3、事態収拾の協力
「今回の事、そなたも関わっていた以上、もちろん事態の収拾に協力してもらえるな?フィリセリア嬢?」
「は、はいっ!もちろんです陛下!」
あのやり取りを陛下としてから3日経ち、今日は事態収拾の協力のために城へと訪れていた。
(これから週に一度は皇城か……。まだ、お披露目も済んでいないのに……)
お披露目前の子どもには何かと危険が多い為、この登城の際には、私の護衛騎士が付いてくることになった。
私の専属護衛騎士になってくれたのは、ファタグラス侯爵家次男リオングレイス・ファタグラスという方だ。
リオングレイスは、氷を連想させるような白に水色がった色の髪で、瞳は綺麗な藤色をしている。
(顔も整ってるし、きっと社交界では氷の騎士とか騒がれていると思うわ)
私がそう思うのは、髪色だけが原因ではない。
リオングレイスは、日頃からどこか冷たい印象を受ける雰囲気があって、その上に言葉数が少ないのだ。
共に行動する時は護衛中なのだから言葉数が少ないのは当然の事。
けれど、領地で護衛役だったビエラはよく話し相手になってくれていたので、どうしてもリオングレイスには冷めた印象を受けてしまう。
(城で少しでも緊張を和らげたいところですが……。リオングレイスはほぼ無口ですし、ビエラやリリアと違って全然和めません……余計に緊張するだけですわ)
私は、リオングレイスを伴って目的地である湖の宮殿、ヌシタリス宮へ向かった。
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「お待ちしておりましたどうぞこちらへ」
ヌシタリス宮の侍女に宮殿の中へ案内され、廊下を進む。
皇城が白と金と紺で統一され優美な内装だったのに対し、ヌシタリス宮は白と金と水色で統一されていて美しい。
(ヴァシュロンを助けにこの宮殿に来た時は夜だったからわからなかったけれど、こんな色合いだったのね。なんだか、ヌシタリス宮はリオングレイスに似てるわ)
外観を眺めながら侍女について行く。
白い柱の並ぶ外廊下を進んで行き、本殿から離れて、円形闘技場の様相をした訓練場へと辿り着く。
本日皇城に訪れた目的の人物は、その訓練場の中に居た。
「帝国の星、ヴァシュロン・ティルス・シャルディルチア殿下。お待たせしてしまい申し訳ございません」
「いえ、僕が自ら進んで先に待っていたのです。こちらは、師事する立場ですからお気になさらず」
陛下の求めた事態収拾の協力とは、ヴァシュロン皇子の魔法指導役を買って出る事だった。
『ヴァシュロンは、光の精霊に気紛れにでも手を貸されるほど、精霊たちから見て魅力があったのだと思わせられねばならない。故に、そなたの魔力操作訓練や魔法の数々をヴァシュロンに伝授して欲しい。まぁ、出来れば精霊と契約もなければ言うことは無しだがな』
精霊王との契約云々は誤解だったが、精霊たちに一目置かれるほどのものを皇子は持っていると、周囲に知らしめられるようにしろと陛下に言われたのだ。
それ故、今こうして内々にヴァシュロン皇子の魔法指導役を買って出ている。
(……魔術士が魔術師と認められる条件は、人並外れた力を持つかもしくは弟子を取ること。まさか、お披露目前の身分で弟子持ちになるなんて思ってもいなかったわ……。私、魔法師になってしまいますね)
正確には、レストルーチェ騎士団員たちに魔力操作訓練を施していた時点で、充分に魔法師と言われるだけのことをしている。
ただ、私にとって騎士団員たちは弟子という認識に無く、騎士団の訓練に少し手助けもしくはお手伝いをしただけという認識だった。
騎士団員たちは皆、フィリセリアの事を師として認めていたのだが、本人は全く知らない。
「あの……これからよろしくお願いします。フィリセリアに魔術指導をしてもらえることになるなんて……思っても見ませんでした」
「すみません。私よりちゃんと宮廷魔術師の方に学ばれた方が良かっーー」
「そんな事ありません!」
ちゃんと専門家に学びたかったですよね?と言おうとすれば、ヴァシュロン本人に言葉の途中で否定された。
その目を見るに本心であるように思う。
(お友達になれた同年代と一緒に出来る方が嬉しいという事ですかね……しかし)
「私は、ヴァシュロン皇子に魔力操作の指導をするためにここへ来ています。同年代だから友達だからと甘やかすつもりはありませんし、この時間は決して子どもの遊びの時間ではありませんからね?」
「も、もちろんです!よろしくお願いします!」
「では早速。まず、収魔のブレスレットは外して過ごしましょう」
「え……ええ!?」
まず、ヴァシュロン皇子の魔力操作訓練を陛下に一任されている事をいい事に、陛下経由で偽の収魔のブレスレットを作ってもらった。




