7、殿下の精霊契約1
私は、ダビッド殿下と遭遇して起きた騒ぎのせいでどこかへ行ってしまった精霊達をヴァシュロンと探す事にした。
けれど、湖畔付近を歩き探す私達が見つけるより早く、周囲を見ていた白妃が私に声をかける。
『フィリス、光精霊達ならあそこですわ』
(あっ……居ましたね)
白妃の指した方を見れば確かに光の精霊達が居る。
思っていた通り、光の精霊達はそれほど離れていないところ所に居たのだ。
騒ぎを起こしていた湖畔のすぐ側、木漏れ日の光に隠れてこちらを伺っている光の精霊達が居る。
(なるほど、小波の光ではなく木漏れ日の光ね)
『あれはあれで心地いいのです』
さすが白妃、光の精霊同士で行動が読みやすいようだ。
私は捜索の足を止めて、ヴァシュロンに精霊の居場所を教える。
「ヴァシュロン殿下、あちらの木漏れ日のところに光の精霊達が居ますわ。けれど、先程の騒ぎで少し警戒している様子で……」
「なるほど。ゆっくりなら近づいても大丈夫なのでしょうか?」
『ゆっくりも何も魔力衝突があったら害が及ぶと思って退避しているだけですわ。元々私達を見も聞きもしない人間になんて、近づこうが話しかけて来ようが相手になんてしませんわ』
私は白妃の言い様に苦笑しそうになるのを我慢して、少し内容を和らげてヴァシュロンに伝える。
「あ〜……魔力衝突が自分達に及ぶと危ないと思って逃げただけで、人を別段嫌うことは無いと私の契約精霊が言ってますわ」
「わかりました」
ヴァシュロンは、私の言葉に了承すると繋いでいた手を離し木漏れ日の方へと一歩だけ歩いた。
「ヴァシュロン殿下?」
てっきり共に精霊達に接触して、手助けしなくてはならないものと思っていた私は、殿下に声をかける。
「せめて誠意を見せねばと思いまして……ここは、一人で行かせてください」
ヴァシュロンは、真剣な表情で木漏れ日の光に目線を送る。
今までに見た事のないその表情を見て、彼なりにこの精霊契約に対して思うところがあるのだろうと思い、私は素直に引いた。
「……わかりました。私は、少し離れて見守っていますね」
ヴァシュロン殿下は笑顔で頷くと木漏れ日の方へと歩いていく。
そして、木漏れ日の特に日差しのいい所へとたどり着くと木漏れ日の光に目を向けて話しかけ始めた。
「僕はティルス・シャルディルチア帝国第二皇子………いや、ヴァシュロン個人として願う。僕の魔力を認めてくださったなら、どうか僕と精霊契約をなしてくださいませんか!よろしくお願いします!」
ヴァシュロンはそう言い終えると、今出せる限りまで自身の魔力を引き出して目の前に取り出す。
(ええっ!?手のひらに乗る程度で良いのではーーって、ああっ!その説明をしていませんでしたわ!)
『まぁ、本来の精霊契約はあんな感じだよ。全力を見せてもらって気に入れば契約って感じ』
『そうですわね。あの子のやり方の方が正攻法ですわ』
(そういうものなの??でも、私が普段やっているようにやれば大丈夫ってみんな言ってーー)
『まぁ、普段のあの子の様子を精霊達がよく見ていて興味ありげだって話だったからね〜』
『既に気に入られているのであれば、全力を示す必要まではないと言うだけの話でしたのよ?』
初対面の精霊に精霊契約を持ちかける時は、ヴァシュロンのように出せる限界まで魔力を差し出すのが精霊的には礼儀らしい。
そんな会話を翡翠、白妃としている間にヴァシュロンの方に変化があった。
(なんか……光の精霊達がすごく集まっていません?あの木漏れ日に隠れていた光の精霊だけではなく湖の方からもどんどん集まって……)
ヴァシュロンのいる所にどんどん小さな光が集まっていく。
既にかなりの数になっており、無数の光の玉が集まった光の塊はその大きさをどんどん増していく。
『あの子もなかなか濃くて良い魔力しているからね〜』
『この場にいる光の低級精霊達がみんな集まって来ていますわね。居ないのは、この場の状況を知らない離れた所にいる光の精霊達だけのようですわ』
(そうなのですか……頑張って魔力操作訓練を頑張っていただけありましたねヴァシュロン……)
多くの精霊達にその力を認められるほど、ヴァシュロンの魔力を磨き上げてあげることが出来たと、私は少し感慨にふける。
だがーー
(………本当にものすごい数になっているけれど、ヴァシュロンはこの全ての精霊と契約する事になるの?)
『いや、統合するでしょ』
『でしょうね。まして低級精霊ですもの』
(な、なに?統合ってど……っ!)
私が翡翠の言う『統合』というものになんだか不安を感じて聞き返そうとすると、ヴァシュロンが精霊契約を試みている辺りで、ものすごい光が放たれた。




