5、湖での遭遇1
読者の皆様いつもありがとうございます
(*^^*)
ヴァシュロンに精霊契約をさせるため、彼と共に水と光の精霊が居るヌシタリス宮にある湖へ来た。
陛下からも精霊と契約がなければ言うことなしと言われているため、光の精霊と契約させられればと思ったのだ。
(光の精霊と契約出来れば、光の精霊王との契約云々の噂もうやむやにしやすいでしょう)
「ヴァシュロン殿下、この湖には水と光の精霊が居ます」
「!!そうなのですか?そんな身近に精霊様がいらしたなんて……」
精霊が身近にいることはそんなにも驚くことなのか、ヴァシュロンはほうけた顔で湖を眺めている。
私は、陽の角度的に特にキラキラと輝く水面の付近まで行き、未だにほうけているヴァシュロンを口元に両手を当てながら叫び呼んだ。
「ヴァシュロン殿下〜!こちらへ〜!」
「あっ。はい!」
湖を眺めたままほうけていたヴァシュロンは、私の呼びかけに少し驚いて返事をした。
だが、私の呼び掛けを聞きつけたのはヴァシュロンだけではなかった。
「貴様っ!性懲りも無く皇城に現れたかっ!」
そう叫んで駆け寄ってきたのは、護衛騎士を伴ったダビッド殿下だった。
ヴァシュロンの魔法指導のため皇城に出入りするようになってから既に何度か遭遇してはいた。
特に初めの頃は、皇城内を通ってヌシタリス宮へと向かっていたのでほぼ毎回遭遇し、今のように罵られたのだ。
故に陛下に進言して、皇城に寄らずヌシタリス宮へ直に訪れる許可を貰い、遭遇を間逃れていたのだが……まさかあちらから来るとは思っていなかった。
「帝国の星、ダビッド・ティルス・シャルディルチア殿下におかれましてはーー」
「貴様の挨拶など聞きたくもないわっ!」
(本当に相変わらず……礼儀作法の勉強を仕直したのではなかったの?)
陛下にダビッド殿下との城内遭遇の件を話した時に、しばらくはダビッド殿下に謹慎をさせると陛下は仰っていたが、既に謹慎は解かれているようだ。
彼とて一国の皇子、学ばなくてはならない事も多いので長期の謹慎処分は出来ないのだろう。
ダビッド殿下の護衛騎士は、彼の味方なのか私の方を迷惑そうに睨んできているし、今日は精霊契約を諦めて帰るしかない。
そう思って、未だガミガミと私に罵詈雑言を吐く殿下に向き合ったが、そもわぬ人物が私とダビッド殿下の間に立ち塞がった。
「なんのつもりだヴァシュロン」
「兄上様、本日はどのような御用向きでヌシタリス宮へ?」
「ヌシタリス宮になど用はない。俺は、久々の散歩に城内の湖まで足を運んだだけだ。たく、なのに目障りなガキが……すぐに追い出せこんなガキ!」
「……出来ません。彼女は僕の客人です」
私には、人見知りで気の弱そうなヴァシュロンがダビッド殿下相手に歯向かう事がものすごく意外だった。
私が口を挟んだところでダビッド殿下を怒らせるだけだ。
私は、ヴァシュロンが前に出て堂々とダビッド殿下に張り合う様子をただ見守った。
「客人だと?」
ヴァシュロンに魔法指導を施している事は周囲には極秘である。
元々ヴァシュロンがそれらの力を身につけており、それ故に精霊達に好かれたという筋書きにするため、私から習ったとは知らせられないのだ。
「彼女は……僕の友人なのです。なので、僕がヌシタリス宮へ招待しーー」
「友人!はっ!そんな生意気なガキと友人とはとんだ悪友が居たもんだな!今すぐ絶交しろ。ムカつく態度がお前に移る」
「っ!」
ダビッド殿下のあまりの言い様にヴァシュロンは言葉を詰まらせた。
(私は城内で遭遇する度に散々言われていたけれど、ずっとヌシタリス宮に居たヴァシュロンはそんなこと知らないから……)
私は、ヴァシュロンにダビッド殿下の暴言を聞かせることに耐えかねて、大人しく家に帰ろうと思いヴァシュロンの服の裾を掴んだ。
「ヴァシュロン殿下、もう良いです。大丈夫でーーんぐっ」
「触んなこのクズガキがっ!」
私は地べたに這いつくばってケホケホと咳き込みながら、見上げた。
驚きに固まるヴァシュロン。
足を蹴りあげた姿勢のままドヤ顔をしているダビッド殿下。
せいせいしたとでも言いたげな顔のダビッド殿下の護衛騎士。
(ヴァシュロンの服の裾を掴んだ私の腹をダビッド殿下が蹴って、そのせいで私は突っ伏しているわけね……)
身体強化をしていない私の身体は、ただの四歳児の身体。
七歳の男の子にまともに腹を蹴られて平気でいられるわけが無い。
(苦し……)
『なんて酷いっ!すぐに癒しますわ!』
(待って!私が精霊魔法士だとまだ一部の人にしか知られたくないの。私が直ぐに回復したら怪しまれるわ)
「はっ!お前は這いつくばっている方がまだマシだな。次期皇帝の前だ、常にそのくらい頭を下げろ」
(また……)
次期皇帝は、まだ決まってはいない。
この国の皇位継承順位は基本的に第一皇子からだが、能力如何では序列が変わる事もあるのだ。
とはいえ、ここ数世代は第一皇子が順当に皇位継承していたようなので自分も当然そうなると思い込んでいるのかもしれない。
(継承しようがしまいが、私の方が身分が下であることは変わらないから、状況の改善にはならないでしょうけど……)
今後も変わらずこんな扱いをこの男から受けるのかと表情を暗くして俯くとーー。
ドズンッ
ーー傍らに居たヴァシュロンがダビッド殿下の腹を殴り、ダビッド殿下は勢いよく飛んで木に打ち付けられた。




