「肩周りはスッキリしているドレスですからね……髪は少し派手にいきましょうか!」
「程々にお願いね?リリア」
****
私が、お披露目に行く支度を済ませて玄関ホールへと向かうと、既に支度を終えている父様と母様が待っていた。
「おまたせ致しました。あら、ファディーもお見送りしてくれるのね?」
「あーっ」
最近ファディールは、掴まらなくても歩行を数歩出来るようになってきて居て、言葉にならない言葉もよく出すようになった。
(言葉がわかるようになったら魔力操作訓練や魔法を教えてあげようかしらね?ファディールが優秀な魔術師になれば我が家は安泰でしょうし、私に何かあってもきっと大丈夫だわ)
3歳の時感じた焦燥感は未だに時々湧いてくる。
何がそんなに焦ることがあるのか不安になるのかまるでわからないまま。
(身体強化も身に付け、精霊と新たに契約もして……それでもまだ足りないのでしょうか?魔力量もまだまだこれから増やすのですし……きっと大丈夫と思いたいですが……)
「どうしたの?お披露目を前に緊張してしまったかしら?」
私が未来の事を心配していると、母様が私を心配してくれた。
「いいえ。大丈夫ですわ。今日はお父様とお母様もご一緒ですし」
私がそう言うと2人とも嬉しそうに微笑んでくれる。
(どんな未来が待っていても、この暖かい家族は守りたいですわ……。そのためにも今より力を付けなくては……)




